3 / 70
其処に快楽という空虚が存在するのなら
3
しおりを挟む
くたっとした瞬間に先生は私の中から指を引き抜いて「大丈夫なの?」と、舐めつくした飴のような、代わり映えもしない声色で私の背中をふんわりと抱いた。
まだ当たり前に湿っているし、「足も震えてるじゃない」と先生は心配をするのだけど、私は下がった下着もたゆんだ靴下も、さも当たり前に引き上げ先生を見下ろすように立ってみせた。
シャツのボタンを留める。
「私、グループチャットでビッチだって言われているらしくて」
声が震えることすらない、この薄情な態度は確かに、自分でもどうかしていると思っている。
「へぇ。そんなの気にするタイプだったかしら」
「私が気にしなくても皆話してくれるみたいです」
「あらそう」
素っ気ない先生の態度に私はまた、ソファーに起きっぱなしにした鞄を取りに行き、鍵を開け戸の「不在」を「実在」に変えた。
この先生お手製の、頭も日本語もおかしいセンス、結構気に入っている。
これほどなんでもなく、同じで意味がないこと。
「…不健全なほど遊んでいれば仕方の無いことだよね。まぁ、買い被りすぎでもない、と言う点は感心するけれど」
「自己評価よりも他人は私を買い被っていたみたいで。そのわりに遊んだ存在がはっきり割れちゃった」
「ドンピシャだったってこと?」
「大丈夫、先生以外」
「それはわかる。瑠璃ちゃんは好きな食べ物を教えてくれない質だもの」
すれ違う先生に私は笑い、「林檎です」と伝えても「ふうん」としか言わないこの排他的な関係にも、私は満足している。
「ありがとうございました、先生」
窓の戸を開けちらっと振り向けば、先生の、パソコンに向かった背中、ハーフアップのお団子が見えた。
家に帰るにはまだ早いし、ビリビリしたような、呆けたような体に満足はしていない。
いつも、先生とそういうことをするときは、男は後だと決めている。それは先生が届かない秘部で、私よりもっと狭い世界で生きているということへの、モラルのつもりだ。
そこから巣立つ生徒という体で言えばこれは健全だろう。
だけどケータイでいまこうしてサイトにログインし「合法高校生です」などというマイプロフィールを眺めているのは、果たして歪んでいるのだろうか。
メールが一件来ていた。
34歳、IT会社勤務、渋谷。はじめまして、たくろうと申します。
あ、若干変だなこの人。
…はじめまして、ルリと申します。
速攻で捨てのようなメアドが送られてきた。
第三個目のメールアカウントにログインしたとき、「なぁ、」と、後ろから声がした。
丁度、校門から出ようと言うタイミングだった。
振り向いて確認した相手は、あの飯島だった。
ダルそうな腰パン、ダルそうなネクタイ、ダルそうな口調。ダルそうにふと保健室を振り返り見た彼は、「お前、先生とヤッてただろ」と私に言ってくる。
足が、止まる。
それを見て飯島は勝ち誇ったようににやっと笑い「マジだったんだな」と言った。
「『誰とでも寝るような女の子』って、ロックだけだと思ってたわ」
「…何?」
「知ってる?ブランキージェットシティ」
「…知らないけど」
「まぁ良いけど満足した?考えれば物足りないと思うけど」
ニヤニヤする飯島は「俺もいまから帰るんだよねぇ、」と、犬のような息遣いでそう言った。
無視しよ。
「たくろうさんのメアドで合ってますか」と送っているのに「何?怒ってんの?」と飯島は私に着いてくる。
無視を続けてたくろうさんとやり取りをするのだけど、「お前が言ってた通りあの女、股も口もゆるゆるだったんだよ」と、よくわからない弁明までしてきていた。
「でも元からハブだったんだろ?お前」
新宿の満喫。13号室。防音、完全個室。たくろうさんという男は慣れているようだ。割り切りをよくわかっている。
「何?それとも一回ヤった奴とはヤらないとか?」
電車は乗り換えもせずに30分もあれば着くだろうか。
「いいじゃんバレたなら。お前も凄く良さそうだったじゃんって、なぁ、ヤラしてくんない?聞いたけどあれから谷田部とも栗原ともヤったらしいじゃん。あいつらよりぜってぇ俺の方がいいだろって、」
駅に着いた。
どこまでも着いてきそうだな。
わかってるくせに面倒でどうしょうもない男。
「うん、気持ち良かったよ飯島くん。凄くよかったけど」
「だよな、俺も1回で3回もとか」
「だからもうやめとくの。ごめんね。近くにいると気も狂いそうだし」
「なんだって?」
飯島の声は急に、いままでと違う色になった。
…あぁ、そうだ。
「…飯島くんは本、読む?」
