61 / 73
Freak Disorder
8
しおりを挟む
青瀨先輩はもしかして、陸上をやめてしまったのか、謹慎だから今だけ部活をやっていないのか。
陸上部で茶髪は確かに怒られそうだ。
「志波くんさ、部活やってないの?」
「あ、まぁはい」
「ふーん。いつも直帰?」
「そうですね。俺もバイト探さないと」
「あ、俺も俺も」
「先輩は陸上部ではない?」
間が出来てしまった。日本語がおかしい。
青瀨先輩はやっぱり笑って「ではないではない」と言う。
「まぁ、だった、てやつ。辞めた。
てか志波くん話しやすいな、なんか」
「え?」
「言われない?」
「言われたことないです」
「また外したかー」
話はそこで反れてしまいそうだったけれど、「鳴海ってすげぇよな」と少しの短い間の後にまた振られた。
「……陸上ってまぁでも、追い込み型しか出来ねぇもんだけどさ。耐えすぎても過信なんだよなぁ」
ぎこちなく、どこか上の空に話す青瀨先輩はもしかして話題とか間とか、気にしてくれたのかもしれないと思ったから。
話を聞こうと、俺は青瀨先輩を待ってみることにする。
「なんというか…20キロとかの単位で走るからさ。うーん50m走は意外と8とか…10秒くらいなんだよね」
「20キロ、ですか」
「うん、まぁ箱根とかそうなんだよ。ドMが向いてる競技、長距離は。息苦しさの先とかに快感があったりしてさ、ランナーズハイてやつなんだけど」
「あぁ、そうなんですね」
「まぁ俺はそこまでランナーズハイって感覚ない気がするけどね、辞めちゃったし。練習もひたすら走って1秒を削り出すみたいな、辞めて考えてみたら、相当だよな」
上手く説明をしようとしてくれているようで饒舌なのだけど、やはり笑顔が少し控えめに見える。
青瀨先輩は足の怪我で辞めてしまったんだろうか。
「…キロ単位で走ったことないです、俺」
「ん?そう?」
「体育でもそういうの、見学してて」
「苦手?」
と言うより。
「気管支が弱いんです。体育も補修とか、なしになるというか…」
「あぁ、なるほどね。えー、そゆときってどんな感じ?」
「レポート提出とかになりますね…あんまりなんか、クラスに居にくい雰囲気になるんですけど…」
「へぇー、なんかそれはなぁ。まぁ走るの苦しいからなぁ、けど僻みだよなぁ。それでサボったわけ?」
「うーん…まぁ、今回は別ですけど似たようなものですね」
自分が愛想笑いをしてしまっていることにふと気が付いたのは、青瀨先輩の表情は柔らかだけど、目の奥で俺を捉えて考えているように見えたからかもしれない。
愛想笑いなんて一日のうちに何時間もしていることだけど、そんな当たり前になんだか居心地が悪く感じた。
「息苦しさで言ったら俺よりもあるのかな?どっちかね?」
と言う青瀨先輩の質問の意図は読めないけれど、そう、多分俺のことを今日初めて考えたのかもしれないと、感じ取った。
「…身体的なことですかね?俺の発作はまぁ、一過性で…5分とか、酸素吸入器とかで納めることができますから…先輩たちはそれよりは苦しいのかなぁ?と…」
「真面目な答えだなぁ。うーん、確かにそうなのかなぁ?でも俺たちはやりたくて」
笑顔から言葉に詰まってしまった青瀨先輩に、やっぱり何か理由があって辞めてしまったんだな、と確信した。
「まぁ大変だけどな。志波くん、でもならどうして鳴海なんだ?」
どうしてかはわからないけれど。
「…走ってる姿がなんだか、走るの好きなんだろうなと思って。
先輩も、陸上好きだったんでしょう?きっと」
俺がそう言うと青瀨先輩は言葉に詰まる。
駅の前だった。青瀨先輩は立ち止まり、「あぁ、」とにやっと笑って続けるのだった。
「志波くん、いいなぁ、」
何故それで青瀨先輩が笑ったのか、だけど俺は愛想笑いでもなく笑えた気がした。答えをどうしようかなと考えてすぐに浮かんできたのは、先生に少し怒っていた青瀨先輩だった。
「青瀨先輩は「お前」と呼ぶ人、嫌いなんですか?」
「ん?」
「ふといま思ったんで」
「うーん、あんま意識したことないけど」
そうなんだ。
何故だろう、なんだか嬉しくなった。
「青瀨先輩は何故怒ったのかなって」
そう、俺はいま、息も気持ちも殺すことがなく自然に考えて素直に吐き出せている気がしている。それは何故だろうか、なんとなくこの場所でわかる気がしている。
「…ははっ、」
貴方にとって当たり前なことだったとしても。
少し、この駅で別れたくないなと先伸ばしにしてしまう質問なのかもしれない。
「お前、俺に興味ないでしょ」
ごく普通に青瀨先輩も笑ってくれた、八重歯が少し子供っぽい気がして、それでもその笑顔に哀愁や色気、魅力的を感じたのだから。
小さい頃に見た流星群は、高温で流れて一瞬で透明になってしまった、それはとても綺麗で、泣きそうになったんだ。
「それって凄くいい」と笑ってくれた先輩に、なのに暖かい気持ちが溢れていくことも、悪いことのような、密かな嬉しさなような気も抱いた。
震えそうなこれは、凍えているわけじゃない。
「いつも朝は何時に学校くんの?
