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Bitter&Sweet
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「みゆきちゃん、俺そろそろ行くわ」
その彼氏(多分違う)は、隣の大人っぽい女性と立ち上がり、「お勘定で!」とか言ってレジに向かう。
お互い、ばいばーいとか言って手を振りあっていた。
店を出るとき男が、女の腰あたりに手を置いて扉を開けた。
今の若い兄ちゃん姉ちゃん、恐るべし。
「お兄さん、モテません?」
「え、いや…」
女も平然としてる。恐るべし。
「あれ、彼氏さんじゃないんですか?」
「えー?違いますぅ、同僚ですぅ。あんなセンスない男嫌ですよぅ」
うわぁ、言っちゃったよ。別に普通の男だったけど。
「私ぃ、あの人になんか無理矢理連れてこられてぇ…。ホントは来たくなかったんですぅ。けどなんかぁ、フラれたらしくてぇ」
うわぁ、露骨に邪。
たまにこーゆー勘違いしたバカみたいな奴ら来るんだよなぁ。別にここを出会いの場にするのはいいけど…。
「あら、楽しめました?」
そんなときナイスタイミングでおっさんが横から話に入ってきた。
「あらぁ、あなたもかっこいいのね」
よっしゃ、離れられる。
おっさんと目で会話し、俺はその場を離れた。小夜がちらっとこっちを見て、やれやれと言いたそうな顔をしている。
少し離れたので他のお客さんとも話した。おっさんと女も盛り上がってるし、まぁいいかと思ったが、目が合うと明らかにイライラしたような表情でこっちに来る。
そして肩を捕まれ、「ご指名だ光也くん、カシオレ」と耳打ちしてキッチンに戻って行った。
マジかよ。
仕方なくカシスオレンジを作って持っていき、「はい、カシオレ」と言って女の前に置くと、その手を握ってきて、「酔っちゃったみたい」とか言われたら顔をひきつらせるしかない。
「チェイサー出しますよ」
「私ぃ、帰れないかもぉ」
「あ、じゃぁタクシー呼びますね」
「送って行って?」
「すみませんね。俺深夜まで仕事なんで」
「待ってる」
「いやぁ~…」
押し強し。これはどうしたら良いんだ。
そんなとき丁度、別のお客さんのオーダーが入り、その場を去った。
暫くは忙しいフリをしてあまりそいつに近付かなくなった。
そのうち小夜が上がり、お客さんも減ってきたが、なかなかその女はいなくならない。減ってきたからこそ無視出来なくなってきて。
カシオレを頼むついでに逆ナンをされ、いい加減うんざりしてきた。上がった小夜が心配そうに俺を見ている。
イライラしてタバコを吸いすぎて若干喉が痛くなってきたとき。
「私ぃ、貴方に運命感じちゃった」
「運命、ねぇ…」
流石にあまりにも不機嫌さを出していたせいか、キッチンから再びおっさんが現れた。
「楽しそうで何より」
営業スマイルで女に言い、目が合うと頷いた。
「ここはぁ、良い雰囲気ですねぇ」
どこがだ。わりと殺伐としてんぞ今の俺は。
そんなやさきだった。店のドアが開く。こんな時間に来るのは大体彼女だ。
「いらっしゃい」
それになんとなくほっとした。
端の方に座り、「ハイボールください」と輝くような笑顔で注文。
雪子さんの笑顔に、少し意地悪したくなって、いつもは白州だが今日は山崎にしてみた。
然り気無く山ハイを出してみる。
気付くかな?ちょっとわくわくしてると、「何か、いたずらっ子みたいな顔してる」と言われ、ちょっと意識して表情を引き締め、タバコを吸う。
一口飲んでるのを横目で見る。
だが、どうも普通だ。
「雪子さん!いらっしゃいませ~」
小夜が嬉しそうに雪子さんの隣に座る。
「お疲れさま」とか言って山崎ハイボールをさっきから何口か飲んでるが、気付かないのだろうか。一瞬味わうような素振りもあったが特に気にした風でもない。
「みっちゃん、どうしたの?」
どうやら凝視してしまったらしく、小夜が聞いてくる。「いや、なんも」と返した直後、「あっ!」と突然言うもんだからちょっとびっくり。
「もしかしてみっちゃん、間違えて作った?」
「え?」
いや、敢えてだよ敢えて。
雪子さんはそれを聞いて一口飲んで、「ん?」と気付いた。
「あーあ。小夜、俺は雪子さんがいつ気付くかなって思ってたのに…」
「え?」
「ホントにいたずらしてたの?」
「はい。今日は白州じゃなくて山崎にしてみたんです」
いたずら失敗。真相を聞くと雪子さんは楽しそうに笑った。
「意外と子供っぽい」
そう言われると恥ずかしいな。
「俺が今日は山崎の気分だったんです」
「あら、案外強引ね」
「うまい?」
「うん、あんまりお酒わからないけど」
なんかおっさんが非常ににやにやしながら見てる。ちらっと視線を寄越すと目を反らし、目の前の女に「ね?」と言っていた。
女の視線が怖い。フォロー入れとこうかと思ったが、
「うち、ホストクラブじゃないんですよ。ただのバーだよ」と、おっさんが女に挑戦的な目をして言ったのでやめておくことにした。
