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An heroin near
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「両親は、知らない。交通事故で死んだようだ、俺が小さい頃に。ぶっちゃけこれも実話かどうか定かじゃない。ウチのばあちゃんの言い伝えじゃ死んだってことになってる」
「言い伝えってなに」
「うん、いやぁ。いないのは事実なんだけど、交通事故かどうか、最早真実はいま闇の中、と言うかね」
どうしてこんなに至極淡々と語っているのかはわからなかった。
しかし、変人眼鏡のフルサトスバルくんは、物語を語る、絵本を読み訊かせる大人のような哀愁で少し俯いて体育座りで膝を組んでいた。
目が合えば少しだけマシに微笑むような緩やかさを取り戻す彼は、はっきりとした眼鼻立ちだけど、今は少しだけ残念。少し腫れて漸く奥二重が二重になってる。先ほど大号泣したからだろう。
なんでそれほど泣いたのかは、解るような、解らないような。
「真樹凄い。なんか難しいこと考えてるでしょ」
「うん、まぁ」
秘技、読心術。
俺にない技。
彼はそれからセッターライトの、わりかし綺麗なソフトパックからひょいっとスマートにタバコを取りだし、くわえて火をつけてぼんやりと宙、というより煙を眺めていた。
彼ちょっとそーゆーとこある。無駄にノスタルジック。間の取り方が、少しだけ。
がちゃっとドアの音が聞こえた。それから思慮深い西東さんの一瞬あったワンクッションからの自然な笑顔とコンビニ袋。まさしく、スバルくんが好きな清志郎さんのコンビニだ。
「スバルくん」
「ん?」
「なんで清志郎好きなの」
「え?突然?」
スバルくんは唖然とした後、なにかを納得して「いやぁ、」と語り始める。
「あ、おかえりなさいませすんません」
「いえー。楽しそうだからどうぞ続けて。はい。好きなのどうぞ」
西東さんは、ソファーに座って酒が入った袋をテーブルに置き、一個一個を出すでもなく、くしゃくしゃっと両手で袋を雑にずらしたからそれが手品みたい。
でもそれ昔、やっちゃダメって自分で俺に言った気がする。
「これは今だけの手品です、R18だから大人にも内緒です」とか言って17の俺たちにたくさんのスミノフを見せつけたあの日に。
「それ西東さんダメって言った」
「ん?あら、あまちゃんいい子だね。どれ飲む?」
「ハイネケン」
ラインナップがハイネケン2本とバドワイザー1本とワンカップ焼酎にスポドリ、ジャックダニエルとジーマ2本、スミノフはカラフル。これあんまり選択肢を与えていない気がするんだけど西東さん、明日仕事ないのかな。
「ラインナップ…」
「この人そう言う人なの」
頭のネジが飛んでるの。俺が言うのもなんなんだけど。
スバルくんは納得したらしく、「あぁ、はい。サイトウさん、グラスは?」と聞く。
すかさず俺が、「二つください」と答える。スバルくんに壮絶な顔をされた。
お前は凄まじいの?と言う目で立ち上がったスバルくんを見上げてハイネケンを開ければ、仕方なしと言わんばかりに溜め息。
しかしおかんのような表情で、台所へ向かい、ガタガタとやり始めてしまった。
わかってますよ。仕方ないんですよ、君勘違いしてますけどこの人、頭のネジがないんですよ俺と一緒でね。俺が言うのもなんなんだけど。気を使ってこーゆーね、一言言ってあげないと君のなかで人でなしになっちゃうでしょ、この人が。
「あまちゃん、君なかなかだねぇ」
「なにがですか?」
「人の扱いが相変わらず上手。コミュ障なのにね」
「あんたホントに人として尊敬するわ」
クズだよねぇ。
じゃぁクズ話、酔っぱらってないけどぶっ込んでやろ。ハイネケンハイネケン。
