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Freak Disorder
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先輩はそれからチャイムで起きては、何をするわけでもなく、伸ばした腕に頭を乗せ暇そうに俺の教科書の端を指先で弄った。
それだけで、本当に静かにしている。
たまに目が合っても特に話もしない。それはそれでどうしたものかなと思う。
独特な雰囲気の人。
二回目、放課後の前にある掃除のチャイムでふと、「ちゃんとやってんじゃん」と漸く喋り、自分の課題を見せてきて「真っ白」と、笑う。
左に八重歯があった。そして名前は「青瀨理人」というらしい。
掃除当番が数人入ってきたタイミングで、先輩の担任と思われる髪の薄い先生が入ってきて「青瀨」と呼びつけた。
先生は俺をちらっと見ても何も言わない。掃除当番だと思われたのかもしれない。
青瀨先輩は先生に「はい」と、真っ白な課題をダルそうに渡したのだった。
「は?」
「わかんないわ」
「嘘吐けお前、ナメてんのか」
「俺勉強出来ねぇし」
「出来ないからやるんだろ」
先生よりも青瀨先輩の方が「やれやれ」と言いたそうに溜め息を吐く。
それに呆れた様子で「あのなぁ、」と先生は諭すようだった。
「お前知らねぇぞ、留年だからなマジで」
「留年するようだったらやめるし、そもそも留年って案外しないじゃん」
ふと青瀨先輩が俺を見たので嫌な予感しかしないが、やっぱり「まわりに留年したやついた?」と俺に話を振ってくる。
「…いない、ですけど」
「お前はなんだ、何年だ?」
「え、」
「絡むなよ先生。俺より遥かに立派な後輩だよ、サボってるけど」
「サボってんのにどこが立派なんだ担任は?誰だ?お前何年何組の誰だ」
「1年さ」
「お前お前言うんじゃねぇよセンセー」
俺の言葉は遮られた。
青瀨先輩は少しにやけているような、けれど眉間に皺が寄っているような表情を浮かべる。
怒鳴ってもいない、静かでもない、はっきりとそう言ったからだろうか。
関係のないまわりすらがシンとしてしまい、青瀨先輩はそこで初めてはっきりと不機嫌な表情で先生を睨んでいた。
「…なんだ、青瀨」
「まだ手ぇ出してねぇから問題ないですよね?センセー」
青瀨先輩はわざとらしく先生の前で両手をあげるが、淡々と冷静に言うのが少し、圧があるように感じる。
却って、イライラした表情の先生の方が悪者にさえ見えた。
「…1年3組の志波楓です。担任は長谷川先生です」
俺は先生にちゃんと名乗っておこうと考えた。
それに先生は見下ろすように俺を横目で見るのだけど「早退になってますから、多分」と進言。
「…多分ってなんだよ」
「俺はちゃんとクラスの学級委員に伝えてきました」
「いつ」
「5限です。保健室に行ったあと具合悪くて帰れなかったけど、だから、少し静かにしていたいです」
「…それは担任に言って親呼んでもらえよ」
「お願いします。まぁ、もう放課後ですけど。親に繋がったらいいですけれど」
「そういうのは自分で言いに行けよ」
「はい、そうですね」
「まったく、」
どうせ何もしないだろうし腹いせだろうけど。
「明日朝イチで出すから。そんなことより、大丈夫なのそれって」
青瀨先輩が先生を追い払うかのように背を向け俺に聞いてきた。
ぼんやりと先生を眺めていや、別に大丈夫ですよだなんて言えないなぁと口籠れば青瀨先輩は何かを察したのかもしれない。ちょっと表情を崩したように見えた。
二重だし目は濁ってないなと感じた。
掃除終了のチャイムが鳴って先生は「取り敢えず朝イチな」と青瀨先輩に言い捨て、掃除当番の生徒たちと共に図書室を出ていく。
青瀨先輩は何かを言いたそうだったのだけれど、特に何も言わずまた窓の手摺りに腰掛ける。課題は出しっぱなしだった。
「なんかごめん」
青瀨先輩はぼんやり校庭を眺めながらボソッと言った。
「絡まして」
「…いえ、別に大丈夫です」
「しかしよく思い付くよな、あれ、」
「あれ、ですか」
「言い訳というか。頭良いなぁ」
あんなにたどたどまとまっていなかったのに。
「リアルで若干マジで信じたけどどの辺が嘘?嘘だよね多分」
なるほどそのたどたどしさがリアリティだったのか。却って嘘臭いかなと思ったんだけど。
「いや、口下手なだけで…結構本当です。具合は悪くないので…その辺が嘘ですかね」
「まぁ確かに、」
青瀨先輩は堪えた笑いを少し吐き出したようだった。
「具合悪そうかどうかは俺じゃわからんけどまぁ顔色は悪くないよな」
「…わかるものなんですかね?」
「なんとなくって言うのかな。ほら、初対面だからなんとも言えねぇけど、例えば血の気がなくて顔真っ青とかいうのとも多分違うよなぁ」
「まぁ、はい」
「表情に出るタイプかも知らねぇしさ。じゃぁ大まかマジ?」
「あ、まぁ保健室には行きました。学級委員長にも言ったし」
「でもここに来たんだ」
「…まぁ…」
