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Bitter&Sweet
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「なんか…ごめんなさい」
「俺が急に誘っちゃったんで…気にしないで」
しかし相手は歳上だ。ちょっとやりすぎちゃったかな。
いやでもそこで割り勘ってのも違う気がするな。
雪子さんの店の前まで来ると、本来の目的を思い出した。
雪子さんが店の鍵を開ける。
「サボテンはねぇ…これ!」
右手側にあった棚の真ん中辺りの段にずらりと並んでいた。
「こんなにあるんだ…」
「最近意外と人気があるのよ」
雪子さんはその中からひとつ、丸っぽい形の茶色い鉢に植えられていた小さなサボテンを見せてくれた。よく見ると小さな蕾がある。
「これなんてどうかな?
金洋丸っていうんだけど、水もそこまであげなくていいし、簡単に育てられる。
黄色い花も咲くのよ。ちょうど開花時期だから、そろそろ咲くわ」
「へぇ…」
「あとは毎年植え替えすれば大丈夫」
俺は雪子さんからサボテンを受け取り財布を出した。だが、「いいわ」と、その手にやんわりと手を置かれ制された。
「え?」
「さっきおごってもらっちゃったから」
「え、いいのに…!」
「まぁこれの方が安いけど許してね。また今夜行くわ」
「…ありがとうございます」
ここは厚意を受け取っておこう。
サボテンの入った袋を持って店を出た。雪子さんが店先で手を振って見送ってくれてる。
もうすぐ桜が咲くかなぁ。
帰ったらサボテンの育て方をおっさんに教えよう。おっさんも何だかんだで年食ったからこーゆー育てる系好きなはずだ、好きだといいな。
そう言えば真里はあんまり育てる系の話を聞かないな。
ぼんやりと考え事をしながら店に帰る。
おっさんと真里は談笑中で、俺が帰ると「おぅ、さんきゅー、お帰り」と言いテーブルにはヘネシーが置いてあった。確かに、そういえばこの前3本くらい発注をミスったんだった。
「あ、また飲んでる」
「光也さん遅い!」
とか言って真里が抱きついてくるから取り敢えずなだめる。一ヶ月前の記憶が過る。だがまだ飲み過ぎてはいなそうだ。
「はい、サボテン」
「おー、良いチョイス。どれ、見ていい?」
袋を受け取るとおっさんは中を覗いた。真里は、「カレー?」とか人の臭いを嗅いで言っている。
「一日一回、受け皿に水が溜まるくらい水をあげる。夏と冬は月一くらいだって」
「あ!花!」
「丁度開花時期なんだってさ。まぁあとは一緒に入ってる紙見て」
「はぁーい」
「あとはい」
預かった金を返すとおっさんは「え?」と困惑。
「使わなかった」
「え?」
「一緒に昼飯食ったんだけどさ、そんときまぁ流れで俺が出したんだ。したらサボテンはサービスしてくれた」
「ほー、なるほど。じゃぁお使いのお駄賃」
「えー、別にいいよ」
「代わりに話聞かせてよ」
「俺も聞きたい!」
おぉ、真里が食い付いてくるなんてなんとなく意外だ。
仕方なくその場に座ってヘネシーとソーダを割る。すかさず二人してコップを差し出してきたのでそれぞれ好みの濃さで割って渡す。
「自分で作れよ」
「いや、なんかさ」
「光也さんのが一番美味いんだよ」
それを職業にしてるからそりゃそうだけどさ。
「まぁいいけどさ」
ヘネシーは度数が高いくせに酔ってる感がないんだよなぁ。
うまいけど。
「あ、でさ。
今日行ったカレー屋美味かったわ。多分おっさん好きな感じだったよ」
「ほぅ、なんかどっかのマダムっぽい話題提供だな」
「え?」
「なんでもないよ。どんな?」
「スープカレーっぽかった。でもそこまでスープでもない」
「説明下手だな、今のとこ俺興味湧かねーぞ」
「うーん。
なんかね、その日によって具が違うらしい。今日はね、大根と…芹?と玉ねぎと人参だったかな。鶏肉入ってた。なんか今日は和風テイストだったよ」
「ほー、斬新だな」
「素材によって味付けを変えてるんだってさ。凄くね、素材が生きてる感あって美味かったよ」
「お、ちょっと興味持った」
「だろー?」
「雪子さんと行ったの?」
「そう。丁度店閉めるときに入ったから」
なんだか二人ともにやにやしてやがる。
「なんだよ…」
「光也さんさぁ、めっちゃ幸せそうに話すなぁと思って」
「え?」
そんなこと?
「ちょっとね、見てる方まで温かくなるくらい」
「うん…?」
「俺やっぱさー。
最初ちょっと嫉妬してたけどね、あんたのそんな顔見ちゃうと幸せだなぁ」
そう言う真里が本当に嬉しそうに見えて。
「なんか…」
「ん?」
お前って本気で、俺の幸せを考えてくれてんだな。
「真里、」
「ん?」
「俺もさ…お前が幸せだったら嬉しいよ」
「…俺の幸せは揺るがないよ」
そう言って、満面の笑みで頭をグシャグシャ撫でてくる真里。それを見ておっさんが笑い、「お前らいいな」と言った。
「さぁて、気持ちよく仕事しようか」
そろそろそんな時間か。
ヘネシーとグラスを片付けた。
「俺が急に誘っちゃったんで…気にしないで」
しかし相手は歳上だ。ちょっとやりすぎちゃったかな。
いやでもそこで割り勘ってのも違う気がするな。
雪子さんの店の前まで来ると、本来の目的を思い出した。
雪子さんが店の鍵を開ける。
「サボテンはねぇ…これ!」
右手側にあった棚の真ん中辺りの段にずらりと並んでいた。
「こんなにあるんだ…」
「最近意外と人気があるのよ」
雪子さんはその中からひとつ、丸っぽい形の茶色い鉢に植えられていた小さなサボテンを見せてくれた。よく見ると小さな蕾がある。
「これなんてどうかな?
