Eccentric Late Show

二色燕𠀋

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排他的経済本家

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「サチ子ん息子ん、敏郎ん息子ばい」

 ん。博多弁特有“ん”の乱用。
 東京に染まっちまった俺、果たしてこれが飛び交ったらキレないだろうか。(キレる準備をしている自覚あり)

 そしてどうやらババアだと発覚したその老人は振り向いて俺たちを一瞥し、勝手にさっさと、空いていた“The 大御所”みたいな、掛け軸の下辺りにどんと座り込み、今度は俺たちを一睨みした。

 多分今日のボス、こいつだ。
 これは座れということですな。

 俺はならばと、いま女が座っていた真横に座ってやった。
 位置的に女はババアのほぼ前、お前、俺はボスと対峙する義務がある退けよと、わざとピッタリくっついてやる。これでセクハラと言われたら太一、俺は今にでもキチガイのフリをして暴れるからよろしくなと、後ろにまだ突っ立っている(というか女のせいで座る場所がない)太一に視線を送る。
 軽く頷いてくれた。

 女は迷惑そうに俺の横顔をガン見しているので睨み返した。
 すると女、唖然顔。おいどうした女特権、特有の空気読まないふてぶてしいを使えよ、あ?舌打ちしそうになったところですごすご退いてくれました、もう一人分。

 あ、サンキュー悪いねオバハン。

 太一をもう一度見ると、笑いを噛み殺した顔で隣に胡座をかいた。

「さて、お話を始めてもよろしいでしょうか?」

 太一の問にババアは目すら合わせない。
 これは了承なのかどうかわからん。それに対し太一が「ふん、」と、口角を上げ嘲笑う。

 これはいかにもな雰囲気ですなぁ。

「…改めましてご紹介にあがりました。古里サチ子の孫、昴です。
 こちらの太一くんには、幼少期から思春期まで、太一くんの父、敏郎さん、夢子さんに大変お世話になりました。しかし、敏郎さんが事故で…亡くなったことによりその生活も終わりました。
 それから俺はずっと、まぁ、ボケたばあさんの世話をしながら、ご存じかは知りませんがお宅らの誰かから多分金を振り込まれたりしながら高校を出て大学を出て、生計をバイトで補って貯金をしながら漸く一人立ちをし、この歳にして遅めの社会人2年目を迎えております」
「は、」

 恐らく向かいの、ババアの左側二人目くらいに座っていた、還暦くらいのじいさんがなにか言おうとしている。
 俺が睨むように見れば、目を反らすようにババアを無理矢理見やる。

「ヨシさん、話ぁ違う」
「…にしゃしゃんはそん、連次郎ゆーんの息子なんやね?」
「それは誰ですか?
 俺は父親も母親も知らずに育って来ました。サチ子は俺を孫だと言い、敏郎さんの弟の子なんだとは言っていましたよ。
 ただ、いくら聞いてもあの人は俺の両親については何も教えてくれませんでした。
 ご用件はなんでしょうか?太一くんから聞いた話によると、遺産相続だと聞き及びましたが。しかし俺には宛がありませんね。なんせあのばあさんがそれほど金を持っていたなら何故俺がこれほど自立するのに苦労したか。
 しかし不思議なこともあるもんで、現在ばあさんは安定して介護施設にいます。金の心配なくねぇ。さぁ、んなんで遺産相続、果たしてなんだと言うんですか?」
「…古里家には今、借金のあっけん」
「へぇ、お大事にどうぞ」
「ばってん遺言書、遺産相続ん件に関してサチ子はあんたん名前ば書いとうんだ」
「はぁ?」
「だから、サチ子の死んだっちき、あんたの相続するこつになる、そん話ばってん、本人ん承諾っちゅうもんのだな」
「失礼ですがあんた、誰ですか?
 すみませんがここにいる全員、俺は初めてお会いするんですが誰も名乗らない。てかじゃぁその書類、持ってきてくださいよ持ってくるべき人が。誰ですか?
 ばあさんの直筆かどうかも、俺がしかるべき機関に依頼してその書類、見てやりましょう。なんせ、ばあさんはボケている。パソコンなんて使えないのはよく知ってるからな。
 ボケる前の字かどうか、果たして本当にばあさんのものか、あんたらも気になるだろ?
 いまの技術は最先端なんですよ。俺、印刷系勤務でしてね、そーゆーの、詳しいんですがどうです?え?」

 一息でそれっぽいこと言ってみた。
 どうせ後ろ黒い。こいつら、こっちがこう出りゃ弱るだろう。

「それから承諾するかしないか決めますよ」
「…ヨシさん、」
「…サチ子んもんじゃなか、サチ子ん旦那んもんばサチ子の相続したばいだけん話。だけんサチ子の死んだら家督ば継ぐもんの」
「家督?
 ヨシさん?あんた誰だかわからんが話が見えませんな。俺に家督を継がせようというのなら間違いです。サチ子がそう言ってるのなら俺はサチ子と縁を切る。なんせ、親がここのもんかもわからないのに家督と借金を、27の社会人2年目が背負ってどうする?お宅らそれで本気で飯食ってけるなんてまさか思ってないはずだ。
 つまり、お宅ら飯の種、あるんだろ?家督家督言ってんならまず洗いざらい出してくれや、でなけりゃ終わる。だって俺には経済力がない。
 整理しようじゃないか、お宅ら家計簿つけたこと、ある?」

 全員が黙りこける。空気も湿気た。
 こりゃぁ本気でその紙切れとやら、メモ帳かなんかだったりしてね。

「…そもそもそん、長男ん息子の来よるんだ、あんたの継いだらどがんね」

 先程のジジイが太一に矛先を変えた。
 太一がここに俺をつれてきた意味がわかってきた。

「えぇ。継ぎますよ。でもうるさいんでしょ遺言書なるやつは。だから昴くんを遠路遥々呼んだんですが。
 俺だって何千万なんてあのクソババアが遺してたなんて、んなの、継ぎたいですよ、いくら母さんが離婚してしまってお宅らと法律上縁もゆかりもなくなってたとしても、血縁ってもんがありますからねー。
 だがどうやら、借金?それを告げと言う話ですよね要するに。ババアが残した、なんなら老人ホーム代まで安定してあったはずなのに確かいくらだったか、どこいっちまったんだか」
「えぇ、そうなの太一くん」
「そうだよー。一生分くらいの財産は取っておいて別口座まで作り自動引き落としにして老人ホームにぶち込んだんだよ昴くん。それを条件に母さん、離婚したんだから」

 なるほどな。
 てか。
 それほどまでやはり嫌だったのか、夢子さん。
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