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アダージョ
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二人で掘り炬燵に座って親子丼を食べた。
俺の理想より、少し卵は固かったけれども美味しかった。
「美味しいです」
「よかったー。でも光也くんのおかげよ。だって私の味付けよりやっぱり味違うもの。あれどうやったの?」
「あぁ、あれは…。
多分みりんと料理酒のアルコールがまだ飛んでなかったんじゃないかなー」
「え?」
「あれって地味に時間かかるからわりと最初の方に入れちゃうんだけど、雪子さん多分追加して、アルコール飛びきってない状態で俺に渡してたから…」
「あぁ…確かに追加した…」
「飛ばしきっちゃった方がいいですよー。ただそうすると、醤油焦げるから微妙ではあるから、大筋の味付けさえ最初に出来ちゃえばあんまり追加することもないかな。
迷ったときは大体、調味料に気を取られるから、俺は最後ちょっと出汁を足しただけですよ」
「へぇー…」
「あとは味見は大体3回まで。これは基本!」
「光也くん…凄い…」
「え?」
雪子さんはにっこりと微笑んだ。
「大変参考になりました。いやぁ…男の人でそんなに料理が詳しいなんて…」
「まぁ…好きではあるけど」
わりと楽しいんだよなぁ。
「わりと楽しいし、料理」
「なんかそれは伝わってきた」
「たまにね、おっさんと真里を見てるとやりたいなーって思う。けどまぁ、俺もドリンクの料理人かと思えばそうだし。
この前なんてさ、あいつら二人で休憩中飲んでたの。だけど俺が帰ってきて飲もうとしたら自分達のグラス出してくるわけよ。は?みたいな。でも、『光也のが一番良い具合なんだよー』なんて言われたらまぁ、悪い気はしないよね。
確かによく二人と飲むからさ、自然となんとなくな配合で作ってやってるわけ、あの二人にはさ」
身体が覚えるというのは怖い。
「お客さんだってそうだし。一応ワンショットだけど、なんとなく常連になってくるとさ、若干この人強めが好きだなとか、水割りならこれくらいがいいなとかさ、なんとなく身体で覚えちゃって」
「毎回それって自然に出るの?」
「まぁ…多分意識せずにやってると思うんですよ。たまに常連さん、似たような位置にいてボーッとしてて配合微妙に間違って出しちゃうと、「今日濃いね」とか「具合悪いの?」とか言われるし」
「へー…で?どう返事するの?」
「まぁ結構常連だったら、「ボーッとしてました、すんません」みたいな?俺顔に出やすいらしいからなー。結構お客さんには支えられてますよ…」
不思議と、怒って帰らせたりしたことはあんまりないな。絡まれたりはしょっちゅうあるけど。
「やっぱり向いてるのね、今の仕事」
「そうかなぁ」
「一番ぴったりだと思う。光也くんにしか出来ない仕事って感じ」
「そう言われるとちょっと照れるなぁ。
俺なんてまだまだだけど…嫌いではないなー。やめようとは思ったことのない仕事かも」
「職場環境も良いんだろうしね…」
雪子さんはふと、俺と視線を逸らした。そこで思い出した。そう言えば荷物の入った鞄、ずっと玄関(と言っていいか定かじゃない)付近に放置していた。
「あ、そうだ」
「うん…」
気まずいな。
「タバコ、吸っても良いですか?」
「どうぞー。仏壇に確か灰皿あるから」
それはそれで気が引けるので、荷物の上に乱雑に置いといたコートからタバコとライター、そして携帯灰皿を取り出して、「あ、大丈夫です」と言って空いた皿を片付けるついでに台所に立った。
換気扇をつけて下に立ち、一服。やっぱり食後のタバコは美味いな。
「別にこっちでもいいのに」
「あ、そっか…。
いやぁ、これは癖ですね…。家に高校生が居るから…よくこうして吸ってるんです」
「あー、女の子じゃ余計にね…」
「あいつの父親も思いっきり吸ってたらしいんですけどね。まぁなんとなく気が引けるから真里と二人の時意外は…」
そんな何気ない癖も気遣いも、無くなるのか。