一気に飲んでジーマも開けた。「うわぁ、」と西東さんが本気で嫌そうな顔をしているが構わん。
異変と気付いてスバルくん、急いで氷とプラスチックのコップを2つ持ってきた。あぁ、氷だったのね。
「はいカンパーイ」
テキトーに二人を急かすように、しかしちゃんと西東さんにはバドワイザー、スバルくんにはハイネケンを渡して乾杯。俺は大学生かよ。
つられるように乾杯した二人の、唖然だか呆れだかわからん表情に満足。こうでもしなけりゃ引っ張れない。
「あまちゃんいくねぇ」
「あのね西東氏。俺考えがあるんだけど」
「なんだい楽しそうに」
煽れば、少々ゲスな深い笑みを浮かべ、コートを脱ぐついでにポケットからブラックデビルを取り出した。ジッポの蓋を丁寧に両手で開けるのがなんか紳士的。
俺も思わずラキストを噛んで「ん!」とやれば何故か笑ってシガーキス。なんなのこの人。いちいちセンス。スバルくんが思わず顔を背けたのが視界の端で見える。
まぁいいや。
「で?なんだい」
「ふん、」
取り敢えず座って、ぶん投げてあった薄緑色のスキャンダルA4エロ袋を引っ張り、中身を取り出す。横でスバルくんがより気まずそう。
反応がいちいちこいつはなんだろう、童貞なのかなぁ。聞いてみようかな。
そう頭の片隅に思ったけど西東氏もわりと痛烈な表情に様変わりしてビールを煽る。
どうやらおかしいのはどちらかと言えば俺のようだ。ここはしかし割り切るしかない、事実だし。
分類で言えば“強姦”っぽく写っているやつを5枚くらい抜粋してテーブルに投げるように並べると、スバルくんが吹き出すというか嘔吐いたのが横目で見えた。
取り敢えず「大丈夫ぅ?」と声を掛けると、「いや、ごほっ、あっ、お、お前のが大丈っ、夫ですか」と言われてしまった。
「わりかし大丈夫よ~」
「昴くん、多分ね、僕達が気にしてるよりもこの子ネジ飛んじゃってるし頑丈だから多分…気にしないであげて」
言われたかあんたに。
いやわりかし気にしてるんだよ本当は。多分。まぁ気にされた方が気が滅入っちゃうけどさ。
「言い伝えってなに」
「うん、いやぁ。いないのは事実なんだけど、交通事故かどうか、最早真実はいま闇の中、と言うかね」
どうしてこんなに至極淡々と語っているのかはわからなかった。
しかし、変人眼鏡のフルサトスバルくんは、物語を語る、絵本を読み訊かせる大人のような哀愁で少し俯いて体育座りで膝を組んでいた。
目が合えば少しだけマシに微笑むような緩やかさを取り戻す彼は、はっきりとした眼鼻立ちだけど、今は少しだけ残念。少し腫れて漸く奥二重が二重になってる。先ほど大号泣したからだろう。
なんでそれほど泣いたのかは、解るような、解らないような。
「真樹凄い。なんか難しいこと考えてるでしょ」
「うん、まぁ」
秘技、読心術。
俺にない技。
彼はそれからセッターライトの、わりかし綺麗なソフトパックからひょいっとスマートにタバコを取りだし、くわえて火をつけてぼんやりと宙、というより煙を眺めていた。
彼ちょっとそーゆーとこある。無駄にノスタルジック。間の取り方が、少しだけ。
がちゃっとドアの音が聞こえた。それから思慮深い西東さんの一瞬あったワンクッションからの自然な笑顔とコンビニ袋。まさしく、スバルくんが好きな清志郎さんのコンビニだ。
「スバルくん」
「ん?」
「なんで清志郎好きなの」
「え?突然?」
スバルくんは唖然とした後、なにかを納得して「いやぁ、」と語り始める。
「あ、おかえりなさいませすんません」
「いえー。楽しそうだからどうぞ続けて。はい。好きなのどうぞ」
西東さんは、ソファーに座って酒が入った袋をテーブルに置き、一個一個を出すでもなく、くしゃくしゃっと両手で袋を雑にずらしたからそれが手品みたい。
