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冒険者ギルド編
13話 魔王が誕生する条件(side:ウィル)
しおりを挟む時は遡って、アーノルドが今回のクエスト中、ファーガスとウィルはある程度、離れた場所にあった大きな木の枝に立ってアーノルドの様子を眺めていた。
本の知識で得たであろう、スライムが発生する沼地まで来ると一匹ずつ退治せずにわざとスライム達の合体を促しているように見える。確かに合体することで核の大きさが2倍にはなるがその分、スライムも強くなっているというわけで、初心者でしかも一人でやるにはかなりのリスクがある。
「ああ!!あれは不味いですって、ファーガスさん!あの大きさまでになるとアーノルド様だけでは倒すことができませんよ!!」
先ほどからウィルは気が気ではなかった。
「まあ、見ていろって。あいつなら大丈夫だと思うぞ。…まあ、問題はそこじゃないんだがな。なあ、お前、今日の夜は空いているか?」
「何を悠長に言っているのですか!!私だけでも行きますよ!」
アーノルドに危機が迫っているのに、何を言い出すのだとウィルは怒りを露わにする。
「まあ、待てって。あいつなら大丈夫だっていっているだろう。少しは落ち着け、この話の方が大事なんだ。あいつの今後に関わってくる事だ。どうだ?空いているのか?」
「アーノルド様が王宮に帰られたのなら私の仕事も終わりなので、その後なら大丈夫ですか……。」
“ボンッ!!!”
その時、アーノルドがあっという間にスライムを一撃で倒した。ウィルは目の前の光景が信じられず何度も瞬きをするがあれほど大きく成長したスライムが綺麗さっぱりいなくなっていた。
「嘘だろ……。」
「な、言っただろう?しっかし、初めての狩りでアレか。すげーな……っ!?マズイ!!行くぞ!!」
余裕の表情を浮かべてアーノルドを見ていたファーガスが一転、慌てたように木から飛び降りて走り出した。ウィルも慌てて後追いかける、アーノルドの目の前には幻獣と呼ばれるフェンリルが牙をむき出しにして威嚇していた。
その後は、アーノルドの機転で何とかフェンリルの怒りを鎮めることができた。そして、ギルドでの換金を終えてアーノルドを馬車に乗せ一人で王宮に帰らせた。
「んじゃ、さっそく来てもらうぞ。」
アーノルド様が馬車で行ってしまうとファーガス様が話しかけてきた。
「どちらへ行かれるのですか?」
「ああ、ギルマスの部屋だ。あいつにも話を聞いてもらいたいからな。」
ファーガス様はそう言うと、ギルドの建物へとまた入っていった。
部屋に入るとすでにギルドマスターは待機していて俺達が部屋に入るとすぐに鍵をかけ、音が漏れないように防音の魔法を発動させた。
「大した物は置いておりませんが飲みますか?」
「おう、頼むわ。」
ギルドマスターは部屋に備え付けられた棚からワインとグラスを取り出した。
「私は結構です。それよりアーノルド様に関わる大事な話をお聞かせいただけますか?」
「…お前さんは、『魔王が誕生する条件』って知っているか?」
ワインを入れられたグラスを一気に飲み干したファーガス様がいきなりそんなことを聞いてきた。
「…いえ、聞いたことがありませんが。そもそも魔王は存在するのですか?」
伝説上では魔王の存在は語られているが、あくまで眉唾ものの話だと思っていた。
「嘘であったらよかったんだがな。実際にはいる。というか誕生する。」
「誕生?」
「魔王は元人間なんだ。そしてその人間というのは圧倒的に大きな魔力量を持った……『闇属性』の持ち主だ。」
「はっ?」
最初、言われた事に理解ができなかった。アーノルド様が今朝、鑑定されたのは【闇属性】。そして魔力量の多いと言われていた。
「そんな、まさか……。」
「闇属性自体、レアなのです。それにアーノルド殿下は王族の血を引いているので魔力量もそれなりに多い。条件が揃いすぎているのです。」
ギルドマスターが補足するように説明してきた。
「闇属性は性質上、魔物に好かれやすい。今日、あんなに都合よくスライムがでかくなったのも、簡単にあいつに倒されたのもその要因が強い。アーノルドは無意識にスライム達に命令していたのさ。例えば『合体して大きくなれ』『一撃で倒れろ』だろうな。スライム達にしたら自分たちより上位の存在になる奴からの命令に逆らえなかったんだろう。」
「そんな……。」
なんてこった、この話は俺だけでは抱えられるものではない。すぐに陛下や宰相様にご相談しなければ。
「すぐに陛下にお伝え致します。早ければ明日の朝にでもお二人にお呼び出しがあるかもしれませんが。」
「ああ、それはかまわねえ。まあ、今のあいつを見ていたら大丈夫だと思うがな。……魔王は憎悪の塊のようなものだ。怒り、憎しみ、恨み、嫉みなんかの負の感情が強くなければそう簡単に魔王にはならないさ。ただ……。」
そこでファーガス様は眉間に皺を寄せた。
「何か問題でも?」
「ああ、今年は100年に一度、日中に空が闇に覆われる『日蝕』がある。その日だけは魔の力が活発になり、魔王が誕生する可能性がある日でもある。知能のある魔物達があいつに何か仕掛けてくるかもしれねえ。」
俺はゴクリと唾をのみ込んだ。
「それは、いつなのですか?」
「来月の6の日だ。」
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