門まで迎えに行くよ。明日も来いよ、図書室に」
「…8時くらいですけど…」
「俺朝練くらいからいるんだ、いつも」
その日はそれで別れた。
陸上部で茶髪は確かに怒られそうだ。
「志波くんさ、部活やってないの?」
「あ、まぁはい」
「ふーん。いつも直帰?」
「そうですね。俺もバイト探さないと」
「あ、俺も俺も」
「先輩は陸上部ではない?」
間が出来てしまった。日本語がおかしい。
青瀨先輩はやっぱり笑って「ではないではない」と言う。
「まぁ、だった、てやつ。辞めた。
てか志波くん話しやすいな、なんか」
「え?」
「言われない?」
「言われたことないです」
「また外したかー」
話はそこで反れてしまいそうだったけれど、「鳴海ってすげぇよな」と少しの短い間の後にまた振られた。
「……陸上ってまぁでも、追い込み型しか出来ねぇもんだけどさ。耐えすぎても過信なんだよなぁ」
ぎこちなく、どこか上の空に話す青瀨先輩はもしかして話題とか間とか、気にしてくれたのかもしれないと思ったから。
話を聞こうと、俺は青瀨先輩を待ってみることにする。
「なんというか…20キロとかの単位で走るからさ。うーん50m走は意外と8とか…10秒くらいなんだよね」
「20キロ、ですか」
「うん、まぁ箱根とかそうなんだよ。ドMが向いてる競技、長距離は。息苦しさの先とかに快感があったりしてさ、ランナーズハイてやつなんだけど」
「あぁ、そうなんですね」
「まぁ俺はそこまでランナーズハイって感覚ない気がするけどね、辞めちゃったし。練習もひたすら走って1秒を削り出すみたいな、辞めて考えてみたら、相当だよな」
上手く説明をしようとしてくれているようで饒舌なのだけど、やはり笑顔が少し控えめに見える。
青瀨先輩は足の怪我で辞めてしまったんだろうか。
「…キロ単位で走ったことないです、俺」
「ん?そう?」
「体育でもそういうの、見学してて」
「苦手?」
と言うより。
「気管支が弱いんです。体育も補修とか、なしになるというか…」
「あぁ、なるほどね。えー、そゆときってどんな感じ?」
「レポート提出とかになりますね…あんまりなんか、クラスに居にくい雰囲気になるんですけど…」
「へぇー、なんかそれはなぁ。まぁ走るの苦しいからなぁ、けど僻みだよなぁ。それでサボったわけ?」
「うーん…まぁ、今回は別ですけど似たようなものですね」
自分が愛想笑いをしてしまっていることにふと気が付いたのは、青瀨先輩の表情は柔らかだけど、目の奥で俺を捉えて考えているように見えたからかもしれない。
愛想笑いなんて一日のうちに何時間もしていることだけど、そんな当たり前になんだか居心地が悪く感じた。
「息苦しさで言ったら俺よりもあるのかな?どっちかね?」
と言う青瀨先輩の質問の意図は読めないけれど、そう、多分俺のことを今日初めて考えたのかもしれないと、感じ取った。
「…身体的なことですかね?俺の発作はまぁ、一過性で…5分とか、酸素吸入器とかで納めることができますから…先輩たちはそれよりは苦しいのかなぁ?と…」
「真面目な答えだなぁ。うーん、確かにそうなのかなぁ?でも俺たちはやりたくて」
笑顔から言葉に詰まってしまった青瀨先輩に、やっぱり何か理由があって辞めてしまったんだな、と確信した。
「まぁ大変だけどな。志波くん、でもならどうして鳴海なんだ?」
どうしてかはわからないけれど。
