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「ふざけるなよ」
完璧にそれが怒らせてしまったらしい。
「そんなのとっくにわかってるよ」
「だったら、」
「それくらいでこんな面倒なやつと付き合うと思ってんのかあんた」
息が止まりそうだけど、何故だか怒る気力はない。自覚があるからだ、面倒で、どうしようもないと。
「…何に傷心してるか、ショックだったんでしょ。でも俺はなんとも思ってないし」
「違くて、」
押し返した楓に素直に応じて離れてやる。
起き上がって息を整える姿を方肘をついて眺める。
「…いつも、そうで、」
「何が」
「例えば…、君には面倒だっただろうとか、母さんにだってそうで」
「いまお前の母さんどうだっていいけど」
「そうじゃなくて、」
「自己陶酔とかいま面倒なんだけど」
「うん、わかってる」
「わかってないよね」
頭が冴えない。
「だからお前になんて押し付けたくないんだって言ってんでしょ、もう!」
「はぁ?」
「ずっと、ずっと思ってて、だってあんなの不可抗力だし、俺はどうしても頭悪いし、でもなんだか、どうしたらいいかわかんなくて、ただただ傷付けて、めんどくさくて、だって俺は自分なんて愛せなくてしょうがない、」
低くも色や温度のある訴えだった。
そうか端から、相違ばかりでここまで来てしまったのかと真麻は漸く理解した。
「…そんなこと考えてたの?ずっと、4年も」
「…言わなかったのは」
「俺は一度も楓をお荷物だとか思ったことないよ。不可抗力だなんて、確かにそうかもしれないけど…」
徐々に弱まる真麻の声に、楓はそうか、傷付けたんだと理解した。
何も言えなくなった真麻に、より楓の焦燥が走る。
「…真麻」
返事もない。
始めからそう、同じものは見ていなかった。
「だから、ごめん、」
だがそれは初めからわかっていた気がする。
「別に謝るなよ」
「うん」
「…あぁ、もう、」
だから腹が立つ。
緑が茶色だと知っている。黄色も同じ色で、自分の世界に色など少なかった。
だけど。
「俺が楓に与えてあげたものはそんなもんだったの?」
「…いや、」
「俺にはたくさんあって、でもよく知らない」
「真麻、」
「君を傷付けるものが君自身であるならば、俺は君を一生かけても許すことが出来ない。
年下の理論かもしれないけれど」
不確かで、不完全で。だから憧れてきたものだった。だから、互いに拾ってみたってよかった、そうしてきたと思っていて。
守りたかったのかもしれないだなんて、誰に言い訳をしたかったのだろうか。
本当は世界なんて滅びてしまえば良いと思っていた。
心に振り回されてきた。一向に、大人になんてなれなかった。
また言葉は飲み込まれてしまう。
泣くことすらも耐えるような自分を、ざまぁねぇなと嘲笑う端っこの自分がいる。結局自分本意でしかないじゃないか、満足もしないくせにと夜の闇が攻め込んでくる。
単純に好きで、それでも臆病にどんどん欠如していく、食べられていくことが怖くなることがある。
それすら言えないままだから自棄になって、傷付き、傷付けてきた。
だから終わりにしようよ。
明日が消えそうになる。
また布団に潜れば一人になってしまったなと、けれどたくさんを思い出す。学童保育の話をしたこともあるし、朝を迎える真麻はいつも優しいのだし、頭が真っ白、それでたくさん溢れてくる。
白が黒に変わる夜空に星のような穴が開く。色がわからない、星というものは。
明日が見えそうになる。
震えている気がした楓の背にいたたまれずまた抱き締めては、そうか小さな、星空のような穴を明け、そこに流れ込む物質があるのかと、「楓、」と吹き込まずにはいられなくなった。
優しく白いその光に、「ごめんね」が走る。
「でも、」
離したくはないんだよ。
不確かなままでも、それでいい、ずっと続いて欲しい。
首筋に口を添えたら微かに震えていた。透明な塩分が含まれる。
そう、どうかしていたんだよ。星も見えない場所で。ゆっくり、落ちていくようで。
朝は恐らく、青白い。
アルカロイドが、溢れていく。
