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いつも、お姉さん…千香さんは優しい、そして病んでいる。
やはり考えてしまう。じゃああれはどうやってだなんて、実践でしかなくて。その実践が出会った時には手慣れていただとか、そんなことを皮切りに。
「まぁ、じゃあ名前くらいにしておこう。あとは兄貴があれだから。くらいで」
「でも、じゃあ……いや、ごめん、そうだね止めとく、止めとくよ」
「…お前さ。
なんで兄貴のフルネーム知っててあの子の名前は知んねーの、なんで聞かない」
「言わなかったってことだし、」
「そうだな。そーゆー態度が多分一番うぜえよ。同業ならわかんだろ」
「わかってるけど、」
「姉ちゃん良い商売してんじゃん。なるほど手腕が知れるな」
「…は、そうだな、」
「まぁ熱くなんな。冷ましてやる。お前らのそれ、共依存だぞ、びょーきだぞ、なぁ、」
「うるさいよわかってるってば!」
「でも確かにそうだ、その女も聞かなかったんだな」
…なんでこう話が通じないかな。
なのに、そっちはこんなにズバッと言い当てやがる。そうやって、からかって…。
まるで当て逃げだ。
「まぁ、別に全然いいんだけどさ」
「…あんたもお客と一緒だよ、からかうな。タチが悪いのはストーカー気質だ、出禁だそんなの、」
「客じゃねーもん」
「はぁ?」
「なんでわかんねぇかなお前。偏差値いくつだバカ野郎」
桜木は眉間を一度揉んだ後、「いや、まぁ悪かった思ってないけど」と、声はまた淡とする。
「バカは寝てろバカ野郎。
飯は」
「……お腹はすいてる、余計すいた」
「だよな。食欲あるなら大丈夫だな。
なんも作れねーからデリバリーね。嫌いなもんは?」
「お前とSM」
「はいはい。春菊天うどんね」
「え」
チョイス謎。
「栄養あってそこそこ食欲ない時に良いボリューム」
本当に宅配へ電話をし始めた。
自分は「ワンタン麺と餃子で」とこれ見よがしに餃子。
てゆうか餃子とワンタン被ってんじゃん。いいなお前のように引退したやつは、全く……。
「餃子とか」
「ラーメンで餃子食わねぇのは信仰に反するんだよ、地元の神様だかんなマジで。像まであるんだからな」
「…もういいや疲れる」
ま、こっちの餃子マズイけどねだなんて、大したご宗教だ。そうか宗教が違うのかと思えばなんだかどうでもよくなってきた。
仕方なし。価値観が違う。
桜木に背を向けて寝ると、やつは一度どこかに去ったようだ。
物音から察するにどうやら着替えているのかもしれない。
…目を瞑れば枕から桜木の匂いがした。整髪剤なんかも多分混ざっているような。そのまま寝ることもあるのかもしれない。
…なんで聞かなかった。
同情だったらと考えると自分のことを嫌いになりそうだけど、彼女も聞いてこないのをいいことにしていただなんて、それもより自分を嫌いになりそうで。
でもきっと、あっちの方が自分のことを知っていて。
言えるか、潰れそうな、実際潰れた施設で最早売春紛いをしていただとか。
言いたくないけど、そんなのはちっぽけで、多分彼女の方が重い、だから踏み出せなかった。
多分それを知ったら、こうして考えてしまって、それは半分くらい、重ねてしまったりしてエゴなのかなんなのかもうわからなくなってしまう闇があるだろうとか。
なんでこんなに自分は自己防衛、中心的なんだよと発狂してしまう気がするんだ。
ただ、誰しもが売春を嫌いな訳じゃないだろう。だから知って欲しくもないのだ、自分を。どこかで自分を蔑むことも……出来なくなっていた。
ぐちゃぐちゃに溶け混ざり、もうわからないところまで来てしまっている。
愛や恋、気持ちいいや気持ち悪い、善や悪。それこそ宗教なんかも。
漠然とシンプルに取り残されるのは自己嫌悪。やはり、自己中心的で自意識過剰と…いくらでも自分をぶっ殺しに掛かることが出来る、それも怖かった。
それを人の中で見るのすら。
桜木が戻ってきたのがわかり、目を瞑った。寝ているフリをしたい。
