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道徳に対する抗体と焦燥
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恐ろしいことこの上ないが、13号室をノックし開けると、藤川瑠璃はシャツのはだける乱れた格好で「あぁ、千秋さん」と、何事もないような仕草。
どこにも傷はないから殴られてはいないらしいが、ローターやらローションやらと、ついでに1万円がそこら中に散らばっていた。
「あーあ…。金は投げちゃダメだよなぁ…」
1万円を拾い集めてやるが、彼女は淡々とシャツのボタンを留めつつ「あっ、」と手元を眺める。金は全てピン札だった。
「…一個なくなっちゃった」
「ボタン?」
こくりと頷いてボタンを留め終える、どうやら胸元のボタンらしい。
探す気もないのだろうし、少し俯いているのに、寒々しいような、なんとも言えない気持ちで、拾った制服のブレザーを肩に掛けてやった。
彼女が、まさか援交などやるようには見えないほどにイノセントな目で俺を見上げるのだから、何故か俺に罪悪感を植え付ける。
俺は彼女に掛けられる言葉もなく5万円を渡すのだが、首を振って受け取りそうもない。
良く見りゃ結構確かに可愛いな、ピン札は制服のポケットに折り畳んで捩じ込んだ。
「いや、」
「慰謝料と言うやつだろう。
立てる?取り敢えず上のアップルティーでいい?」
「…はい」
手を貸してやればふと引っ張られ、何事だこの子供と思えば、背中に手を回されている。
彼女の心臓が波打っているのまでわかる、結構…いや、わりと早いな。抱きつかれたようだ。
彼女は耳元で「どうでした?」と、しかし少し震えたその声が、高揚か恐怖かはわからないが。
「…演技派かよ、かなりダメだけど」
よいしょっと彼女をその状態で持ち上げれば、「うわっ、」とビックリし、「吐く、吐くかも降ろしてっ!」だなんて言うのだからそういや顔面蒼白だったなと思い出して降ろしてやる。
座り込んだ瞬間「ぅぇっ、」と喉が動いた。
マジだったのか。
「あーごめん悪かった」
えっと確か壁にコンドーム用のゴミ袋、ここあるんだよなと目について渡そうとすれば「…っ、ひっ、」と、何故なんだ泣き始めた藤川瑠璃を仕方なくよしよしとするしかなくなった。
「…よくやりましたが自業自得です」
「…あぃ、すませっ、」
「どーしたのお前、情緒ヤバくないか?」
異様だわ、ビビることしか出来ねえよ。
まぁまともじゃないからこんなことをしているのは百も承知だけど、いざ、子供とはいえ女に泣かれるとは…気が小さいな俺も。
彼女はしかし、どうしようもないと言わんばかりに溢れてきてしまった涙を、どうやら歯を食いしばって耐えているようだった。こうなれば仕方ないと「まぁ泣いていいよ」と言うのだが、ひたすら無理に耐えようとするのが何故だか心痛い。
「別に、耐えなくても…」
「……っぇ、」
「嫌だったん?」
首を振るのだからますますよくわからない。なんだろう、全体的に闇。
「…っプルティー」
「ん?」
「…飲むっ、」
「うんはい。立てますかお嬢さん」
藤川瑠璃は頷いてから「ふぁあ~っ、」と、気合いを入れるように涙を拭き、「いきましょっ、」と言った。
うーん本格的に変な奴、と思いながらもどこか、元気だなぁ子供って、と思っている俺がいた。
足元もわりと大丈夫で満喫を出る際、泣いている女子高生を連れた俺、なのか、最早うるさいのがバレた俺、なのか、店員がめちゃくちゃ不審そうに退店の挨拶をする。
うーん、なんも言われてないから多分出禁ではないけどもう使わないな。
後ろからノロノロとついてくる藤川瑠璃は、なくなってしまったボタンあたりをずっと弄っている。
「…もー少し上手くやれたらよかったんだけど…」
「すみません、」
「いや、俺が。…ちょっとごめん」
「へ?」
「いやぁ一応大人の男としては怖かったかなぁ、とか、手を出す前に、とか自然と考えちまうもんで」
「…いえ、元を言えば私のせいで」
「うんまぁそう、お前らのせいではあるけどさ。うーん、慌てて奥さんがヒステリックだったの若干トンでたわ俺…」
「あぁ、でもあの人…」
「ん?」
藤川瑠璃は、少しスッキリした顔で俺を見上げ、「多分大丈夫ですよ」と言った。
ふと、ポケットに突っ込んだ5万円を出し、「投げつけられた、よりも、そう言ってくれたと勝手に思えてます」と言い、やはり、5万円は俺に渡してきた。
「…なんというか、わかりませんけど、あぁいうのってちょっと…スッキリする」
「…あっそ」
「これは千秋さんにあげます」
そう言われても困るけど、まぁまぁ俺もボーナス出ないし、と、「あぁ、そう」と受け取っておくことにした。
本日最上級の笑顔を見せた藤川瑠璃は、「一日のモヤモヤ消えました、ありがとうございました」と言う。
まぁ、なんかあった、そんな日だったのかもしれない。
「んまぁよくわからんけど」
何を言ってるか良くわからないけど、取り敢えず店についたので「ホットアップルティー二つ」と注文をし、二人で喫煙席に行く。
確かに、藤川瑠璃の表情は、会った時よりも遥かに明るくなったような気がする。
「……後に報酬は俺から渡そうと思うんだけど」
「え?」
「うん。けどまぁこんなこともあるから君は今後ね、てのは大人から一言」
「…わかりました」
「宜しい」
「千秋さん」
「ん?」
「…また会えますか?」
…ん?
