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ホワイトチョコレート
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店のドアが開いた。白いワンピース姿の雪子さんが店に入ってきた。結婚式とかの帰りかな?よそ行きの格好って感じだ。
「遅くなっちゃった。まだ、大丈夫?」
「あぁ、はい」
最後のお客さんが会計を済ませようと席を立った。俺がレジに向かおうとすると真里が緩く手を挙げてレジへ向かった。
「何にします?」
「取り敢えずカシスソーダを」
注文を聞いてカシスソーダを出した頃に真里も戻ってきた。俺と雪子さんは乾杯をして一口飲んだ。
「雪子さん、でしたっけ?」
「はい…」
「飯は?」
「あぁ…大丈夫です」
「なんか頼みます?」
珍しい。ただ、どうも勘繰り深い目で見ている。
「じゃぁ…チーズの盛り合わせ」
「はーい」
それだけ言って真里はキッチンに戻っていった。
「この前は居なかったかな?」
「あ、いや。あいつキッチンから出てこないんですよ、いつもは。今日は珍しい」
「確かに、ちょっとクールな方ね」
実際はただの人見知りなんだけどな。
「ウチね、従業員4人しかおらんのですよ。俺とあいつと、おっさん…オーナーと女の子」
「あら、そうなの!?」
「いつでもフルメンバーで働いとります」
「あら、そうだったのね!」
真里がチーズを持って再び現れた。「どうぞ…」と、やっぱりなんかよそよそしい。
「どうも!」
おっさんがキッチンから顔を覗かせた。雪子さんはしとやかな笑みで会釈をした。
「お、どっかの帰りですか?」
「友人の結婚式だったんです」
「あら、おめでたいねぇ。
そだ光也、ちょっと来てよ」
なんだか物凄い気色悪い笑顔で言ってくる。なんだ、嫌な予感。
すごく重い足取りでおっさんの後ろについていくと、小夜が「みっちゃん!どうだ!」とか言って何か銀のプレートを出された。どう見ても上に乗ってるのチョコ系だ。
しかしなぜだろう、白い。
「ホワイトチョコなん?」
「そう!よくぞ聞いてくれました!」
見たところガトーショコラっぽい。多分そうだ。
「みんなにお返しで渡そうかなって!」
「みんな?」
「友達!」
「友チョコなん!?」
それにしちゃぁ気合い入りすぎだろう。てかいつだっけ…と思ってカレンダー見たらいつの間にかあと3日。
「まだ試作なの!でもね、柏原さんレクチャーだから間違いないよ!」
「あぁ…そっか…」
「あ、つかさ、みんなで食うか。いい?」
「全然いいですよ!今日のデザート!」
そう言われてはっとする。ラストオーダーの時間近くないか?
キッチンの時計を見れば、22時20分くらい。危ねぇ。
よほど上手く出来たのだろう、浮き足立って小夜はカウンターに持っていく。仕方ない、閉め作業でもやるかと思ったらおっさんまでカウンターに行ってしまうから一人でやろうとすると、「光也もおいで」とか呼ばれてしまって。
カウンターに戻ると、「上手ね、美味しそう」と雪子さんも微笑んでいて。
「光也、看板下げてきてくれない?ガトーショコラ会をやります」
「…あぁ、ええよ」
「私はおいとましようかしら…」
「いや、いいですよ。雪子さんもやろう」
取り敢えず言われた通り看板を下げると、真里と小夜が雪子さんを挟む形でカウンターに座っていた。
「雪子さん何飲みます?」
「じゃぁハイボールを…」
「小夜はリンゴジュースでええな?」
「おっす!」
「光也さん、俺もそれでいいや」
「珍しいやん」
「いや…今日は飲みすぎたよね」
あそっか。そう言えばそうだ。
「あんたら送ってくのにマジで捕まっちまうから」
「今日電車にしよか?」
「んー…」
「まぁあとで考えようか。
雪子さん、ウィスキーいくつか種類あるんやけど、好みとかあります?」
「特には…」
「じゃぁ白州にしますわ」
3人にドリンクを出しておっさんには久保田千寿を持っていく。皿を5枚とカトラリーケースを準備していたので、取り敢えず皿を持っていくことにした。
「お、サンキュー。いま行くわ」
