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水びたしの日に
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不思議な人物だ。
横から真麻を眺める。
そもそも正義感だとかエゴだとか、そんなものは真麻のなかで、少しくしゃくしゃにされているようだ。
純粋を引き伸ばした世間知らずなのかもしれないが何も厭うことがないのかもしれない。
染まることに疑問がない。
「君ってどうしょもないね」
「ははっ、」
年下を感じる笑顔だった。
「あんたに言われたか」
「…攻めてる訳じゃないよ」
「あそう?まぁ、なんかあんたってそう言うこと出来なそう」
「そういうこと?」
「人のこと攻めるより自分に持ち帰ると言うか。ある意味質は悪いけど嫌いじゃないよ、俺はね」
やはり、刺された。
この刃物は一体なんなんだろうかと、痙攣した心に麻痺が通る。だが年下にはやはり笑って「偉そうかな?ごめん」と謝るシンプルさがある。
初めて会うタイプかもしれない。
「いや…別にいいよ」
「…そだ、そろそろ…。
夕飯には早いかなぁ?飯どう?」
「飯?」
頓狂な返事になってしまった。
真麻はそれに一瞬唖然としたような頓狂も見せたが、「そんなに驚くことかな?」と笑った。
「いや、予想だにしなくて」
「そうなんだ。何食いたい?」
「え、うーん…」
「嫌いなものとかない?」
「あんまり…」
「じゃぁ俺今凄くラーメン食いたいわ。いい?」
「…うん、いいよ」
にやっと笑った真麻は「よっしゃ、決まり」と、家とは少しズレた道を走り出す。
「どこがいいかなぁ」と店を物色して走る真麻は至って普通の、気取りもしない自然体で、楓もごく自然と「この辺確か、こってり系があった気がするよ」と答えていて。
「こってり系、好き?」
「うーん、そうでもないな」
「チェーンがいいかな」
「そうかもね。普通に醤油とか塩でいいかも」
「俺凄くなんかな、味噌食いたいわ」
「味噌?」
それはなかなか「ラーメン食いたいわ」と物色して店を探すようなチョイスではない気がするなと楓は思った。それにもまた不思議な感覚で。
「あ、味噌嫌いなタイプ?」
「いや、嫌いじゃないよ。それを目指して店を探すのってあんまりないなと思ったけどね」
「確かにそうかも。いや俺普段食べないんだよね味噌」
「あぁわかるかも。たまに食べたくなるやつだね」
「わかる?そうそう。家で作っても店で食っても正直一番変わらないやつ。けど無難というわけでもない」
「そうだね確かに」
その目と合ったら、なんだか漸く自然に笑えた気がした。面白いだとか、そういうことでもない、当たり前な気がする笑いだったと、自覚も出来る。
「それじゃぁ定食屋でもいいかもしれないね」
「あー、その手もあるね。どう?腹減ってこない?」
「そうかも」
それからすぐに、汚くはない、定食屋かラーメン屋か、恐らく幟は中華の“華”の旧式だか、中国語だかの漢字が窓にロゴとしてある、暖簾が掛かった店を見つけてそこにすることにした。
テーブル席については早々に「味噌ラーメン」と、まるで常連のように頼んだ真麻を見て楓は「そうか」と気付いて醤油ラーメンを頼む。
そうかこの年下は馴染みやすいような、そんな人柄なんだ。誰でもきっと、「なんだか初めて会った気がしないな」と思いそうな、そんなタイプで。
自分とも、自分が会ってきたタイプとは違う。壁が少し薄いのだろう、そう解釈をした。
気がつけば自分の肩の力すら抜けているような、そんな気がして不思議に思った。
肩の力を入れていようがいまいが、大したことなどないものなのか。
小さなそれが、ゆっくり、空気のように溶け込んで浸されていくように、ひどく心地よく、眠れそうな気さえしてしまった。