しかし桜木はわかっているんだろう、急に、かなり狭いだろう側に寝転んできては自分を抱き締め、「おいこっち向け」と、耳に髪を掛けてきた。
「…やだ」
更に端へ寄ろうとしたらより一層、腹あたりに回された腕に力が入る。
しまいには無理矢理顔を向けてきて「感染せ俺に」だなんて、頬にキスをしてくるのだ。
「感染せって。早く、大丈夫だから、」
背けることは許されなかった、顔をぐいっとやられて口を塞がれ舌を入れられる。
温い、確かに温度は自分より低いかもしれなくて気持ちいいけど、腹が立つので一回舌を噛んでやった。
引っ込んだけど「腹立つな」と再び侵入してくる。
けど、撫で方がさっきより優しい。ムカつく。
顔でも見てやろうと目を開ければ、彼は優しく目を閉じていて…酷く優しくも悲しそうな顔をしていた。
「………、」
何故なんだろう。
暫くもう、任せていたけど、体温がどちらのものかわからなくなった頃、それは離れた。
熱のせいか少し涙目になったかもしれない。
「…ホントに感染ったらどうすんの」
「休むよ?」
「うわ、」
「なんで?代わりなんているじゃん。休みゃあいいんだよ」
「うーん」
「お前だってそうなんだぞ?自分を信仰すんな。そーやって身体壊して一生を台無しにしたって誰も助けてくれない」
「…そんなこと、あんた、あったって言うの?」
「知りたい?」
「…ちょっとね」
「例えば…突発性難聴とかな。俺未だに何回もたまにあんの。右耳。最早不定期難聴だよな。まあ聞こえにくい、程度だけど」
「…そうなの?」
(笑)みたいなノリで言われてしまったが、全く知らなかった。
「性交時頭痛みたいな音がする。ずーっと。ぶっちゃけ運転して良いかわかんねーんだよね。眩暈とかあるから、いつか聞こえなくなるかもしんねぇ」
「…そうなんだ。
なんで話したの?」
「知りたそうだから」
…あっそう…。
「…あんたが風邪を感染した可能性は?」
「ないね。バカは風邪引かねぇもん」
生きる伝説かよ。
ピンポーンと音がした。
はぁいと返事をして桜木は玄関へ向かう。
やはり考えてしまう。じゃああれはどうやってだなんて、実践でしかなくて。その実践が出会った時には手慣れていただとか、そんなことを皮切りに。
「まぁ、じゃあ名前くらいにしておこう。あとは兄貴があれだから。くらいで」
「でも、じゃあ……いや、ごめん、そうだね止めとく、止めとくよ」
「…お前さ。
なんで兄貴のフルネーム知っててあの子の名前は知んねーの、なんで聞かない」
「言わなかったってことだし、」
「そうだな。そーゆー態度が多分一番うぜえよ。同業ならわかんだろ」
「わかってるけど、」
「姉ちゃん良い商売してんじゃん。なるほど手腕が知れるな」
「…は、そうだな、」
「まぁ熱くなんな。冷ましてやる。お前らのそれ、共依存だぞ、びょーきだぞ、なぁ、」
「うるさいよわかってるってば!」
「でも確かにそうだ、その女も聞かなかったんだな」
…なんでこう話が通じないかな。
なのに、そっちはこんなにズバッと言い当てやがる。そうやって、からかって…。
まるで当て逃げだ。
「まぁ、別に全然いいんだけどさ」
「…あんたもお客と一緒だよ、からかうな。タチが悪いのはストーカー気質だ、出禁だそんなの、」
「客じゃねーもん」
「はぁ?」
「なんでわかんねぇかなお前。偏差値いくつだバカ野郎」
桜木は眉間を一度揉んだ後、「いや、まぁ悪かった思ってないけど」と、声はまた淡とする。
「バカは寝てろバカ野郎。
飯は」
「……お腹はすいてる、余計すいた」
「だよな。食欲あるなら大丈夫だな。
なんも作れねーからデリバリーね。嫌いなもんは?」
「お前とSM」
「はいはい。春菊天うどんね」
「え」
チョイス謎。
「栄養あってそこそこ食欲ない時に良いボリューム」
本当に宅配へ電話をし始めた。
自分は「ワンタン麺と餃子で」とこれ見よがしに餃子。
てゆうか餃子とワンタン被ってんじゃん。いいなお前のように引退したやつは、全く……。
「餃子とか」
「ラーメンで餃子食わねぇのは信仰に反するんだよ、地元の神様だかんなマジで。像まであるんだからな」
