アマレット

二色燕𠀋

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アレルギー

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 途端にその場の空気が変わった。
 原因は一目瞭然だった。

 私の席がなんだかズレていて、ゴミか何かが上に乗っているのが見える。
 本当にこんなことする人いるんだ、と、どこか遠かったけれど、更によく見えたら一瞬足が止まりそうになった。

 机の上には縛って破かれた使用済みのコンドームが二つほど乗っていた。

 …流石にこれは気色が悪い。誰がやっても別に良いけど、わざわざ、人為的に破いて汚すあたり、これをやった本人は「気持ち悪いな」と思わなかったんだろうか。
 使いたくないし、でもなんだかどうでもいいなと思えた。

 こうなれば仕方がないので、鞄は側に起き手摺りに座って本を読むことにした。どうせこうしていれば先生がやって来たときに事が露見する。

 しかし。

 手摺りに座れば下の花壇が見えた。
 二階だからまだ近いけど、落ちたら痛いだろうな。このポール丸いから、夢中になってたら間違って落ちちゃうかもしれない。

 面倒だなぁと溜め息をつく前に「藤川さん、何してんのっ、」と、側にいた女の子が話しかけてくる。

「……危ないよ…?」

 顔をひきつらせ控えめに言いちらちら、ちらちらと私の机と私とを交互に見るのだから、やっぱり溜め息が出た。どうやら私は使用済みコンドームと、同列なんだ、この子の中では。

 …でもごめん、私、貴女の名前を覚えてないし。

 面倒だから構わないでという意思表示で本を開く。しゅんきんしょう。そうか、ルビ、振ってあったんだと感心すれば「瑠璃ちゃんっ、」と、由香ちゃんの慌てた声までした。

 …大変珍しい。

「瑠璃ちゃん、先生に言おう、どうする?拭こうか?」

 何故か由香ちゃんは泣きそうだった。
 全貌を知っているのかもしれないと思えたが「大丈夫だよ由香ちゃん」と、取り敢えず笑って言ってあげようと思えた。

「先生も気付くし、来たら変えてくださいって言うから」
「…あのね、瑠璃ちゃんこれは、」
「落っこっちゃうんじゃないの藤川さん」

 さっきまでロッカーに座っていた本城さんがそう言いながら教室に入ってきた。

「窓閉まってるから大丈夫」

 …そうか。
 気色悪い女。
 無視しよう。

 次には「あのさ、」と、席に座っていた金沢さんがガタンと立ち上がり私を見て言った。

「…雑巾しかないけどいー?新しいやつ。流石に頭おかしいと思うわ」
「…え?」

 …意外な反応でつい、一瞬頭が真っ白になってしまった。

「……朝ウチが朝練終わったときにはもうこうだったよ。これ、例えばさぁ。あんたがお盛んでもこうはしないでしょ」
「……うん、」
「わかんないわけないよね、あんたこれ嫌がらせじゃん、どう見ても」

 何故だか金沢さんは不自然なまでに本城さんと目を合わせない。
 金沢さんは「新しい雑巾、あったら持ってきて」と由香ちゃんに言った。

「……大丈夫、いいよ、そのままで」
「……ウチらが気色悪いんだけど」
「ごめんね、でもいい」
「何言って」

 どうしていいかいまいちわからなくなってきた。

「…嫌でしょ、金沢さんも由香ちゃんも。大丈夫、ごめんねありがとう。自分でやるよ」
「……あっそう、別に良いけど、」
「ただ朝はごめんね、本を読みたいの」

 金沢さんは「何言ってんの…?」とビックリしたような顔をしていたし、由香ちゃんは何故だかついに号泣してしまった。

「あっ、…でも気色悪いんだよね、ごめんね。すぐ片付けるね」
「…あんたさ、なんか……大丈夫?」

 そう言われてしまえばこんな状況、大丈夫なわけないじゃんと金沢さんに思うが、いや、まずはどうにかしようと、降りて机を教室の外に出そうと考えた。

 意図的に見ないようにしたって、まわりがザワザワしていることくらい、空気だけでわかる。

 机を持った瞬間、あぁ、ここにベランダがあったなら、きっとこの机を一階にぶん投げる、それは相当スカッとするだろうになと思えたけれど、改めて噎せ返るこの臭い…どうやら精子ではないような…何か、牛乳?にしては薄いだろうけど、この臭さはなんだろう。
 考えても気持ち悪いと遮断した。

 一つ、落ちてしまった。

 「ひぃ、」とクラスの誰かが沸く。
 「あぁ、ごめんね。後で捨てとくね」と言うことしか出来なかった。

 一つはどうやら机にこびりつくようだ。
 落ちちゃうかなぁ。

 行く手には自然と本城さんがいる。

「退いて」

 彼女はまるで「気持ち悪い」とでも言いたそうに睨んで私から自然と離れて行く。

 廊下に机を出すと丁度チャイムが鳴ってしまい、タイミング悪く先生に出くわした。
 クラスの先生ではなかったが、社会科、どこかのクラスの先生が「どーしたんだ藤川」と、覗く。

「…どした、これ」
「わかりません。先生、机を交換することは可能ですか?」

 私が聞いている隙に先生は手洗い場にいた飯島たちに「おら座るな、早く教室行け」と注意をしている。

 従った飯島は雑談をしながら教室に戻って行くようだったが、私の後ろを通る瞬間には「なにやってんす…かぁ?」と、驚いたのかなんなのか、しかし軽い調子で去って行った。
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