「ん?なんで?」
「なんだか、です」
「…まぁ、別に。けどその金はそうじゃなくて」
「はい。私を抱いてくれますか?」
……。
「はっ?」
「はい。なんだか、です」
「……んーと、……俺はなんだか君とわかり合えない気がするが」
うーん。
「…なに、なんかあったの?」
「まぁ、はい」
…ふうん、あっそうなんね。
「…うーん、まぁそうだとは思うけど別にいいよ」
「へ?」
「あ、意外とわきまえはあるんだな。
まぁ俺、人間の女なら大抵勃つって同僚に言われるくらいに道徳もないからね。けど抱く女は1度でもアホみたいに甘やかすと決めている」
「えっ、」
「ははっ、まぁ至極どうでもいいよな。お前みたいな擦れたガキには早い話だけど。
だったらその格好じゃ捕まるしホテルいけないから着替えだな、家まで送るわ」
「………」
この裏には何があるかわからんが、大抵の場合は碌でもない。
──古い道徳を破壊することは、新しい道徳を建立するときにだけ、許されるのです。──
誰の言葉だったかなと思えば、目の前の藤川瑠璃はアップルティーを置き、「…夏目漱石…」と呟いた。
どこにも傷はないから殴られてはいないらしいが、ローターやらローションやらと、ついでに1万円がそこら中に散らばっていた。
「あーあ…。金は投げちゃダメだよなぁ…」
1万円を拾い集めてやるが、彼女は淡々とシャツのボタンを留めつつ「あっ、」と手元を眺める。金は全てピン札だった。
「…一個なくなっちゃった」
「ボタン?」
こくりと頷いてボタンを留め終える、どうやら胸元のボタンらしい。
探す気もないのだろうし、少し俯いているのに、寒々しいような、なんとも言えない気持ちで、拾った制服のブレザーを肩に掛けてやった。
彼女が、まさか援交などやるようには見えないほどにイノセントな目で俺を見上げるのだから、何故か俺に罪悪感を植え付ける。
俺は彼女に掛けられる言葉もなく5万円を渡すのだが、首を振って受け取りそうもない。
良く見りゃ結構確かに可愛いな、ピン札は制服のポケットに折り畳んで捩じ込んだ。
「いや、」
「慰謝料と言うやつだろう。
立てる?取り敢えず上のアップルティーでいい?」
「…はい」
手を貸してやればふと引っ張られ、何事だこの子供と思えば、背中に手を回されている。
彼女の心臓が波打っているのまでわかる、結構…いや、わりと早いな。抱きつかれたようだ。
彼女は耳元で「どうでした?」と、しかし少し震えたその声が、高揚か恐怖かはわからないが。
「…演技派かよ、かなりダメだけど」
よいしょっと彼女をその状態で持ち上げれば、「うわっ、」とビックリし、「吐く、吐くかも降ろしてっ!」だなんて言うのだからそういや顔面蒼白だったなと思い出して降ろしてやる。
座り込んだ瞬間「ぅぇっ、」と喉が動いた。
マジだったのか。
「あーごめん悪かった」
えっと確か壁にコンドーム用のゴミ袋、ここあるんだよなと目について渡そうとすれば「…っ、ひっ、」と、何故なんだ泣き始めた藤川瑠璃を仕方なくよしよしとするしかなくなった。
「…よくやりましたが自業自得です」
「…あぃ、すませっ、」
「どーしたのお前、情緒ヤバくないか?」
異様だわ、ビビることしか出来ねえよ。
まぁまともじゃないからこんなことをしているのは百も承知だけど、いざ、子供とはいえ女に泣かれるとは…気が小さいな俺も。
彼女はしかし、どうしようもないと言わんばかりに溢れてきてしまった涙を、どうやら歯を食いしばって耐えているようだった。こうなれば仕方ないと「まぁ泣いていいよ」と言うのだが、ひたすら無理に耐えようとするのが何故だか心痛い。
「別に、耐えなくても…」
