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Freak Disorder
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青瀨先輩はもしかして、陸上をやめてしまったのか、謹慎だから今だけ部活をやっていないのか。
陸上部で茶髪は確かに怒られそうだ。
「志波くんさ、部活やってないの?」
「あ、まぁはい」
「ふーん。いつも直帰?」
「そうですね。俺もバイト探さないと」
「あ、俺も俺も」
「先輩は陸上部ではない?」
間が出来てしまった。日本語がおかしい。
青瀨先輩はやっぱり笑って「ではないではない」と言う。
「まぁ、だった、てやつ。辞めた。
てか志波くん話しやすいな、なんか」
「え?」
「言われない?」
「言われたことないです」
「また外したかー」
話はそこで反れてしまいそうだったけれど、「鳴海ってすげぇよな」と少しの短い間の後にまた振られた。
「……陸上ってまぁでも、追い込み型しか出来ねぇもんだけどさ。耐えすぎても過信なんだよなぁ」
ぎこちなく、どこか上の空に話す青瀨先輩はもしかして話題とか間とか、気にしてくれたのかもしれないと思ったから。
話を聞こうと、俺は青瀨先輩を待ってみることにする。
「なんというか…20キロとかの単位で走るからさ。うーん50m走は意外と8とか…10秒くらいなんだよね」
「20キロ、ですか」
「うん、まぁ箱根とかそうなんだよ。ドMが向いてる競技、長距離は。息苦しさの先とかに快感があったりしてさ、ランナーズハイてやつなんだけど」
「あぁ、そうなんですね」
「まぁ俺はそこまでランナーズハイって感覚ない気がするけどね、辞めちゃったし。練習もひたすら走って1秒を削り出すみたいな、辞めて考えてみたら、相当だよな」
上手く説明をしようとしてくれているようで饒舌なのだけど、やはり笑顔が少し控えめに見える。
青瀨先輩は足の怪我で辞めてしまったんだろうか。
「…キロ単位で走ったことないです、俺」
「ん?そう?」
「体育でもそういうの、見学してて」
「苦手?」
と言うより。
「気管支が弱いんです。体育も補修とか、なしになるというか…」
「あぁ、なるほどね。えー、そゆときってどんな感じ?」
「レポート提出とかになりますね…あんまりなんか、クラスに居にくい雰囲気になるんですけど…」
「へぇー、なんかそれはなぁ。まぁ走るの苦しいからなぁ、けど僻みだよなぁ。それでサボったわけ?」
「うーん…まぁ、今回は別ですけど似たようなものですね」
自分が愛想笑いをしてしまっていることにふと気が付いたのは、青瀨先輩の表情は柔らかだけど、目の奥で俺を捉えて考えているように見えたからかもしれない。
愛想笑いなんて一日のうちに何時間もしていることだけど、そんな当たり前になんだか居心地が悪く感じた。
「息苦しさで言ったら俺よりもあるのかな?どっちかね?」
と言う青瀨先輩の質問の意図は読めないけれど、そう、多分俺のことを今日初めて考えたのかもしれないと、感じ取った。
「…身体的なことですかね?俺の発作はまぁ、一過性で…5分とか、酸素吸入器とかで納めることができますから…先輩たちはそれよりは苦しいのかなぁ?と…」
「真面目な答えだなぁ。うーん、確かにそうなのかなぁ?でも俺たちはやりたくて」
笑顔から言葉に詰まってしまった青瀨先輩に、やっぱり何か理由があって辞めてしまったんだな、と確信した。
「まぁ大変だけどな。志波くん、でもならどうして鳴海なんだ?」
どうしてかはわからないけれど。
「…走ってる姿がなんだか、走るの好きなんだろうなと思って。
先輩も、陸上好きだったんでしょう?きっと」
俺がそう言うと青瀨先輩は言葉に詰まる。
駅の前だった。青瀨先輩は立ち止まり、「あぁ、」とにやっと笑って続けるのだった。
「志波くん、いいなぁ、」
何故それで青瀨先輩が笑ったのか、だけど俺は愛想笑いでもなく笑えた気がした。答えをどうしようかなと考えてすぐに浮かんできたのは、先生に少し怒っていた青瀨先輩だった。
「青瀨先輩は「お前」と呼ぶ人、嫌いなんですか?」
「ん?」
「ふといま思ったんで」
「うーん、あんま意識したことないけど」
そうなんだ。
何故だろう、なんだか嬉しくなった。
「青瀨先輩は何故怒ったのかなって」
そう、俺はいま、息も気持ちも殺すことがなく自然に考えて素直に吐き出せている気がしている。それは何故だろうか、なんとなくこの場所でわかる気がしている。
「…ははっ、」
貴方にとって当たり前なことだったとしても。
少し、この駅で別れたくないなと先伸ばしにしてしまう質問なのかもしれない。
「お前、俺に興味ないでしょ」
ごく普通に青瀨先輩も笑ってくれた、八重歯が少し子供っぽい気がして、それでもその笑顔に哀愁や色気、魅力的を感じたのだから。
小さい頃に見た流星群は、高温で流れて一瞬で透明になってしまった、それはとても綺麗で、泣きそうになったんだ。
「それって凄くいい」と笑ってくれた先輩に、なのに暖かい気持ちが溢れていくことも、悪いことのような、密かな嬉しさなような気も抱いた。
震えそうなこれは、凍えているわけじゃない。
「いつも朝は何時に学校くんの?