「…走ってる姿がなんだか、走るの好きなんだろうなと思って。
先輩も、陸上好きだったんでしょう?きっと」
俺がそう言うと青瀨先輩は言葉に詰まる。
駅の前だった。青瀨先輩は立ち止まり、「あぁ、」とにやっと笑って続けるのだった。
「志波くん、いいなぁ、」
何故それで青瀨先輩が笑ったのか、だけど俺は愛想笑いでもなく笑えた気がした。答えをどうしようかなと考えてすぐに浮かんできたのは、先生に少し怒っていた青瀨先輩だった。
「青瀨先輩は「お前」と呼ぶ人、嫌いなんですか?」
「ん?」
「ふといま思ったんで」
「うーん、あんま意識したことないけど」
そうなんだ。
何故だろう、なんだか嬉しくなった。
「青瀨先輩は何故怒ったのかなって」
そう、俺はいま、息も気持ちも殺すことがなく自然に考えて素直に吐き出せている気がしている。それは何故だろうか、なんとなくこの場所でわかる気がしている。
「…ははっ、」
貴方にとって当たり前なことだったとしても。
少し、この駅で別れたくないなと先伸ばしにしてしまう質問なのかもしれない。
「お前、俺に興味ないでしょ」
ごく普通に青瀨先輩も笑ってくれた、八重歯が少し子供っぽい気がして、それでもその笑顔に哀愁や色気、魅力的を感じたのだから。
小さい頃に見た流星群は、高温で流れて一瞬で透明になってしまった、それはとても綺麗で、泣きそうになったんだ。
「それって凄くいい」と笑ってくれた先輩に、なのに暖かい気持ちが溢れていくことも、悪いことのような、密かな嬉しさなような気も抱いた。
震えそうなこれは、凍えているわけじゃない。
「いつも朝は何時に学校くんの?
門まで迎えに行くよ。明日も来いよ、図書室に」
「…8時くらいですけど…」
「俺朝練くらいからいるんだ、いつも」
その日はそれで別れた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
推理小説家の今日の献立
東 万里央(あずま まりお)
キャラ文芸
永夢(えむ 24)は子どもっぽいことがコンプレックスの、出版社青雲館の小説編集者二年目。ある日大学時代から三年付き合った恋人・悠人に自然消滅を狙った形で振られてしまう。
その後悠人に新たな恋人ができたと知り、傷付いてバーで慣れない酒を飲んでいたのだが、途中質の悪い男にナンパされ絡まれた。危ういところを助けてくれたのは、なんと偶然同じバーで飲んでいた、担当の小説家・湊(みなと 34)。湊は嘔吐し、足取りの覚束ない永夢を連れ帰り、世話してくれた上にベッドに寝かせてくれた。
翌朝、永夢はいい香りで目が覚める。昨夜のことを思い出し、とんでもないことをしたと青ざめるのだが、香りに誘われそろそろとキッチンに向かう。そこでは湊が手作りの豚汁を温め、炊きたてのご飯をよそっていて?
「ちょうどよかった。朝食です。一度誰かに味見してもらいたかったんです」
ある理由から「普通に美味しいご飯」を作って食べたいイケメン小説家と、私生活ポンコツ女性編集者のほのぼのおうちご飯日記&時々恋愛。
.。*゚+.*.。 献立表 ゚+..。*゚+
第一話『豚汁』
第二話『小鮎の天ぷらと二種のかき揚げ』
第三話『みんな大好きなお弁当』
第四話『餡かけチャーハンと焼き餃子』
第五話『コンソメ仕立てのロールキャベツ』
婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる