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小学校が見える。
この先僕は、お母さんはどうなってしまうのだろうとぼんやり、アスファルトばかりを見ていた小学生の頃が晴れたこの道を歩いていく気がしている、少し開けた窓に外の匂いとタバコに火をつけた音。
車通りはあるけれど、景色は静かにシャットダウンされ、止まっている気がする時速70kmはまだ止まりそうにない。流星のように走っている。
もし本当にこの世界が終わるのならば、母と、カタツムリのように縮こまって宇宙の屑になりたいと思った1999年。
その時そうか、何歳だったんだろう、生まれていたのだろうかと、楓の車に意識が戻ったとき、丁度真麻の「コンビにねぇなぁ…」と言うぼやきが聞こえた。
窓の景色から振り返ると真麻の咥えた紫煙は細く、緩んだ糸のように窓の外へ吸い込まれていくように見える。
タバコを挟む指やその掌が大きく見える。
「そろそろ高速入りそうなんだけどなぁ」
「さっき寄っとけばよかったね」
「あったっけ」
「うーんと確かセブン」
「あー、あったかも、ちょっと前かな?あれから…5?キロか全然ないんだけど、困ったな」
「そんなに前だっけ」
信号で停まって真麻がふと楓を見てにやりと笑った。
「曲がればありそうだ」
とナビを見て真麻は言った。
知らない町の名前だなと、ナビの下の方に表示された町の名前にぼんやりと楓は思う。縁もゆかりもない町。
「ここしかなさそうだし、うーん次に左かな」
「そうだね」
「小腹すいてない?あっちついたらなんか食おうか、買って行こうか、」
「んー、お昼はまぁ何かあるよ」
不思議な感覚だった。
信号は青に代わり、車はまた走り出す。
いま自分は、故郷だが縁もゆかりもない場所に向かっている。
変な感覚だった。
楓の心はどうにも青ざめそうな、少し遠くからその事実を眺めるような心境。ここも少しは都会から遠ざかった場所で、やはり思ったよりは交通だとか、そんなものも不便に感じる。
あまり車にも乗らないせいか、真麻も、出発時には不馴れにナビを設定していた。時間も見当がつかないようで、結局長く高速に乗るルートにまんまと乗せられてしまったらしい。
最近赤に×がうっすら見える。
電車でいいのではないかと、始めに楓は真麻に提案したが、「小旅行みたいだな」と言ってくれた眼に見えた優しさにすら、一線は置いてしまった気がしている。
本当は、真麻だっていくらか不安や予想のつかない気持ちに対峙している筈なのに。
いくら真麻を横目で覗いても、彼は家を出る前からずっと、どこか愉快そうな雰囲気だった。
楓本人はどうにもうだつが上がらなそうだというのに。こんな時に気持ちの体格差を垣間見る。
楓の母は、…父は一体どちら寄りの気持ちなのだろうか。そんな不安すら真麻には読み取れる気がしている。自分はどこまでも、これに関しては本来客人であり他人なのだ。考えられることなど恋人の、レム睡眠のようなそぞろの気持ちだろうか。物思いに流れる景色を眺め静かな楓を眺める。
コンビニの駐車場で目が合う。
楓は深さを殺すような視線で、それは水流を眺めるようなものに近い。
真麻は薄く笑うようで、優しさを深みに嵌まらせた表情でふと楓の髪を少し撫でた。
一息吐くことすら、安堵か不安か、しかし互いに名を呼ぶ声は喉に流し込んでしまう。
「…暫くコンビニはないだろうから」
「…そうだね」
二人で車を降りて、休憩やトイレや買い物を済ませる。
車に戻ろうかで、何も言わずにわりとあっさりと手を繋いでくれた真麻に心強さがあった。本当は自分が手を取るべきだったのではないかと楓は思うのだが、真麻は本当に、自然だった。
車に乗り運転を再開すると真麻は「海があるなぁ」と、言葉足らずにそう言った。
