紫陽花

二色燕𠀋

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プール

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 バイト中、特に異変もなく終わりまで仕事をした。

 みっちゃんがいなくなってからは、私も23時まで働くようになった。ただ、18歳未満は22時までしか働けない決まりらしい。だから私は、好意でやっている。

「流石に申し訳ないよ」

 と言うので、閉店作業を手伝うという感じだ。
 お給料という形が取れないということで、柏原さんが毎回お小遣いをくれる。

「いいのに…」

 と私は言うが、「おっさんはこーゆーの好きなんだよ」とか言うのだ。

 3人でご飯を食べることに少し慣れてきた。最近ではみっちゃんのことも少しずつ話題に上がる。
 それぞれが徐々に前を向いている気がする。

「それでさ、小夜ちゃん、異変はない?」
「今のところは」
「まぁ、川とかで遊ぶ感覚だよねきっと。俺よくやったよ。
 しかし今時でもファンキーなガキがいたもんだね。ちょっとそいつバイトしないの?」
「いやぁ…だって初めて会ったし誰だかわからないです…」
「柏原さん面倒臭そうなやつ好きだよね」
「そう?」
「うん。俺だったらそんなやつ絶対嫌ですよ」
「よく言うよ。お前も案外面倒なやつ好きじゃん」
「いや、俺のはね、また違うから!たまたま好きになったらクソみてぇに面倒臭かったパターンだったんだから!」
「とか言って好きになったきっかけ聞いたときさー、『明るいし優しい。けど、意外とネクラっぽそう』って言ってたじゃん」
「え、なにその性格診断みたいな」
「あーやめてやめてすっごい恥ずかしい若かりしころ」

 的を射てる気がするのがまた凄い。

「きっかけなんてそんなもんらしいよ」
「へぇー…」
「なにあんた、なんか俺に恨みでもあるんすか!?」

 いたずらっ子のように柏原さんは笑った。
 でもやっぱり。

「今頃なにしてんだろ…」

 みっちゃんの話の最後には、少し寂しそうで。

「まぁ、フレッドじいも言ってたじゃん。そーゆーやつはそのうちふらっと帰ってくるよって。
 ちょっとあのじいさんが言うとさ、説得力あるよね」
「帰ってきすぎだよ、じいちゃんは。
 生きてるといいけどな」
「生きてるでしょ」

 なんて軽く言ってしまったけど、二人が黙り込んでしまったので気まずくなった。
 なんか、よくなかったかな。

「さーぁ、片付けしよっか」

 柏原さんが伸びをすると、マリちゃんが食器をまとめて立ち上がった。

 それから閉め作業をして、マリちゃんの送り迎えで寮に帰った。

 いつも疲れてるだろうに、マリちゃんは「女の一人歩きはダメだ!」と言って送ってくれる。

「それに何かあったら柏原さんに怒られるからね」
「そうなの?」
「うん。『てめぇなんで見張っとかねぇんだよ、誘拐されることくらいそのこったんねぇ頭でもわかんなかったのか』ってね。光也さんの女トラブルでも結構面倒臭かったもん。まぁそれはね、優しめだけどね。
『お前がついていながらなんだこの様は。あいつバカなんだから』とか言われたわ」
「柏原さんって意外と怖いね」
「意外とってか、怖いよ普通に。だからお前気を付けてよね」
「はーい」
「まぁでも今回のやつ?はよかったけどね。って言ってると先生に目ぇつけられちまうからな…。
 今回だけね。ただ、その心は否定しないよ」

 あぁ、今回のって、プールの件か。

「目をつけられるって言うか、みんなに疑われた」
「ん?」
「多分苛められたと思ったみたいで。担任の先生なんか、本当に何もされてないよね?みたいな」
「なんかそれはそれで気分良いもんじゃないな」
「うん…」
「まぁでも小夜はいいじゃん?ちゃんと間違ったことしてないんだしさ」
「うん。ちゃんと先生にも、苛められてませんよって言った」
「変なやつではあるけどな。若いときはわからん。俺も多分意味不明だったもん」

 浦賀先輩には一体何があったんだろう。
 寮に帰ってからもずっと考えた。
 浦賀先輩に借りたジャージを、寮の共同の洗濯機に入れて洗濯した。

 ここに来て便利だと思ったのは、住んでいるのがみんな学生だということだ。バイトしながら学校に通っている子が多いので、夜中に洗濯をしても問題がない、というか、夜中にしか洗濯が出来ない子が多かったりするようだ。

 洗濯機は住む人がいない、3階にあるから騒音で悩まされる学生もいない。難点があるとすれば、共同なので忘れて起きっぱにしておくと、3台しかないので、洗濯機の外にぽいっと置かれてしまったり、あとは使いたいときに使えないことがあるというところだ。

 今日は1台空いていた、というより中に洗濯物が放置されていた。雰囲気的に結構前に洗濯したものだと思う。仕方なくそれを出して洗濯をした。
 終わった頃に来てもまだその洗濯物はあった。

 眠かったけど低温で軽くアイロンをかけて乾かそうとしたがなかなか難しかった。途中で諦め、部屋に干して寝た。
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