「……っぇ、」
「嫌だったん?」
首を振るのだからますますよくわからない。なんだろう、全体的に闇。
「…っプルティー」
「ん?」
「…飲むっ、」
「うんはい。立てますかお嬢さん」
藤川瑠璃は頷いてから「ふぁあ~っ、」と、気合いを入れるように涙を拭き、「いきましょっ、」と言った。
うーん本格的に変な奴、と思いながらもどこか、元気だなぁ子供って、と思っている俺がいた。
足元もわりと大丈夫で満喫を出る際、泣いている女子高生を連れた俺、なのか、最早うるさいのがバレた俺、なのか、店員がめちゃくちゃ不審そうに退店の挨拶をする。
うーん、なんも言われてないから多分出禁ではないけどもう使わないな。
後ろからノロノロとついてくる藤川瑠璃は、なくなってしまったボタンあたりをずっと弄っている。
「…もー少し上手くやれたらよかったんだけど…」
「すみません、」
「いや、俺が。…ちょっとごめん」
「へ?」
「いやぁ一応大人の男としては怖かったかなぁ、とか、手を出す前に、とか自然と考えちまうもんで」
「…いえ、元を言えば私のせいで」
「うんまぁそう、お前らのせいではあるけどさ。うーん、慌てて奥さんがヒステリックだったの若干トンでたわ俺…」
「あぁ、でもあの人…」
「ん?」
藤川瑠璃は、少しスッキリした顔で俺を見上げ、「多分大丈夫ですよ」と言った。
ふと、ポケットに突っ込んだ5万円を出し、「投げつけられた、よりも、そう言ってくれたと勝手に思えてます」と言い、やはり、5万円は俺に渡してきた。
「…なんというか、わかりませんけど、あぁいうのってちょっと…スッキリする」
「…あっそ」
「これは千秋さんにあげます」
そう言われても困るけど、まぁまぁ俺もボーナス出ないし、と、「あぁ、そう」と受け取っておくことにした。
本日最上級の笑顔を見せた藤川瑠璃は、「一日のモヤモヤ消えました、ありがとうございました」と言う。
まぁ、なんかあった、そんな日だったのかもしれない。
「んまぁよくわからんけど」
何を言ってるか良くわからないけど、取り敢えず店についたので「ホットアップルティー二つ」と注文をし、二人で喫煙席に行く。
確かに、藤川瑠璃の表情は、会った時よりも遥かに明るくなったような気がする。
「……後に報酬は俺から渡そうと思うんだけど」
「え?」
「うん。けどまぁこんなこともあるから君は今後ね、てのは大人から一言」
「…わかりました」
「宜しい」
「千秋さん」
「ん?」
「…また会えますか?」
…ん?
「ん?なんで?」
「なんだか、です」
「…まぁ、別に。けどその金はそうじゃなくて」
「はい。私を抱いてくれますか?」
……。
「はっ?」
「はい。なんだか、です」
「……んーと、……俺はなんだか君とわかり合えない気がするが」
うーん。
「…なに、なんかあったの?」
「まぁ、はい」
…ふうん、あっそうなんね。
「…うーん、まぁそうだとは思うけど別にいいよ」
「へ?」
「あ、意外とわきまえはあるんだな。
まぁ俺、人間の女なら大抵勃つって同僚に言われるくらいに道徳もないからね。けど抱く女は1度でもアホみたいに甘やかすと決めている」
「えっ、」
「ははっ、まぁ至極どうでもいいよな。お前みたいな擦れたガキには早い話だけど。
だったらその格好じゃ捕まるしホテルいけないから着替えだな、家まで送るわ」
「………」
この裏には何があるかわからんが、大抵の場合は碌でもない。
──古い道徳を破壊することは、新しい道徳を建立するときにだけ、許されるのです。──
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