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あおぞら
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マリちゃんの金髪にマスクにティッシュ箱は、正直卒業式には目立った。
みっちゃんの胡散臭いスーツ姿も。
最早私服の革ジャンで着てしまった柏原さんも。
そこにまともそうな、久しぶりに見たお父さんがいることも。
逆に日常的ではない卒業式を迎えたが、
中盤まではそんなわけで「あの大人たち凄く変わってるよっ…」と、一人悶えていたが、隣の佳代子ちゃんが「小夜ちゃん、具合悪いの?」と聞いてきた。
「違うよ」
と、答えるも、なかなか、中盤までは個人的に落ち着かない。まわりの厳粛な空気の中、一人浮いたような心境だった。
卒業証書授与のB組あたり、「小日向小夜」と呼ばれるまではそんな感じで。
練習通りだった。案外ノリで貰ってしまい、校長先輩の「おめでとう」に、頭を下げてふと身体の向きを変え、壇上から降りようとしたときに見えた、在校生に。
なんとなく間を置いて、眺めてしまった。
勿論、知らない人ばかりなんだけど。
あぁ、そうか。
明日から私、ここに来ないんだ。
そう漸く実感出来た。
泣くとか、そう言うものではなく。
そうか。卒業って、巣立ちって、そう言うことなんだと実感した。
自分の席に戻る間に、ふと来賓席に。
ウチの高校の制服を着た一喜先輩を見かけた気がした。丁度去年と同じ、恥っこの席で。
そして歩きながら目があった瞬間。
あぁ来てくれたんだと。
そう思った頃には自分の席に戻っていて。
流れていく校歌や国家。仰げば尊し。
同じようにあの一年が、やっと私の頭に流れはじめて。
「小夜ちゃん?」
そうか私。
ひとつ大人になるんだと。
少し泣いてしまったみたいで。
卒業式が終わり、一度クラスに戻って担任の涙ながらの最後の一言とか、アルバムの寄せ書きとか。
そっか。
たくさんここでは、あったんだ。
この3年、私は少しでも過去を刻んだんだと。
名残惜しくも、少し雑談したが。
これも最後、だらだらしても仕方ない。そう思ってすぐ、教室を出た。
もう、ここには来ないけど。
下駄箱も。
明日から私の下駄箱じゃないけれど。
みんなのところにまずは帰ろうと校庭を歩く。
桜が咲いていて、天気の青空に綺麗に映えていた。
「小夜、」
そして校庭の桜の木の下。
私が去年、ホワイトデーを貰ったあの桜の下から、声がして。
「…一喜先輩、」
照れ臭そうに俯きがちの、そろそろ20歳になるその童顔だけど、優しい笑顔の先輩がいて。
「…一喜先輩っ!」
私はついに感極まってしまった。
桜の下を目指して、先輩の前まで来て。
温もりを感じて。
貴方はこの一年、どうだったでしょうか。
貴方のここでの三年はどうだったでしょうか。
私は、
出会った一年の頃、「素直でいい」と、そう教えてもらって。
「正直で飾らない貴方が好きだ」と、それすら教わったんです。
「…小夜、」
ぎこちなく、後頭部に手の温もりを感じて。
あら。
抱き締めにいっちゃったわ私と知る。恥ずかしすぎて先輩の顔、見てないんだけど。
鼓動が聞こえてきて。
掠れるような、絞り出すような、小さな声で「…おめでとう」と降ってきて。
見上げればあの一喜先輩が、優しく困ったようにはにかんだ。そこには桜と、綺麗な青空が見えて。
「あのっ、」
気まずそうに俯いてから私を引き剥がした先輩。顔をそらされれば私の背後からひとつ、ぱち、ぱち、と手を叩く音がした。
まさかと思って振り向けば、にやにやした柏原さんが手を叩き、マリちゃんが「林檎の樹」の、チューリップの花束を持っていて。
ちらっとそれを見たみっちゃんに「雪子さんから」と、渡していて。
お父さんは一歩後ろから泣きそうな顔をしていた。
「…いや、そこは水野さんじゃないか真里」
「何言ってんの。雪子さんからのチューリップを渡す係はあんただろ」
花束をマリちゃんがみっちゃんに押し付ける。
気まずそうに受け取っては、みっちゃんはお父さんを見つめるが、お父さんは手で「どうぞ」の合図。
「…柏原さんが発注したらしいよ、あれ」
一喜先輩がポツリと言った。
なるほど~…大人の恋事情。
「でも、みんなで選んだんだ」
「えっ」
色とりどりのチューリップ。赤、オレンジ、ピンク、白、黄色、珍しそうな赤黄色と紫。ピンクだけは2本の系8本。一人一人が、選んだのか。顔を思い浮かべる。
みっちゃんが少し俯いて、近付いてきて、「そう言うわけで…」と。
「…赤が真里、オレンジが一喜、白が歩、黄色が水野さん、隆平が紫で赤黄色がおっさん…、ピンクは俺と雪子さんから」
嘘っ。
「みっちゃん、ホントに?」
「深い意味はないよホントに。ホントにないけど…」
そっか。
みっちゃん、あれから雪子さんとも、ちゃんと、話くらいは出来たらしい。
「ま、その…。
卒業、おめでとう」
みっちゃんからチューリップを渡されて。
みっちゃんも照れ臭そうで。
「ふっ、ふふっ、」
笑ってしまった。
だって、みんな。
「ありがとうみっちゃん。みんな、ありがとう…」
みんなの優しい笑顔が見える。
そうか。
卒業、だから。
ここまで来てまた、私は愛されているのかと。
それから皆で写真を撮った。