ぶち壊したのは自分だけど。
「光也くん、家出したんでしょ」
「まぁ、はい」
俺の理想より、少し卵は固かったけれども美味しかった。
「美味しいです」
「よかったー。でも光也くんのおかげよ。だって私の味付けよりやっぱり味違うもの。あれどうやったの?」
「あぁ、あれは…。
多分みりんと料理酒のアルコールがまだ飛んでなかったんじゃないかなー」
「え?」
「あれって地味に時間かかるからわりと最初の方に入れちゃうんだけど、雪子さん多分追加して、アルコール飛びきってない状態で俺に渡してたから…」
「あぁ…確かに追加した…」
「飛ばしきっちゃった方がいいですよー。ただそうすると、醤油焦げるから微妙ではあるから、大筋の味付けさえ最初に出来ちゃえばあんまり追加することもないかな。
迷ったときは大体、調味料に気を取られるから、俺は最後ちょっと出汁を足しただけですよ」
「へぇー…」
「あとは味見は大体3回まで。これは基本!」
「光也くん…凄い…」
「え?」
雪子さんはにっこりと微笑んだ。
「大変参考になりました。いやぁ…男の人でそんなに料理が詳しいなんて…」
「まぁ…好きではあるけど」
わりと楽しいんだよなぁ。
「わりと楽しいし、料理」
「なんかそれは伝わってきた」
「たまにね、おっさんと真里を見てるとやりたいなーって思う。けどまぁ、俺もドリンクの料理人かと思えばそうだし。
この前なんてさ、あいつら二人で休憩中飲んでたの。だけど俺が帰ってきて飲もうとしたら自分達のグラス出してくるわけよ。は?みたいな。でも、『光也のが一番良い具合なんだよー』なんて言われたらまぁ、悪い気はしないよね。
確かによく二人と飲むからさ、自然となんとなくな配合で作ってやってるわけ、あの二人にはさ」
身体が覚えるというのは怖い。
「お客さんだってそうだし。一応ワンショットだけど、なんとなく常連になってくるとさ、若干この人強めが好きだなとか、水割りならこれくらいがいいなとかさ、なんとなく身体で覚えちゃって」
「毎回それって自然に出るの?」
「まぁ…多分意識せずにやってると思うんですよ。たまに常連さん、似たような位置にいてボーッとしてて配合微妙に間違って出しちゃうと、「今日濃いね」とか「具合悪いの?」とか言われるし」
「へー…で?どう返事するの?」
「まぁ結構常連だったら、「ボーッとしてました、すんません」みたいな?俺顔に出やすいらしいからなー。結構お客さんには支えられてますよ…」
不思議と、怒って帰らせたりしたことはあんまりないな。絡まれたりはしょっちゅうあるけど。
「やっぱり向いてるのね、今の仕事」
「そうかなぁ」
「一番ぴったりだと思う。光也くんにしか出来ない仕事って感じ」
「そう言われるとちょっと照れるなぁ。
俺なんてまだまだだけど…嫌いではないなー。やめようとは思ったことのない仕事かも」
「職場環境も良いんだろうしね…」
雪子さんはふと、俺と視線を逸らした。そこで思い出した。そう言えば荷物の入った鞄、ずっと玄関(と言っていいか定かじゃない)付近に放置していた。
「あ、そうだ」
「うん…」
気まずいな。
「タバコ、吸っても良いですか?」
「どうぞー。仏壇に確か灰皿あるから」
それはそれで気が引けるので、荷物の上に乱雑に置いといたコートからタバコとライター、そして携帯灰皿を取り出して、「あ、大丈夫です」と言って空いた皿を片付けるついでに台所に立った。
換気扇をつけて下に立ち、一服。やっぱり食後のタバコは美味いな。
「別にこっちでもいいのに」
「あ、そっか…。
いやぁ、これは癖ですね…。家に高校生が居るから…よくこうして吸ってるんです」
「あー、女の子じゃ余計にね…」
「あいつの父親も思いっきり吸ってたらしいんですけどね。まぁなんとなく気が引けるから真里と二人の時意外は…」
そんな何気ない癖も気遣いも、無くなるのか。
ぶち壊したのは自分だけど。
「光也くん、家出したんでしょ」
「まぁ、はい」
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