上 下
13 / 30
冒険者ギルド編

13話 魔王が誕生する条件(side:ウィル)

しおりを挟む


時は遡って、アーノルドが今回のクエスト中、ファーガスとウィルはある程度、離れた場所にあった大きな木の枝に立ってアーノルドの様子を眺めていた。

本の知識で得たであろう、スライムが発生する沼地まで来ると一匹ずつ退治せずにわざとスライム達の合体を促しているように見える。確かに合体することで核の大きさが2倍にはなるがその分、スライムも強くなっているというわけで、初心者でしかも一人でやるにはかなりのリスクがある。

「ああ!!あれは不味いですって、ファーガスさん!あの大きさまでになるとアーノルド様だけでは倒すことができませんよ!!」

先ほどからウィルは気が気ではなかった。

「まあ、見ていろって。あいつなら大丈夫だと思うぞ。…まあ、問題はそこじゃないんだがな。なあ、お前、今日の夜は空いているか?」

「何を悠長に言っているのですか!!私だけでも行きますよ!」

アーノルドに危機が迫っているのに、何を言い出すのだとウィルは怒りを露わにする。

「まあ、待てって。あいつなら大丈夫だっていっているだろう。少しは落ち着け、この話の方が大事なんだ。あいつの今後に関わってくる事だ。どうだ?空いているのか?」

「アーノルド様が王宮に帰られたのなら私の仕事も終わりなので、その後なら大丈夫ですか……。」


“ボンッ!!!”

その時、アーノルドがあっという間にスライムを一撃で倒した。ウィルは目の前の光景が信じられず何度も瞬きをするがあれほど大きく成長したスライムが綺麗さっぱりいなくなっていた。

「嘘だろ……。」

「な、言っただろう?しっかし、初めての狩りでアレか。すげーな……っ!?マズイ!!行くぞ!!」

余裕の表情を浮かべてアーノルドを見ていたファーガスが一転、慌てたように木から飛び降りて走り出した。ウィルも慌てて後追いかける、アーノルドの目の前には幻獣と呼ばれるフェンリルが牙をむき出しにして威嚇していた。

その後は、アーノルドの機転で何とかフェンリルの怒りを鎮めることができた。そして、ギルドでの換金を終えてアーノルドを馬車に乗せ一人で王宮に帰らせた。


「んじゃ、さっそく来てもらうぞ。」

アーノルド様が馬車で行ってしまうとファーガス様が話しかけてきた。

「どちらへ行かれるのですか?」

「ああ、ギルマスの部屋だ。あいつにも話を聞いてもらいたいからな。」

ファーガス様はそう言うと、ギルドの建物へとまた入っていった。
部屋に入るとすでにギルドマスターは待機していて俺達が部屋に入るとすぐに鍵をかけ、音が漏れないように防音の魔法を発動させた。

「大した物は置いておりませんが飲みますか?」

「おう、頼むわ。」

ギルドマスターは部屋に備え付けられた棚からワインとグラスを取り出した。

「私は結構です。それよりアーノルド様に関わる大事な話をお聞かせいただけますか?」

「…お前さんは、『魔王が誕生する条件』って知っているか?」

ワインを入れられたグラスを一気に飲み干したファーガス様がいきなりそんなことを聞いてきた。

「…いえ、聞いたことがありませんが。そもそも魔王は存在するのですか?」

伝説上では魔王の存在は語られているが、あくまで眉唾ものの話だと思っていた。

「嘘であったらよかったんだがな。実際にはいる。というか誕生する。」

「誕生?」

「魔王は元人間なんだ。そしてその人間というのは圧倒的に大きな魔力量を持った……『闇属性』の持ち主だ。」

「はっ?」

最初、言われた事に理解ができなかった。アーノルド様が今朝、鑑定されたのは【闇属性】。そして魔力量の多いと言われていた。

「そんな、まさか……。」

「闇属性自体、レアなのです。それにアーノルド殿下は王族の血を引いているので魔力量もそれなりに多い。条件が揃いすぎているのです。」

ギルドマスターが補足するように説明してきた。

「闇属性は性質上、魔物に好かれやすい。今日、あんなに都合よくスライムがでかくなったのも、簡単にあいつに倒されたのもその要因が強い。アーノルドは無意識にスライム達に命令していたのさ。例えば『合体して大きくなれ』『一撃で倒れろ』だろうな。スライム達にしたら自分たちより上位の存在になる奴からの命令に逆らえなかったんだろう。」