もしかすると私がそう言ったのも、悪いのかもしれないと、次の瞬間に後悔する。
まだ当たり前に湿っているし、「足も震えてるじゃない」と先生は心配をするのだけど、私は下がった下着もたゆんだ靴下も、さも当たり前に引き上げ先生を見下ろすように立ってみせた。
シャツのボタンを留める。
「私、グループチャットでビッチだって言われているらしくて」
声が震えることすらない、この薄情な態度は確かに、自分でもどうかしていると思っている。
「へぇ。そんなの気にするタイプだったかしら」
「私が気にしなくても皆話してくれるみたいです」
「あらそう」
素っ気ない先生の態度に私はまた、ソファーに起きっぱなしにした鞄を取りに行き、鍵を開け戸の「不在」を「実在」に変えた。
この先生お手製の、頭も日本語もおかしいセンス、結構気に入っている。
これほどなんでもなく、同じで意味がないこと。
「…不健全なほど遊んでいれば仕方の無いことだよね。まぁ、買い被りすぎでもない、と言う点は感心するけれど」
「自己評価よりも他人は私を買い被っていたみたいで。そのわりに遊んだ存在がはっきり割れちゃった」
「ドンピシャだったってこと?」
「大丈夫、先生以外」
「それはわかる。瑠璃ちゃんは好きな食べ物を教えてくれない質だもの」
すれ違う先生に私は笑い、「林檎です」と伝えても「ふうん」としか言わないこの排他的な関係にも、私は満足している。
「ありがとうございました、先生」
窓の戸を開けちらっと振り向けば、先生の、パソコンに向かった背中、ハーフアップのお団子が見えた。
家に帰るにはまだ早いし、ビリビリしたような、呆けたような体に満足はしていない。
いつも、先生とそういうことをするときは、男は後だと決めている。それは先生が届かない秘部で、私よりもっと狭い世界で生きているということへの、モラルのつもりだ。
そこから巣立つ生徒という体で言えばこれは健全だろう。
だけどケータイでいまこうしてサイトにログインし「合法高校生です」などというマイプロフィールを眺めているのは、果たして歪んでいるのだろうか。
メールが一件来ていた。
34歳、IT会社勤務、渋谷。はじめまして、たくろうと申します。
あ、若干変だなこの人。
…はじめまして、ルリと申します。
速攻で捨てのようなメアドが送られてきた。
第三個目のメールアカウントにログインしたとき、「なぁ、」と、後ろから声がした。
丁度、校門から出ようと言うタイミングだった。
振り向いて確認した相手は、あの飯島だった。
ダルそうな腰パン、ダルそうなネクタイ、ダルそうな口調。ダルそうにふと保健室を振り返り見た彼は、「お前、先生とヤッてただろ」と私に言ってくる。
足が、止まる。
それを見て飯島は勝ち誇ったようににやっと笑い「マジだったんだな」と言った。
「『誰とでも寝るような女の子』って、ロックだけだと思ってたわ」
「…何?」
「知ってる?ブランキージェットシティ」
「…知らないけど」
「まぁ良いけど満足した?考えれば物足りないと思うけど」
ニヤニヤする飯島は「俺もいまから帰るんだよねぇ、」と、犬のような息遣いでそう言った。
無視しよ。
「たくろうさんのメアドで合ってますか」と送っているのに「何?怒ってんの?」と飯島は私に着いてくる。
無視を続けてたくろうさんとやり取りをするのだけど、「お前が言ってた通りあの女、股も口もゆるゆるだったんだよ」と、よくわからない弁明までしてきていた。
「でも元からハブだったんだろ?お前」
新宿の満喫。13号室。防音、完全個室。たくろうさんという男は慣れているようだ。割り切りをよくわかっている。
「何?それとも一回ヤった奴とはヤらないとか?」
電車は乗り換えもせずに30分もあれば着くだろうか。
「いいじゃんバレたなら。お前も凄く良さそうだったじゃんって、なぁ、ヤラしてくんない?聞いたけどあれから谷田部とも栗原ともヤったらしいじゃん。あいつらよりぜってぇ俺の方がいいだろって、」
駅に着いた。
どこまでも着いてきそうだな。
わかってるくせに面倒でどうしょうもない男。
「うん、気持ち良かったよ飯島くん。凄くよかったけど」
「だよな、俺も1回で3回もとか」
「だからもうやめとくの。ごめんね。近くにいると気も狂いそうだし」
「なんだって?」
飯島の声は急に、いままでと違う色になった。
…あぁ、そうだ。
「…飯島くんは本、読む?」
もしかすると私がそう言ったのも、悪いのかもしれないと、次の瞬間に後悔する。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる