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亡霊はその場所で息を潜めて待っている
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しかし彼女は、こちらの予想よりタフである。
自分でちゃんとシートベルトを外すのだから、いやでもノーパンじゃん、と「いや…飯でもなんでも買ってくるから寝てろよ」と言ってみるのだが、
「…ぃえ、千秋さんパンツが」
「わかってるけど…」
「なので行きます、ご飯はテキト…
あぁ、鞄忘れてきちゃった、お財布がない」
「はぁ?え?」
「どうしよう…」
「ふはっ…っはははは!」
ついにどうしても笑ってしまった。
「…いや、ほん、ほんとごめん、ちょっ、申し訳ない、けど…わ、え?なんか君ちょっと予想外で、」
「…笑った」
ぽけっとする。
うん確かにホントに不謹慎だと頑張って腹を押さえ、いやむしろ腹筋をつねって押さえようとしたら、収まってきた。
「いやいやごめん、申し訳ない」
「…いえ…、良いんです。凄く笑った…あの、ビックリしただけで…」
何故か彼女は、こんな不謹慎野郎に対し、思いの外肩の力を抜いたように見えた。
「うんまぁ良い子に寝ててくれ。もう少しあるから」
それだけ言い残し、車のドアを閉めたは良いけれど、コンビニに入る前に何故か深呼吸するに至った。だが所詮…どうせ何も変わらずコンビニなんだ。
軽い生活用品はあったはずだしと、パンツはテキトーに手前のをさっと取ったし、あぁあと歯ブラシ?タオル?と追求していけばいまいち何を手にしたかわからなくなった。
弁当もテキトーに篭へ入れたが、腹減ってねぇよなといまいち思い付きもしないからパンやらも入れ、最早全体的に何を買ったんだろうと思いながらレジへ並び、鉄のようなメンタルを携え「52番を3箱で」と平然と言うのも却って変態じゃないかとすら思えてきた。
…結構買ったわりにはわずか5分くらいで用事を済ませたんではないか。
勿論藤川瑠璃がそんな短時間で寝ているわけもなく。
まずは取り敢えず目について篭に入れたレモンティーとパンツを渡してやった。
「ありがとうございます」
かなり気まずい。
俺は鉄のようなメンタルなんだと、「あー見ないから」だなんて紳士的な態度(で、あろう)を保つ。こんな状況、今日のシュールレアリズム賞獲得だと自画自賛。
出来るだけ藤川瑠璃へ背を向けるようにタバコを吸った。
しかし気遣いとは、案外無駄になってしまうことが少なくない。
藤川瑠璃は雰囲気的に、何事もなさそうな調子だったりするけど、でも、何事もあったと知る側としては、それは酷く複雑だ。
レモンティーをごく、ごくと飲む藤川瑠璃が漸く一息も吐いたようだったので、自宅まで向かうことにした。
…そっか、変な気分。女子高生を持ち帰っている。このパターンでも持ち帰るという言葉は適切に作用するよな。女子高生を持ち帰っている。
…今日は。
…暫く使ってもいなかったからな…ベッドは埃臭そうだしいや、だからといってソファーは粗末だしな。
…あのベッド、本当に何年なのかな。
まだ夜も更けていないし、掃除機って掛けて問題ないかな。吸引力の変わらないただ一つの掃除機、めっちゃ埃取れるんだよなぁホントに。
『わぁありがとう、ホントに凄い!』
と、かつて喜んだ女まで、思い出される。
「千秋さん」
「ん、あぁなんだ?」
「…ホントに、」
「いや、まぁいい」
「はい…」
「まぁ飯食って風呂入って寝て…。
あぁ咄嗟にだったが結局学校どこだ?送ってくわ明日。いや、休むか最早」
「…あ、はい休みます」
しかし。
「ん、まぁいいや。いまは。お疲れ様。帰ったら、なんとなく多分一通り買ってきたと思うから使ってくれ」
「はい、ホントに」
「ん」
少しの間だったが、何か聞いてやるべきなのか、いや、いまはうん、いいか。
結論を勝手に出したところでアパートについた。
過剰なのも如何かと思ったので「歩ける?」「はい」という会話のみにして部屋へ行けば、
「綺麗なお家ですね、お邪魔します」
だなんて言うのに、やはり読めないなぁ。だが、彼女のマイペースさに付き合ってやる方がいいよな、いまは。
藤川瑠璃はしかし、少しだけ恥ずかしそうに「すみません、早速シャワー借ります」と言った。
「どうぞ」
その間まずは掃除機と…あとそうか、俺の服は間違いなくデカい。香苗の服とか余っているかもな。
久々に気まずく寝室のカラーボックスを漁ることになってしまった。
埃臭さに、本当に3年ぶりの気持ちを開けたような気がした。
ついでに、彼女がカラーボックスに入れていた、テディベアの形をしたピンクの石鹸まで出てくる。
気まずいな。
早く捨ててしまえばよかったような、なのに役に立っているという皮肉さも、切なさも漂ってくる。
なんとなくこれもテキトーに、寝間着に使えそうな物を選んで一応パタパタと振ってから、あぁ確かあいつ、この服大して着ていなかった寝間着候補第一だなんて…やはり無駄なことまで思い出すらしいな。
洗面所に畳んで置いておく。
そして更に、窓際に立て掛けておいたハイテク掃除機を短くし、ひたすらに埃を取りながらついつい何度か止めて確認してしまう。やはりすげぇ。つか、尋常じゃないな埃。こんなところで寝てくれだなんてとても言えないわ。
いや、別れた女と使っていたベッドを推す俺もどうなんだ。どう見てもダブルだしなぁ。しかし言わなければまぁ、良いことだし。そもそもソファーの方が俺の汗水が半端ないよな、相手は女子高生だしうん、不可抗力。
