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其処に快楽という空虚が存在するのなら
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飯島は途端に私の腕を少し引き、「てめぇ、」と、ホームの男子便所の方を見た。
争い事は色々と面倒だと感じた排他的な駅。
知っている。
この駅が例え有人であっても、他人を助ける人など誰もいない。
そうすれば力を抜くのは早い。
「最初からそうしろよ」と笑う飯島の甚だ強引な勘違いに、確かにねと自分を嘲笑うような思いを自然と抱く。
黙って洋式の個室まで彼に従い、便器の蓋の上に座った飯島は得意そうに「来いよ、」だなんて言ってきた。
「声出すんじゃねぇぞ、まぁいいけど、」
飯島はポケットからケータイを出して私に向けてピコっと音を出す。
録画だとわかる。
片手でケータイを持ちもう片手で私のスカートを捲り、下着の上から性器に触れてくる。
「ははっ、このヤリマン、」と私を罵り、彼はかりかりと爪を立ててきた。
「前から濡れてんじゃん、お前」
私の顔を撮したのに、ならばとニコッと笑って「恥ずかしい」だなんて言ってあげている私の精神は、確かに便所に相応しいかもしれない。
満足そうにまたカメラを戻し、すぐに下着の中に指を入れ、ぐちゃぐちゃやり始める彼をよそに、私は鞄の外ポケットを開ける。
「…何?」
透明な四角い包装を見せれば少しだけ彼はにやつき、けれど戸惑っていた。
その間に私は彼の前にしゃがみ、彼のズボンのチャックに手を掛けた。
「飯島くんは、ニーチェって知ってる?」
「…なんだよ」
私のシャツのボタンを器用に開け、下着の中に忍ばせるその手は、態度とは裏腹で意外にもおっかなびっくりだと感じた。
見えない場所から彼の、苦しい主張を露にして見上げれば、期待やら、驚きやら、私に引いたような火照った表情が見えるけど。
「彼は言うの」
私は彼の取り出した自己主張をゆるゆると揉みしだく。
「『不潔な者どもの口をゆがめた笑いと、その渇きを見るのは、わたしには耐えがたい。』」
あっさりと従順そうに私を待つ彼に、ほくそ笑むような気持ちになった。
コンドームの包装を破り捨てそれを口に入れた私は、彼の性器をゆったりと、舌で愛撫するように装着する。
人工的な味。
彼は最早その様を撮っているか、わからないけれど覚束無く息を喉元で詰まらせてしまった。
従順になり下がったヤンキーくんの肩を借り立ち上がっただけで彼は自然現象のように私の下着を下げる。
跨いで、それで強引に裂かれた肉体に私は声を漏らすよりも、息が詰まるほどに苦痛、いや、その先の快楽を求めるような気持ちになっていた。
恐らくもう、落ちたカメラは行き先を朧気にしている。それほど夢中で彼は私を苦しめ、いたぶり、まるで暴力衝動で何度も、何度も刺し殺してくる。
自己顕示を買い被ったその痛みは、彼にとっては“快楽”のようだ。殺されている私よりも、何故彼の方が苦しそうなのか。
五分もしなかっただろう、私の中にじわっと捨てられた体温で、彼は死んだと刺し抜いた。
私は、放心してボケている彼に構わず身を正し、「急いでるから」と去ろうと思ったが、一つ言葉を思い出した。
「なら、カフカ・フランツを知ってる?
