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Bitter&Sweet
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「そろそろ春ね」
「そうですね…」
月が雲に隠れる。ぼんやりとした月明かり。
「いつも…」
「ん?」
「光也くんはいつも、月を眺めるね」
「あぁ…そうかも…」
「何か、考え事でもしてるの?」
「月って」
「ん?」
「月って、少し前の過去だから。なんとなくぼんやり眺めてなんとなく何か考えて、次の日には忘れてる。
大体は、綺麗だなとか、今日は見えないなとかそんなことしか考えてないけど」
「…今は、何を考えているの?」
「少し先の未来。これからどうなるんだろうなって」
「そう…。
少し前の過去かぁ…。光也くんは、少し前、どうだった?」
そう言われると、それはそれで…。
「そうだなぁ…。こんなに楽しくなかったかも」
「そう」
「雪子さんは?」
「私は…。
少し前、もう少し甘えてたかな」
「へぇ…」
「頼る人がまだいたから。
不思議というかなんと言うか、人って過去しか振り返れないのよね。未来は大体見えない。想像することはいくらでも出来るのに」
月を見上げるその、月明かりに浮かんだ顔がホントに綺麗で。だけどその哀愁の先に、嫉妬よりも前に引け目が勝ってしまった。永遠という言葉に与えられた敗北なんだと気付いた。何をしたって敵わない。
「どうしたの?」
そう言って俺を見る笑顔に返す微笑みは多分ぎこちない。
「いや…。
雪子さんの旦那さん、どんな人だったのかなって」
だから素直になるしかない。
「うーん。優しかったかなぁ。お調子者だし。いつでも素直だった。几帳面で…。どうしたの?急に」
「いえ…。
変なこと聞いてすみません」
そうそう、変なことだ。なんでそんなこと、聞こうと思ったんだか。なんでこんな気持ちになったんだか。
「人をね、喜ばせるのがすごく好きだったの。朝私より早く起きて美味しい朝御飯作ってくれていたり、私が疲れているとき、ケーキを買っといてくれたり」
敵わないな。
「良い人だなぁ…」
「そうよ」
そう話す雪子さんはホントに幸せそうで。
「貴方に少し似てる」
「え?」
「光也くん、人が好きじゃない?私の旦那も、人が好きだから出来たんだと思う」
「…どうかな」
そう思ったことはないんだけどな。雪子さんにはそう映るのか。
「自分の良いところって、気付かないものよね」
「そう…かも。雪子さんは、」
「え?」
どうしよう。
「雪子さんは、繊細で、明るくて、優しくて…真っ直ぐで。俺には、雪子さんの良いところ、いっぱい見えてるんです」
「…光也くん、」
雪子さんはそんな俺を見て、まるで堪えきれなくなったかのように笑った。
「ごめんなさい。でも、なんか楽しくて」
「本当ですよ?全部、本音です」
「うん、きっとそう。伝わった。ただなんか可愛くて。つい、綻んじゃった」
「…ちょっと恥ずかしいなぁ」
「光也くんはねぇ、とても優しくてとても素直。正直だし本当に良い人。いざってとき思いきりもあって、私、好きよ」
えっ?
「は、え?」
雪子さんの店の前について俺はかなり困惑した。
それって?どーゆーことだ?
「おやすみなさい」
そう言って手を振り、振り向いて店に入っていく雪子さんを見て思わず、「待って!」と呼び止めてしまう。
不思議そうな顔をして振り返る雪子さんにどうして良いかわからず、「おやすみなさい」と言って手を振り返すと、また笑顔で店に戻って行った。
どうしよう、どうしよう。
「そうですね…」
月が雲に隠れる。ぼんやりとした月明かり。
「いつも…」
「ん?」
「光也くんはいつも、月を眺めるね」
「あぁ…そうかも…」
「何か、考え事でもしてるの?」
「月って」
「ん?」
「月って、少し前の過去だから。なんとなくぼんやり眺めてなんとなく何か考えて、次の日には忘れてる。
大体は、綺麗だなとか、今日は見えないなとかそんなことしか考えてないけど」
「…今は、何を考えているの?」
「少し先の未来。これからどうなるんだろうなって」
「そう…。
少し前の過去かぁ…。光也くんは、少し前、どうだった?」
そう言われると、それはそれで…。
「そうだなぁ…。こんなに楽しくなかったかも」
「そう」
「雪子さんは?」
「私は…。
少し前、もう少し甘えてたかな」
「へぇ…」
「頼る人がまだいたから。
不思議というかなんと言うか、人って過去しか振り返れないのよね。未来は大体見えない。想像することはいくらでも出来るのに」
月を見上げるその、月明かりに浮かんだ顔がホントに綺麗で。だけどその哀愁の先に、嫉妬よりも前に引け目が勝ってしまった。永遠という言葉に与えられた敗北なんだと気付いた。何をしたって敵わない。
「どうしたの?」
そう言って俺を見る笑顔に返す微笑みは多分ぎこちない。
「いや…。
雪子さんの旦那さん、どんな人だったのかなって」
だから素直になるしかない。
「うーん。優しかったかなぁ。お調子者だし。いつでも素直だった。几帳面で…。どうしたの?急に」
「いえ…。
変なこと聞いてすみません」
そうそう、変なことだ。なんでそんなこと、聞こうと思ったんだか。なんでこんな気持ちになったんだか。
「人をね、喜ばせるのがすごく好きだったの。朝私より早く起きて美味しい朝御飯作ってくれていたり、私が疲れているとき、ケーキを買っといてくれたり」
敵わないな。
「良い人だなぁ…」
「そうよ」
そう話す雪子さんはホントに幸せそうで。
「貴方に少し似てる」
「え?」
「光也くん、人が好きじゃない?私の旦那も、人が好きだから出来たんだと思う」
「…どうかな」
そう思ったことはないんだけどな。雪子さんにはそう映るのか。
「自分の良いところって、気付かないものよね」
「そう…かも。雪子さんは、」
「え?」
どうしよう。
「雪子さんは、繊細で、明るくて、優しくて…真っ直ぐで。俺には、雪子さんの良いところ、いっぱい見えてるんです」
「…光也くん、」
雪子さんはそんな俺を見て、まるで堪えきれなくなったかのように笑った。
「ごめんなさい。でも、なんか楽しくて」
「本当ですよ?全部、本音です」
「うん、きっとそう。伝わった。ただなんか可愛くて。つい、綻んじゃった」
「…ちょっと恥ずかしいなぁ」
「光也くんはねぇ、とても優しくてとても素直。正直だし本当に良い人。いざってとき思いきりもあって、私、好きよ」
えっ?
「は、え?」
雪子さんの店の前について俺はかなり困惑した。
それって?どーゆーことだ?
「おやすみなさい」
そう言って手を振り、振り向いて店に入っていく雪子さんを見て思わず、「待って!」と呼び止めてしまう。
不思議そうな顔をして振り返る雪子さんにどうして良いかわからず、「おやすみなさい」と言って手を振り返すと、また笑顔で店に戻って行った。
どうしよう、どうしよう。
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