青瀨先輩は「まぁいいんだけどね」と話を打ち切り、そこからは言及しないようだった。
ぼんやりと校庭を眺め「暇だなぁ」とぼやく。
それだけで、本当に静かにしている。
たまに目が合っても特に話もしない。それはそれでどうしたものかなと思う。
独特な雰囲気の人。
二回目、放課後の前にある掃除のチャイムでふと、「ちゃんとやってんじゃん」と漸く喋り、自分の課題を見せてきて「真っ白」と、笑う。
左に八重歯があった。そして名前は「青瀨理人」というらしい。
掃除当番が数人入ってきたタイミングで、先輩の担任と思われる髪の薄い先生が入ってきて「青瀨」と呼びつけた。
先生は俺をちらっと見ても何も言わない。掃除当番だと思われたのかもしれない。
青瀨先輩は先生に「はい」と、真っ白な課題をダルそうに渡したのだった。
「は?」
「わかんないわ」
「嘘吐けお前、ナメてんのか」
「俺勉強出来ねぇし」
「出来ないからやるんだろ」
先生よりも青瀨先輩の方が「やれやれ」と言いたそうに溜め息を吐く。
それに呆れた様子で「あのなぁ、」と先生は諭すようだった。
「お前知らねぇぞ、留年だからなマジで」
「留年するようだったらやめるし、そもそも留年って案外しないじゃん」
ふと青瀨先輩が俺を見たので嫌な予感しかしないが、やっぱり「まわりに留年したやついた?」と俺に話を振ってくる。
「…いない、ですけど」
「お前はなんだ、何年だ?」
「え、」
「絡むなよ先生。俺より遥かに立派な後輩だよ、サボってるけど」
「サボってんのにどこが立派なんだ担任は?誰だ?お前何年何組の誰だ」
「1年さ」
「お前お前言うんじゃねぇよセンセー」
俺の言葉は遮られた。
青瀨先輩は少しにやけているような、けれど眉間に皺が寄っているような表情を浮かべる。
怒鳴ってもいない、静かでもない、はっきりとそう言ったからだろうか。
関係のないまわりすらがシンとしてしまい、青瀨先輩はそこで初めてはっきりと不機嫌な表情で先生を睨んでいた。
「…なんだ、青瀨」
「まだ手ぇ出してねぇから問題ないですよね?センセー」
青瀨先輩はわざとらしく先生の前で両手をあげるが、淡々と冷静に言うのが少し、圧があるように感じる。
却って、イライラした表情の先生の方が悪者にさえ見えた。
「…1年3組の志波楓です。担任は長谷川先生です」
俺は先生にちゃんと名乗っておこうと考えた。
それに先生は見下ろすように俺を横目で見るのだけど「早退になってますから、多分」と進言。
「…多分ってなんだよ」
「俺はちゃんとクラスの学級委員に伝えてきました」
「いつ」
「5限です。保健室に行ったあと具合悪くて帰れなかったけど、だから、少し静かにしていたいです」
「…それは担任に言って親呼んでもらえよ」
「お願いします。まぁ、もう放課後ですけど。親に繋がったらいいですけれど」
「そういうのは自分で言いに行けよ」
「はい、そうですね」
「まったく、」
どうせ何もしないだろうし腹いせだろうけど。
「明日朝イチで出すから。そんなことより、大丈夫なのそれって」
青瀨先輩が先生を追い払うかのように背を向け俺に聞いてきた。
ぼんやりと先生を眺めていや、別に大丈夫ですよだなんて言えないなぁと口籠れば青瀨先輩は何かを察したのかもしれない。ちょっと表情を崩したように見えた。
二重だし目は濁ってないなと感じた。
掃除終了のチャイムが鳴って先生は「取り敢えず朝イチな」と青瀨先輩に言い捨て、掃除当番の生徒たちと共に図書室を出ていく。
青瀨先輩は何かを言いたそうだったのだけれど、特に何も言わずまた窓の手摺りに腰掛ける。課題は出しっぱなしだった。
「なんかごめん」
青瀨先輩はぼんやり校庭を眺めながらボソッと言った。
「絡まして」
「…いえ、別に大丈夫です」
「しかしよく思い付くよな、あれ、」
「あれ、ですか」
「言い訳というか。頭良いなぁ」
あんなにたどたどまとまっていなかったのに。
「リアルで若干マジで信じたけどどの辺が嘘?嘘だよね多分」
なるほどそのたどたどしさがリアリティだったのか。却って嘘臭いかなと思ったんだけど。
「いや、口下手なだけで…結構本当です。具合は悪くないので…その辺が嘘ですかね」
「まぁ確かに、」
青瀨先輩は堪えた笑いを少し吐き出したようだった。
「具合悪そうかどうかは俺じゃわからんけどまぁ顔色は悪くないよな」
「…わかるものなんですかね?」
「なんとなくって言うのかな。ほら、初対面だからなんとも言えねぇけど、例えば血の気がなくて顔真っ青とかいうのとも多分違うよなぁ」
「まぁ、はい」
「表情に出るタイプかも知らねぇしさ。じゃぁ大まかマジ?」
「あ、まぁ保健室には行きました。学級委員長にも言ったし」
「でもここに来たんだ」
「…まぁ…」
青瀨先輩は「まぁいいんだけどね」と話を打ち切り、そこからは言及しないようだった。
ぼんやりと校庭を眺め「暇だなぁ」とぼやく。
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