『悪の最も効果的な誘惑手段の一つは闘争への誘いだ。
例えば、女との闘いはベットでけりがつく。』」
「…お前、」
トイレのドアの古びた合間に、「頭、おかしいわ…」と、切れ切れに聞こえた。
やめよう。
次の電車のアナウンスが流れ、私はケータイで時刻を確認する。
あと、3分。
もう少しでやってくる。ポケットから飴を引いた、メロンだった。従って口へ放り込む。
それでも味はある男なのよ、ただ、癖というのは好みかどうかは別問題なだけ。
──世の中は、
新宿への電車が来ても、飯島がトイレから出てきた姿は、確認出来なかった。
争い事は色々と面倒だと感じた排他的な駅。
知っている。
この駅が例え有人であっても、他人を助ける人など誰もいない。
そうすれば力を抜くのは早い。
「最初からそうしろよ」と笑う飯島の甚だ強引な勘違いに、確かにねと自分を嘲笑うような思いを自然と抱く。
黙って洋式の個室まで彼に従い、便器の蓋の上に座った飯島は得意そうに「来いよ、」だなんて言ってきた。
「声出すんじゃねぇぞ、まぁいいけど、」
飯島はポケットからケータイを出して私に向けてピコっと音を出す。
録画だとわかる。
片手でケータイを持ちもう片手で私のスカートを捲り、下着の上から性器に触れてくる。
「ははっ、このヤリマン、」と私を罵り、彼はかりかりと爪を立ててきた。
「前から濡れてんじゃん、お前」
私の顔を撮したのに、ならばとニコッと笑って「恥ずかしい」だなんて言ってあげている私の精神は、確かに便所に相応しいかもしれない。
満足そうにまたカメラを戻し、すぐに下着の中に指を入れ、ぐちゃぐちゃやり始める彼をよそに、私は鞄の外ポケットを開ける。
「…何?」
透明な四角い包装を見せれば少しだけ彼はにやつき、けれど戸惑っていた。
その間に私は彼の前にしゃがみ、彼のズボンのチャックに手を掛けた。
「飯島くんは、ニーチェって知ってる?」
「…なんだよ」
私のシャツのボタンを器用に開け、下着の中に忍ばせるその手は、態度とは裏腹で意外にもおっかなびっくりだと感じた。
見えない場所から彼の、苦しい主張を露にして見上げれば、期待やら、驚きやら、私に引いたような火照った表情が見えるけど。
「彼は言うの」
私は彼の取り出した自己主張をゆるゆると揉みしだく。
「『不潔な者どもの口をゆがめた笑いと、その渇きを見るのは、わたしには耐えがたい。』」
あっさりと従順そうに私を待つ彼に、ほくそ笑むような気持ちになった。
コンドームの包装を破り捨てそれを口に入れた私は、彼の性器をゆったりと、舌で愛撫するように装着する。
人工的な味。
彼は最早その様を撮っているか、わからないけれど覚束無く息を喉元で詰まらせてしまった。
従順になり下がったヤンキーくんの肩を借り立ち上がっただけで彼は自然現象のように私の下着を下げる。
跨いで、それで強引に裂かれた肉体に私は声を漏らすよりも、息が詰まるほどに苦痛、いや、その先の快楽を求めるような気持ちになっていた。
恐らくもう、落ちたカメラは行き先を朧気にしている。それほど夢中で彼は私を苦しめ、いたぶり、まるで暴力衝動で何度も、何度も刺し殺してくる。
自己顕示を買い被ったその痛みは、彼にとっては“快楽”のようだ。殺されている私よりも、何故彼の方が苦しそうなのか。
五分もしなかっただろう、私の中にじわっと捨てられた体温で、彼は死んだと刺し抜いた。
私は、放心してボケている彼に構わず身を正し、「急いでるから」と去ろうと思ったが、一つ言葉を思い出した。
「なら、カフカ・フランツを知ってる?
『悪の最も効果的な誘惑手段の一つは闘争への誘いだ。
例えば、女との闘いはベットでけりがつく。』」
「…お前、」
トイレのドアの古びた合間に、「頭、おかしいわ…」と、切れ切れに聞こえた。
やめよう。
次の電車のアナウンスが流れ、私はケータイで時刻を確認する。
あと、3分。
もう少しでやってくる。ポケットから飴を引いた、メロンだった。従って口へ放り込む。
それでも味はある男なのよ、ただ、癖というのは好みかどうかは別問題なだけ。
──世の中は、
新宿への電車が来ても、飯島がトイレから出てきた姿は、確認出来なかった。
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