アルカロイド

二色燕𠀋

文字の大きさ
上 下
55 / 73
Freak Disorder

2

しおりを挟む
 モヤモヤした気持ちのまま隣の棟の渡り廊下を早足で過ぎ階段を上がり理科室に着いたのは、1分前くらい。

 チャイムと同時にさっきの二人が入ってきて「相田、遅いぞ」と理科の先生に言われ号令が掛かった。

 理科室では相田さんの彼氏が実験台の向こう側の席だ、と忘れていた。名前順、志波の向かい側の高木たかぎくんは「おい志波」と、不機嫌そうに言ってくる。

「お前さっき見たよな」
「…いや、」
「惚けんなよ。バラしたら殺すからな」

 そうか、見せつけようとしていたのかと理解した。

「…見せたかったんじゃなかったの」

 セットした長めの髪は少し崩れていて「あぁ?」と恫喝されてしまうのだから堪ったもんじゃない。

 似合わない恋人。

「…殺すぞこの野郎」

 静かに言うけど同じ班の子は「どうした、二人とも」と声を掛けてくる。
 くだらない、けれど居心地が悪い。

「…別になんとも思ってないから。そんなに怒らないでよ」

 それにしんとしてしまいクラス全体が気付き始めてしまう。気まずい。だけど、くだらない。

「…前からてめぇの態度気に入らね」
「2班、どうした」

 先生が声を掛けてくる。
 高木くんは今の敵意を一瞬亡くしたように俺を見つめ、言葉を飲んだようだった。

 黙った教室に「…仲良くな」と先生は教科書を開き「教科書64ページ」と指示をする。
 高木くんは不貞腐れたように「面良いからって調子込みやがって」と、恐らく俺に吐き捨てた。

 やってられない。
 自然災害かよとイライラもして俺は立ち上がった。

 高木くんは唖然としたように見上げるしクラスもまた「志波、」と唖然としているのだけど「座りなさい」と言う先生にも構わず教科書とノートを持ちこの場を去ろうと考えた。

 待ちなさい、志波、と呼ばれるのもうざったいので「保健室に行ってきます」と、あとはざわめき始めたのも気にせず理科室を出たけど「おい志波!」と高木くんが出てきたようだ。

 だけど気にしない。

 廊下、雑踏もなくなりお経のような授業の声が響いた廊下に、溜め息が出るほど嫌になった。

 保健室に先輩はいるかなぁ。
 少し気になった。良い機会だし行ってみようと思い立つ。

 けれども向かっている最中、何かそれは意味があるのかなだとか、そんなことをふと考える。特に会ったって何もないだろうし、会ったからなんだと言うのだろう。
 でも、足は止まらない。やり場がなく止まらない。

 なんだか、心が酷く乾いている気がするな。
 俺の青春はなんだろう。

 高校に来た理由は辺鄙だった。知り合いの少ない場所。そこまでして俺は何かから逃れたいと、本気でそう思ったのだろうか。だから、みんなから一線を引いてしまうのだろうかと疑問を抱く。

 …そして、だからそういう意味じゃないというのもわかっているのに、顔のことを言われたのは胸がムカムカする。

 保健室の扉を開けるとすぐあの先輩がいて、心臓が止まりそうになった。

 ジャージに「鳴海」と刺繍されいる。
 彼はドアのすぐ前のソファーで裾を捲り、右のふくらはぎを揉んでいた。

 一重だったんだ。
 見上げた彼のハッキリした瞳が少し下がり「あぁ、利用かな?」と訪ねられて戸惑った。

「悪いな。今俺しかいないんだ。橋都賀はしつが先生、すぐ戻るはずだから名前を書いておいてくれないか」
「あ、はい…」

 ソファのすぐ側には2リットルのスポーツドリンク、ゴミ箱には沢山の茶色いテープやら湿布のゴミと何かの薬のシートが捨てられている。

「どうしたんですか、」

 つい、声を掛けてしまった。

 言ってしまったと気付いたのだが「あぁ、体育で足を痛めたんだ」と、何事もないことのように爽やかな笑顔で、先輩はそう言った。

 テーピングされた足は無駄も嫌味もなく筋肉がついていた。意外と綺麗なんだな、スマートだと眺めてしまう。
 微振動に揺れていた。
 これはもしかして痙攣なんだろうか。