完璧にそれが怒らせてしまったらしい。
「そんなのとっくにわかってるよ」
「だったら、」
「それくらいでこんな面倒なやつと付き合うと思ってんのかあんた」
息が止まりそうだけど、何故だか怒る気力はない。自覚があるからだ、面倒で、どうしようもないと。
「…何に傷心してるか、ショックだったんでしょ。でも俺はなんとも思ってないし」
「違くて、」
押し返した楓に素直に応じて離れてやる。
起き上がって息を整える姿を方肘をついて眺める。
「…いつも、そうで、」
「何が」
「例えば…、君には面倒だっただろうとか、母さんにだってそうで」
「いまお前の母さんどうだっていいけど」
「そうじゃなくて、」
「自己陶酔とかいま面倒なんだけど」
「うん、わかってる」
「わかってないよね」
頭が冴えない。
「だからお前になんて押し付けたくないんだって言ってんでしょ、もう!」
「はぁ?」
「ずっと、ずっと思ってて、だってあんなの不可抗力だし、俺はどうしても頭悪いし、でもなんだか、どうしたらいいかわかんなくて、ただただ傷付けて、めんどくさくて、だって俺は自分なんて愛せなくてしょうがない、」
低くも色や温度のある訴えだった。
そうか端から、相違ばかりでここまで来てしまったのかと真麻は漸く理解した。
「…そんなこと考えてたの?ずっと、4年も」
「…言わなかったのは」
「俺は一度も楓をお荷物だとか思ったことないよ。不可抗力だなんて、確かにそうかもしれないけど…」
徐々に弱まる真麻の声に、楓はそうか、傷付けたんだと理解した。
何も言えなくなった真麻に、より楓の焦燥が走る。
「…真麻」
返事もない。
始めからそう、同じものは見ていなかった。
「だから、ごめん、」
だがそれは初めからわかっていた気がする。
「別に謝るなよ」
「うん」
「…あぁ、もう、」
だから腹が立つ。
緑が茶色だと知っている。黄色も同じ色で、自分の世界に色など少なかった。
だけど。
「俺が楓に与えてあげたものはそんなもんだったの?」
「…いや、」
「俺にはたくさんあって、でもよく知らない」
「真麻、」
「君を傷付けるものが君自身であるならば、俺は君を一生かけても許すことが出来ない。
年下の理論かもしれないけれど」
不確かで、不完全で。だから憧れてきたものだった。だから、互いに拾ってみたってよかった、そうしてきたと思っていて。
守りたかったのかもしれないだなんて、誰に言い訳をしたかったのだろうか。
本当は世界なんて滅びてしまえば良いと思っていた。
心に振り回されてきた。一向に、大人になんてなれなかった。
また言葉は飲み込まれてしまう。
泣くことすらも耐えるような自分を、ざまぁねぇなと嘲笑う端っこの自分がいる。結局自分本意でしかないじゃないか、満足もしないくせにと夜の闇が攻め込んでくる。
単純に好きで、それでも臆病にどんどん欠如していく、食べられていくことが怖くなることがある。
それすら言えないままだから自棄になって、傷付き、傷付けてきた。
だから終わりにしようよ。
明日が消えそうになる。
また布団に潜れば一人になってしまったなと、けれどたくさんを思い出す。学童保育の話をしたこともあるし、朝を迎える真麻はいつも優しいのだし、頭が真っ白、それでたくさん溢れてくる。
白が黒に変わる夜空に星のような穴が開く。色がわからない、星というものは。
明日が見えそうになる。
震えている気がした楓の背にいたたまれずまた抱き締めては、そうか小さな、星空のような穴を明け、そこに流れ込む物質があるのかと、「楓、」と吹き込まずにはいられなくなった。
優しく白いその光に、「ごめんね」が走る。
「でも、」
離したくはないんだよ。
不確かなままでも、それでいい、ずっと続いて欲しい。
首筋に口を添えたら微かに震えていた。透明な塩分が含まれる。
そう、どうかしていたんだよ。星も見えない場所で。ゆっくり、落ちていくようで。
朝は恐らく、青白い。
アルカロイドが、溢れていく。
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