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パラフィリア
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何も書かれていない次のページの横線達を眺めて浮上してくるようだ、なんとも言えない感情が。
俺は陽にこの“日記”を残して何がしたいというのだろう。別の人格だろうと結局個体は一緒なのに。
陽の顔をした俺は一体、どんな表情でいつもこれを開いて読んでるんだろうか、10月某日 ゆうより。
陽、俺はここにいるんだよ、俺を見て頂戴よどこ見ていたんだよ、俺はずっと陽のことを見ていたんだよ、だから気付いた。
どうして俺が傷付くことに嬉しそうだったの、簡単だ。母さんがそれで陽を「良い子」だと言ったからだ。
まだスカスカのノートに何かを更に書こうとするのだけど気持ちが濁っている。どうしてこれくらいでも俺は気持ちを書くことを躊躇うのか。
床から3段上の階段から足が離れてしまうことが多かった。あれで頭がイッてしまったのかもしれない。大丈夫?悠。だなんて、それまで誰一人俺に声など掛けなかったのに。
陽はただ優しくなりたかっただけだし、愛の証明が欲しかっただけの筈だった。だけど一緒にいればそんなことを常日頃考えてやるわけじゃない。
同じ卵子を分け合ってなどいないのだからそれくらいに差異があるのに、双子。育った世界が同じで俺たちはその世界を分け合った、そんな双子なんだ。
日周運動の二枚の鏡、それは光の屈折や光化学で太陽を観測する小型望遠鏡で鳥もUFOに変える。だからじっとしてていい。
けれどそれほどの精度は絵画、油絵のモザイクのような曖昧なロマン、手の掛かるものだ、大人は、珍しい物に、そういう。
俺は誰でもなくて、どこにもいない。幻で、だからここにいる理由なんて、でも、それはわかっている。
ふぁっと、どれだけ堪えてもこうして嗚咽が漏れるのか。わからないんだ、いつだって。
「僕はどこにいる、どこにいればいい」
子供の自分の耳鳴りがするようで、どうしようもないし、これはわからない反抗心かもしれない。
本当は一卵性でも二卵性でもない、いやどちらでも良いけれど。
あぁあああ、
頭を掻き毟るほど、いや、なんだっていい、違う。
衝動に近いものだった。掛かけている手提げ鞄を持ち一度照井の寝室へ戻ってケータイから充電器を抜く。朝8時30分。9時の講義などなんだっていい。大学に向かおうと迷いもしなかった。
そのルーティンに、あぁ風呂入ろう気持ち悪いとシャワーも浴びた。
行って何になるか、何もない。ただ、そう言えば照井が、運ばれた病院に源蔵と明日香が来たと言っていた。
8時47分の時点で思い出して二人に連絡を入れる。
即、既読がついた。じゃぁどこか、ラウンジにでもいろよと送った瞬間には既読がついている。
どんだけアプリページ、開きっぱなんだよお前ら。まぁ良いけど、と家を出る。
ほとんど、頭の中で何か言葉が俺の周りを不衛生に公転している。
だから電車の雑踏に音楽を聴くのだけど、いちいちそれに感傷的だ。俺はいまなんだか豆腐メンタルというやつかもしれない。
いや、単なる賢者タイムのような気もする。
駅に着いた9時37分に、駅のコンビニでアーモンドチョコレートを買い込んだ。飯食ってないしなとぼんやりしていたらクランチもミルクも増えている。流石に鼻血が出るかもしれないけど。飲み物はココアがいい。俺はいつか糖尿病で死ぬかもしれない。
そして鞄の奥からふと、多分陽が買ったのであろう期間限定と書かれた菓子が3つも出てきた。
てりやきチキン味クッキー、4袋連なったポテトチップスのカスタードプリン味、これはどうやら何袋か知らんが食ったと見える切り口、は?わさび味チョコレート?
恐ろしい。
期間限定はわかるがなんだこの女子力のねぇチョイス。もっと他にもあるだろう、全然想像出来ねぇ。どれも少しずつ食った形跡があるのが凄く怖ぇ。
いくらなんでもこんな物を食うのは俺の身体だろうよこの舌だろうよ、信じられない。こんな何で出来てるか理解し難いもん、ホントにどんな思いで陽は食ってるんだ、てか絶対不味いだろこれ。
…見なかったことにしておこう。というか詫び入れに源蔵へ押し付けよう。
さて、何を二人に話すべきなんだ。
明日香も源蔵も俺のびょーきを知っているけれど、もう素直に「悪かったな」なのだろうか。何気にこのパターンは初じゃないのか?多分。
…こんなヤツを普通の、普通?うん、普通の人間ならどう思うだろうか。本当でも嘘でもクソ面倒だろうにな。運ばれちまったら完璧に「マジでこいつ医学的にヤバかったんだ」になるよな。
大学3年にして退学、留年にならなかったことの方が本当は異常か、気持ち悪い。
俺たちはそこを多分、上手くやっていたんだ。というか、大学にバレただろうか。別にそれでも良いけれど、なんで学校行ってるかなんて今やコンパの為としか言いようがないし。言うなら天文以外に興味がないし。
いつか大人になったら安定して社会に出よう。
そんなゴミにもならねぇエゴで飯食ってる照井は一体なんなんだ。別にいいけど、本気でそう思ってるならお前の方が相当病気だよ。
大学の門は随分見慣れている。そうか、見慣れている。漸く落ち着いてきたな。
1階ラウンジには、俺の言いつけ通りに源蔵と明日香が丸テーブルの椅子に座って、なんだか親しげに話していた。
