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Act.6
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何回か聞いた「そういった病です」という女に何回「なるほど」と相槌を打ったのかわからない。そしてそれは巡るどころか際限なく先へ流されていく。
「…一応引き取り手もいらっしゃる、と判断してしまえば私たちも「そうですか」と引くしかないのですが。
それは神月さんの個人、人権に関わることですからね」
「なるほど」
病院の前まで来て受付までは済ませられた。
先程突然、まるで人格が変わったかのように暴れて連れて行かれてしまったサナトの姿がずっと頭でリピートしている。
少し忙しなく貧乏揺すりかなんなのか足が震えていたのに気付いて間もなくだった。
サナトは僅かな聞き取りにくい声で「……ゃだ、」と言って立ち上がり、まるで発狂して「拒否」の意を全身全霊で表したのだ。
頭を掻き毟るように抱え込み「嫌だっ!やだっ!こんな、嫌だっ!」となれば混み始めていた受付、待合室の空気がピン……と騒然に包まれ、あと何十分、下手すりゃ何時間待たされるんだろうというぼんやりした疑問が一瞬で解決してしまった。
看護師と共にサナトを別室へ連れていき、俺は「貴方はこっち」と、サナトの主治医だという女医にこうして淡々と精神病の説明を受ける羽目になった。先程のはパニック障害、なのだそう。
「しかし神月さんのご病気を理解して頂けないのであれば、こちらとしても人命に関わることですので易々と退院の許可は出せないのですが」
「なるほど」
「えっと…どうでしょう、わからないことなどはありますか…」
「あぁ、はい。
えっと…バカみたいに、失礼、
……色々病名が出てきましたが精神科としてはPTSDと、それに伴う双極性障害とそれに伴う……睡眠障害、記憶障害でしたっけ。あとはなんでしたっけ?ADHDとセックス依存症?さっきのはパニック障害、と」
「はいまあ大体はPTSDから併発してしまいまして。今や解離性同一性障害……えっと、多重人格というやつですね、ここまでくると今後そういった病になる懸念もあり」
また増えたよ病名。覚えられねぇよ。
「なるほど」
「いまの状況ですら…最早本人にも感情コントロールが不可能、というのは性嗜好症の説明が分かりやすかったのかな、と思いますが本人自体は悪いことだ、とか、嫌悪だとか、わかっているにも関わらず治まらない現象で」
「ふむふむ、なるほど」
「しかし本人にも自覚がない、所謂そこまで頭が働かない病もあるわけですよ。ですから脳、神経内科…外科も含めればショック時による失神、痙攣は主にてんかんと言う症状になります。こちらは体に脳からの電気信号の異常で失神や痙攣、記憶障害が」
「ちょっとまとめますと」
質問の返答だったのか?いまのは。
つらつら経を聞かされそうだ。
「一言、心的外傷を抉らなければ大抵は貴方の仰る“普通”で、とはいっても治療の副作用で併発してしまった病もある。しかしいずれにしても全て治るものじゃない、いつ起こりいつ起こらないのかも最早特定は不可能だが…。
じゃぁ疑問を二つ。PTSDというならあいつは「中度の」これは、なぜ中度なのかはわからないが意識障害?だっけ、記憶障害があるのに起こり得るのか」
「えっと」
「二つ目っ!
えっと性的なんちゃら症…セックス依存症ね。これは病ではないがうんちゃらかんちゃら、職業柄なっているのが大半でと軽く流されましたが、別にあいつは今そういったこともない、から生活を破綻させている、に至ってないがそこんとこは?」
「あ、はい」
こういうタイプはこちらから遮らないと一方的に聞かされるのみで終わってしまう。
いや、端からこちらが聞いている、いないは関係がなさそうだ、つまりはどうあってもサナトを入院させ保護したい気持ちが強いのだろう。
まるで扱いが犯罪者だな、お前。
「…ひとつ目から言いますと、ですから、頭を打ってしまったせいなのか端から本人が遮断してしまったのかはわかりませんが、記憶がない以上何でPTSDからの意識障害やパニック障害が引き起こされるのかはわかりません、だから危険なのです。それは、本人の自殺への懸念、先程申しました通り頭ではわかっていても、という突発性がありますし、本人だけでなく他者への危害の可能性もある。
中度の記憶障害というのは、つまり、言葉や習慣は覚えていた、一部分の記憶の消失だからです。
性嗜好障害も、例えば肉体行為に及ばないかもしれない、ですが対象は行為のみでなく、例えば痴漢もそう、露出もそうです」
「ふむ……」
うーん?いや、症状のその理解自体はしたんだっつーの…。解決策や対処が知りたいんだってば。
「うんまぁもうわかりました……」
「…二つ目はお聞きにならないですか?」
「あぁじゃぁ、どうぞ」
「今現在は普通だったとして、です。じゃぁ例え話をしましょう。何かはわからないけど神月さんのそういったスイッチが入ってしまい、もし貴方に包丁を向け、関係を迫ってきた、に至ったとき貴方はどうしますか」
「蹴り飛ばしますよそりゃ」
「いや、そうじゃなくて」
「うーん、話がなかなか噛み合いませんね」
女と話すのも疲れるな。
