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亡霊はその場所で息を潜めて待っている
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「こーゆー時って悩みますよねぇ」
「…何が?」
「切っていいのだろうかって」
ブルーライトが消えた。
「……電話?」
またついた。
「はい」
「3時だよ?兄貴?」
「はい」
「うわぁ」
「電源を切っても電話を切ってもなんか、「気付きませんでした」って出来ないし」
消える。またつく。
頭がおかしいな兄貴。いくら未成年だからといっても過剰だろそれ。
「あ、そういえば千秋さん、ありがとうございます。洗面台でハンガー借りました」
なんだ?
「………あぁ制服?うん別に良いよ。いまなの?それ」
「思い出したんで」
「一瞬何言われたかわからなかったわ」
消える。つく。
「…めんどくせぇからあぁ、カツ丼の残り食えば?夜中に食うと太るけど」
「あぁそうだった。食べます。まだお腹すいてるかも」
「ん」
温め直してやろうかとも思ったが、ケータイを裏返しベッドから這い出た藤川瑠璃は自分でカツ丼を温めに行った。
「500ワット…?」
「あーそれ近いとこ600しかねぇんだよな。テキトーにちょっとやれば良いと思うよ」
ぴっと押す音からわずかで藤川瑠璃はカツ丼を持ってきた。
改めて座り「頂きます」と蓋を開けた雰囲気に、あまり変化がなさそうに見えるがそのまま食べ始めた。
「飯が食えて何よりだな。多分…そういえばサラダが最後じゃないか?」
「…あ、そうかも、」
「全然食ってなかったし」
「んふ、吐いたったっんでふよね」
…そういえば昼間、顔面蒼白だったし確か持ち上げたとき嘔吐いてたかも。
…なんだか変だな、今日のことなのに遠く感じるようだ。
「確かに具合も悪そうだったな」
硬くなっているだろう肉を良く噛み飲み込んでから「…ですね、最悪でした」と藤川瑠璃は言った。
心なしか少し、打ち解けた気がする。
「学校でも家でも…良いことなくて」
「…そうか」
「いつも…今日は良いことがあると思うようにして…読みたい本を考えたりするんですけど、なんか、限界だったのかもしれないです。今日が」
「なるほどねぇ」
基本はひとりでどうにかしようとするタイプなのかもしれない。本なんて象徴と言える。
どうにかこうにか、きっと話さずにやって来ていると考えると、少し気の毒かもしれない。
「発散方法とかって、確かに意外と見つからないからねぇ、わからなくもないな。俺も話し方とかいまいち、わからないし」
「…そうですか?」
「俺のストレス発散法は帰宅してビール飲んで寝る、だな」
とか言っていたらタバコ吸いたくなってきた。連想ゲームのような物だろうか、ビールとタバコ。このタイミングはどうなんだと思えたが、ここは正直に言おうと「タバコ吸ってきていい?」と聞いてみた。良いも何もないだろうけど。
「いいですよ」
そりゃそうだ。
狭いベランダに出て一人寒くタバコを吸った。一人寒く、だなんて意識するほどに俺は意外といま、物事を考えているらしい。
藤川瑠璃をどうするべきか、普通は児童相談所という手が妥当だが、実際にやってみたことがない。例は聞くけれど先を知らない。
無責任にこうしてしまったのだから、そんな先の見えないことをするのは気が引ける。
17歳ならギリギリ児童相談所で間違っていない。話を聞いてくれたとしても対応してくれるかと言えばきっとそうじゃない。
いや、ぐだぐだ素人が考えても仕方のないことだから、相談するのが本当は良いけれど。俺はいま児童誘拐の罪に問われないか、手順を踏めばこちらからそういった機関に連絡するのが正しい。しかしお役所仕事は情報開示、書類仕事でしかないがそういうのを引っくるめて明日電話しよ。なんせ相談所だ。
いや、待て?
確認が大切だ。藤川瑠璃はどうしたいかが優先順位としては当たり前に一番だよな。
なるようにしかならないし、仕方ないな。不利な物を持っていなければなんとかな……。
援交。
荷担してしまっているな。どうしよう。
僅かな焦燥感で部屋に戻れば、食べ終えた藤川瑠璃がぼーっとしたようにこちらの方へ視線をやっていた。
やはり、ちょっと虚ろで独特な子だ。
「あ、ごちそうさまでした」
「ん」
「千秋さんは、明日もお仕事ですよね」
「まぁそうだな。纏めなきゃならないし」
「今日は本当に…すみませんでした」
そう言って彼女はペコリと頭を下げた。
「あぁいや…、まぁ、いいんだよ」
いたたまれなくなって顔をそらすと、寝室のベビーベットが目に入り意識をした。
そうだ、当たり前にそこにあるからなんとも思っちゃいなかったけど、こんなに堂々とある。
「…ご結婚されてるんですね」
「まぁ昔な」
なんと答えて良いのやら。
しかし少し俯いた藤川瑠璃は、不覚にもやはり可愛かった。
「…気にするなって方が難しいかもしれんが、まぁ、」
「いまは…その」
「全く何もない…て、嘘臭いかもしれないけど。
だからそこも放置してたんだ。すまないなそんなところで」
「いえ…」
「…まぁ、食い終わったし寝るか。明日また考えなきゃならんこともたくさんあるし」
「はい……」
当たり前に藤川瑠璃は気まずそうだった、なかなか立とうとはしない。
まぁ眠くなったら寝るだろうかと俺がソファに腰掛けると「ここで寝ても良いですか」だなんて言ってくる。
…そりゃぁ気まずいもんだよな。
「…何が?」
「切っていいのだろうかって」
ブルーライトが消えた。
「……電話?」
またついた。
「はい」
「3時だよ?兄貴?」
「はい」
「うわぁ」
「電源を切っても電話を切ってもなんか、「気付きませんでした」って出来ないし」
消える。またつく。
頭がおかしいな兄貴。いくら未成年だからといっても過剰だろそれ。
「あ、そういえば千秋さん、ありがとうございます。洗面台でハンガー借りました」
なんだ?