なんとなく、だけど。
暫く遠くで気付かれるまで、それを見ても良いかな、と思える光景だった。
俺は陽にこの“日記”を残して何がしたいというのだろう。別の人格だろうと結局個体は一緒なのに。
陽の顔をした俺は一体、どんな表情でいつもこれを開いて読んでるんだろうか、10月某日 ゆうより。
陽、俺はここにいるんだよ、俺を見て頂戴よどこ見ていたんだよ、俺はずっと陽のことを見ていたんだよ、だから気付いた。
どうして俺が傷付くことに嬉しそうだったの、簡単だ。母さんがそれで陽を「良い子」だと言ったからだ。
まだスカスカのノートに何かを更に書こうとするのだけど気持ちが濁っている。どうしてこれくらいでも俺は気持ちを書くことを躊躇うのか。
床から3段上の階段から足が離れてしまうことが多かった。あれで頭がイッてしまったのかもしれない。大丈夫?悠。だなんて、それまで誰一人俺に声など掛けなかったのに。
陽はただ優しくなりたかっただけだし、愛の証明が欲しかっただけの筈だった。だけど一緒にいればそんなことを常日頃考えてやるわけじゃない。
同じ卵子を分け合ってなどいないのだからそれくらいに差異があるのに、双子。育った世界が同じで俺たちはその世界を分け合った、そんな双子なんだ。
日周運動の二枚の鏡、それは光の屈折や光化学で太陽を観測する小型望遠鏡で鳥もUFOに変える。だからじっとしてていい。
けれどそれほどの精度は絵画、油絵のモザイクのような曖昧なロマン、手の掛かるものだ、大人は、珍しい物に、そういう。
俺は誰でもなくて、どこにもいない。幻で、だからここにいる理由なんて、でも、それはわかっている。
ふぁっと、どれだけ堪えてもこうして嗚咽が漏れるのか。わからないんだ、いつだって。
「僕はどこにいる、どこにいればいい」
子供の自分の耳鳴りがするようで、どうしようもないし、これはわからない反抗心かもしれない。
本当は一卵性でも二卵性でもない、いやどちらでも良いけれど。
あぁあああ、
頭を掻き毟るほど、いや、なんだっていい、違う。
衝動に近いものだった。掛かけている手提げ鞄を持ち一度照井の寝室へ戻ってケータイから充電器を抜く。朝8時30分。9時の講義などなんだっていい。大学に向かおうと迷いもしなかった。
そのルーティンに、あぁ風呂入ろう気持ち悪いとシャワーも浴びた。
行って何になるか、何もない。ただ、そう言えば照井が、運ばれた病院に源蔵と明日香が来たと言っていた。
8時47分の時点で思い出して二人に連絡を入れる。
即、既読がついた。じゃぁどこか、ラウンジにでもいろよと送った瞬間には既読がついている。
どんだけアプリページ、開きっぱなんだよお前ら。まぁ良いけど、と家を出る。
ほとんど、頭の中で何か言葉が俺の周りを不衛生に公転している。
だから電車の雑踏に音楽を聴くのだけど、いちいちそれに感傷的だ。俺はいまなんだか豆腐メンタルというやつかもしれない。
いや、単なる賢者タイムのような気もする。
駅に着いた9時37分に、駅のコンビニでアーモンドチョコレートを買い込んだ。飯食ってないしなとぼんやりしていたらクランチもミルクも増えている。流石に鼻血が出るかもしれないけど。飲み物はココアがいい。俺はいつか糖尿病で死ぬかもしれない。
そして鞄の奥からふと、多分陽が買ったのであろう期間限定と書かれた菓子が3つも出てきた。
てりやきチキン味クッキー、4袋連なったポテトチップスのカスタードプリン味、これはどうやら何袋か知らんが食ったと見える切り口、は?わさび味チョコレート?
恐ろしい。
期間限定はわかるがなんだこの女子力のねぇチョイス。もっと他にもあるだろう、全然想像出来ねぇ。どれも少しずつ食った形跡があるのが凄く怖ぇ。
いくらなんでもこんな物を食うのは俺の身体だろうよこの舌だろうよ、信じられない。こんな何で出来てるか理解し難いもん、ホントにどんな思いで陽は食ってるんだ、てか絶対不味いだろこれ。
…見なかったことにしておこう。というか詫び入れに源蔵へ押し付けよう。
さて、何を二人に話すべきなんだ。
明日香も源蔵も俺のびょーきを知っているけれど、もう素直に「悪かったな」なのだろうか。何気にこのパターンは初じゃないのか?多分。
…こんなヤツを普通の、普通?うん、普通の人間ならどう思うだろうか。本当でも嘘でもクソ面倒だろうにな。運ばれちまったら完璧に「マジでこいつ医学的にヤバかったんだ」になるよな。
大学3年にして退学、留年にならなかったことの方が本当は異常か、気持ち悪い。
俺たちはそこを多分、上手くやっていたんだ。というか、大学にバレただろうか。別にそれでも良いけれど、なんで学校行ってるかなんて今やコンパの為としか言いようがないし。言うなら天文以外に興味がないし。
いつか大人になったら安定して社会に出よう。
そんなゴミにもならねぇエゴで飯食ってる照井は一体なんなんだ。別にいいけど、本気でそう思ってるならお前の方が相当病気だよ。
大学の門は随分見慣れている。そうか、見慣れている。漸く落ち着いてきたな。
1階ラウンジには、俺の言いつけ通りに源蔵と明日香が丸テーブルの椅子に座って、なんだか親しげに話していた。
なんとなく、だけど。
暫く遠くで気付かれるまで、それを見ても良いかな、と思える光景だった。
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