久保田千寿を受け取って一緒にカウンターに戻った。
「はいお待たせー。小夜ちゃん特製だよー」
「アイディアは柏原さんにもらいました」
5つに切り分けて皿に乗せてそれぞれに出す。あまり甘いものは食べないが、まぁいいや。
一口食べればやはりホワイトチョコの甘さがあって。けどしつこくないな。
「美味しい。あんまり甘すぎないし、しっとりしてるのね」
「小夜ちゃん大成功だな」
「柏原さんのおかげです。最初から聞いておけばよかったー」
「てかウチで出しちゃえば?当日」
おぉ、真里も認めるとは。
「前日くらいに作って帰ってってやるならいけるな」
「みんな喜んでくれるといいなー」
「うん、美味い。苦労した甲斐あったなぁ」
「バレンタインかぁ…なんだか懐かしい」
そう、指輪を見つめながら染々と言う雪子さん。過去を思い出しているのかな。
どんな思い出を過ごしたんだろうか。
「でも、ホワイトチョコなのね」
「そうなんです!お友だちにバレンタインのお返しのつもりなので」
「いいわね、みんなでわいわいこうやってチョコ交換するの?」
「はい!友チョコです!」
「楽しそう…」
そう言えば。
「本命は?」
「え?」
「あげへんの?」
そう聞いてみると小夜はちょっと照れ臭そうに、「そりゃぁ、考えてますよー」と言った。
「上手くいくとええな…」
「あ、光也いまメチャクチャ複雑な顔してる」
「まぁ…」
「光也さんホント昔から過保護だね」
真里がそう言うと雪子さんが小さく笑った。
「仲良しなのね」
「いや…やっぱちょっと保護者としては相手が気になる…かなぁ。でも、」
小夜なら。
「取り敢えず、もし何かあったら…」
「わかってるよ、みっちゃん!」
やっぱり。
「大丈夫そうじゃん」
少しは。
上手くいって欲しいなとは思う。
「遅くなっちゃった。まだ、大丈夫?」
「あぁ、はい」
最後のお客さんが会計を済ませようと席を立った。俺がレジに向かおうとすると真里が緩く手を挙げてレジへ向かった。
「何にします?」
「取り敢えずカシスソーダを」
注文を聞いてカシスソーダを出した頃に真里も戻ってきた。俺と雪子さんは乾杯をして一口飲んだ。
「雪子さん、でしたっけ?」
「はい…」
「飯は?」
「あぁ…大丈夫です」
「なんか頼みます?」
珍しい。ただ、どうも勘繰り深い目で見ている。
「じゃぁ…チーズの盛り合わせ」
「はーい」
それだけ言って真里はキッチンに戻っていった。
「この前は居なかったかな?」
「あ、いや。あいつキッチンから出てこないんですよ、いつもは。今日は珍しい」
「確かに、ちょっとクールな方ね」
実際はただの人見知りなんだけどな。
「ウチね、従業員4人しかおらんのですよ。俺とあいつと、おっさん…オーナーと女の子」
「あら、そうなの!?」
「いつでもフルメンバーで働いとります」
「あら、そうだったのね!」
真里がチーズを持って再び現れた。「どうぞ…」と、やっぱりなんかよそよそしい。
「どうも!」
おっさんがキッチンから顔を覗かせた。雪子さんはしとやかな笑みで会釈をした。
「お、どっかの帰りですか?」
「友人の結婚式だったんです」
「あら、おめでたいねぇ。
そだ光也、ちょっと来てよ」
なんだか物凄い気色悪い笑顔で言ってくる。なんだ、嫌な予感。
すごく重い足取りでおっさんの後ろについていくと、小夜が「みっちゃん!どうだ!」とか言って何か銀のプレートを出された。どう見ても上に乗ってるのチョコ系だ。
しかしなぜだろう、白い。
「ホワイトチョコなん?」
「そう!よくぞ聞いてくれました!」
見たところガトーショコラっぽい。多分そうだ。
「みんなにお返しで渡そうかなって!」
「みんな?」
「友達!」
「友チョコなん!?」
それにしちゃぁ気合い入りすぎだろう。てかいつだっけ…と思ってカレンダー見たらいつの間にかあと3日。
「まだ試作なの!でもね、柏原さんレクチャーだから間違いないよ!」
「あぁ…そっか…」
「あ、つかさ、みんなで食うか。いい?」
「全然いいですよ!今日のデザート!」
そう言われてはっとする。ラストオーダーの時間近くないか?