それに危機を感じるものだが、少し頭の隅に置けるほどの融和感が楓の心の大半を占めていた。
横から真麻を眺める。
そもそも正義感だとかエゴだとか、そんなものは真麻のなかで、少しくしゃくしゃにされているようだ。
純粋を引き伸ばした世間知らずなのかもしれないが何も厭うことがないのかもしれない。
染まることに疑問がない。
「君ってどうしょもないね」
「ははっ、」
年下を感じる笑顔だった。
「あんたに言われたか」
「…攻めてる訳じゃないよ」
「あそう?まぁ、なんかあんたってそう言うこと出来なそう」
「そういうこと?」
「人のこと攻めるより自分に持ち帰ると言うか。ある意味質は悪いけど嫌いじゃないよ、俺はね」
やはり、刺された。
この刃物は一体なんなんだろうかと、痙攣した心に麻痺が通る。だが年下にはやはり笑って「偉そうかな?ごめん」と謝るシンプルさがある。
初めて会うタイプかもしれない。
「いや…別にいいよ」
「…そだ、そろそろ…。
夕飯には早いかなぁ?飯どう?」
「飯?」
頓狂な返事になってしまった。
真麻はそれに一瞬唖然としたような頓狂も見せたが、「そんなに驚くことかな?」と笑った。
「いや、予想だにしなくて」
「そうなんだ。何食いたい?」
「え、うーん…」
「嫌いなものとかない?」
「あんまり…」
「じゃぁ俺今凄くラーメン食いたいわ。いい?」
「…うん、いいよ」
にやっと笑った真麻は「よっしゃ、決まり」と、家とは少しズレた道を走り出す。
「どこがいいかなぁ」と店を物色して走る真麻は至って普通の、気取りもしない自然体で、楓もごく自然と「この辺確か、こってり系があった気がするよ」と答えていて。
「こってり系、好き?」
「うーん、そうでもないな」
「チェーンがいいかな」
「そうかもね。普通に醤油とか塩でいいかも」
「俺凄くなんかな、味噌食いたいわ」
「味噌?」
それはなかなか「ラーメン食いたいわ」と物色して店を探すようなチョイスではない気がするなと楓は思った。それにもまた不思議な感覚で。
「あ、味噌嫌いなタイプ?」
「いや、嫌いじゃないよ。それを目指して店を探すのってあんまりないなと思ったけどね」
「確かにそうかも。いや俺普段食べないんだよね味噌」
「あぁわかるかも。たまに食べたくなるやつだね」
「わかる?そうそう。家で作っても店で食っても正直一番変わらないやつ。けど無難というわけでもない」
「そうだね確かに」
その目と合ったら、なんだか漸く自然に笑えた気がした。面白いだとか、そういうことでもない、当たり前な気がする笑いだったと、自覚も出来る。
「それじゃぁ定食屋でもいいかもしれないね」
「あー、その手もあるね。どう?腹減ってこない?」
「そうかも」
それからすぐに、汚くはない、定食屋かラーメン屋か、恐らく幟は中華の“華”の旧式だか、中国語だかの漢字が窓にロゴとしてある、暖簾が掛かった店を見つけてそこにすることにした。
テーブル席については早々に「味噌ラーメン」と、まるで常連のように頼んだ真麻を見て楓は「そうか」と気付いて醤油ラーメンを頼む。
そうかこの年下は馴染みやすいような、そんな人柄なんだ。誰でもきっと、「なんだか初めて会った気がしないな」と思いそうな、そんなタイプで。
自分とも、自分が会ってきたタイプとは違う。壁が少し薄いのだろう、そう解釈をした。
気がつけば自分の肩の力すら抜けているような、そんな気がして不思議に思った。
肩の力を入れていようがいまいが、大したことなどないものなのか。
小さなそれが、ゆっくり、空気のように溶け込んで浸されていくように、ひどく心地よく、眠れそうな気さえしてしまった。
それに危機を感じるものだが、少し頭の隅に置けるほどの融和感が楓の心の大半を占めていた。
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