「………あぁ制服?うん別に良いよ。いまなの?それ」
「思い出したんで」
「一瞬何言われたかわからなかったわ」
消える。つく。
「…めんどくせぇからあぁ、カツ丼の残り食えば?夜中に食うと太るけど」
「あぁそうだった。食べます。まだお腹すいてるかも」
「ん」
温め直してやろうかとも思ったが、ケータイを裏返しベッドから這い出た藤川瑠璃は自分でカツ丼を温めに行った。
「500ワット…?」
「あーそれ近いとこ600しかねぇんだよな。テキトーにちょっとやれば良いと思うよ」
ぴっと押す音からわずかで藤川瑠璃はカツ丼を持ってきた。
改めて座り「頂きます」と蓋を開けた雰囲気に、あまり変化がなさそうに見えるがそのまま食べ始めた。
「飯が食えて何よりだな。多分…そういえばサラダが最後じゃないか?」
「…あ、そうかも、」
「全然食ってなかったし」
「んふ、吐いたったっんでふよね」
…そういえば昼間、顔面蒼白だったし確か持ち上げたとき嘔吐いてたかも。
…なんだか変だな、今日のことなのに遠く感じるようだ。
「確かに具合も悪そうだったな」
硬くなっているだろう肉を良く噛み飲み込んでから「…ですね、最悪でした」と藤川瑠璃は言った。
心なしか少し、打ち解けた気がする。
「学校でも家でも…良いことなくて」
「…そうか」
「いつも…今日は良いことがあると思うようにして…読みたい本を考えたりするんですけど、なんか、限界だったのかもしれないです。今日が」
「なるほどねぇ」
基本はひとりでどうにかしようとするタイプなのかもしれない。本なんて象徴と言える。
どうにかこうにか、きっと話さずにやって来ていると考えると、少し気の毒かもしれない。
「発散方法とかって、確かに意外と見つからないからねぇ、わからなくもないな。俺も話し方とかいまいち、わからないし」
「…そうですか?」
「俺のストレス発散法は帰宅してビール飲んで寝る、だな」
とか言っていたらタバコ吸いたくなってきた。連想ゲームのような物だろうか、ビールとタバコ。このタイミングはどうなんだと思えたが、ここは正直に言おうと「タバコ吸ってきていい?」と聞いてみた。良いも何もないだろうけど。
「いいですよ」
そりゃそうだ。
狭いベランダに出て一人寒くタバコを吸った。一人寒く、だなんて意識するほどに俺は意外といま、物事を考えているらしい。
藤川瑠璃をどうするべきか、普通は児童相談所という手が妥当だが、実際にやってみたことがない。例は聞くけれど先を知らない。
無責任にこうしてしまったのだから、そんな先の見えないことをするのは気が引ける。
17歳ならギリギリ児童相談所で間違っていない。話を聞いてくれたとしても対応してくれるかと言えばきっとそうじゃない。
いや、ぐだぐだ素人が考えても仕方のないことだから、相談するのが本当は良いけれど。俺はいま児童誘拐の罪に問われないか、手順を踏めばこちらからそういった機関に連絡するのが正しい。しかしお役所仕事は情報開示、書類仕事でしかないがそういうのを引っくるめて明日電話しよ。なんせ相談所だ。
いや、待て?
確認が大切だ。藤川瑠璃はどうしたいかが優先順位としては当たり前に一番だよな。
なるようにしかならないし、仕方ないな。不利な物を持っていなければなんとかな……。
援交。
荷担してしまっているな。どうしよう。
僅かな焦燥感で部屋に戻れば、食べ終えた藤川瑠璃がぼーっとしたようにこちらの方へ視線をやっていた。
やはり、ちょっと虚ろで独特な子だ。
「あ、ごちそうさまでした」
「ん」
「千秋さんは、明日もお仕事ですよね」
「まぁそうだな。纏めなきゃならないし」
「今日は本当に…すみませんでした」
そう言って彼女はペコリと頭を下げた。
「あぁいや…、まぁ、いいんだよ」
いたたまれなくなって顔をそらすと、寝室のベビーベットが目に入り意識をした。
そうだ、当たり前にそこにあるからなんとも思っちゃいなかったけど、こんなに堂々とある。
「…ご結婚されてるんですね」
「まぁ昔な」
なんと答えて良いのやら。
しかし少し俯いた藤川瑠璃は、不覚にもやはり可愛かった。
「…気にするなって方が難しいかもしれんが、まぁ、」
「いまは…その」
「全く何もない…て、嘘臭いかもしれないけど。
だからそこも放置してたんだ。すまないなそんなところで」
「いえ…」
「…まぁ、食い終わったし寝るか。明日また考えなきゃならんこともたくさんあるし」
「はい……」
当たり前に藤川瑠璃は気まずそうだった、なかなか立とうとはしない。
まぁ眠くなったら寝るだろうかと俺がソファに腰掛けると「ここで寝ても良いですか」だなんて言ってくる。
…そりゃぁ気まずいもんだよな。
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