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ホワイトチョコレート
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「光也さん、着いたよ」
案外眠れていなかった気がする。目覚めは良い方だった。
「良い夢見れた?」
「んー…あんまり寝た気がしない」
「まぁ近いからね。凄くなんか幸せそうに寝てたから良い夢見たのかと思った」
どうだったかな。見たような見てないような。
後ろを見ると小夜はぐっすり寝てた。
「よほど疲れたんだな。昨日寝てないって光也さん言ってたよね」
「これ起こすのちょっと罪悪感沸くよな…」
取り敢えず二人で降りて後部座席のドアを開け、「小夜ー」と一声かける。
「んー…」
「仕方ねぇなぁ…小夜、少し体起こして」
俺は真里から車の鍵を渡される。小夜は寝ぼけたまま言われた通り体を起こすと、「…あれ?」とか言ってる。
「はい、おんぶ」
そう真里が言うとぼんやりしたまま覆い被さるように、倒れるように真里の背中に抱きついて。
ドアと鍵を閉めて取り敢えずエレベーターに乗り、3のボタンを押す。
「これは光也さんには出来なかったな。同じくらいかな?さすがに小夜の方が軽いかな」
最後に小夜をおんぶしたのは8歳の時だったからなぁ。
「やっぱ大人になったなぁ」
「…俺もやりたい」
「ダメだよ。起こしちゃうから」
そう言って笑う真里が頼もしい。
「真里に彼女出来ねぇのなんか不思議だなぁ」
「へ?」
そう言ったところで3階に着いたので、部屋の前で鍵を開けてやった。
そこで、靴を脱ぐのに物凄く不便なことに気が付き、取り敢えず小夜の靴は脱がせて靴棚にしまった。真里はなんとかテキトーに脱いで、部屋まで小夜を運んだ。ベットに寝かせて部屋を出る。
「お疲れ様」
「ん」
「何か飲むか?」
「うん。コーヒー」
「はいよ」
コーヒーメーカーに豆と水をセットしていると、後ろから抱きつかれて一瞬手が止まった。
「なんだよ!」
「そんなイライラしなくてもいーじゃん」
「お前不意打ち過ぎるっておいこら。盛ってんじゃねーよ!」
裏拳一発。だが今回は負けた。バシッと右手を掴まれる。
ヤバい。これはヤバい。
「え?マジ?」
「あんたの行動なんてわかるわ。何回裏拳されてると思ってんの」
とか言いながらめちゃくちゃ押し当てられてるこっちの気持ちになれってんだよ。ひやっとしてるんだけど。
と、思ってる間もなく首筋辺りを甘噛みされて本気で背筋が寒くなった。
「ちょ、待った!今日お前過剰すぎね?」
「ん?あんたがラフロイグ飲ませたからじゃね?」
「一口だろ。てか待ってごめん、謝る、全力で謝るから一回マジ離れよ?な?」
「いやだー♪」
「ごめんなさいホントマジごめんなさいぃ!」
「ちぇっ」
漸く離れてくれたがなんかくるっと向かい合わされて。
待てよ本気でここまでの危険は今までなかったぞ。何がこいつのスイッチを押したんだ、俺。
「ま、真里さん?」
結構焦って呼ぶと、真里は急に吹き出し、腹を抱えて笑い始めた。
「お、おもしろっ!」
「は、はぁ?」
「必死すぎるんだもん!あーやべぇでも可愛いね」
「え?ちょっと待って俺はお前にどんな反応を返すのが正しいんだこれ」
「んー、ちゅー」
「断る」
遮って取り敢えず否定すると今度は真顔になって。
「ちょっと俺も焦ったんだよ」
「え?」
「なんでもなーい」
何にだ。全然わからん。
だけど結局聞くこともなく、真里は勝手にリビングのソファでくつろぎはじめた。
「あんた無自覚すぎるよ」
「え?何が?」
そこでコーヒーメーカーのスイッチを入れるのを忘れていたことに気付き、スイッチを入れて俺は冷蔵庫の日本酒を注いで真里の隣に座った。
「お前なんか変だよ?」
「変だねぇ…」
聞いてんのか?
