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道徳に対する抗体と焦燥
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恵子は考え、「なるほどね」と、やはり予想していた通りの反応へ行ってしまった。
まぁ、まぁ。
「…その女の子が黙ってようとまぁ私には、離婚してしまえば関係ないけどいま私は離婚出来るか、わからないわけよね」
「そうですね…。あとは、旦那さんがすべて払うとしても、未成年者の慰謝料が優先されてしまう。ならば、出来れば奥さんがこの子に…なんというか慰謝料よりは低額で話をつけ拓郎さんとこの子のことはなかったことにしちゃって、貴方がこの子に払った額も拓郎さんから貰う、とか、やり様はあるかなとか」
「なるほど…。
その子、都合よく使ってって言ったのよね」
「…まぁ、はい。ただ、その子がまた援交して、例えば貴方に慰謝料を払うなんてことがあったという場合、犯罪助長とも」
「貴方が話したということは、連絡先は知ってるの?」
「え?まぁ…。
あ、あとはまぁメールのやり取りとかはコピーを取らせてくれるとか、そう言った話もしたので」
「あぁそう。協力体制と解釈していいのよねそれ」
…そっちも来たかーっ。
「はい、まぁそうです。
えっと消した音声データですが、拓郎さんはまぁまぁこの子を気に入ったみたいで」
「先に言いなさいよ回りくどい」
…いや、口下手なだけです。
「いや…出来れば回避したい手段ではあったのはおわかり頂けたかなと」
「じゃぁお金を出しましょう。貴方商売上手ね全く。こうやって取って来たんでしょいままで」
「そんなことはないですよ」
そうでーす。
そうやって来ましたぁ。
「思い付いたのも彼女があまりにも受け身だったからなんで」
「…ふぅん。まぁいいけど。じゃぁその子に連絡しといてね」
「はい。
しかしひとつだけ」
「何」
「…彼女、どうにも金に懐かないから上手くいくかはわかりませんとだけ」
「最悪一緒に写ればいいんでしょ?貴方次第よね」
「…ごもっともでーす。
ちなみにいざ、な時は俺があんたと一緒にいると、偽装工作になりますからね。裁判で不利になります」
「考えてあるんでしょ?」
「まぁはい。
取り敢えずこの子に話をつけるのはOKってことですね?すぐにでも連絡してみます…今日の放課後とか、来てくれるかなぁ…」
恵子はにやっと笑い、「酷い男」と言った。
いや、あんたも大概碌でもないからねと思えば当人直々に「まぁ私もだけど」と言うのだから、女という生き物は末恐ろしいと思えた。
しかし、男は女にとっては金以下なんですよねぇ、と皮肉も浮かんだところで、
「また連絡します」
と、俺は切り上げた。
…さてこの話は俺と恵子と藤川瑠璃のみで打ち止めることにしよう。俺も金は欲しい。碌でもないなら惜しくもない。
となると社長への報告書をどうするべきか…。まぁ、「続行」として更に恵子から10万くらいを貰えばここはなんとかなりそうかもしれないな。
…やれ、歯止めが利かないとはこの事だ。
「愚者と賢者はともに害がない。半端な愚者と半端な賢者が、いちばん危険なのである。」
いまのこれほどぴったりな言葉はないな。人は喧嘩をするとき、双方悪いと感じている。その通りだゲーテちゃん。
それになんとか平和な橋をというのも烏滸がましいが、それくらいには俺でも思ってみたりする。仲介はなかなか骨が折れるものだ。
この仕事は物により誰にも平和を呼ばないことが多々ある。勿論、これで却って恵子が拓郎と話し合い、形では和解することもあるだろう。
これは他者を入れなければ纏まらない話、確かにそうではある。
藤川瑠璃の番号を開いてふと、彼女の読みにくい、僅かな感情を思い出す。彼女は始終俯いていた、それは、恵子が初めてあの事務所を訪れた時と変わらない。
果たして彼女はどんなサインを我々大人、いや、他人に求めているのだろうか。
わかりやすいサインの筈だ。
彼女は5,000円を受け取った瞬間、明らかに肩の力を抜いたように見受けられた。始めはきっと、あれすら受け取る気もなかったくせに。
しかし典型的な身売りとの違いは、彼女は対価を知らず、むしろどうでもいいといった態度なのが、引っ掛かる。
まぁいいやと、俺は取り敢えず彼女のケータイにワンギリを入れ、すぐにショートメールを送っておいた。今日、学校帰り時間はあるか?と。まるでこれこそ援交というか、セフレのようだ。
…彼女が警戒した「怖い人に何かをされるかもしれない」の逆説をしようというのだし、さてどうやって説いてみようか。ダメなら踏み入れない。しかしそれなら変わりもいなくはないけれど、じゃあ俺は何故彼女で試すリスクを犯しているのか。
乗るかな、乗らないかな。
乗ったら却ってどうしようかな。それが少し怖くもあるが。
藤川瑠璃はすぐに「放課後よりは前の方がいいです」と返してきた。
…言うて、今はまだ学校じゃないのか。そう思ってショートメールにしたのに。
というか、そうだな、着信拒否すらしていないのか……。
俺はなんとなく、すぐに「今新宿にいる」とだけ送った。やはりすぐに「わかりました」というのがますます援交じみていると思えてきたのに。
駅についたら…いや、
迎えに行く。