「そんな……。」

なんてこった、この話は俺だけでは抱えられるものではない。すぐに陛下や宰相様にご相談しなければ。

「すぐに陛下にお伝え致します。早ければ明日の朝にでもお二人にお呼び出しがあるかもしれませんが。」

「ああ、それはかまわねえ。まあ、今のあいつを見ていたら大丈夫だと思うがな。……魔王は憎悪の塊のようなものだ。怒り、憎しみ、恨み、嫉みなんかの負の感情が強くなければそう簡単に魔王にはならないさ。ただ……。」

そこでファーガス様は眉間に皺を寄せた。

「何か問題でも?」

「ああ、今年は100年に一度、日中に空が闇に覆われる『日蝕』がある。その日だけは魔の力が活発になり、魔王が誕生する可能性がある日でもある。知能のある魔物達があいつに何か仕掛けてくるかもしれねえ。」

俺はゴクリと唾をのみ込んだ。

「それは、いつなのですか?」



「来月の6の日だ。」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

男女比1対999の異世界は、思った以上に過酷で天国

てりやき
ファンタジー
『魔法が存在して、男女比が1対999という世界に転生しませんか? 男性が少ないから、モテモテですよ。もし即決なら特典として、転生者に大人気の回復スキルと収納スキルも付けちゃいますけど』  女性経験が無いまま迎えた三十歳の誕生日に、不慮の事故で死んでしまった主人公が、突然目の前に現れた女神様の提案で転生した異世界で、頑張って生きてくお話。

【完結】異世界で小料理屋さんを自由気ままに営業する〜おっかなびっくり魔物ジビエ料理の数々〜

櫛田こころ
ファンタジー
料理人の人生を絶たれた。 和食料理人である女性の秋吉宏香(あきよしひろか)は、ひき逃げ事故に遭ったのだ。 命には関わらなかったが、生き甲斐となっていた料理人にとって大事な利き腕の神経が切れてしまい、不随までの重傷を負う。 さすがに勤め先を続けるわけにもいかず、辞めて公園で途方に暮れていると……女神に請われ、異世界転移をすることに。 腕の障害をリセットされたため、新たな料理人としての人生をスタートさせようとした時に、尾が二又に別れた猫が……ジビエに似た魔物を狩っていたところに遭遇。 料理人としての再スタートの機会を得た女性と、猟りの腕前はプロ級の猫又ぽい魔物との飯テロスローライフが始まる!! おっかなびっくり料理の小料理屋さんの料理を召し上がれ?

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

異世界転生漫遊記

しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は 体を壊し亡くなってしまった。 それを哀れんだ神の手によって 主人公は異世界に転生することに 前世の失敗を繰り返さないように 今度は自由に楽しく生きていこうと 決める 主人公が転生した世界は 魔物が闊歩する世界! それを知った主人公は幼い頃から 努力し続け、剣と魔法を習得する! 初めての作品です! よろしくお願いします! 感想よろしくお願いします!

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

独身おじさんの異世界ライフ~結婚しません、フリーな独身こそ最高です~

さとう
ファンタジー
 町の電気工事士であり、なんでも屋でもある織田玄徳は、仕事をそこそこやりつつ自由な暮らしをしていた。  結婚は人生の墓場……父親が嫁さんで苦労しているのを見て育ったため、結婚して子供を作り幸せな家庭を作るという『呪いの言葉』を嫌悪し、生涯独身、自分だけのために稼いだ金を使うと決め、独身生活を満喫。趣味の釣り、バイク、キャンプなどを楽しみつつ、人生を謳歌していた。  そんなある日。電気工事の仕事で感電死……まだまだやりたいことがあったのにと嘆くと、なんと異世界転生していた!!  これは、異世界で工務店の仕事をしながら、異世界で独身生活を満喫するおじさんの物語。

あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。

▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ...... どうしようΣ( ̄□ ̄;) とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!! R指定は念のためです。 マイペースに更新していきます。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

処理中です...