アマレット

二色燕𠀋

文字の大きさ
上 下
59 / 70
狭間

4

しおりを挟む
「そうですね…まぁ、一応書類を書いて貰うことは出来ますか?」
「はい大丈夫です。
 あ、そうだな、一応俺からも言うのですが、彼女は学校にも一切相談していないようで、まぁ…お兄さんと、何かあったらと思いまして金曜日は学校に行かせていません。今日はここに来たし、明日からはどうするべきかというのはあります」
「……確かにそうですよね、何か…ねぇ?確かに。
 もしも西浦さんの手から瑠璃ちゃんが離れる場合でしても、役員と一緒に登校するなり…それでも限界はありますし、学校に協力を要請したりなどもありますよ。
 あと、そうだ。西浦さんが例えばこのまま…となった場合も瑠璃ちゃんの進路によって、という心配はあるかと思いますが、そこも一応は支援出来ないこともないです」
「へぇ、そうなんですか」
「今は整ってきましたからね…しかし18歳まで、が原則なのでこちらはご案内しか出来ないのですが…その辺はどうでしょうか」
「どうでしょうか、とは?」
「…先程自身でも仰っていました通り、西浦さんの収入が安定していないとのことでした、」

 なるほど、審査に対して妙な圧というか、探りだな。

「ほとんど俺に可能性はないのだろうなとは思いますが、俺の貯金などは多分、年相応くらいにあります…まぁ、満足ではない額ですよね。
 もしもな時、そういうのは彼女とも話し合うんじゃないでしょうか」
「…まぁ、」
「自分の未来をどうするか、彼女が決めることかと捉えていますから。端くれでも大人なので、そうなったら話を聞きますよ」

 なるほどなるほど…と、うんうん頷いている様子はどうやら印象は悪くないらしい。

「本当は…明るい道がこれからでもあったって、いいなと思います」

 書類を目にする。
 少し役員が耳を傾けた、と思えて「人生100年って言われ始めたでしょ」だなんて、力を抜くように出てくる。

「何年、何十年苦しんでその中の今、一週間近くの出会いで、そう考えるとまぁ、俺も悪くないと思っていて。でも、彼女はあと数十分で生きてきた18年を振り返る。
 良いか悪いかなんて、本当に後付けでしかないんだと思うと、やっぱり若いからなぁ。まぁ、これから彼女にはたくさん選択があるでしょ。その中のたった一回から、光ある方を選べたらいいなと、他人だから思うんでしょうかね?」

 家族構成、親の名前やら。
 書き始めると、「…書類についてですが」と役員は言ってきた。
 なんだ、それって書く前にいうべきじゃないのかと思ったが

「どうなるかはその時によるのですが、所謂これは「里親登録」ですので、例えば他にも、となった場合、応じていただくこともあるかもしれません」

などと、俺のくだらない理想論の上に業務上の話をしてくるが、正直頭に入らないような。ついでにパンフレットも渡された。

 例え本当に万が一あったとしても恐らくは俺など、今回限り、のようになるだろう。大体そんなものだ。

 そうしているうちに瑠璃と役員は箱から出てきた。
 やはり瑠璃は俯いたままだった。

「えっと、瑠璃ちゃんとお話しをしたのですが、」
「はい」
「西浦さん、ですね」
「はい」

 その他女性役員にも、俺は同じような話をした。

「で、なんですが、瑠璃ちゃんは取り敢えず今は、施設に入るのが一番なのですが」
「まぁ、はい」
「だから、それは」
「…不安なのも、わかるんだけれども。
 瑠璃ちゃん、来月の誕生日まででもどうかな?そこからは退去して、自由にしても」

 何を話せたかはわからないが、きっと、どこかが噛み合ってないんだろう。
 最早来なくてもよかったんじゃないかと一瞬過ってしまう。

「誰のどういった一番なんですか、それ。
 そんなにほっぽり出すのは、つまりそれから先の高校などはどうなるって言うんですか」

 俺はこの人達と同じ、それ以下の他人じゃないかとどこかで過りつつ、話せたかわからない瑠璃を見てつい声を上げてしまった。
 なんだか都合が良いと感じてしまったのだ。

「いや、施設に居て貰ってもいいのです。確かに18歳までで、高校卒業までいる子もいますが」

 居て貰うって、なんだ。いちいちこの女は言い方が微妙だな、俺が気にしすぎなのか?

 男役員を見た。
 特に異論もなく「まぁ…」と、こんな調子で。

「…一応お聞きしたのですが、瑠璃ちゃんは西浦さんの元にいたいと。ですが」
「まぁわかりますよ」
「なら、という提案で…誕生日まで施設にいて、そこからでもいいんじゃないかと」
「…でも結局それは一ヶ月、私は、知らない人とで、なら兄や父とどう違うんですか、」
「不安なのもわかるけど、そういうことは」
「…まぁ確かに正当な不安だと思うよ」

 …わかってはいたのにな。
 瑠璃はやっぱり不安そうに俺を見るけど。

 そんな目で見んなよ。ホントに。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...