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二色燕𠀋

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灰色と普遍の隠れ家

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 初めて行ったゲイバーは、オールスタンディングのライブハウスみたいだった。

 無論、男しかいない。いても女装した男くらいで。
 ここは雑じり気のない、灰色だ。

「良い男だけど並みね」

 行って早々、そいつの知り合いだという、一見普通のスーツのおっさんに品定めを受ける。
 良い男だけど並みね、なんなんだろうその偏見じみた曖昧さは。と思って成り行きをみていれば「やっぱりそうよね~!」と友人が突然、所謂カマ口調になったので相当ビビった。

「あわよくば食っちゃおうってやつ?」
「この子不感症らしいのよ」
「あらどんま~い、なんで来たの?」

 ゲイの両者はそう俺に振る。
 恥ずかしいとかを通り越したアットホームさに「いや…」と凄むしかない。

「ビビりだからってことかしら?何々聞かせてくれないかしら」

 おっさんは俺たちにタバコ吸っていい?と断りを入れてきたにも関わらず、許可する前にタバコを吸い始めた。
 人の顔に思っくそ煙を吹っ掛けてきたのだから、そのアットホームさにイラッとした。
 当のおじさんはにやけながらもマジな、そう、言うなれば女のあれと似ている、しかし非なる表情で「これはね」と語った。

「こっちじゃ「今晩いかが?」ってことなのよ。あんた面は良いし。けど何かしら、オーラがネコ臭くてかなわないわ。私は犬派だし、あんたどっちが好き」
「…は?」

 謎の隠語じみている。

 「あ、ネコってのはマウント取られる側~」と補足をしてきた友人に、んなもんいるか、とも思ったがなるほど、力は抜けた。
 俺は小バカにされているだろうが確かにそうだよなぁ、と納得もする。

「断然猫の方が可愛いと思いますけど犬も可愛いですよ?」

 実際柴犬は昔ばあちゃんの家で飼っていたし。猫はその辺にいくらだっていたし。

「ははは、面白い男。思ったよりイケてるじゃない」
「ちょっと自分が何に気を張ってんのか異空間すぎて忘れそうですが、いまはそんな気ないです、これは確か」
「なるほどねぇ、プライド高そ~」
「そんなものは何か持っているやつしか気にしないと思ってます。性別や愛情だって」

 ここに来てわかったことがひとつある。
 女だ、男だ、どちらもだと拘っているのはむしろ、一般的に受け入れてもらえないとされている人間の方だろうと思う。

 まぁ確かに受け入れてもらえないとはそういうことだろうけど。

 それで苦しんだのなら受け入れてあげようという側が歩み寄らねばならないのが少し矛盾。受け入れて貰う側は、相手に采配を投げなければならないのか、ホントに矛盾だ。
 受け入れて貰おうともしない、となると相手の悪い点ばかり見ているしかない、精神的に。といった具合なのだろうかとその日俺は感じた。

「なるほど、性別や愛情の点については、どうしようもない状態を持つ結果阻害されてしまった、と言うパターンが私たちには多いものよ。気にするとか以前に」
「まぁそうだろうと思います。マジョリティから見てのマイノリティ、であれば異物だと捉えるのが生物に於いての自然の運びですよね。
 いや、なんか言い方が悪いのかもしれないな…」
「いえ、却って素直で清々しいわ。貴方はそういうんじゃないのかもしれないわね」
「そういう、と言うと?」
「その「そういう、とはどういう?」という問いは貴方の言う「プライドを持っているもの」の問いよ。何かを違うと認識し識別した時の問い。でもそうやって違いが出るのよね」
「あぁ、なるほど。いや、すみませんそういうものでもなかった。
 何に大してこう、があるからそう、があるんでしょうが俺はどれなのかが単純にわからない。マジョリティかマイノリティか。それはここですら同じで」
「貴方はハッキリ、「これ」という物を一つ持てば、そのぼんやりした自分の概念は変わるのかしらね、もしかすると。それが恋でも良いし、まあいい人を見つけると良いわね」

 なるほど。その感情論は確かに包容力もある。
 それはまるでオルタナティブやグランジロックのようで。俺が好きな音。

「例えば…だけれど、私たちゲイはどう頑張ったって相手との子供は出来ないでしょ?たまに将来を考えたときにね、それは辛くなることがあるのよね。
 でも、確かにそれが本当に幸せなのか、と言うのも経験は出来ないから知ることも出来ないなぁと言うハンデもある」
「あぁ、そうですよねぇ。それは確かに途方もなくどうしようもないこと、か…」
「それを受け入れられないなら終わってしまう、いや、端から持てないならやめましょう、と現状を受け入れ持つ、も物によっては苦しむのだし」
「しかしまぁ、心の問題ではあるのですかね…なるほど、持てない人も気にする、と言うことですかね。プライド、とはまた違くても」

 おっさんは「そうね」と言って話を終えてしまった。

 彼らが言う拘りやらは捨てるものがある、でもそれは自然とは違う決定的な欠損、捨てなければならなかったもの、つまりは消去法でもある。
 だが本当にそれだけなのかと考えれば、そこに居続ける理由があるのだし拾おうとする理由もあるだろうから、そこまで悲しい話ではないのだろう…か。

 それも、こちらの「悲しい話」という価値観が、先入してしまっている。

 いずれにしても、難しいことに変わりはない。
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