でもそれ昔、やっちゃダメって自分で俺に言った気がする。
「これは今だけの手品です、R18だから大人にも内緒です」とか言って17の俺たちにたくさんのスミノフを見せつけたあの日に。
「それ西東さんダメって言った」
「ん?あら、あまちゃんいい子だね。どれ飲む?」
「ハイネケン」
ラインナップがハイネケン2本とバドワイザー1本とワンカップ焼酎にスポドリ、ジャックダニエルとジーマ2本、スミノフはカラフル。これあんまり選択肢を与えていない気がするんだけど西東さん、明日仕事ないのかな。
「ラインナップ…」
「この人そう言う人なの」
頭のネジが飛んでるの。俺が言うのもなんなんだけど。
スバルくんは納得したらしく、「あぁ、はい。サイトウさん、グラスは?」と聞く。
すかさず俺が、「二つください」と答える。スバルくんに壮絶な顔をされた。
お前は凄まじいの?と言う目で立ち上がったスバルくんを見上げてハイネケンを開ければ、仕方なしと言わんばかりに溜め息。
しかしおかんのような表情で、台所へ向かい、ガタガタとやり始めてしまった。
わかってますよ。仕方ないんですよ、君勘違いしてますけどこの人、頭のネジがないんですよ俺と一緒でね。俺が言うのもなんなんだけど。気を使ってこーゆーね、一言言ってあげないと君のなかで人でなしになっちゃうでしょ、この人が。
「あまちゃん、君なかなかだねぇ」
「なにがですか?」
「人の扱いが相変わらず上手。コミュ障なのにね」
「あんたホントに人として尊敬するわ」
クズだよねぇ。
じゃぁクズ話、酔っぱらってないけどぶっ込んでやろ。ハイネケンハイネケン。
一気に飲んでジーマも開けた。「うわぁ、」と西東さんが本気で嫌そうな顔をしているが構わん。
異変と気付いてスバルくん、急いで氷とプラスチックのコップを2つ持ってきた。あぁ、氷だったのね。
「はいカンパーイ」
テキトーに二人を急かすように、しかしちゃんと西東さんにはバドワイザー、スバルくんにはハイネケンを渡して乾杯。俺は大学生かよ。
つられるように乾杯した二人の、唖然だか呆れだかわからん表情に満足。こうでもしなけりゃ引っ張れない。
「あまちゃんいくねぇ」
「あのね西東氏。俺考えがあるんだけど」
「なんだい楽しそうに」
煽れば、少々ゲスな深い笑みを浮かべ、コートを脱ぐついでにポケットからブラックデビルを取り出した。ジッポの蓋を丁寧に両手で開けるのがなんか紳士的。
俺も思わずラキストを噛んで「ん!」とやれば何故か笑ってシガーキス。なんなのこの人。いちいちセンス。スバルくんが思わず顔を背けたのが視界の端で見える。
まぁいいや。
「で?なんだい」
「ふん、」
取り敢えず座って、ぶん投げてあった薄緑色のスキャンダルA4エロ袋を引っ張り、中身を取り出す。横でスバルくんがより気まずそう。
反応がいちいちこいつはなんだろう、童貞なのかなぁ。聞いてみようかな。
そう頭の片隅に思ったけど西東氏もわりと痛烈な表情に様変わりしてビールを煽る。
どうやらおかしいのはどちらかと言えば俺のようだ。ここはしかし割り切るしかない、事実だし。
分類で言えば“強姦”っぽく写っているやつを5枚くらい抜粋してテーブルに投げるように並べると、スバルくんが吹き出すというか嘔吐いたのが横目で見えた。
取り敢えず「大丈夫ぅ?」と声を掛けると、「いや、ごほっ、あっ、お、お前のが大丈っ、夫ですか」と言われてしまった。
「わりかし大丈夫よ~」
「昴くん、多分ね、僕達が気にしてるよりもこの子ネジ飛んじゃってるし頑丈だから多分…気にしないであげて」
言われたかあんたに。
いやわりかし気にしてるんだよ本当は。多分。まぁ気にされた方が気が滅入っちゃうけどさ。
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