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道徳に対する抗体と焦燥
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藤川瑠璃は本当にすぐに現れた。
「あっ、」
彼女に声を掛けようとしたが違和感を感じ、思わず様子を観察してしまう自分のこれは職業病だ。どうやら顔色が悪い。顔面蒼白と言うのだろうか。
「あぁ…えっと、千秋さん」
俺に気付いた瞬間、彼女は顔面蒼白のままニコッと笑った。複雑だ、なるほどそういうたまにいるタイプの生意気な子供なのかと理解した。
「悪いな学校中に。紅茶だっけ。
…顔色悪くないか、君」
「あぁ、……テスト期間で。ありがとうございます」
お金は…とぼんやり言う藤川瑠璃に「いやまぁ呼び出した電車代だから」とテキトーに言って席を立つ。
「千秋さん」
「いや、ホントに気にしな」
「レモン、リンゴがあれば、」
「…畏まりましたぁ」
どうにもしっかりしていないなこの子。この前のなんというか、アンドロイド感にプラスで、今はぶっ壊れた喋るロボットのようだ。
メニューにアップルティーはあった。また聞き忘れたけどホットでいいだろう、香り系の紅茶だろうしと、ホットアップルティーを頼み、また席へ戻る。
…よく見ればこの子なんだろう、目も少し充血しているような。
「…ありがとうございます」
しかし、アップルティーの臭いを嗅いで、表情は少し血通ったものになる。好物なのか、アップルティー。
「…それで、ご用はなんでしょうか」
「あぁ、えっとまぁ。
あっ、」
ケータイを見て気付いた。昼少し過ぎだった。
「なんですか?」と聞いてくるのに「飯食った?」が優先される。
「てか、顔色悪いけど」
「え?…そうなんですか?」
「…まいいや。飯食える?俺食ってねぇのよね」
「お構い無くどうぞ」
「何食えるの?」
「大丈夫です、いらないです」
またの顔面蒼白笑顔に気が気じゃないが、こういうのはこっちが食ってれば食いたくなるもんかな?パンケーキとか?と思いつつ二度手間でまた、クリームパスタを注文しにいった。
番号札を渡されて戻る。
「…急に呼び出してすまないってさっき言ったな。まさかすぐに応じてくれるとは思わなくて。もしかして保健室から早退してきたとか、あり得る?」
ビクッとしたあとに藤川瑠璃は「…なんでわかるんですか?」と聞いてくる。
「いやぁ…、それはなんかごめん、帰るか、送るか、」
「あ、いやいえ、そういうんじゃ…なくて」
「そういやぁ一昨日も昼間だったよな」
「…はい」
「学校行ってない系?」
藤川瑠璃が不思議な顔をしたのをよそに、アサリのクリームパスタはやって来た。
あぁ、間違えたな、あんまりアサリ好きじゃねぇ、まぁいいけど。ついつい写真のほうれん草に気を取られた。
一人勝手に食い始めれば、奇妙な表情の藤川瑠璃は、「なんだか変な日本語」と言ってくる。
「俺もそう思うけどなんかどう言おうかなって」
「はぁ、」
それから藤川瑠璃はふと笑い、「気にしなくていいのに」と言った。
あ、結構可愛いけど顔面蒼白。
「…まぁ、君が学校行ってない系でもいいっちゃいいんだけど、呼び出したからには少し罪悪感とかな」
「それこそ気にしないでください。まぁ行ってない系に等しい…ですね」
藤川瑠璃の表情に少し翳りが出来たが「まぁ、いいんですけど」と、彼女は話を進めてくる。
「ん、」
「…ご用事を。食べているなかすみませんけど…」
「ん、それも気にするな。いや、写真の件で」
「はい」
俺はアサリを無意識に避けていたらしい。藤川瑠璃の視線の先で気付いた、皿の端に集められたアサリ。
「…貝類、嫌いなんですか?」
「あー、うん好きじゃないな。失敗したと思ってたところで、いや、食えなくないけど…」
じーっと不思議そうに俺を見ている藤川瑠璃に「腹減ってきた?」と聞けば、「いえ、」と言いつつ、やっぱりすぐに顔面蒼白のまま笑った。
「あぁ、まぁ食欲ないんですけど…食べられるかわからないし。でも見ていたらなんだか…サラダくらいなら食べようかなぁって。美味しそうに食べますね千秋さん」
「…そうか?
