月を射して

二色燕𠀋

文字の大きさ
上 下
8 / 10

8

しおりを挟む
「そーなんだ……君はいくつ?」
「あぁ、一個上です、ちゃんと」
「あ、そーなんだね…、も少し上に見えた」
「え?」
「うん…」
「さっき、大学生かって聞かなかった?」

 あ。

「あ、そーなんだけど、そーじゃなくて……服装とか。でも近くで見ると大人っぽいというか」

 あれ。
 こんなしどろもどろだったっけ、俺。

「…初めて言われた」
「…年齢不詳というか、ミステリアスというか」
「何考えてるかわからないとはよく言われる…」
「あ、うん、ソーダネ」

 …だっせぇんだけど。
 てゆうか…マジ戸惑いすぎて焦るんだけど……!

 しかし彼はその、よくわからない美人から急に破顔し「…はははは!」と笑った。

 あっ。
 ちょっと幼くなった…!

「…あまり慣れませんか?」
「え、いやまぁなんというか…」
「俺もです」
「え」
「来てみたはいいんだけど、普段よりはまぁ…落ち着いてる気がする…ような…?」

 彼は振り返り、ホントだ首に黒子ある、まわりを見回して「楽しそうですよね」と言う。

「…ですねぇ」
「貴方、居にくいんじゃないですか?普通の人だと思ってたんだけど」
「あっ」

 急に予防線来た…。あれ、やっぱり見られてたのね…。
 まぁ俺だってあんたのやつ、見ちゃってるけど。

 そう思ったらいつの間に「はははっ、」と笑えてきてしまって。沸いちゃったのかもしれない。

「何回か見掛けた気がしたんだよね、あんた」
「…そうなんですか?」
「大丈夫です…なんというか俺、どっちもなんで」
「…なるほど…?」
「多分というか、ちょっとわかってないけどね。
 それで、来てみた」

 嘘七割だけどね。自分がわからないというとこ以外は。

「……なるほど」
「もしかして、あんたも?」
「え?」
「いや、なんとなく今の反応」
「…わからなくはないけどしっくりじゃないかも…というか」

 なるほど。

「まぁ、女性でどうにかって出来ないのは間違いないんだけど…うーん、わからないなやっぱり」
「へぇ、」

 来たな。
 急に来たな、チャンス。
 こんなにコロコロ目まぐるしく変わるなんて、なんか。

「…楽しいかも」
「え?」
「俺今しっくり来たかも。ねぇ、何歳頃変な感じした?」
「…えっと、」
「ま、いいんだけどね。俺は多分かなり前で。悩みはしなかったけどさ」
「…そうなんだ」
「聞いてくれる?」

 彼はポカンと…目が綺麗に見える。何故だろう。でもやっぱり知りたい欲ばかりが先行するような。

「…晃彦」
「ん?」
「望月晃彦」
「…本名言うの?」
「うん。俺は。今の気分だけど」
「…アキヒコくん」
「ありがとう」
りつですが…」

 律か、名前。

「ありがとう」

 当たり前に礼をしたのに、律は少し伏せ目で…どうやら考え事を始めたようだ。
 それが終わるまで待つように酒を飲み、一杯がなくなる頃に「ちょっと意味がわからなかった」と、可愛らしい返答が返って来る。

「んー?」
「いや、感謝される意味が」
「名前を聞けたから」
「あ、なるほど…」
「呼んでもくれた」
「普通じゃない?」
「うん、まぁそうなんだけど。今の気分ってとこで」
「自由な人…」
「そうだね。フリーダムがいいの」

 あ、そっか。
 言ってみて強く確信した。そっか俺、自由になりたいのか。

 何かにすがる自由、求める自由、手を伸ばす自由。それらを許容もしたい、与える自由。

 俺は恋をしたんだなと寝る前の相手に思った。
 でもこれ、初だな。なのにはっきりとわかる。酔ってるからかもしれないが、違うと気付きたくて目を合わせる。

 律ははっきり見てくれていた。

「…おもしろいね、アキヒコくん」
「そう言われたの、初だわ」
「そっか」

 この空間が小さくて、人はちっぽけだけど、そんな俺ですら一人ぼっちにならないように出来ていると知れた。

 このありふれた空間から二人で出たとき、切った爪のような月が見える。雨が降って空気が綺麗になったのかもしれない。

 俺は舞い上がっている。
 が、安心していた。リラックスかもしれない。

 一過性で、一度きりで過ぎたとしても俺はそれ以上を求めるだろう。それは、幻想を追いかけているようでいつだって気持ち悪かったのに。
 それすらも忘れたくないなんて、実はかなり俺も薄味だったんだなと、打算的だった自分に気が付いた。

 誰も皆寂しく、震えないようにという傲慢さが掻き立てるのか、ホテルで律を押し倒しキスをしようとしたとき、月のような目をしてると思った。

「綺麗な目してる」
「そう?俺もあんたに同じこと思った」
 
 再びチャレンジすれば「待って」と、アイアンクローすら食らった。

 そうか、ダメなタイプなのかな、まぁ俺はあんまりキスしない方だわと、反らして見えた首の黒子に唇を充てると、それはよかったらしい。喉仏がきゅっとしたのがわかる。

「…首はいいんだね」

 耳元の髪をなぜると今度は少し声が漏れたような。可愛いな。食べちゃいたいと動物の本能に刈られるから、耳を舐めてやる。

 少し縮こまる身体に「目、閉じてみて」と、自分でも驚くくらいにノリノリだった。

「…どぅして?」
「いいから。多分凄い」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

保育士だっておしっこするもん!

こじらせた処女
BL
 男性保育士さんが漏らしている話。ただただ頭悪い小説です。 保育士の道に進み、とある保育園に勤めている尾北和樹は、新人で戸惑いながらも、やりがいを感じながら仕事をこなしていた。  しかし、男性保育士というものはまだまだ珍しく浸透していない。それでも和樹が通う園にはもう一人、男性保育士がいた。名前は多田木遼、2つ年上。  園児と一緒に用を足すな。ある日の朝礼で受けた注意は、尾北和樹に向けられたものだった。他の女性職員の前で言われて顔を真っ赤にする和樹に、気にしないように、と多田木はいうが、保護者からのクレームだ。信用問題に関わり、同性職員の多田木にも迷惑をかけてしまう、そう思い、その日から3階の隅にある職員トイレを使うようになった。  しかし、尾北は一日中トイレに行かなくても平気な多田木とは違い、3時間に一回行かないと限界を迎えてしまう体質。加えて激務だ。園児と一緒に済ませるから、今までなんとかやってこれたのだ。それからというものの、限界ギリギリで間に合う、なんて危ない状況が何度か見受けられた。    ある日の紅葉が色づく頃、事件は起こる。その日は何かとタイミングが掴めなくて、いつもよりさらに忙しかった。やっとトイレにいける、そう思ったところで、前を押さえた幼児に捕まってしまい…?

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

stay away

二色燕𠀋
BL
── 離れろ、近付くな、動くなよ。  神は、ゲイだ。  わからない、わからないよ、どうしよう、どうしようか。── ※天獄別編 Trance & R-ZE

太陽と溶け水

二色燕𠀋
BL
何処から何までが、なんなんだっけ?

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

処理中です...