金洋丸っていうんだけど、水もそこまであげなくていいし、簡単に育てられる。
黄色い花も咲くのよ。ちょうど開花時期だから、そろそろ咲くわ」
「へぇ…」
「あとは毎年植え替えすれば大丈夫」
俺は雪子さんからサボテンを受け取り財布を出した。だが、「いいわ」と、その手にやんわりと手を置かれ制された。
「え?」
「さっきおごってもらっちゃったから」
「え、いいのに…!」
「まぁこれの方が安いけど許してね。また今夜行くわ」
「…ありがとうございます」
ここは厚意を受け取っておこう。
サボテンの入った袋を持って店を出た。雪子さんが店先で手を振って見送ってくれてる。
もうすぐ桜が咲くかなぁ。
帰ったらサボテンの育て方をおっさんに教えよう。おっさんも何だかんだで年食ったからこーゆー育てる系好きなはずだ、好きだといいな。
そう言えば真里はあんまり育てる系の話を聞かないな。
ぼんやりと考え事をしながら店に帰る。
おっさんと真里は談笑中で、俺が帰ると「おぅ、さんきゅー、お帰り」と言いテーブルにはヘネシーが置いてあった。確かに、そういえばこの前3本くらい発注をミスったんだった。
「あ、また飲んでる」
「光也さん遅い!」
とか言って真里が抱きついてくるから取り敢えずなだめる。一ヶ月前の記憶が過る。だがまだ飲み過ぎてはいなそうだ。
「はい、サボテン」
「おー、良いチョイス。どれ、見ていい?」
袋を受け取るとおっさんは中を覗いた。真里は、「カレー?」とか人の臭いを嗅いで言っている。
「一日一回、受け皿に水が溜まるくらい水をあげる。夏と冬は月一くらいだって」
「あ!花!」
「丁度開花時期なんだってさ。まぁあとは一緒に入ってる紙見て」
「はぁーい」
「あとはい」
預かった金を返すとおっさんは「え?」と困惑。
「使わなかった」
「え?」
「一緒に昼飯食ったんだけどさ、そんときまぁ流れで俺が出したんだ。したらサボテンはサービスしてくれた」
「ほー、なるほど。じゃぁお使いのお駄賃」
「えー、別にいいよ」
「代わりに話聞かせてよ」
「俺も聞きたい!」
おぉ、真里が食い付いてくるなんてなんとなく意外だ。
仕方なくその場に座ってヘネシーとソーダを割る。すかさず二人してコップを差し出してきたのでそれぞれ好みの濃さで割って渡す。
「自分で作れよ」
「いや、なんかさ」
「光也さんのが一番美味いんだよ」
それを職業にしてるからそりゃそうだけどさ。
「まぁいいけどさ」
ヘネシーは度数が高いくせに酔ってる感がないんだよなぁ。
うまいけど。
「あ、でさ。
今日行ったカレー屋美味かったわ。多分おっさん好きな感じだったよ」
「ほぅ、なんかどっかのマダムっぽい話題提供だな」
「え?」
「なんでもないよ。どんな?」
「スープカレーっぽかった。でもそこまでスープでもない」
「説明下手だな、今のとこ俺興味湧かねーぞ」
「うーん。
なんかね、その日によって具が違うらしい。今日はね、大根と…芹?と玉ねぎと人参だったかな。鶏肉入ってた。なんか今日は和風テイストだったよ」
「ほー、斬新だな」
「素材によって味付けを変えてるんだってさ。凄くね、素材が生きてる感あって美味かったよ」
「お、ちょっと興味持った」
「だろー?」
「雪子さんと行ったの?」
「そう。丁度店閉めるときに入ったから」
なんだか二人ともにやにやしてやがる。
「なんだよ…」
「光也さんさぁ、めっちゃ幸せそうに話すなぁと思って」
「え?」
そんなこと?
「ちょっとね、見てる方まで温かくなるくらい」
「うん…?」
「俺やっぱさー。
最初ちょっと嫉妬してたけどね、あんたのそんな顔見ちゃうと幸せだなぁ」
そう言う真里が本当に嬉しそうに見えて。
「なんか…」
「ん?」
お前って本気で、俺の幸せを考えてくれてんだな。
「真里、」
「ん?」
「俺もさ…お前が幸せだったら嬉しいよ」
「…俺の幸せは揺るがないよ」
そう言って、満面の笑みで頭をグシャグシャ撫でてくる真里。それを見ておっさんが笑い、「お前らいいな」と言った。
「さぁて、気持ちよく仕事しようか」
そろそろそんな時間か。
ヘネシーとグラスを片付けた。
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