まぁなんか買ってこい。サラダなんて多分美容にいいんだろ?」
財布を出そうとすれば「いえ、大丈夫です、ありますから」とは言ってくるが。
「いや、悪いけど俺の気持ちの問題。君は持ち逃げしないらしいから」
財布を預ければふぅ、と一息を吐いて「ありがとうございます」と、彼女はカウンターに向かっていった。
番号札ではなく、ごまドレサラダと、ついでに取り皿を持ってきた彼女は、うん確かにサラダ、デカいな。喫茶店だからなと思えば「食べられますか?」なんて聞いてくるのがおかしい。
「まぁ食える」
「思ったより多かったので」
「そんだけでマジで大丈夫なの?」
「はい、頑張ってみます」
それを頑張るレベル?
と、今度はこっちが、サラダを取り分けようとして悩み始めた藤川瑠璃を眺めてしまっていたらしい。
「嫌いな野菜はありますか?」と聞いてくるのに取り敢えず取り皿を貰い、自分でテキトーによそった。
「…腹でも痛いの?」
「あっ、いやまぁ…まぁはい、そんな感じで…」
「俺も特に急ぎではないから…」
「いえいえ、大丈夫なんです、本当に」
「うん…まぁそれなら…。
えっと、写真の件で。奥さんと話してきたんだけど」
「はい、」
「うーん、若干君に協力を要請する事態に発展してしまって」
「はい、なんでしょう」
「…いやぁその…。内緒な相談、何があっても知らなかったと言って欲しい事態というか…」
気付けば、アサリしか残っていない。
「あっ、」
彼女に声を掛けようとしたが違和感を感じ、思わず様子を観察してしまう自分のこれは職業病だ。どうやら顔色が悪い。顔面蒼白と言うのだろうか。
「あぁ…えっと、千秋さん」
俺に気付いた瞬間、彼女は顔面蒼白のままニコッと笑った。複雑だ、なるほどそういうたまにいるタイプの生意気な子供なのかと理解した。
「悪いな学校中に。紅茶だっけ。
…顔色悪くないか、君」
「あぁ、……テスト期間で。ありがとうございます」
お金は…とぼんやり言う藤川瑠璃に「いやまぁ呼び出した電車代だから」とテキトーに言って席を立つ。
「千秋さん」
「いや、ホントに気にしな」
「レモン、リンゴがあれば、」
「…畏まりましたぁ」
どうにもしっかりしていないなこの子。この前のなんというか、アンドロイド感にプラスで、今はぶっ壊れた喋るロボットのようだ。
メニューにアップルティーはあった。また聞き忘れたけどホットでいいだろう、香り系の紅茶だろうしと、ホットアップルティーを頼み、また席へ戻る。
…よく見ればこの子なんだろう、目も少し充血しているような。
「…ありがとうございます」
しかし、アップルティーの臭いを嗅いで、表情は少し血通ったものになる。好物なのか、アップルティー。
「…それで、ご用はなんでしょうか」
「あぁ、えっとまぁ。
あっ、」
ケータイを見て気付いた。昼少し過ぎだった。
「なんですか?」と聞いてくるのに「飯食った?」が優先される。
「てか、顔色悪いけど」
「え?…そうなんですか?」
「…まいいや。飯食える?俺食ってねぇのよね」
「お構い無くどうぞ」
「何食えるの?」
「大丈夫です、いらないです」
またの顔面蒼白笑顔に気が気じゃないが、こういうのはこっちが食ってれば食いたくなるもんかな?パンケーキとか?と思いつつ二度手間でまた、クリームパスタを注文しにいった。
番号札を渡されて戻る。
「…急に呼び出してすまないってさっき言ったな。まさかすぐに応じてくれるとは思わなくて。もしかして保健室から早退してきたとか、あり得る?」
