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アレルギー
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十一歳の女師匠が果たして人を教えることが出来るかどうかは問うところでない、唯そういう風にして彼女の退屈が紛れてくれれば端の者が助かる云わば「学校ごッこ」のような遊戯をあてがい佐助にお相手を命じたのである。だから
ドアが開いた。
反射的にちらっと見ると飯島の下げパンがあり「せんせー」と、彼は私を見下ろしていた。
私は本に目を落とす。
「…あら飯島くん。不在になってたでしょ」
「でもいんじゃん」
「何」
佐助の為めよりも春琴の為めに計らったことなのであるが
「んー股関が痛ぇ」
飯島は私の隣に半人分くらいのスペースを作り、どかっと座った。
「至って健康じゃない?サボってないで帰りなさいよ飯島くん」
「でも超痛ぇよ?センセー」
「ん、あっそ。オロナインでも塗ったらどう?」
「余計痛そーじゃね?」
「あのねぇ、暇じゃな」
「お前苛められてんの?」
──
急に振られてきっと、私はビクッとしてしまったと思う。
反射的にまた飯島を見れば、飯島は片膝で頬杖をつき「なぁ?藤川」と目が合い、からかっているのか、しかしそれにしてはつまらなそうに聞いてきたのだった。
「絡んでんじゃないわよ飯島くん」
「あ?マジちんこ痛ぇし」
先生が溜め息を吐いて立ち上がり、「じゃ書いて」と、来室者名簿を持ってこようというときに「聞いてる?」と、飯島が私の項あたりをさらっと撫でた。
瞬間にその手を払ってしまった。
お陰で本が閉じてしまった。どうしよう何ページだったか…マルが何回来たっけな。
「嫌われるよ全く」
先生が飯島に名簿を渡した。
30ページ…マルが最初にあるから違う、内容的に進んだかどうかもわかりにくいし、どこだろう、もう少し先だったかな、前だったかなと「」を探すけどそもそも段落もないし途方にくれそう。
…イライラする。
飯島は口紅に気付いただろうか。
「何、なんて書くの」
何故偉そうなんだこいつは。
「学校ごッこ」という単語がなかなか見つからない…戻ろうか、25ページくらいから…。
「なんでもいいよ、局部の痛みとでも書いといてよ」
「はいはいはい」
チャイムが鳴った。
なんのチャイムかはわからないけど。
大人しく名簿に名前を書く飯島が「女って怖ぇよな」と漏らした事に、不愉快指数が少し上がった。
いずれにしてもここには居たくない。
もうわからないし本を鞄に入れて立てば「藤川さん?」と先生は呼ぶ。
「一時間経っちゃったし戻ります」
「…大丈夫なの?」
うるさいな。
ただただ保健室を去るとき、飯島は私を見上げていたし、先生は…珍しく心配そうだったように見えた気がした。
それが却って胸をムカムカさせる。
…帰りたい、
けど帰りたくない。
胸がイガイガして気持ち悪い。もういい、吐く。朝は珍しくパン食べたし出るものあるでしょう。
トイレに向かうすがら、教室の前で本城さんが由香ちゃんと話していた、由香ちゃんとは目が合ったら完全に血液が急降下していく。
無理。
これは逃げだとわかってるけど、トイレの手前の個室に入ってすぐ、口に指を突っ込んで嘔吐いた。
なんも大して出ない。
頭に冷たい血が登る、ついでに込み上げろと思うのに胃液が溜まるだけ。
何この不完全燃焼。
「ちょっ、」
「おい藤川ぁ!」
本城さんが怒鳴って入って来た。
由香ちゃんが「やめてよもうホントに!」と泣き叫ぶと同時に個室のドアがガンガンと音を立てる。
「おいこのヤリマン出てこいよっ!」
…何に怒ってるかよくわからないし。構ってる余裕も視界もどんどん狭くなってゆく……、
暴力はいつだって、誰だって良い思いなんてしないのに。
『ほらよ、』
不意に。
あの男が、血のついた指を私の口に突っ込んできた情景が、フラッシュバックした。
「なんとか言えよてめぇ、」
「…うる、さい」
うるさい。
ドアを殴り返した。
一瞬だけピタッと止まるがまた、「なんなんだよっ!」と本城さんの金切りな感情が溢れ出してしまう。
ドアは殴打され、本城さんが何を言っているかわからない。
それは耳を塞いでも聞こえてくる。頭の奥まで響くようで冷や汗が出る。うるさい、やめて、痛い、怖いから。
…音が止んだ。
「何やってんのお前」
声がした。
そして、足が縺れ…体制を崩すような本城さんの足音と「外まで聞こえてくんだようるせぇな」と言う飯島の声。
「誰?」
「…る、瑠璃ちゃんが、」
「だよな。
おい藤川大丈夫か?」
由香ちゃんの震えた声と、飯島が私を呼び掛ける声がする。
途端に恐怖は去り、まずは状況を打開しなければ、平気な顔をして出ていけば良いんだと思ったのだが、立とうとして少しよろけるようにドアにぶつかって滑ってしまった。
状況は伝わってしまい、「先生呼んでこい」と飯島は言ったが、それがより無理をさせるだなんて、知らないんだろう。
「だいじょぶだから」
ドアを開ければ目の前に飯島と、後ろに本城さん、ドアの側で由香ちゃんが大泣きしている。
