Eccentric Late Show

二色燕𠀋

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日常

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「どことなく似てますねぇ。てか可愛い~!」
「よね~!あぁ、これちょーだいよハゲ!」
「これがね、去年初花見」

 次の写真は、ハゲに抱っこされながら眉間にシワを寄せ恐る恐る桜に手を伸ばすゆあ。それを微笑ましく見るハゲ。公園だろうか。なんだよほのぼの一枚。やっぱ似てる。

「可愛い~!女の子っていいなぁ…てかハゲさんのこんな優しい顔とかなにこれ」
「あ、お前と撮ったのもあったな」

 見せられる、ぐったりしたゆあをおぶる俺。あぁ、これゆあが熱出して俺が子守りをしたときだ。テンパったなぁ。

「真樹がおんぶしてるよ新鮮。これ頂戴」
「お前らうるさいなぁ。はい、これ三人で撮ったやつ。真樹が撮ってくれたやつだよ」

 緩いカーブ?の黒髪の、おしとやかそうな奥さんとゆあとナトリ。これはいつだったか。奥さんが凄く照れ臭そう。

「奥さん綺麗ですね」
「そうなの。俺の奥さん綺麗なの」
「ノロけてる」 
「お子さんも可愛いじゃないっすか」
「でも聞いてよ…。
 普通さぁ、3歳なんていったら結婚したい人リストナンバーワンって父親でしょ?娘ってさ。
 由亜なんて言ったと思う?」
「真樹」
「当たりっ!ってなんで当てんだよ文杜!」

 ボソッと言った文杜の一言にハゲ反論。「いや、面倒見てるから。あとゆあちゃん人見知りだし」とズバリな回答。

「てか真樹お前由亜のこといつ口説いたぁ!てめぇ!」
「え?なに言ってんの?」
「『由亜、なぜあの社会不適合者なんだい?』って聞いたら、『まきちゃんだけ髪の毛きれいって。みんなバカにするのに』ってよ!」
「あぁ、言ったかも」

 それ確かハゲに子守りを頼まれた俺の引きこもり時代。
 なんなら俺はハゲの家に転がり込んでいた時期があった。

 その時確かゆあが、公園で遊んでいたら近所の男の子に水をかけられて。そんとき「パパには言わないで」って言われたんだ。

「どうして?」
「だってパパ、ゆあの髪は、パパが茶色だからだって」
「ふーん。
 でも綺麗だねゆあの髪。パパの髪もね、学校の頃…まぁ怒られたけど、俺凄く好きだったんだよ」
「…なんで?」
「俺日本人だから。手を加えないとそんな綺麗な色にならない。だから羨ましかったなー。ナチュラルでそんなにキラキラしてるの凄いじゃない」
「…そう?」
「うんうん。ゆあ綺麗だよ?」

 会話が思い出される。あの時ゆあ、確かに凄く照れ臭そうだった。

「だがなぁ、真樹!ウチの嫁はこう言ったさ由亜に。
『お婿さんにするなら、由亜が、世界で二番目に優しいなぁって思う人にしなさい』ってな!」
「それって褒めてるの?貶してるの?」
「結果ネロですぅ。お前に由亜はやらないね!」

 よくわかんねぇしバカだなぁこいつ。でも。

「深いねぇ美也子みやこさん…」
「一番優しいのは美也子にとって親父さんなんだとさ」
「やべぇ、俺泣いちゃいそう」
「泣かないでスバルくん、気持ち悪いから」

 お父さんが一番優しいだなんて。
いいなぁ国木田くにきだ嫁。でもだからナトリなんだろうなぁ。

 俺にとって一番優しい人、二番目に優しい人、誰だろう。

「真樹ちゃんモテモテだねぇ…」

 文杜がそう言って肩にまた抱きつくように凭れてくる。

 お前やっぱり出来上がってる?結構めんどくせぇなぁ…。やけに絡んできやがる。まぁでも。

「はいはい。文杜、大丈夫?今日叩いてごめんね」
「んー?」
「てか…」

 スバルくんが向かい側でなんか、凄く形容し難い顔で俺たちを見ているけど、それに対しげんちゃんとハゲが「あ、ほっといてやってください」だの、「あいつ今日珍しくナーバスだから」だの言われて納得している。だから気にせずそちらの反応はほっといて文杜の髪を撫でて取り敢えず寝かしつけようかと考える。

 髪の毛に芯があっていいなぁ、こいつの髪。固い。
 しばらく弄っているとふと、文杜は机に出したタバコに手を伸ばしてくわえた。ベースを弾くあの、しっかりとした指。

 そして、手を伸ばして自分のマルボロを一本、俺の口許に持ってきた。

「たまには俺の吸ってよ」

 仕方なく受け取ってくわえると、嬉しそうに笑ってジッポで火をつけてくれた。

 一口吐いて二口目。肺に広がる、いつもと違うヘビーさ。しかし爽快感が少しある。ラキストとはまた、違う。

 酔って潤んだような瞳は不意に前三人の方へ向いた。
 そして一言、「俺って人でなしかな?」そう言った文杜の声が飄々としていた。

 誰もそれに答えなかった、答えられなかった。

『俺って人でなしかな?』

 かつて彼は一度それを口にしたことがある。

 病院の屋上で。先輩をぶん殴ったその足でナトリと共に見舞いに来て俺にそう言った。
 そして先輩からかっぱらったというラッキーストライクをその、しっかりした手で投げて寄越して来たんだ。

「じゃぁ、なにかしようか」
「何か?」
「やめられなくなるようなことを、人でなしレベルで続けようか。本当に人でなしになったら、解散」
「それは死ぬってレベルで?」
「それもいいんじゃない?エキセントリックで」

 人生初タバコ、吸えなかった。噎せたし吹かしタバコになってしまったし。けれどもそれから俺たちは始まったのかもしれない。

 皆一様に単純な思考回路だった。
 ただ、「ヤンキー」「はぐれもの」「なんとなく音楽ばかり聴いている引きこもり」これがバンドだった。

 あの出合いはそう、虹。俺はそう思ってる。雨の泥濘を孕んだような奇妙な、そんな霧のなかにあったものだったと。
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