アマレット

二色燕𠀋

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空想が現実に歪むとき

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「あー、行く前に待てお前ら。出てきたぞ藤川金融」
「はい?」

 社長は出て行こうとした俺たちに「ほれ、」とパソコンを見せてくる。

 …どうやったら出てくるんだよと思った瞬間に思い出した、そうだ、瑠璃の両親は確か刑務所だと言っていたな。

 どこかのネットのニュースだった。

「金融会社元社長、藤川辰馬(54)、貸金業法違反と出資法違反の疑いで逮捕。余罪追求」

 ざっと見て目についたものに「風営法違反」もあった。しかし、大してこの記事には書いていない。事実を淡々と書いただけの短い記事だった。

「疑いようもなくソッチだな」
「…知らない方がよかったんじゃないっすかこれ」
「まぁ趣味だから、休暇だから、しかも依頼主じゃないから、しかしどうだ西浦。風営法違反だと、」
「見ればわかりますよ。まぁ…案件は片付きましたし、」
「そうだなぁ、片付いたなぁ、話のわかる男は好きだよぅ、西浦」
「わっかりましたぁ、はぁい。行ってきまぁす」

 テキトーに流して事務所を出ると「やっぱ10万で押さえとこ」と上里が言ってくる。

「…なんならもう、時給と基本料だけで」
「確かに高金利貸付じゃな…」
「俺ら今なんで行くん?」
「お前が言ったんだよ?15時から計上にしよせめて…」
「西浦ちゃんが領収書作って良いよぅ…、なんせ15時半に電話代行もあるもんね…」
「どうせ俺指名ですしそのつもりでしたよお前が出したやつで行くから」 
「えっ、」
「……なんか、腹立ってきた」

 何にか、これは朝からずっと感じていたような気がする。あのクソガキ野郎の澄ました態度の裏にあるものを考えそうになることを含めて腹が立つ。

 「えっと~、わかった、流石にごめんね」と弱気になった上里に「違ぇよ、」と言うのみで続かない。

 駐車場について消臭を忘れたことを思い出した。
 上里はまだ、「なんで?曲がってる」と言うのみだったがもう、気にしないことにした。

 非常に不服だ。
 しかし仕事だ。

 いまはいま、それはそれ、じゃぁどれはどれだ、と、イラつきながらまずドアを開け消臭剤を掛けまくったのに、結局タバコに火をつけている。

 当たり前に運転席に乗った上里が「別に良いよ~…」と控えめに、助手席側のドアに寄りかかっていた俺に声を掛けてきたが自然と「悪いけど一回黙って」と言ったこれは、多分本音なんだとどこか遠く感じるのも事実だった。

 ……だから、なんだという。

 何一つ関係ない、クセにこうしてぐるぐる考えるのは俺の悪い癖かもしれない。知らなければ、本当はこうやって複雑に絡むことがなかった。
 …いや、最早勝手に絡めているんだろう。そして知らなければ、得るものなどなく真っ更だろうにと思うあたりで、タバコはフィルターまで蝕まれている。

 素直に気持ちを切り替えて車に乗れば「まぁさ…」と言った上里は続かなかったようだった。少し運転しにくそうに駐車場を出て明かりが射す、何をしているんだかと溜め息が出た。

「……童貞になりてぇなってちょっと思っただけ」
「……また、よくわからない哲学?」
「…まぁそんなとこ」
「だよねぇ普通逆だもんねぇ。俺は捨てたの中二の春だったよ」
「どーでもい、つか早っ。いまの俺にはお前が損してるように感じる…」
「西浦ちゃんいつよ、なんか刺激的そうな気が」
「俺その3年後…季節は覚えてねぇけどクラスの地味目なタイプの子」
「嘘っ、何その平凡。ヤクザお抱えのホストとは思えないんだけどっ、」
「……地雷1、いまその嫌味ホントムカつく」
「あごめん……」

 いや苛立ったって仕方ないんだけどもう腹痛いなタバコ吸いすぎたわクソっ。これならシャブの方がマシな気がしてきた、この論はいつ以来だろうか。

「…至極平凡な俺を皆して苛めないで欲しいわホントにぃ…」
「うーん、それ職間違えてる普通に。自業自得だよぅ」
「わかってるけどストレスで口内炎出来たら治療費出んのかよ」
「出ねぇよ普通に治るから。何それちょっと男の発言じゃないじゃん。
 まぁ…無理なら断っていーじゃんよ、そこも責任だと思うよ?西浦ちゃん前の仕事なんだっけ」
「製薬会社の営業」
「なんで辞めたかな。超良いじゃん。ヤバいブツだったりしたの?」
「しない、全然しない」
「だよねぇきっと」

 製薬会社勤務でドクターストップ掛かるとか洒落にならねぇからだよ全く。アホ臭ぇ。

「…今日じゃぁ普通に定時で帰っていー?」
「いーけどなんの変哲もない日常じゃんそれ」
「うんそれがいい…金曜だから疲れた…」
「1本濃いの終えると西浦ちゃん賢者タイム入るよね。別に良いんだけどさ」

 飲みに行く?と聞かれたが断った。というか地味に一回もない、これが割り切りと言うんだろうか。いや、仕事というものだ。

 子供よりも、その親の方が弱いのだ。

 不意に、誰かの何かの言葉が浮かんだ。
 しかし確か〆は…心の中で虚勢みたいに呟く言葉は、子供よりも親が大事、的な…短編かなんかだっただろうか。そもそもそんな話を読んだのか、自学なのかもわからないな。けど俺の中の言葉じゃないような気はするから、小説家か詩人かが有力かもしれない。
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