能天気な後輩に懐かれた

おかもと

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3.友は類を呼ぶのか

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「なんでいンだ」

 清々しい朝でも学生や社会人にとっては、面倒な一日の始まり。学校の人間関係、職場の人間関係といった集団で生活するには、まず有用な個である事が前提だ。
 とはいえ、そんな荒波に立ち向かう以前の問題で、落谷は目の前で爽やかな笑みを浮かべている人物に、朝からの心労を予感する。

「オトモダチとは、一緒に登校する気がしたんで!」
「相変わらず距離感バグってんな? いや、今更か」

 いっそこの面倒な男に慣れてしまえればいいのだろうが、何となく悔しい為に意識的には慣れてやるまい。今しがた重たい足を動かし、登校をやり直す落谷。その隣を当たり前のように歩く後輩。

「オトモダチの前に、先輩と後輩の関係を何処にやったんだよ」
「あ、上下関係とか、気にするタイプでした?」
「そういう意味じゃねェし、別に気にしねェけど。距離近いってのは苦手なんだよ」
「そうなんですか~!」

 言いながら手を繋いでくる崖上。落谷はその手を容赦なく叩き落とす。
 何やってんだ馬鹿野郎。

「痛ァい!」

 大げさに叩き落された手を摩りながら、『酷いです!』と抗議してくる。
 朝から元気なこって。

「自業自得! お前とはオトモダチだが、他人に限りなく近いオトモダチだ!」
「ふーん、いいです! それでいいですゥ!」

 俺は最終的に恋人目指してますからと、そんな事をのたまっているのを、他人の振りして先を急ぐ。
 周りの目を全く考えていない事が、恋人から遠ざかっているのだと教えてやった方が親切なのか。
 迷い所だが、気が付かなかった事にしよう。そうしよう。


 なんだかんだ、いつも通りの時刻に学校へ着いた事に安堵しつつ、下駄箱で上履きに履き替える。教室に向かうべく階段を上がっていると、慌てて追いかけてくる崖上。本当、ご苦労なことだ。

「じゃ、先輩! 俺コッチなんで!」

 校舎の二階と三階で、二年と三年の教室が異なる。二階が二年生で三階が三年生といった感じだ。二階と三階の踊り場で、二人は別れる。
 あと一階も上がらないとダメなのか。そう、少し億劫に思いながら階段に足を掛ける。途端に肩に腕を回された。

「重てぇ」
「おはよ、副会長サマ!」
あきら、どけ」

 崖上と同じくらいに楽観的な声が背後から掛かった。落谷に張り付いているのは、友人の八重やえあきらだ。本人が落谷に言った通り、生徒会の副会長へ落谷を推薦した男でもある。元気さと楽観さは、崖上とどっこいどっこいだ。
 こういうのが集まってくる星の元にでも生まれてしまったのか。なんとも言えない嘆きを心中でぶちまける落谷。

「あの二年だれ? 珍しいね萃が後輩といるの」
「距離感バグ男、初対面結婚前提野郎、ゴーイングマイウェイ男」
「え、なになになに? 二個目の理解不能さヤバい、ウケる」

 語尾に(笑)とでも付きそうな晃。

「そのままの意味だ」

 事実だから仕方がない。落谷は、特に訂正もせずに教室へ向かう。晃が後を付いて詳細を訪ねてくるが、落谷は馬鹿にされることが目に見えている為、黙秘する。

「創作十文字熟語選手権で優勝狙える」
「『初対面結婚前提野郎』は九文字だろ」
「うーん、誤差!」
「知らんわ、行くぞ間抜けヅラ」
「切り替え早、そして辛辣ゥ~」

 打てばいい感じに、気の利いた言葉を返せるのは一種の才能だろう。崖上も晃も、落谷としては二人して尊敬に値する。その才能を無駄遣いしなければの話だが。

「コミュ力を得た代わりに、人としての常識を放置する癖があるとは、これいかに」

 結局、一長一短だな、と落谷は羨む気持ちを切り捨てた。隣で「階段きっつ」と息を上げている晃には、落谷の呟く言葉は届いていないようだが。
 微妙な気分になりながらも、今日も長い長い一日が始まると教室に入ったのだった。
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