「あんたのがよっぽど変だよ」
「え?」
「あんたこんなんと今までよく一緒にいれたよね」
「え?今更?」
なんだろう何が言いたいんだろう。今日の真里は何かが違うぞ。
「なんかあったん?」
「大ありだよ。でもあんたのせいじゃない。このイライラは自分で解決しますよ」
「あっそう」
なんだろこっちもイライラしてきた。
けたたましいコーヒーメーカーの音がした。取り敢えず沈めよう。そう思って立とうとしたら腕を捕まれた。
「なんや」
「いや、いい…ごめん」
だけどそう、寂しそうに言われるとなんか調子が狂ってしまう。
コーヒーをいれて真里の前に置く。ゆっくりと手を暖めてから一口飲んだ。
「あー、落ち着くね」
「そりゃよかったわ」
「俺はね、光也さん」
「ん?」
「厚かましいかもしれんが、あんたの幸せは願ってるんだよ。それは本音。その延長線上に小夜がいて、世話になった柏原さんがいるわけ」
「…随分大層な場所におるなぁ俺は」
「そうだよ。それだけあんたのこと想ってんの。だけど…」
少し寂しそうに真里は笑った。
「これ、あんたに言ってどうなるんだよな。ごめん、忘れて。俺多分酔っぱらってる」
「うん…」
そう言ってコーヒーを飲み干して真里が立ち上がり、去ろうとするから。
「いや、忘れない」
「ん?」
「忘れない。忘れられんだろ?
俺がお前の言ったこと忘れたことある?ないやろ?いっぺん風呂行って自分の顔見てこいや。そんな顔されたら調子狂うわ。
言いたいことがあるならちゃんと言え。俺はそーゆー…なんやそーゆーモヤモヤするの好きじゃないんだよ」
「うるせえ…」
「あ?」
「うるせえ、好きだっつーのバカ。何べん言わすねん!」
「え?」
な、え?
そんな、なんか照れて荒々しく去られても…。
「それ、何?」
まさか今、それ言われるなんて思ってなかったから予想外すぎて自分の心の所在があやふやになった。
なんで今更?
いや、何回も然り気無く聞いてるし知ってるけど。なんで今?それなんか関係あったの?
イライラしてる原因がもしそれなら。
あぁ、なんでだ。こんな時にどうして雪子さんを思い出すんだろう。
さっき初めて会ったばっか。全然知りもしない一回だけ、30分くらいしか話したこともない客。
なんだ?おかしいのは俺か?
あー、わかんねぇ。自分も、他人も。
無駄な大人をやっている。
でも引っ掛かる。何?ホント気持ち悪い。
目を瞑って生活の音を聞いてみる。
何も変わらない。だけど雨音のような物が聞こえる。これは外かな?これがシャワーだったとしても雨だったとしても、全部日常の筈なんだ。ただ、何故だろう、いつもより色を感じる。
案外眠れていなかった気がする。目覚めは良い方だった。
「良い夢見れた?」
「んー…あんまり寝た気がしない」
「まぁ近いからね。凄くなんか幸せそうに寝てたから良い夢見たのかと思った」
どうだったかな。見たような見てないような。
後ろを見ると小夜はぐっすり寝てた。
「よほど疲れたんだな。昨日寝てないって光也さん言ってたよね」
「これ起こすのちょっと罪悪感沸くよな…」
取り敢えず二人で降りて後部座席のドアを開け、「小夜ー」と一声かける。
「んー…」
「仕方ねぇなぁ…小夜、少し体起こして」
俺は真里から車の鍵を渡される。小夜は寝ぼけたまま言われた通り体を起こすと、「…あれ?」とか言ってる。
「はい、おんぶ」
そう真里が言うとぼんやりしたまま覆い被さるように、倒れるように真里の背中に抱きついて。
ドアと鍵を閉めて取り敢えずエレベーターに乗り、3のボタンを押す。
「これは光也さんには出来なかったな。同じくらいかな?さすがに小夜の方が軽いかな」
最後に小夜をおんぶしたのは8歳の時だったからなぁ。
「やっぱ大人になったなぁ」
「…俺もやりたい」
「ダメだよ。起こしちゃうから」
そう言って笑う真里が頼もしい。
「真里に彼女出来ねぇのなんか不思議だなぁ」
「へ?」
そう言ったところで3階に着いたので、部屋の前で鍵を開けてやった。
そこで、靴を脱ぐのに物凄く不便なことに気が付き、取り敢えず小夜の靴は脱がせて靴棚にしまった。真里はなんとかテキトーに脱いで、部屋まで小夜を運んだ。ベットに寝かせて部屋を出る。
「お疲れ様」
「ん」
「何か飲むか?」
「うん。コーヒー」
「はいよ」
コーヒーメーカーに豆と水をセットしていると、後ろから抱きつかれて一瞬手が止まった。