「…もういいや疲れる」
ま、こっちの餃子マズイけどねだなんて、大したご宗教だ。そうか宗教が違うのかと思えばなんだかどうでもよくなってきた。
仕方なし。価値観が違う。
桜木に背を向けて寝ると、やつは一度どこかに去ったようだ。
物音から察するにどうやら着替えているのかもしれない。
…目を瞑れば枕から桜木の匂いがした。整髪剤なんかも多分混ざっているような。そのまま寝ることもあるのかもしれない。
…なんで聞かなかった。
同情だったらと考えると自分のことを嫌いになりそうだけど、彼女も聞いてこないのをいいことにしていただなんて、それもより自分を嫌いになりそうで。
でもきっと、あっちの方が自分のことを知っていて。
言えるか、潰れそうな、実際潰れた施設で最早売春紛いをしていただとか。
言いたくないけど、そんなのはちっぽけで、多分彼女の方が重い、だから踏み出せなかった。
多分それを知ったら、こうして考えてしまって、それは半分くらい、重ねてしまったりしてエゴなのかなんなのかもうわからなくなってしまう闇があるだろうとか。
なんでこんなに自分は自己防衛、中心的なんだよと発狂してしまう気がするんだ。
ただ、誰しもが売春を嫌いな訳じゃないだろう。だから知って欲しくもないのだ、自分を。どこかで自分を蔑むことも……出来なくなっていた。
ぐちゃぐちゃに溶け混ざり、もうわからないところまで来てしまっている。
愛や恋、気持ちいいや気持ち悪い、善や悪。それこそ宗教なんかも。
漠然とシンプルに取り残されるのは自己嫌悪。やはり、自己中心的で自意識過剰と…いくらでも自分をぶっ殺しに掛かることが出来る、それも怖かった。
それを人の中で見るのすら。
桜木が戻ってきたのがわかり、目を瞑った。寝ているフリをしたい。
しかし桜木はわかっているんだろう、急に、かなり狭いだろう側に寝転んできては自分を抱き締め、「おいこっち向け」と、耳に髪を掛けてきた。
「…やだ」
更に端へ寄ろうとしたらより一層、腹あたりに回された腕に力が入る。
しまいには無理矢理顔を向けてきて「感染せ俺に」だなんて、頬にキスをしてくるのだ。
「感染せって。早く、大丈夫だから、」
背けることは許されなかった、顔をぐいっとやられて口を塞がれ舌を入れられる。
温い、確かに温度は自分より低いかもしれなくて気持ちいいけど、腹が立つので一回舌を噛んでやった。
引っ込んだけど「腹立つな」と再び侵入してくる。
けど、撫で方がさっきより優しい。ムカつく。
顔でも見てやろうと目を開ければ、彼は優しく目を閉じていて…酷く優しくも悲しそうな顔をしていた。
「………、」
何故なんだろう。
暫くもう、任せていたけど、体温がどちらのものかわからなくなった頃、それは離れた。
熱のせいか少し涙目になったかもしれない。
「…ホントに感染ったらどうすんの」
「休むよ?」
「うわ、」
「なんで?代わりなんているじゃん。休みゃあいいんだよ」
「うーん」
「お前だってそうなんだぞ?自分を信仰すんな。そーやって身体壊して一生を台無しにしたって誰も助けてくれない」
「…そんなこと、あんた、あったって言うの?」
「知りたい?」
「…ちょっとね」
「例えば…突発性難聴とかな。俺未だに何回もたまにあんの。右耳。最早不定期難聴だよな。まあ聞こえにくい、程度だけど」
「…そうなの?」
(笑)みたいなノリで言われてしまったが、全く知らなかった。
「性交時頭痛みたいな音がする。ずーっと。ぶっちゃけ運転して良いかわかんねーんだよね。眩暈とかあるから、いつか聞こえなくなるかもしんねぇ」
「…そうなんだ。
なんで話したの?」
「知りたそうだから」
…あっそう…。
「…あんたが風邪を感染した可能性は?」
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※心理描写を大切に書いてます。
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