複雑である。
自分でちゃんとシートベルトを外すのだから、いやでもノーパンじゃん、と「いや…飯でもなんでも買ってくるから寝てろよ」と言ってみるのだが、
「…ぃえ、千秋さんパンツが」
「わかってるけど…」
「なので行きます、ご飯はテキト…
あぁ、鞄忘れてきちゃった、お財布がない」
「はぁ?え?」
「どうしよう…」
「ふはっ…っはははは!」
ついにどうしても笑ってしまった。
「…いや、ほん、ほんとごめん、ちょっ、申し訳ない、けど…わ、え?なんか君ちょっと予想外で、」
「…笑った」
ぽけっとする。
うん確かにホントに不謹慎だと頑張って腹を押さえ、いやむしろ腹筋をつねって押さえようとしたら、収まってきた。
「いやいやごめん、申し訳ない」
「…いえ…、良いんです。凄く笑った…あの、ビックリしただけで…」
何故か彼女は、こんな不謹慎野郎に対し、思いの外肩の力を抜いたように見えた。
「うんまぁ良い子に寝ててくれ。もう少しあるから」
それだけ言い残し、車のドアを閉めたは良いけれど、コンビニに入る前に何故か深呼吸するに至った。だが所詮…どうせ何も変わらずコンビニなんだ。
軽い生活用品はあったはずだしと、パンツはテキトーに手前のをさっと取ったし、あぁあと歯ブラシ?タオル?と追求していけばいまいち何を手にしたかわからなくなった。
弁当もテキトーに篭へ入れたが、腹減ってねぇよなといまいち思い付きもしないからパンやらも入れ、最早全体的に何を買ったんだろうと思いながらレジへ並び、鉄のようなメンタルを携え「52番を3箱で」と平然と言うのも却って変態じゃないかとすら思えてきた。
…結構買ったわりにはわずか5分くらいで用事を済ませたんではないか。
勿論藤川瑠璃がそんな短時間で寝ているわけもなく。
まずは取り敢えず目について篭に入れたレモンティーとパンツを渡してやった。
「ありがとうございます」
かなり気まずい。
俺は鉄のようなメンタルなんだと、「あー見ないから」だなんて紳士的な態度(で、あろう)を保つ。こんな状況、今日のシュールレアリズム賞獲得だと自画自賛。
出来るだけ藤川瑠璃へ背を向けるようにタバコを吸った。
しかし気遣いとは、案外無駄になってしまうことが少なくない。
藤川瑠璃は雰囲気的に、何事もなさそうな調子だったりするけど、でも、何事もあったと知る側としては、それは酷く複雑だ。
レモンティーをごく、ごくと飲む藤川瑠璃が漸く一息も吐いたようだったので、自宅まで向かうことにした。
…そっか、変な気分。女子高生を持ち帰っている。このパターンでも持ち帰るという言葉は適切に作用するよな。女子高生を持ち帰っている。
…今日は。
…暫く使ってもいなかったからな…ベッドは埃臭そうだしいや、だからといってソファーは粗末だしな。
…あのベッド、本当に何年なのかな。
まだ夜も更けていないし、掃除機って掛けて問題ないかな。吸引力の変わらないただ一つの掃除機、めっちゃ埃取れるんだよなぁホントに。
『わぁありがとう、ホントに凄い!』
と、かつて喜んだ女まで、思い出される。
「千秋さん」
「ん、あぁなんだ?」
「…ホントに、」
「いや、まぁいい」
「はい…」
「まぁ飯食って風呂入って寝て…。
あぁ咄嗟にだったが結局学校どこだ?送ってくわ明日。いや、休むか最早」
「…あ、はい休みます」
しかし。
「ん、まぁいいや。いまは。お疲れ様。帰ったら、なんとなく多分一通り買ってきたと思うから使ってくれ」
「はい、ホントに」
「ん」
少しの間だったが、何か聞いてやるべきなのか、いや、いまはうん、いいか。
結論を勝手に出したところでアパートについた。
過剰なのも如何かと思ったので「歩ける?」「はい」という会話のみにして部屋へ行けば、
「綺麗なお家ですね、お邪魔します」
だなんて言うのに、やはり読めないなぁ。だが、彼女のマイペースさに付き合ってやる方がいいよな、いまは。
藤川瑠璃はしかし、少しだけ恥ずかしそうに「すみません、早速シャワー借ります」と言った。
「どうぞ」
その間まずは掃除機と…あとそうか、俺の服は間違いなくデカい。香苗の服とか余っているかもな。
久々に気まずく寝室のカラーボックスを漁ることになってしまった。
埃臭さに、本当に3年ぶりの気持ちを開けたような気がした。
ついでに、彼女がカラーボックスに入れていた、テディベアの形をしたピンクの石鹸まで出てくる。
気まずいな。
早く捨ててしまえばよかったような、なのに役に立っているという皮肉さも、切なさも漂ってくる。
なんとなくこれもテキトーに、寝間着に使えそうな物を選んで一応パタパタと振ってから、あぁ確かあいつ、この服大して着ていなかった寝間着候補第一だなんて…やはり無駄なことまで思い出すらしいな。
洗面所に畳んで置いておく。
そして更に、窓際に立て掛けておいたハイテク掃除機を短くし、ひたすらに埃を取りながらついつい何度か止めて確認してしまう。やはりすげぇ。つか、尋常じゃないな埃。こんなところで寝てくれだなんてとても言えないわ。
いや、別れた女と使っていたベッドを推す俺もどうなんだ。どう見てもダブルだしなぁ。しかし言わなければまぁ、良いことだし。そもそもソファーの方が俺の汗水が半端ないよな、相手は女子高生だしうん、不可抗力。
複雑である。
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