「なんだよ!」
「そんなイライラしなくてもいーじゃん」
「お前不意打ち過ぎるっておいこら。盛ってんじゃねーよ!」
裏拳一発。だが今回は負けた。バシッと右手を掴まれる。
ヤバい。これはヤバい。
「え?マジ?」
「あんたの行動なんてわかるわ。何回裏拳されてると思ってんの」
とか言いながらめちゃくちゃ押し当てられてるこっちの気持ちになれってんだよ。ひやっとしてるんだけど。
と、思ってる間もなく首筋辺りを甘噛みされて本気で背筋が寒くなった。
「ちょ、待った!今日お前過剰すぎね?」
「ん?あんたがラフロイグ飲ませたからじゃね?」
「一口だろ。てか待ってごめん、謝る、全力で謝るから一回マジ離れよ?な?」
「いやだー♪」
「ごめんなさいホントマジごめんなさいぃ!」
「ちぇっ」
漸く離れてくれたがなんかくるっと向かい合わされて。
待てよ本気でここまでの危険は今までなかったぞ。何がこいつのスイッチを押したんだ、俺。
「ま、真里さん?」
結構焦って呼ぶと、真里は急に吹き出し、腹を抱えて笑い始めた。
「お、おもしろっ!」
「は、はぁ?」
「必死すぎるんだもん!あーやべぇでも可愛いね」
「え?ちょっと待って俺はお前にどんな反応を返すのが正しいんだこれ」
「んー、ちゅー」
「断る」
遮って取り敢えず否定すると今度は真顔になって。
「ちょっと俺も焦ったんだよ」
「え?」
「なんでもなーい」
何にだ。全然わからん。
だけど結局聞くこともなく、真里は勝手にリビングのソファでくつろぎはじめた。
「あんた無自覚すぎるよ」
「え?何が?」
そこでコーヒーメーカーのスイッチを入れるのを忘れていたことに気付き、スイッチを入れて俺は冷蔵庫の日本酒を注いで真里の隣に座った。
「お前なんか変だよ?」
「変だねぇ…」
聞いてんのか?
「あんたのがよっぽど変だよ」
「え?」
「あんたこんなんと今までよく一緒にいれたよね」
「え?今更?」
なんだろう何が言いたいんだろう。今日の真里は何かが違うぞ。
「なんかあったん?」
「大ありだよ。でもあんたのせいじゃない。このイライラは自分で解決しますよ」
「あっそう」
なんだろこっちもイライラしてきた。
けたたましいコーヒーメーカーの音がした。取り敢えず沈めよう。そう思って立とうとしたら腕を捕まれた。
「なんや」
「いや、いい…ごめん」
だけどそう、寂しそうに言われるとなんか調子が狂ってしまう。
コーヒーをいれて真里の前に置く。ゆっくりと手を暖めてから一口飲んだ。
「あー、落ち着くね」
「そりゃよかったわ」
「俺はね、光也さん」
「ん?」
「厚かましいかもしれんが、あんたの幸せは願ってるんだよ。それは本音。その延長線上に小夜がいて、世話になった柏原さんがいるわけ」
「…随分大層な場所におるなぁ俺は」
「そうだよ。それだけあんたのこと想ってんの。だけど…」
少し寂しそうに真里は笑った。
「これ、あんたに言ってどうなるんだよな。ごめん、忘れて。俺多分酔っぱらってる」
「うん…」
そう言ってコーヒーを飲み干して真里が立ち上がり、去ろうとするから。
「いや、忘れない」
「ん?」
「忘れない。忘れられんだろ?
俺がお前の言ったこと忘れたことある?ないやろ?いっぺん風呂行って自分の顔見てこいや。そんな顔されたら調子狂うわ。
言いたいことがあるならちゃんと言え。俺はそーゆー…なんやそーゆーモヤモヤするの好きじゃないんだよ」
「うるせえ…」
「あ?」
「うるせえ、好きだっつーのバカ。何べん言わすねん!」
「え?」
な、え?
そんな、なんか照れて荒々しく去られても…。
「それ、何?」
まさか今、それ言われるなんて思ってなかったから予想外すぎて自分の心の所在があやふやになった。
なんで今更?
いや、何回も然り気無く聞いてるし知ってるけど。なんで今?それなんか関係あったの?
イライラしてる原因がもしそれなら。
あぁ、なんでだ。こんな時にどうして雪子さんを思い出すんだろう。
さっき初めて会ったばっか。全然知りもしない一回だけ、30分くらいしか話したこともない客。
なんだ?おかしいのは俺か?
あー、わかんねぇ。自分も、他人も。
無駄な大人をやっている。
でも引っ掛かる。何?ホント気持ち悪い。
目を瞑って生活の音を聞いてみる。
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