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二色燕𠀋

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灰色と普遍の隠れ家

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 その知り合いは出会って早々に「俺もそっちだからね」と、重大なカミングアウトをしてきた。

「は?」

 そもそも咄嗟に脈略から逸脱してそう言ったそいつはからかうように俺を見てきたのだ。

 なんの話だったかとすっ飛びそうになってしまったが、大学構内での雑談、君ってモテるでしょ?みたいな、ゴミのような話でしかないから大して思い出す必要もないのにここ数十分を辿ってしまう、ほどに驚いた。

「だって、女に勃たないんだろ?」
「いや…」

 曖昧になりそうだけど「そんなことねぇよ、」多分、は飲み込んだ。恐らく自分はいま頼りない。

「え?じゃぁ不感症っていう意味がわからないけど本気でEDなの?」
「いや…だからかもって、言ったと思うんだ俺は」
「興奮しないって話ならバイアグラじゃないの?」
「いまそんな伝説なもん、売ってんのかよ」
「売ってんじゃね?使ったことないけど」

 似たようなもんならあるよ、だなんて言ってくる友人に、こいつは一体なんなんだと思う。

「いやそれよりちょ…そっち側ってそもそもなんなんだどっちがこっちなんだ一体」
「あ、動揺してる?めっちゃ喋るじゃん」
「いや別に並みだよ」
「えー、何それ違うの?」
「は?何お前からかってる?不愉快なんだけど」
「アセクシャルって言いたい?」

 あせくしゃる。

「何それ」
「他人に対して性欲がない人」
「あー…うーんどうなんだろう…」
「俺はゲイだから気持ちがわからんけどもしかして不感症か俺はと思った瞬間ならまぁあるし」
「…そういうもんなの?」
「そういうもんだね。聞いてると真麻の鬱憤対象は女なんじゃないかって気がするけど」
「鬱憤?」

 鬱憤、それは要するに溜まっているということなんだろうが確かに溜まっている気がする。

「何か恐怖や…まぁその新居女やら先輩やら、「なんなんだ女って」てやつじゃないの」
「あー…それは確かに思う」
「男に対してはどうなの」
「いや、お前のような外野だって大分ウザイ」
「まぁ恥ずかしい内容だもんね、俺もだからカミングアウトって嫌い」

 …あぁ、なるほどな。

「…それは外野がうるせぇという理由で?」
「そうそう。なかなか受け入れてもらえないじゃん」
「ふーん、なるほど…」
「けど諦めやら認めるやら、そう考えればまぁまぁ楽」
「なるほどねぇ…」

 確かにその感覚は酷く俺に似ている。けれど考えたこともなかった、女だから、男だから、いや正直人間全般的に同じような感情を持っているような気がしなくもない。
 となれば俺は所謂、なんたらセクシャルなんじゃないか、誰に対しても性欲がない、性欲だけじゃないな、何もない。のか?

「ははは迷宮入りしたんだね真麻」

 友人はそう言ってやはり涼しい顔をしているのだ。

「初めて気付いたときってまぁそうなるよ」
「いや…なんというか違和感しかない」
「ふ~ん」
「セックスに対して邪魔なものがあるのかな。なんとなく真麻はシンプルだからこそややこしいんじゃないの?自分に対しての物ばかりが強い」
「う~ん…」

 そうなのかもしれない。
 大して自分を見つめていないのかも、それは他者も大して見つめないだろうと思うし。邪魔なものは何か、という話であってるだろうか。

「そんなものは史上最強のオナニストだよね。ナルシスト、自己愛で気持ち悪い」
「あーなるほどお前は雑じり気なく失礼だけど」

 単語が破壊的すぎてなんだか、笑えてくる。ということは悪いやつではないのかもしれない。

「ははは、それ面白いななんだか」
「まぁね。
 一番面白くないのは何も愛せないことだと思う。まぁ自分が無理なら他人、他人が無理なら自分じゃない?俺は女なんて無理だから男な訳だし」
「はぁはぁ、なるほど」
「たまたま女にそういう相手がいない、のかもね。仕方ないよね脳の作りも生きる意味合いも全く別なんだから」
「なるほどねぇ…」

 意味は理解した。だが、「俺と試す?タイプじゃないけど」だなんて言われれば「タイプじゃないのに?」な話な訳で。

「え、ヤリチンだとかセフレだとか言われるタイプならいけるっしょ」
「多分無理だな、割りとビビる」
「あー偏見」
「違う、俺全体的に多分ビビりだわ」
「女子みたい、無理」
「お前も大分偏見だから大差ない、から無理」
「人類皆平等だとか言っちゃいますか、博愛はバイセクシャルってやつ?ムリムリ。取り敢えずゲイバーに連れてってやるよ」

 人類皆平等か。確かにそうだ差異がない。だがそれは愛情も何も関係がない。

 …まぁ物は試しだと行ってみるしかない、それくらいには興味は沸いた。それは自分の好奇心で自分のこと。

 そこには確かに他者がいる空間だろうとは、思う、ただそれだけだ、本当にナルシストかもしれない。
 興味がまだあるのなら、心は不感症ではないのかもしれない。
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