読書感想文

二色燕𠀋

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三浦しをん『月魚』

感想-2

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内容としては
劣等感に苛まれますね。
登場人物って、そうなんだ、劣等感。みたいな。

言い知れない二人の劣等、葛藤があって、こう、まぁ自由に読むのが一番いいんですが個人的には、これをBLと持っていきたくない関係性なんですよね。

お互いに凄く劣等感があり、もどかしさがある。けれど言ったら終わってしまうんじゃないか、とか、
真志喜の成長、というかなんというか。
失踪した、つまりは自分を捨てた父親と

「もう一つ聞かせてください。一度でもいいんです。おじいさんと私があなたを待っているのではないか、と考えたことはなかったんですか?」
「なかったな」
 強がりでもなく、『黄塵庵』はあっさりと言った。真志喜はやるせない笑みを浮かべた。瀬名垣が何か言おうとするのを振り切って、真志喜は自分にとどめを刺そうとする。

このやり取りに「うわっ、」となりました。これぞ劣等。人の機密さ。美しくはない、ただのセンチメンタルかもしれないが重みがある。重みをはっきり書いてくれた瞬間。
結構この小説、はぐらかし感で、ふわっとしているのが多いんですが、良くも悪くも女性作家らしさと、男性らしさがある。(三浦さんは女性です)人物同様、非常に中性的だなと、私は凄く好きで尊敬する一冊なんすよ!(大切なことなのでわりと言うことにする)

いやうん。
多分この人、この作品がなかったらあたしゃぁいまこんな作品は書いてないよ(笑)

この作品は隠喩、比喩、
いわゆるメタファーもわりと盛り込んでありまして、うん、全部を総括して不明瞭なタイトル「月魚」これセンスあるよなぁと感嘆なんです。

多分それほど、まぁ文学賞を取ったわけでもないし、読む人には物足りなさ、あとは、「まぁ取れないか」と思うかもしれない。設定も「ありか?」があるかもしれない。

何が好きかって、世界観とか陳腐な物ではなく、うん、三浦しをんが好きなんだ、こんな感覚ですね。原点みたいで、なんだろ、なんか好き。青春とは少し年齢が上の青春、かしら。

はい、抜粋でさようなら。感想は以上ですね。

角川文庫書き下ろし「名前のないもの」p225~226

 みすずが、「ねえ、見て」と呼ぶ声がした。
「月が出てる!」
 見上げると、空には白い真円が浮いていた。
 さざめきと熱気、食べ物のにおい、夜のはじまりに溶けていく笛の音。そして、それらの中に等しく身を預けている、近しいひとたち。
 名づけられない大切なものが、そこにはたしかにあった。
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