22 / 54
Act.3
3
しおりを挟む
「ちゃんと洗いましたよ、洗剤で!」
と言いながら五十嵐はすっと手を僕の背中からどけていじけた顔をする。
なんだこの人。
「別に洗剤でなんて言ってませんよ?」
コーヒーに砂糖を忘れてしまったなぁ。
「あっ、」
カップに五十嵐は気付いたらしい。そうだよ、あんたのお手製だよ、と思えば「それ俺のカップ!」吹き出しそうになった。
「がはっ、ごほっ、」
なんか変なところにコーヒーが直撃して息苦しい。しかし五十嵐は「なにー!大丈夫なのお前ー!」とあたふたし始める。
待ってそれどういう意味。
あんたが普段使ってるやつなら凄く嫌なんだけど苦しい。めっちゃ苦しい。
一人あたふたする五十嵐と一人噎せる僕。最早吐きそうな勢いに、「待て、マジで大丈夫かお前」と五十嵐は騒然とする。
少し落ち着いてから自然と唇を拭ってしまった。
が、考えてみればこいつが使用したカップでもまぁ当たり前かと低酸素になった脳で考えた。と言うか僕って感じ悪いかも。生理現象のようにそう潔癖が生きる自分に少し自己嫌悪。
「いや、す、すみません、大丈夫デス」
「いや、うん、」
「あのぅ…」
考える。
「…このカップ、五十嵐さん今別のその…猫柄のカップを使ってるじゃないですか、毎日。このカップはいつ使うんですか」
「歯磨き」
うわっ。
流石に血の気が引いた。
マジか。いやマジか。
顔に出ていたらしい、というか控えめに「いやそんなに嫌がんなよぅ…」と五十嵐が落ち込んでいく。
「洗ってあるけどさぁ…ちょっと流石に酷くねぇ?」
「いや、すみません、確かに感じ悪いですね僕」
「いいけどさぁ~、お前勝手に」
「はい、確かに勝手に使いましたすみません」
「全くぅ…」
うん、これは僕が悪い。確かに。
完全にいじけた五十嵐は体育座りで縮こまる。本当に子供かよ。いや、僕が悪い今回はマジで。
「僕、このカップ使っても良いですか」
「へ?」
五十嵐はなんだかわからないものに遭遇したような、唖然とした表情で僕を見た。
確かに、普通だったらそうだろう。けど。
「このカップ、一応五十嵐さんが作ったのかなって」
「いや、まぁそうだけど…」
「歯磨きカップが嫌ならまぁ、漂白しますから」
「いやなにそれ、え、いや、うーん、どっから突っ込むべきだろ」
わざとらしく眉間を揉みながら五十嵐は言う。
「それ、漂白して大丈夫かな」
「…は?」
「いやそれテキトーに印刷してもらっただけだから、なんかほら、そーゆー記念品?というか、なんか作るところあるじゃん民間で」
「…は!?」
言った本人が気まずそう、というかバツが悪い、居心地が悪いと言った具合に顔を背けた。
…そう言えばこの人、相当なナルシストだった。
しかし、考える。
「…だから、大層なものじゃないわけで」
「…なるほど」
でもそれって。
「…この絵、思い入れでもあるんですか」
「え゛っ」
「ないんですか?」
更にバツが悪そう。
なんだろ、ナルシストの事だから彼女にあげようとしたとかかな?
「なんもないです見事に」
「…は?」
「ノリですノリ。マジでそれ以外な」
「え、本気で言ってるんですか、」
五十嵐は物凄く恥ずかしそうに俯いて膝に顔を隠してしまった。これはマジなやつだ。凄く爆破されたい時のやつだ。こいつならバルサンか。
少し悶えるようにしてからふと顔をあげ「そうですぅ~!」開き直った。よもや精神生命力はゴキブリ以上かもしれない。
「ちょっとなんとなく「あ、俺の絵ってやっぱ白に映えるわ~」とか思って勝手に作ったんです~ぅ!」
「うわ聞いてない。けどちょっと事実なのがホントに…」
ナルシストってそういうとこある。ちょっと感心するくらいに的を射たりする感性がある。
「いいよ…」
だが五十嵐は開き直る。
「新しいカップ買ってやるから」
「…え?」
「…だって、」
「いや、まぁ歯磨きとか聞かなきゃよかったんですけど、これでいいです」
「ん?」
わりとこれ好きだなと、実際に思ったから。というか歯磨きって聞いちゃったけど、僕わりとこれ、使ってたし。
「気付きませんでした?わりと僕これ使ってましたけど」
「え゛っ。待ってそのタイミングでその申告は俺は何を思えばいいわけ?」
「えなんですかそれ。毎回洗ってたんでしょ」
「なんかよく掛かってたからね最近。俺綺麗好きだったなって」
「それはない」
「ん?じゃぁ俺の歯磨きコップが実はいいんです的なやつでは」
「ない。気持ち悪い」
ナルシスト褒めたの撤回。
変態だわこの人。
けど、うーん、まぁいいか。
と言いながら五十嵐はすっと手を僕の背中からどけていじけた顔をする。
なんだこの人。
「別に洗剤でなんて言ってませんよ?」
コーヒーに砂糖を忘れてしまったなぁ。
「あっ、」
カップに五十嵐は気付いたらしい。そうだよ、あんたのお手製だよ、と思えば「それ俺のカップ!」吹き出しそうになった。
「がはっ、ごほっ、」
なんか変なところにコーヒーが直撃して息苦しい。しかし五十嵐は「なにー!大丈夫なのお前ー!」とあたふたし始める。
待ってそれどういう意味。
あんたが普段使ってるやつなら凄く嫌なんだけど苦しい。めっちゃ苦しい。
一人あたふたする五十嵐と一人噎せる僕。最早吐きそうな勢いに、「待て、マジで大丈夫かお前」と五十嵐は騒然とする。
少し落ち着いてから自然と唇を拭ってしまった。
が、考えてみればこいつが使用したカップでもまぁ当たり前かと低酸素になった脳で考えた。と言うか僕って感じ悪いかも。生理現象のようにそう潔癖が生きる自分に少し自己嫌悪。
「いや、す、すみません、大丈夫デス」
「いや、うん、」
「あのぅ…」
考える。
「…このカップ、五十嵐さん今別のその…猫柄のカップを使ってるじゃないですか、毎日。このカップはいつ使うんですか」
「歯磨き」
うわっ。
流石に血の気が引いた。
マジか。いやマジか。
顔に出ていたらしい、というか控えめに「いやそんなに嫌がんなよぅ…」と五十嵐が落ち込んでいく。
「洗ってあるけどさぁ…ちょっと流石に酷くねぇ?」
「いや、すみません、確かに感じ悪いですね僕」
「いいけどさぁ~、お前勝手に」
「はい、確かに勝手に使いましたすみません」
「全くぅ…」
うん、これは僕が悪い。確かに。
完全にいじけた五十嵐は体育座りで縮こまる。本当に子供かよ。いや、僕が悪い今回はマジで。
「僕、このカップ使っても良いですか」
「へ?」
五十嵐はなんだかわからないものに遭遇したような、唖然とした表情で僕を見た。
確かに、普通だったらそうだろう。けど。
「このカップ、一応五十嵐さんが作ったのかなって」
「いや、まぁそうだけど…」
「歯磨きカップが嫌ならまぁ、漂白しますから」
「いやなにそれ、え、いや、うーん、どっから突っ込むべきだろ」
わざとらしく眉間を揉みながら五十嵐は言う。
「それ、漂白して大丈夫かな」
「…は?」
「いやそれテキトーに印刷してもらっただけだから、なんかほら、そーゆー記念品?というか、なんか作るところあるじゃん民間で」
「…は!?」
言った本人が気まずそう、というかバツが悪い、居心地が悪いと言った具合に顔を背けた。
…そう言えばこの人、相当なナルシストだった。
しかし、考える。
「…だから、大層なものじゃないわけで」
「…なるほど」
でもそれって。
「…この絵、思い入れでもあるんですか」
「え゛っ」
「ないんですか?」
更にバツが悪そう。
なんだろ、ナルシストの事だから彼女にあげようとしたとかかな?
「なんもないです見事に」
「…は?」
「ノリですノリ。マジでそれ以外な」
「え、本気で言ってるんですか、」
五十嵐は物凄く恥ずかしそうに俯いて膝に顔を隠してしまった。これはマジなやつだ。凄く爆破されたい時のやつだ。こいつならバルサンか。
少し悶えるようにしてからふと顔をあげ「そうですぅ~!」開き直った。よもや精神生命力はゴキブリ以上かもしれない。
「ちょっとなんとなく「あ、俺の絵ってやっぱ白に映えるわ~」とか思って勝手に作ったんです~ぅ!」
「うわ聞いてない。けどちょっと事実なのがホントに…」
ナルシストってそういうとこある。ちょっと感心するくらいに的を射たりする感性がある。
「いいよ…」
だが五十嵐は開き直る。
「新しいカップ買ってやるから」
「…え?」
「…だって、」
「いや、まぁ歯磨きとか聞かなきゃよかったんですけど、これでいいです」
「ん?」
わりとこれ好きだなと、実際に思ったから。というか歯磨きって聞いちゃったけど、僕わりとこれ、使ってたし。
「気付きませんでした?わりと僕これ使ってましたけど」
「え゛っ。待ってそのタイミングでその申告は俺は何を思えばいいわけ?」
「えなんですかそれ。毎回洗ってたんでしょ」
「なんかよく掛かってたからね最近。俺綺麗好きだったなって」
「それはない」
「ん?じゃぁ俺の歯磨きコップが実はいいんです的なやつでは」
「ない。気持ち悪い」
ナルシスト褒めたの撤回。
変態だわこの人。
けど、うーん、まぁいいか。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
夫の不貞現場を目撃してしまいました
秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。
何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。
そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。
なろう様でも掲載しております。
あなただけが私を信じてくれたから
樹里
恋愛
王太子殿下の婚約者であるアリシア・トラヴィス侯爵令嬢は、茶会において王女殺害を企てたとして冤罪で投獄される。それは王太子殿下と恋仲であるアリシアの妹が彼女を排除するために計画した犯行だと思われた。
一方、自分を信じてくれるシメオン・バーナード卿の調査の甲斐もなく、アリシアは結局そのまま断罪されてしまう。
しかし彼女が次に目を覚ますと、茶会の日に戻っていた。その日を境に、冤罪をかけられ、断罪されるたびに茶会前に回帰するようになってしまった。
処刑を免れようとそのたびに違った行動を起こしてきたアリシアが、最後に下した決断は。
【完結】愛していないと王子が言った
miniko
恋愛
王子の婚約者であるリリアナは、大好きな彼が「リリアナの事など愛していない」と言っているのを、偶然立ち聞きしてしまう。
「こんな気持ちになるならば、恋など知りたくはなかったのに・・・」
ショックを受けたリリアナは、王子と距離を置こうとするのだが、なかなか上手くいかず・・・。
※合わない場合はそっ閉じお願いします。
※感想欄、ネタバレ有りの振り分けをしていないので、本編未読の方は自己責任で閲覧お願いします。
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる