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五
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怪我人がいるんです、とか、そんな的外れなことを言って入ったかもしれない。
灯が桜木に借りた服にはベッタリと…予想以上に血が付着していた、それは警察官の態度で気が付いた。
心配そうにすぐ、千香も追ってきて「桜木さんが、もう動かないんだけど…!」と騒いだことに、血の気が引いていく。
眩暈すら、呼び起こされそうで。
警察官は車まで来てくれて、「大丈夫ですか、意識はありますか」と突っ伏した桜木に声を掛けたが、辛うじて「痛ぇ」とだけしか彼は答えなかった。
「桜木さん、桜木さん、」と必死に呼び掛けた。応急処置をされるのももどかしい。
一応彼は少しだけ顔を歪めた。
「そのまま呼び掛けていてください、救急車を」
待って、まだ待つの。
この人本当に死ぬんじゃないのか、それ。でも、それしか出来ない、なんてもどかしい。どうしたらいいんだ。
桜木さん、桜木さん。
あんたが死んだらどうなるんだ。
桜木さん、桜木さん。
でも呼びながら考えがふと回った。
いまの状況、桜木が居なくなったとしても、ただ自由になれただけ、それだけで自分達が困りそうなことが、ないのかも知れないと。
いつか、誰かに言ったことが、ふと思い出された。
桜木さん、桜木さん。
いや、いいんだそんなこと、ダメだ、まず試しに起きてくれ。困る、困るんだよ、そうやってほっぽり出すな、ふざけるな。それじゃあ俺の気は済まない。
なんでかなんて今はいい、今は。
「桜木さん…!」
声が届いているかは、いまいちわからなかった。
そのうち救急車はやってきて、千香と二人で乗せられる。
わかる情報を伝えようとしたが、あまりよく知らないことに気が付いた。
千香が、冷静なようでいて震えた手で桜木の鞄を漁り保険証やら、お薬手帳やらは見つけ出した。
それだけであとは任せるしかなく、顔色が白いまま担架で寝かされている桜木を眺め、千香は静かにしがみついて泣いていた。
自分も凄く泣きたくて、怖くて、どうしようもなくて……愛しくて切なくて、もうどうにかなりそう。
でも千香を…と、「大丈夫、大丈夫…」本当は見てももう、死んでるんじゃないかとすら思えてしまって、「だ、いじょぶ、」と声が震えてくる。
もしも、世界中のみんなが。
ごめんね千香さん、俺、貴女を守れたこと、多分なかったんだ、いままでずっと、一度も。
息が詰まりそうだった。もう、代わりに死んでもいいのにと思えた。
いや、ここまで来ると死にたかった。例え千香を置いていったとしても。多分、そしたら桜木に嫌われるけど。
世界中の誰か、よりは近いこの瞬間に、ただの唖然の中へ、降り続けるその思いは。
灯が桜木に借りた服にはベッタリと…予想以上に血が付着していた、それは警察官の態度で気が付いた。
心配そうにすぐ、千香も追ってきて「桜木さんが、もう動かないんだけど…!」と騒いだことに、血の気が引いていく。
眩暈すら、呼び起こされそうで。
警察官は車まで来てくれて、「大丈夫ですか、意識はありますか」と突っ伏した桜木に声を掛けたが、辛うじて「痛ぇ」とだけしか彼は答えなかった。
「桜木さん、桜木さん、」と必死に呼び掛けた。応急処置をされるのももどかしい。
一応彼は少しだけ顔を歪めた。
「そのまま呼び掛けていてください、救急車を」
待って、まだ待つの。
この人本当に死ぬんじゃないのか、それ。でも、それしか出来ない、なんてもどかしい。どうしたらいいんだ。
桜木さん、桜木さん。
あんたが死んだらどうなるんだ。
桜木さん、桜木さん。
でも呼びながら考えがふと回った。
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いつか、誰かに言ったことが、ふと思い出された。
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いや、いいんだそんなこと、ダメだ、まず試しに起きてくれ。困る、困るんだよ、そうやってほっぽり出すな、ふざけるな。それじゃあ俺の気は済まない。
なんでかなんて今はいい、今は。
「桜木さん…!」
声が届いているかは、いまいちわからなかった。
そのうち救急車はやってきて、千香と二人で乗せられる。
わかる情報を伝えようとしたが、あまりよく知らないことに気が付いた。
千香が、冷静なようでいて震えた手で桜木の鞄を漁り保険証やら、お薬手帳やらは見つけ出した。
それだけであとは任せるしかなく、顔色が白いまま担架で寝かされている桜木を眺め、千香は静かにしがみついて泣いていた。
自分も凄く泣きたくて、怖くて、どうしようもなくて……愛しくて切なくて、もうどうにかなりそう。
でも千香を…と、「大丈夫、大丈夫…」本当は見てももう、死んでるんじゃないかとすら思えてしまって、「だ、いじょぶ、」と声が震えてくる。
もしも、世界中のみんなが。
ごめんね千香さん、俺、貴女を守れたこと、多分なかったんだ、いままでずっと、一度も。
息が詰まりそうだった。もう、代わりに死んでもいいのにと思えた。
いや、ここまで来ると死にたかった。例え千香を置いていったとしても。多分、そしたら桜木に嫌われるけど。
世界中の誰か、よりは近いこの瞬間に、ただの唖然の中へ、降り続けるその思いは。
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