空が素敵な青で。桜が冴えている春の日。
私はこの鳥籠から、巣立ったのだと知った。
みっちゃんの胡散臭いスーツ姿も。
最早私服の革ジャンで着てしまった柏原さんも。
そこにまともそうな、久しぶりに見たお父さんがいることも。
逆に日常的ではない卒業式を迎えたが、
中盤まではそんなわけで「あの大人たち凄く変わってるよっ…」と、一人悶えていたが、隣の佳代子ちゃんが「小夜ちゃん、具合悪いの?」と聞いてきた。
「違うよ」
と、答えるも、なかなか、中盤までは個人的に落ち着かない。まわりの厳粛な空気の中、一人浮いたような心境だった。
卒業証書授与のB組あたり、「小日向小夜」と呼ばれるまではそんな感じで。
練習通りだった。案外ノリで貰ってしまい、校長先輩の「おめでとう」に、頭を下げてふと身体の向きを変え、壇上から降りようとしたときに見えた、在校生に。
なんとなく間を置いて、眺めてしまった。
勿論、知らない人ばかりなんだけど。
あぁ、そうか。
明日から私、ここに来ないんだ。
そう漸く実感出来た。
泣くとか、そう言うものではなく。
そうか。卒業って、巣立ちって、そう言うことなんだと実感した。
自分の席に戻る間に、ふと来賓席に。
ウチの高校の制服を着た一喜先輩を見かけた気がした。丁度去年と同じ、恥っこの席で。
そして歩きながら目があった瞬間。
あぁ来てくれたんだと。
そう思った頃には自分の席に戻っていて。
流れていく校歌や国家。仰げば尊し。
同じようにあの一年が、やっと私の頭に流れはじめて。
「小夜ちゃん?」
そうか私。
ひとつ大人になるんだと。
少し泣いてしまったみたいで。
卒業式が終わり、一度クラスに戻って担任の涙ながらの最後の一言とか、アルバムの寄せ書きとか。
そっか。
たくさんここでは、あったんだ。
この3年、私は少しでも過去を刻んだんだと。
名残惜しくも、少し雑談したが。
これも最後、だらだらしても仕方ない。そう思ってすぐ、教室を出た。
もう、ここには来ないけど。
下駄箱も。
明日から私の下駄箱じゃないけれど。
みんなのところにまずは帰ろうと校庭を歩く。
桜が咲いていて、天気の青空に綺麗に映えていた。
「小夜、」
そして校庭の桜の木の下。
私が去年、ホワイトデーを貰ったあの桜の下から、声がして。
「…一喜先輩、」
照れ臭そうに俯きがちの、そろそろ20歳になるその童顔だけど、優しい笑顔の先輩がいて。
「…一喜先輩っ!」
私はついに感極まってしまった。
桜の下を目指して、先輩の前まで来て。
温もりを感じて。
貴方はこの一年、どうだったでしょうか。
貴方のここでの三年はどうだったでしょうか。
私は、
出会った一年の頃、「素直でいい」と、そう教えてもらって。
「正直で飾らない貴方が好きだ」と、それすら教わったんです。
「…小夜、」
ぎこちなく、後頭部に手の温もりを感じて。
あら。
抱き締めにいっちゃったわ私と知る。恥ずかしすぎて先輩の顔、見てないんだけど。
鼓動が聞こえてきて。
掠れるような、絞り出すような、小さな声で「…おめでとう」と降ってきて。
見上げればあの一喜先輩が、優しく困ったようにはにかんだ。そこには桜と、綺麗な青空が見えて。
「あのっ、」
気まずそうに俯いてから私を引き剥がした先輩。顔をそらされれば私の背後からひとつ、ぱち、ぱち、と手を叩く音がした。
まさかと思って振り向けば、にやにやした柏原さんが手を叩き、マリちゃんが「林檎の樹」の、チューリップの花束を持っていて。
ちらっとそれを見たみっちゃんに「雪子さんから」と、渡していて。
お父さんは一歩後ろから泣きそうな顔をしていた。
「…いや、そこは水野さんじゃないか真里」
「何言ってんの。雪子さんからのチューリップを渡す係はあんただろ」
花束をマリちゃんがみっちゃんに押し付ける。
気まずそうに受け取っては、みっちゃんはお父さんを見つめるが、お父さんは手で「どうぞ」の合図。
「…柏原さんが発注したらしいよ、あれ」
一喜先輩がポツリと言った。
なるほど~…大人の恋事情。
「でも、みんなで選んだんだ」
「えっ」
色とりどりのチューリップ。赤、オレンジ、ピンク、白、黄色、珍しそうな赤黄色と紫。ピンクだけは2本の系8本。一人一人が、選んだのか。顔を思い浮かべる。
みっちゃんが少し俯いて、近付いてきて、「そう言うわけで…」と。
「…赤が真里、オレンジが一喜、白が歩、黄色が水野さん、隆平が紫で赤黄色がおっさん…、ピンクは俺と雪子さんから」
嘘っ。
「みっちゃん、ホントに?」
「深い意味はないよホントに。ホントにないけど…」
そっか。
みっちゃん、あれから雪子さんとも、ちゃんと、話くらいは出来たらしい。
「ま、その…。
卒業、おめでとう」
みっちゃんからチューリップを渡されて。
みっちゃんも照れ臭そうで。
「ふっ、ふふっ、」
笑ってしまった。
だって、みんな。
「ありがとうみっちゃん。みんな、ありがとう…」
みんなの優しい笑顔が見える。
そうか。
卒業、だから。
ここまで来てまた、私は愛されているのかと。
それから皆で写真を撮った。
空が素敵な青で。桜が冴えている春の日。
私はこの鳥籠から、巣立ったのだと知った。
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