キッチンの時計を見れば、22時20分くらい。危ねぇ。
よほど上手く出来たのだろう、浮き足立って小夜はカウンターに持っていく。仕方ない、閉め作業でもやるかと思ったらおっさんまでカウンターに行ってしまうから一人でやろうとすると、「光也もおいで」とか呼ばれてしまって。
カウンターに戻ると、「上手ね、美味しそう」と雪子さんも微笑んでいて。
「光也、看板下げてきてくれない?ガトーショコラ会をやります」
「…あぁ、ええよ」
「私はおいとましようかしら…」
「いや、いいですよ。雪子さんもやろう」
取り敢えず言われた通り看板を下げると、真里と小夜が雪子さんを挟む形でカウンターに座っていた。
「雪子さん何飲みます?」
「じゃぁハイボールを…」
「小夜はリンゴジュースでええな?」
「おっす!」
「光也さん、俺もそれでいいや」
「珍しいやん」
「いや…今日は飲みすぎたよね」
あそっか。そう言えばそうだ。
「あんたら送ってくのにマジで捕まっちまうから」
「今日電車にしよか?」
「んー…」
「まぁあとで考えようか。
雪子さん、ウィスキーいくつか種類あるんやけど、好みとかあります?」
「特には…」
「じゃぁ白州にしますわ」
3人にドリンクを出しておっさんには久保田千寿を持っていく。皿を5枚とカトラリーケースを準備していたので、取り敢えず皿を持っていくことにした。
「お、サンキュー。いま行くわ」
久保田千寿を受け取って一緒にカウンターに戻った。
「はいお待たせー。小夜ちゃん特製だよー」
「アイディアは柏原さんにもらいました」
5つに切り分けて皿に乗せてそれぞれに出す。あまり甘いものは食べないが、まぁいいや。
一口食べればやはりホワイトチョコの甘さがあって。けどしつこくないな。
「美味しい。あんまり甘すぎないし、しっとりしてるのね」
「小夜ちゃん大成功だな」
「柏原さんのおかげです。最初から聞いておけばよかったー」
「てかウチで出しちゃえば?当日」
おぉ、真里も認めるとは。
「前日くらいに作って帰ってってやるならいけるな」
「みんな喜んでくれるといいなー」
「うん、美味い。苦労した甲斐あったなぁ」
「バレンタインかぁ…なんだか懐かしい」
そう、指輪を見つめながら染々と言う雪子さん。過去を思い出しているのかな。
どんな思い出を過ごしたんだろうか。
「でも、ホワイトチョコなのね」
「そうなんです!お友だちにバレンタインのお返しのつもりなので」
「いいわね、みんなでわいわいこうやってチョコ交換するの?」
「はい!友チョコです!」
「楽しそう…」
そう言えば。
「本命は?」
「え?」
「あげへんの?」
そう聞いてみると小夜はちょっと照れ臭そうに、「そりゃぁ、考えてますよー」と言った。
「上手くいくとええな…」
「あ、光也いまメチャクチャ複雑な顔してる」
「まぁ…」
「光也さんホント昔から過保護だね」
真里がそう言うと雪子さんが小さく笑った。
「仲良しなのね」
「いや…やっぱちょっと保護者としては相手が気になる…かなぁ。でも、」
小夜なら。
「取り敢えず、もし何かあったら…」
「わかってるよ、みっちゃん!」
やっぱり。
「大丈夫そうじゃん」
少しは。
上手くいって欲しいなとは思う。
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