みんなを睨むようになってしまったけれど、兎に角もういい、トイレから出ようとすれば「おい、藤川」と、意外にも飯島は確かに心配そうな声だった。
由香ちゃんには「ごめんね」と謝って、ご丁寧に、開けっ放しになったトイレから出た。
ドアが開いた。
反射的にちらっと見ると飯島の下げパンがあり「せんせー」と、彼は私を見下ろしていた。
私は本に目を落とす。
「…あら飯島くん。不在になってたでしょ」
「でもいんじゃん」
「何」
佐助の為めよりも春琴の為めに計らったことなのであるが
「んー股関が痛ぇ」
飯島は私の隣に半人分くらいのスペースを作り、どかっと座った。
「至って健康じゃない?サボってないで帰りなさいよ飯島くん」
「でも超痛ぇよ?センセー」
「ん、あっそ。オロナインでも塗ったらどう?」
「余計痛そーじゃね?」
「あのねぇ、暇じゃな」
「お前苛められてんの?」
──
急に振られてきっと、私はビクッとしてしまったと思う。
反射的にまた飯島を見れば、飯島は片膝で頬杖をつき「なぁ?藤川」と目が合い、からかっているのか、しかしそれにしてはつまらなそうに聞いてきたのだった。
「絡んでんじゃないわよ飯島くん」
「あ?マジちんこ痛ぇし」
先生が溜め息を吐いて立ち上がり、「じゃ書いて」と、来室者名簿を持ってこようというときに「聞いてる?」と、飯島が私の項あたりをさらっと撫でた。
瞬間にその手を払ってしまった。
お陰で本が閉じてしまった。どうしよう何ページだったか…マルが何回来たっけな。
「嫌われるよ全く」
先生が飯島に名簿を渡した。
30ページ…マルが最初にあるから違う、内容的に進んだかどうかもわかりにくいし、どこだろう、もう少し先だったかな、前だったかなと「」を探すけどそもそも段落もないし途方にくれそう。
…イライラする。
飯島は口紅に気付いただろうか。
「何、なんて書くの」
何故偉そうなんだこいつは。
「学校ごッこ」という単語がなかなか見つからない…戻ろうか、25ページくらいから…。
「なんでもいいよ、局部の痛みとでも書いといてよ」
「はいはいはい」
チャイムが鳴った。
なんのチャイムかはわからないけど。
大人しく名簿に名前を書く飯島が「女って怖ぇよな」と漏らした事に、不愉快指数が少し上がった。
いずれにしてもここには居たくない。
もうわからないし本を鞄に入れて立てば「藤川さん?」と先生は呼ぶ。
「一時間経っちゃったし戻ります」
「…大丈夫なの?」
うるさいな。
ただただ保健室を去るとき、飯島は私を見上げていたし、先生は…珍しく心配そうだったように見えた気がした。
それが却って胸をムカムカさせる。
…帰りたい、
けど帰りたくない。
胸がイガイガして気持ち悪い。もういい、吐く。朝は珍しくパン食べたし出るものあるでしょう。
トイレに向かうすがら、教室の前で本城さんが由香ちゃんと話していた、由香ちゃんとは目が合ったら完全に血液が急降下していく。
無理。
これは逃げだとわかってるけど、トイレの手前の個室に入ってすぐ、口に指を突っ込んで嘔吐いた。
なんも大して出ない。
頭に冷たい血が登る、ついでに込み上げろと思うのに胃液が溜まるだけ。
何この不完全燃焼。
「ちょっ、」
「おい藤川ぁ!」
本城さんが怒鳴って入って来た。
由香ちゃんが「やめてよもうホントに!」と泣き叫ぶと同時に個室のドアがガンガンと音を立てる。
「おいこのヤリマン出てこいよっ!」
…何に怒ってるかよくわからないし。構ってる余裕も視界もどんどん狭くなってゆく……、
暴力はいつだって、誰だって良い思いなんてしないのに。
『ほらよ、』
不意に。
あの男が、血のついた指を私の口に突っ込んできた情景が、フラッシュバックした。
「なんとか言えよてめぇ、」
「…うる、さい」
うるさい。
ドアを殴り返した。
一瞬だけピタッと止まるがまた、「なんなんだよっ!」と本城さんの金切りな感情が溢れ出してしまう。
ドアは殴打され、本城さんが何を言っているかわからない。
それは耳を塞いでも聞こえてくる。頭の奥まで響くようで冷や汗が出る。うるさい、やめて、痛い、怖いから。
…音が止んだ。
「何やってんのお前」
声がした。
そして、足が縺れ…体制を崩すような本城さんの足音と「外まで聞こえてくんだようるせぇな」と言う飯島の声。
「誰?」
「…る、瑠璃ちゃんが、」
「だよな。
おい藤川大丈夫か?」
由香ちゃんの震えた声と、飯島が私を呼び掛ける声がする。
途端に恐怖は去り、まずは状況を打開しなければ、平気な顔をして出ていけば良いんだと思ったのだが、立とうとして少しよろけるようにドアにぶつかって滑ってしまった。
状況は伝わってしまい、「先生呼んでこい」と飯島は言ったが、それがより無理をさせるだなんて、知らないんだろう。
「だいじょぶだから」
ドアを開ければ目の前に飯島と、後ろに本城さん、ドアの側で由香ちゃんが大泣きしている。
みんなを睨むようになってしまったけれど、兎に角もういい、トイレから出ようとすれば「おい、藤川」と、意外にも飯島は確かに心配そうな声だった。
由香ちゃんには「ごめんね」と謝って、ご丁寧に、開けっ放しになったトイレから出た。
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