女はそのあとすぐに会計をしてしっかりした足取りで店を出て行った。
その彼氏(多分違う)は、隣の大人っぽい女性と立ち上がり、「お勘定で!」とか言ってレジに向かう。
お互い、ばいばーいとか言って手を振りあっていた。
店を出るとき男が、女の腰あたりに手を置いて扉を開けた。
今の若い兄ちゃん姉ちゃん、恐るべし。
「お兄さん、モテません?」
「え、いや…」
女も平然としてる。恐るべし。
「あれ、彼氏さんじゃないんですか?」
「えー?違いますぅ、同僚ですぅ。あんなセンスない男嫌ですよぅ」
うわぁ、言っちゃったよ。別に普通の男だったけど。
「私ぃ、あの人になんか無理矢理連れてこられてぇ…。ホントは来たくなかったんですぅ。けどなんかぁ、フラれたらしくてぇ」
うわぁ、露骨に邪。
たまにこーゆー勘違いしたバカみたいな奴ら来るんだよなぁ。別にここを出会いの場にするのはいいけど…。
「あら、楽しめました?」
そんなときナイスタイミングでおっさんが横から話に入ってきた。
「あらぁ、あなたもかっこいいのね」
よっしゃ、離れられる。
おっさんと目で会話し、俺はその場を離れた。小夜がちらっとこっちを見て、やれやれと言いたそうな顔をしている。
少し離れたので他のお客さんとも話した。おっさんと女も盛り上がってるし、まぁいいかと思ったが、目が合うと明らかにイライラしたような表情でこっちに来る。
そして肩を捕まれ、「ご指名だ光也くん、カシオレ」と耳打ちしてキッチンに戻って行った。
マジかよ。
仕方なくカシスオレンジを作って持っていき、「はい、カシオレ」と言って女の前に置くと、その手を握ってきて、「酔っちゃったみたい」とか言われたら顔をひきつらせるしかない。
「チェイサー出しますよ」
「私ぃ、帰れないかもぉ」
「あ、じゃぁタクシー呼びますね」
「送って行って?」
「すみませんね。俺深夜まで仕事なんで」
「待ってる」
「いやぁ~…」
押し強し。これはどうしたら良いんだ。
そんなとき丁度、別のお客さんのオーダーが入り、その場を去った。
暫くは忙しいフリをしてあまりそいつに近付かなくなった。
そのうち小夜が上がり、お客さんも減ってきたが、なかなかその女はいなくならない。減ってきたからこそ無視出来なくなってきて。
カシオレを頼むついでに逆ナンをされ、いい加減うんざりしてきた。上がった小夜が心配そうに俺を見ている。
イライラしてタバコを吸いすぎて若干喉が痛くなってきたとき。
「私ぃ、貴方に運命感じちゃった」
「運命、ねぇ…」
流石にあまりにも不機嫌さを出していたせいか、キッチンから再びおっさんが現れた。
「楽しそうで何より」
営業スマイルで女に言い、目が合うと頷いた。
「ここはぁ、良い雰囲気ですねぇ」
どこがだ。わりと殺伐としてんぞ今の俺は。
そんなやさきだった。店のドアが開く。こんな時間に来るのは大体彼女だ。
「いらっしゃい」
それになんとなくほっとした。
端の方に座り、「ハイボールください」と輝くような笑顔で注文。
雪子さんの笑顔に、少し意地悪したくなって、いつもは白州だが今日は山崎にしてみた。
然り気無く山ハイを出してみる。
気付くかな?ちょっとわくわくしてると、「何か、いたずらっ子みたいな顔してる」と言われ、ちょっと意識して表情を引き締め、タバコを吸う。
一口飲んでるのを横目で見る。
だが、どうも普通だ。
「雪子さん!いらっしゃいませ~」
小夜が嬉しそうに雪子さんの隣に座る。
「お疲れさま」とか言って山崎ハイボールをさっきから何口か飲んでるが、気付かないのだろうか。一瞬味わうような素振りもあったが特に気にした風でもない。
「みっちゃん、どうしたの?」
どうやら凝視してしまったらしく、小夜が聞いてくる。「いや、なんも」と返した直後、「あっ!」と突然言うもんだからちょっとびっくり。
「もしかしてみっちゃん、間違えて作った?」
「え?」
いや、敢えてだよ敢えて。
雪子さんはそれを聞いて一口飲んで、「ん?」と気付いた。
「あーあ。小夜、俺は雪子さんがいつ気付くかなって思ってたのに…」
「え?」
「ホントにいたずらしてたの?」
「はい。今日は白州じゃなくて山崎にしてみたんです」
いたずら失敗。真相を聞くと雪子さんは楽しそうに笑った。
「意外と子供っぽい」
そう言われると恥ずかしいな。
「俺が今日は山崎の気分だったんです」
「あら、案外強引ね」
「うまい?」
「うん、あんまりお酒わからないけど」
なんかおっさんが非常ににやにやしながら見てる。ちらっと視線を寄越すと目を反らし、目の前の女に「ね?」と言っていた。
女の視線が怖い。フォロー入れとこうかと思ったが、
「うち、ホストクラブじゃないんですよ。ただのバーだよ」と、おっさんが女に挑戦的な目をして言ったのでやめておくことにした。
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