そんなもの、俺やお前らだっていつどうなるかと言えば、特別変わらないだろうよ。
何か危機に瀕したらどうなんだよ?全く。
「…一応引き取り手もいらっしゃる、と判断してしまえば私たちも「そうですか」と引くしかないのですが。
それは神月さんの個人、人権に関わることですからね」
「なるほど」
病院の前まで来て受付までは済ませられた。
先程突然、まるで人格が変わったかのように暴れて連れて行かれてしまったサナトの姿がずっと頭でリピートしている。
少し忙しなく貧乏揺すりかなんなのか足が震えていたのに気付いて間もなくだった。
サナトは僅かな聞き取りにくい声で「……ゃだ、」と言って立ち上がり、まるで発狂して「拒否」の意を全身全霊で表したのだ。
頭を掻き毟るように抱え込み「嫌だっ!やだっ!こんな、嫌だっ!」となれば混み始めていた受付、待合室の空気がピン……と騒然に包まれ、あと何十分、下手すりゃ何時間待たされるんだろうというぼんやりした疑問が一瞬で解決してしまった。
看護師と共にサナトを別室へ連れていき、俺は「貴方はこっち」と、サナトの主治医だという女医にこうして淡々と精神病の説明を受ける羽目になった。先程のはパニック障害、なのだそう。
「しかし神月さんのご病気を理解して頂けないのであれば、こちらとしても人命に関わることですので易々と退院の許可は出せないのですが」
「なるほど」
「えっと…どうでしょう、わからないことなどはありますか…」
「あぁ、はい。
えっと…バカみたいに、失礼、
……色々病名が出てきましたが精神科としてはPTSDと、それに伴う双極性障害とそれに伴う……睡眠障害、記憶障害でしたっけ。あとはなんでしたっけ?ADHDとセックス依存症?さっきのはパニック障害、と」
「はいまあ大体はPTSDから併発してしまいまして。今や解離性同一性障害……えっと、多重人格というやつですね、ここまでくると今後そういった病になる懸念もあり」
また増えたよ病名。覚えられねぇよ。
「なるほど」
「いまの状況ですら…最早本人にも感情コントロールが不可能、というのは性嗜好症の説明が分かりやすかったのかな、と思いますが本人自体は悪いことだ、とか、嫌悪だとか、わかっているにも関わらず治まらない現象で」
「ふむふむ、なるほど」
「しかし本人にも自覚がない、所謂そこまで頭が働かない病もあるわけですよ。ですから脳、神経内科…外科も含めればショック時による失神、痙攣は主にてんかんと言う症状になります。こちらは体に脳からの電気信号の異常で失神や痙攣、記憶障害が」
「ちょっとまとめますと」
質問の返答だったのか?いまのは。
つらつら経を聞かされそうだ。
「一言、心的外傷を抉らなければ大抵は貴方の仰る“普通”で、とはいっても治療の副作用で併発してしまった病もある。しかしいずれにしても全て治るものじゃない、いつ起こりいつ起こらないのかも最早特定は不可能だが…。
じゃぁ疑問を二つ。PTSDというならあいつは「中度の」これは、なぜ中度なのかはわからないが意識障害?だっけ、記憶障害があるのに起こり得るのか」
「えっと」
「二つ目っ!
えっと性的なんちゃら症…セックス依存症ね。これは病ではないがうんちゃらかんちゃら、職業柄なっているのが大半でと軽く流されましたが、別にあいつは今そういったこともない、から生活を破綻させている、に至ってないがそこんとこは?」
「あ、はい」
こういうタイプはこちらから遮らないと一方的に聞かされるのみで終わってしまう。
いや、端からこちらが聞いている、いないは関係がなさそうだ、つまりはどうあってもサナトを入院させ保護したい気持ちが強いのだろう。
まるで扱いが犯罪者だな、お前。
「…ひとつ目から言いますと、ですから、頭を打ってしまったせいなのか端から本人が遮断してしまったのかはわかりませんが、記憶がない以上何でPTSDからの意識障害やパニック障害が引き起こされるのかはわかりません、だから危険なのです。それは、本人の自殺への懸念、先程申しました通り頭ではわかっていても、という突発性がありますし、本人だけでなく他者への危害の可能性もある。
中度の記憶障害というのは、つまり、言葉や習慣は覚えていた、一部分の記憶の消失だからです。
性嗜好障害も、例えば肉体行為に及ばないかもしれない、ですが対象は行為のみでなく、例えば痴漢もそう、露出もそうです」
「ふむ……」
うーん?いや、症状のその理解自体はしたんだっつーの…。解決策や対処が知りたいんだってば。
「うんまぁもうわかりました……」
「…二つ目はお聞きにならないですか?」
「あぁじゃぁ、どうぞ」
「今現在は普通だったとして、です。じゃぁ例え話をしましょう。何かはわからないけど神月さんのそういったスイッチが入ってしまい、もし貴方に包丁を向け、関係を迫ってきた、に至ったとき貴方はどうしますか」
「蹴り飛ばしますよそりゃ」
「いや、そうじゃなくて」
「うーん、話がなかなか噛み合いませんね」
女と話すのも疲れるな。
そんなもの、俺やお前らだっていつどうなるかと言えば、特別変わらないだろうよ。
何か危機に瀕したらどうなんだよ?全く。
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