ビクッとしたあとに藤川瑠璃は「…なんでわかるんですか?」と聞いてくる。
「いやぁ…、それはなんかごめん、帰るか、送るか、」
「あ、いやいえ、そういうんじゃ…なくて」
「そういやぁ一昨日も昼間だったよな」
「…はい」
「学校行ってない系?」
藤川瑠璃が不思議な顔をしたのをよそに、アサリのクリームパスタはやって来た。
あぁ、間違えたな、あんまりアサリ好きじゃねぇ、まぁいいけど。ついつい写真のほうれん草に気を取られた。
一人勝手に食い始めれば、奇妙な表情の藤川瑠璃は、「なんだか変な日本語」と言ってくる。
「俺もそう思うけどなんかどう言おうかなって」
「はぁ、」
それから藤川瑠璃はふと笑い、「気にしなくていいのに」と言った。
あ、結構可愛いけど顔面蒼白。
「…まぁ、君が学校行ってない系でもいいっちゃいいんだけど、呼び出したからには少し罪悪感とかな」
「それこそ気にしないでください。まぁ行ってない系に等しい…ですね」
藤川瑠璃の表情に少し翳りが出来たが「まぁ、いいんですけど」と、彼女は話を進めてくる。
「ん、」
「…ご用事を。食べているなかすみませんけど…」
「ん、それも気にするな。いや、写真の件で」
「はい」
俺はアサリを無意識に避けていたらしい。藤川瑠璃の視線の先で気付いた、皿の端に集められたアサリ。
「…貝類、嫌いなんですか?」
「あー、うん好きじゃないな。失敗したと思ってたところで、いや、食えなくないけど…」
じーっと不思議そうに俺を見ている藤川瑠璃に「腹減ってきた?」と聞けば、「いえ、」と言いつつ、やっぱりすぐに顔面蒼白のまま笑った。
「あぁ、まぁ食欲ないんですけど…食べられるかわからないし。でも見ていたらなんだか…サラダくらいなら食べようかなぁって。美味しそうに食べますね千秋さん」
「…そうか?
まぁなんか買ってこい。サラダなんて多分美容にいいんだろ?」
財布を出そうとすれば「いえ、大丈夫です、ありますから」とは言ってくるが。
「いや、悪いけど俺の気持ちの問題。君は持ち逃げしないらしいから」
財布を預ければふぅ、と一息を吐いて「ありがとうございます」と、彼女はカウンターに向かっていった。
番号札ではなく、ごまドレサラダと、ついでに取り皿を持ってきた彼女は、うん確かにサラダ、デカいな。喫茶店だからなと思えば「食べられますか?」なんて聞いてくるのがおかしい。
「まぁ食える」
「思ったより多かったので」
「そんだけでマジで大丈夫なの?」
「はい、頑張ってみます」
それを頑張るレベル?
と、今度はこっちが、サラダを取り分けようとして悩み始めた藤川瑠璃を眺めてしまっていたらしい。
「嫌いな野菜はありますか?」と聞いてくるのに取り敢えず取り皿を貰い、自分でテキトーによそった。
「…腹でも痛いの?」
「あっ、いやまぁ…まぁはい、そんな感じで…」
「俺も特に急ぎではないから…」
「いえいえ、大丈夫なんです、本当に」
「うん…まぁそれなら…。
えっと、写真の件で。奥さんと話してきたんだけど」
「はい、」
「うーん、若干君に協力を要請する事態に発展してしまって」
「はい、なんでしょう」
「…いやぁその…。内緒な相談、何があっても知らなかったと言って欲しい事態というか…」
気付けば、アサリしか残っていない。
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