アルカロイド

二色燕𠀋

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無彩色の畸形

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 電車を降り、桜で有名な公園へ向かう、長い陸橋を歩く。

 真麻は楓に電話を掛けた。頭の中は暖かい、楓と住んでいる我が家と楓がキッチンで親子丼を作る背中と。お帰り、着替えてきたら?と振り向くだろう。

 しかし、楓は電話に出なかった。
 もしかするとああは言ったが昼寝でもしてしまっているかもしれないし、それにより今絶賛焦って料理中なのかもしれない。
 一応二回は掛けたのだが、出なかった。

 桜か。

 公園の照明をふと見て思う。この冬を越えたらこのたくさんの木に桜が咲く。
 通勤や帰宅で春先にそれは無意識下で目に入るのだけど、一面に咲くこの木々で毎度春を実感するのだ。

 その景色は次で4度目。一緒に住み初めて3年と…半年くらいにはなるのだろうか。電車から桜をぼんやり眺めていた楓の姿に、「ここに住もうか」となんとなく、自然と口から出たのだ。

 「雪みたいだよねぇ、桜って」と言った楓を何故だかぼんやり思い出しては暖かい気持ちになる。踏み散らかさないように歩いた春。

 出会う前の楓を真麻は知らない。たまに楓から思い出した記憶を聞いても、例えば桜の綺麗な場所に住んでいたのか、雪の降り積もる場所に住んでいたのか。星空を眺めた楓の姿を思い出す。あまり綺麗に見えないねと言ったその時、きっと楓は田舎に住んでいたんだろうなとは思ったのだけど。

 楓のことを知りたいのか、知りたいと思ったことよりきっと、「ゆっくり時間を掛けていきたい」と思ったことを思い出した。だって、陸橋から落ちた楓が見た自分の背中より遥か彼方にあっただろう朧な視線にあった楓の星空の見え方は、一生真麻が見ることが叶わない景色だったはずだ。

 あのとききっと涙ぐんでいた楓が見た誰もいないその空に、自分がいたことを強く思えばいい。無くしたのなら俺が、ちゃんと無彩色から黒い夜空に変えてあげる、薄ピンクの桜に変えてあげる、そうやって塗り替え、塗りたくってどんどん愛していきたい。この公園は紫陽花も紅葉も綺麗だから。

 照明が明るい。確かに星は見えないなと、真麻は白い息で呼吸をした。帰ったら一緒に新譜を聴こう。
 公園の横の道から向かいへ渡り公園を背中にする。心なしか歩道橋は秋葉原より近いような、そんな気もした。

 けれども暖かさのなかに「おかえり」はなかった。
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