この先僕は、お母さんはどうなってしまうのだろうとぼんやり、アスファルトばかりを見ていた小学生の頃が晴れたこの道を歩いていく気がしている、少し開けた窓に外の匂いとタバコに火をつけた音。
車通りはあるけれど、景色は静かにシャットダウンされ、止まっている気がする時速70kmはまだ止まりそうにない。流星のように走っている。
もし本当にこの世界が終わるのならば、母と、カタツムリのように縮こまって宇宙の屑になりたいと思った1999年。
その時そうか、何歳だったんだろう、生まれていたのだろうかと、楓の車に意識が戻ったとき、丁度真麻の「コンビにねぇなぁ…」と言うぼやきが聞こえた。
窓の景色から振り返ると真麻の咥えた紫煙は細く、緩んだ糸のように窓の外へ吸い込まれていくように見える。
タバコを挟む指やその掌が大きく見える。
「そろそろ高速入りそうなんだけどなぁ」
「さっき寄っとけばよかったね」
「あったっけ」
「うーんと確かセブン」
「あー、あったかも、ちょっと前かな?あれから…5?キロか全然ないんだけど、困ったな」
「そんなに前だっけ」
信号で停まって真麻がふと楓を見てにやりと笑った。
「曲がればありそうだ」
とナビを見て真麻は言った。
知らない町の名前だなと、ナビの下の方に表示された町の名前にぼんやりと楓は思う。縁もゆかりもない町。
「ここしかなさそうだし、うーん次に左かな」
「そうだね」
「小腹すいてない?あっちついたらなんか食おうか、買って行こうか、」
「んー、お昼はまぁ何かあるよ」
不思議な感覚だった。
信号は青に代わり、車はまた走り出す。
いま自分は、故郷だが縁もゆかりもない場所に向かっている。
変な感覚だった。
楓の心はどうにも青ざめそうな、少し遠くからその事実を眺めるような心境。ここも少しは都会から遠ざかった場所で、やはり思ったよりは交通だとか、そんなものも不便に感じる。
あまり車にも乗らないせいか、真麻も、出発時には不馴れにナビを設定していた。時間も見当がつかないようで、結局長く高速に乗るルートにまんまと乗せられてしまったらしい。
最近赤に×がうっすら見える。
電車でいいのではないかと、始めに楓は真麻に提案したが、「小旅行みたいだな」と言ってくれた眼に見えた優しさにすら、一線は置いてしまった気がしている。
本当は、真麻だっていくらか不安や予想のつかない気持ちに対峙している筈なのに。
いくら真麻を横目で覗いても、彼は家を出る前からずっと、どこか愉快そうな雰囲気だった。
楓本人はどうにもうだつが上がらなそうだというのに。こんな時に気持ちの体格差を垣間見る。
楓の母は、…父は一体どちら寄りの気持ちなのだろうか。そんな不安すら真麻には読み取れる気がしている。自分はどこまでも、これに関しては本来客人であり他人なのだ。考えられることなど恋人の、レム睡眠のようなそぞろの気持ちだろうか。物思いに流れる景色を眺め静かな楓を眺める。
コンビニの駐車場で目が合う。
楓は深さを殺すような視線で、それは水流を眺めるようなものに近い。
真麻は薄く笑うようで、優しさを深みに嵌まらせた表情でふと楓の髪を少し撫でた。
一息吐くことすら、安堵か不安か、しかし互いに名を呼ぶ声は喉に流し込んでしまう。
「…暫くコンビニはないだろうから」
「…そうだね」
二人で車を降りて、休憩やトイレや買い物を済ませる。
車に戻ろうかで、何も言わずにわりとあっさりと手を繋いでくれた真麻に心強さがあった。本当は自分が手を取るべきだったのではないかと楓は思うのだが、真麻は本当に、自然だった。
車に乗り運転を再開すると真麻は「海があるなぁ」と、言葉足らずにそう言った。
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