「大丈夫ですか?」
「ん?うん、まぁ…処理も早いから。いまはちょっと痛いけど。君も具合は大丈夫かい?」

 言われてしまっては「あ、はい…」と微妙な返事になってしまうけれど実際には別に具合は悪くない。
 「ベッドなら全部空いてるよ」と言われて取り敢えず寝てみようと思った。

 ベッドに入ってすぐに「あったよ鳴海なるみ」と先生が入ってきたようだった。

 今日は無理なんじゃない?切れちゃうし。いや、部活までにはなんとかなりますよ。

 そんな会話が聞こえて来る。

「…このまま行ったらホントにダメになっちゃうよ、それはもう痙攣してるでしょ」
「少しやってダメだったらちゃんと帰ります。冷やせば大分変わるでしょう?」
「先生としては今日はもうやめなさいと言うけど。知らないよ?
 あんたは大学も4年あるし、いま切っちゃうこともないでしょ」

 先輩、そんなに酷いんだ。
 それって相当痛かったんじゃないか、さっきだって。

「…そうだ、さっき1人来たからベッドに通しました」
「ん?」

 ガサガサと音がするのみになる。
 先生はきっといま俺の名前と「体調不良」を確認しているのだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】小学生に転生した元ヤン教師、犬猿の仲だった元同僚と恋をする。

めんつゆ
BL
嫌われていると思っていたのに。 「どうやらこいつは俺の前世が好きだったらしい」 真面目教師×生意気小学生(アラサー) ーーーーー 勤務態度最悪のアラサー教師、 木下 索也。 そんな彼の天敵は後輩の熱血真面目教師、 平原 桜太郎。 小言がうるさい後輩を鬱陶しく思う索也だったが……。 ある日、小学生に転生し 桜太郎学級の児童となる。 「……まさか、木下先生のこと好きだった?」 そこで桜太郎の秘めた想いを知り……。 真面目教師×生意気小学生(中身アラサー)の 痛快ピュアラブコメディー。 最初はぶつかり合っていた2人が、様々なトラブルを乗り越えてゆっくりと心通わせる経過をお楽しみいただけると幸いです。

今日も武器屋は閑古鳥

桜羽根ねね
BL
凡庸な町人、アルジュは武器屋の店主である。 代わり映えのない毎日を送っていた、そんなある日、艶やかな紅い髪に金色の瞳を持つ貴族が現れて──。 謎の美形貴族×平凡町人がメインで、脇カプも多数あります。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

【R18+BL】ハデな彼に、躾けられた、地味な僕

hosimure
BL
僕、大祇(たいし)永河(えいが)は自分で自覚するほど、地味で平凡だ。 それは容姿にも性格にも表れていた。 なのに…そんな僕を傍に置いているのは、学校で強いカリスマ性を持つ新真(しんま)紗神(さがみ)。 一年前から強制的に同棲までさせて…彼は僕を躾ける。 僕は彼のことが好きだけど、彼のことを本気で思うのならば別れた方が良いんじゃないだろうか? ★BL&R18です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合系サキュバス達に一目惚れされた

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

つまりは相思相愛

nano ひにゃ
BL
ご主人様にイかないように命令された僕はおもちゃの刺激にただ耐えるばかり。 限界まで耐えさせられた後、抱かれるのだが、それもまたしつこく、僕はもう僕でいられない。 とことん甘やかしたいご主人様は目的達成のために僕を追い詰めるだけの短い話です。 最初からR表現です、ご注意ください。

処理中です...