この返信には、「駅についたら連絡します」と来た。なかなか、不透明すぎるなと、この前の喫茶店で、と送っておいた。
まぁ、まぁ。
「…その女の子が黙ってようとまぁ私には、離婚してしまえば関係ないけどいま私は離婚出来るか、わからないわけよね」
「そうですね…。あとは、旦那さんがすべて払うとしても、未成年者の慰謝料が優先されてしまう。ならば、出来れば奥さんがこの子に…なんというか慰謝料よりは低額で話をつけ拓郎さんとこの子のことはなかったことにしちゃって、貴方がこの子に払った額も拓郎さんから貰う、とか、やり様はあるかなとか」
「なるほど…。
その子、都合よく使ってって言ったのよね」
「…まぁ、はい。ただ、その子がまた援交して、例えば貴方に慰謝料を払うなんてことがあったという場合、犯罪助長とも」
「貴方が話したということは、連絡先は知ってるの?」
「え?まぁ…。
あ、あとはまぁメールのやり取りとかはコピーを取らせてくれるとか、そう言った話もしたので」
「あぁそう。協力体制と解釈していいのよねそれ」
…そっちも来たかーっ。
「はい、まぁそうです。
えっと消した音声データですが、拓郎さんはまぁまぁこの子を気に入ったみたいで」
「先に言いなさいよ回りくどい」
…いや、口下手なだけです。
「いや…出来れば回避したい手段ではあったのはおわかり頂けたかなと」
「じゃぁお金を出しましょう。貴方商売上手ね全く。こうやって取って来たんでしょいままで」
「そんなことはないですよ」
そうでーす。
そうやって来ましたぁ。
「思い付いたのも彼女があまりにも受け身だったからなんで」
「…ふぅん。まぁいいけど。じゃぁその子に連絡しといてね」
「はい。
しかしひとつだけ」
「何」
「…彼女、どうにも金に懐かないから上手くいくかはわかりませんとだけ」
「最悪一緒に写ればいいんでしょ?貴方次第よね」
「…ごもっともでーす。
ちなみにいざ、な時は俺があんたと一緒にいると、偽装工作になりますからね。裁判で不利になります」
「考えてあるんでしょ?」
「まぁはい。
取り敢えずこの子に話をつけるのはOKってことですね?すぐにでも連絡してみます…今日の放課後とか、来てくれるかなぁ…」
恵子はにやっと笑い、「酷い男」と言った。
いや、あんたも大概碌でもないからねと思えば当人直々に「まぁ私もだけど」と言うのだから、女という生き物は末恐ろしいと思えた。
しかし、男は女にとっては金以下なんですよねぇ、と皮肉も浮かんだところで、
「また連絡します」
と、俺は切り上げた。
…さてこの話は俺と恵子と藤川瑠璃のみで打ち止めることにしよう。俺も金は欲しい。碌でもないなら惜しくもない。
となると社長への報告書をどうするべきか…。まぁ、「続行」として更に恵子から10万くらいを貰えばここはなんとかなりそうかもしれないな。
…やれ、歯止めが利かないとはこの事だ。
「愚者と賢者はともに害がない。半端な愚者と半端な賢者が、いちばん危険なのである。」
いまのこれほどぴったりな言葉はないな。人は喧嘩をするとき、双方悪いと感じている。その通りだゲーテちゃん。
それになんとか平和な橋をというのも烏滸がましいが、それくらいには俺でも思ってみたりする。仲介はなかなか骨が折れるものだ。
この仕事は物により誰にも平和を呼ばないことが多々ある。勿論、これで却って恵子が拓郎と話し合い、形では和解することもあるだろう。
これは他者を入れなければ纏まらない話、確かにそうではある。
藤川瑠璃の番号を開いてふと、彼女の読みにくい、僅かな感情を思い出す。彼女は始終俯いていた、それは、恵子が初めてあの事務所を訪れた時と変わらない。
果たして彼女はどんなサインを我々大人、いや、他人に求めているのだろうか。
わかりやすいサインの筈だ。
彼女は5,000円を受け取った瞬間、明らかに肩の力を抜いたように見受けられた。始めはきっと、あれすら受け取る気もなかったくせに。
しかし典型的な身売りとの違いは、彼女は対価を知らず、むしろどうでもいいといった態度なのが、引っ掛かる。
まぁいいやと、俺は取り敢えず彼女のケータイにワンギリを入れ、すぐにショートメールを送っておいた。今日、学校帰り時間はあるか?と。まるでこれこそ援交というか、セフレのようだ。
…彼女が警戒した「怖い人に何かをされるかもしれない」の逆説をしようというのだし、さてどうやって説いてみようか。ダメなら踏み入れない。しかしそれなら変わりもいなくはないけれど、じゃあ俺は何故彼女で試すリスクを犯しているのか。
乗るかな、乗らないかな。
乗ったら却ってどうしようかな。それが少し怖くもあるが。
藤川瑠璃はすぐに「放課後よりは前の方がいいです」と返してきた。
…言うて、今はまだ学校じゃないのか。そう思ってショートメールにしたのに。
というか、そうだな、着信拒否すらしていないのか……。
俺はなんとなく、すぐに「今新宿にいる」とだけ送った。やはりすぐに「わかりました」というのがますます援交じみていると思えてきたのに。
駅についたら…いや、
迎えに行く。
この返信には、「駅についたら連絡します」と来た。なかなか、不透明すぎるなと、この前の喫茶店で、と送っておいた。
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