門まで迎えに行くよ。明日も来いよ、図書室に」
「…8時くらいですけど…」
「俺朝練くらいからいるんだ、いつも」
その日はそれで別れた。
陸上部で茶髪は確かに怒られそうだ。
「志波くんさ、部活やってないの?」
「あ、まぁはい」
「ふーん。いつも直帰?」
「そうですね。俺もバイト探さないと」
「あ、俺も俺も」
「先輩は陸上部ではない?」
間が出来てしまった。日本語がおかしい。
青瀨先輩はやっぱり笑って「ではないではない」と言う。
「まぁ、だった、てやつ。辞めた。
てか志波くん話しやすいな、なんか」
「え?」
「言われない?」
「言われたことないです」
「また外したかー」
話はそこで反れてしまいそうだったけれど、「鳴海ってすげぇよな」と少しの短い間の後にまた振られた。
「……陸上ってまぁでも、追い込み型しか出来ねぇもんだけどさ。耐えすぎても過信なんだよなぁ」
ぎこちなく、どこか上の空に話す青瀨先輩はもしかして話題とか間とか、気にしてくれたのかもしれないと思ったから。
話を聞こうと、俺は青瀨先輩を待ってみることにする。
「なんというか…20キロとかの単位で走るからさ。うーん50m走は意外と8とか…10秒くらいなんだよね」
「20キロ、ですか」
「うん、まぁ箱根とかそうなんだよ。ドMが向いてる競技、長距離は。息苦しさの先とかに快感があったりしてさ、ランナーズハイてやつなんだけど」
「あぁ、そうなんですね」
「まぁ俺はそこまでランナーズハイって感覚ない気がするけどね、辞めちゃったし。練習もひたすら走って1秒を削り出すみたいな、辞めて考えてみたら、相当だよな」
上手く説明をしようとしてくれているようで饒舌なのだけど、やはり笑顔が少し控えめに見える。
青瀨先輩は足の怪我で辞めてしまったんだろうか。
「…キロ単位で走ったことないです、俺」
「ん?そう?」
「体育でもそういうの、見学してて」
「苦手?」
と言うより。
「気管支が弱いんです。体育も補修とか、なしになるというか…」
「あぁ、なるほどね。えー、そゆときってどんな感じ?」
「レポート提出とかになりますね…あんまりなんか、クラスに居にくい雰囲気になるんですけど…」
「へぇー、なんかそれはなぁ。まぁ走るの苦しいからなぁ、けど僻みだよなぁ。それでサボったわけ?」
「うーん…まぁ、今回は別ですけど似たようなものですね」
自分が愛想笑いをしてしまっていることにふと気が付いたのは、青瀨先輩の表情は柔らかだけど、目の奥で俺を捉えて考えているように見えたからかもしれない。
愛想笑いなんて一日のうちに何時間もしていることだけど、そんな当たり前になんだか居心地が悪く感じた。
「息苦しさで言ったら俺よりもあるのかな?どっちかね?」
と言う青瀨先輩の質問の意図は読めないけれど、そう、多分俺のことを今日初めて考えたのかもしれないと、感じ取った。
「…身体的なことですかね?俺の発作はまぁ、一過性で…5分とか、酸素吸入器とかで納めることができますから…先輩たちはそれよりは苦しいのかなぁ?と…」
「真面目な答えだなぁ。うーん、確かにそうなのかなぁ?でも俺たちはやりたくて」
笑顔から言葉に詰まってしまった青瀨先輩に、やっぱり何か理由があって辞めてしまったんだな、と確信した。
「まぁ大変だけどな。志波くん、でもならどうして鳴海なんだ?」
どうしてかはわからないけれど。
「…走ってる姿がなんだか、走るの好きなんだろうなと思って。
先輩も、陸上好きだったんでしょう?きっと」
俺がそう言うと青瀨先輩は言葉に詰まる。
駅の前だった。青瀨先輩は立ち止まり、「あぁ、」とにやっと笑って続けるのだった。
「志波くん、いいなぁ、」
何故それで青瀨先輩が笑ったのか、だけど俺は愛想笑いでもなく笑えた気がした。答えをどうしようかなと考えてすぐに浮かんできたのは、先生に少し怒っていた青瀨先輩だった。
「青瀨先輩は「お前」と呼ぶ人、嫌いなんですか?」
「ん?」
「ふといま思ったんで」
「うーん、あんま意識したことないけど」
そうなんだ。
何故だろう、なんだか嬉しくなった。
「青瀨先輩は何故怒ったのかなって」
そう、俺はいま、息も気持ちも殺すことがなく自然に考えて素直に吐き出せている気がしている。それは何故だろうか、なんとなくこの場所でわかる気がしている。
「…ははっ、」
貴方にとって当たり前なことだったとしても。
少し、この駅で別れたくないなと先伸ばしにしてしまう質問なのかもしれない。
「お前、俺に興味ないでしょ」
ごく普通に青瀨先輩も笑ってくれた、八重歯が少し子供っぽい気がして、それでもその笑顔に哀愁や色気、魅力的を感じたのだから。
小さい頃に見た流星群は、高温で流れて一瞬で透明になってしまった、それはとても綺麗で、泣きそうになったんだ。
「それって凄くいい」と笑ってくれた先輩に、なのに暖かい気持ちが溢れていくことも、悪いことのような、密かな嬉しさなような気も抱いた。
震えそうなこれは、凍えているわけじゃない。
「いつも朝は何時に学校くんの?
門まで迎えに行くよ。明日も来いよ、図書室に」
「…8時くらいですけど…」
「俺朝練くらいからいるんだ、いつも」
その日はそれで別れた。
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