雨はやむ、またしばし

二色燕𠀋

文字の大きさ
上 下
17 / 32

3

しおりを挟む
 少しの間は会話もなく、お茶を楽しむのがこの人との時間。
 いつも非常に、ゆったりしている。そこに大人の余裕を感じるのだ。

 お茶を終えると、彼はおもむろに除菌シートの筒を持ち、促してくる。
 それに従いアカリはベッドに座ってズボンと靴下を脱ぎ、跪いた笹塚に脚を差し出した。

 まるでボタン式のスイッチが入ったかのようにふっと目の色を変えた彼は、足を手に取り「やっぱり綺麗だね」と感嘆する。

「そういえば気付いてくれたかな」

 最初は左足が順番に…視姦にも近い。ゆっくり、丁寧に足を拭きながらそう投げ掛けてくる。

「…香水ですか?」
「前回良い匂いだって、言ってくれたから」

 微かに薫る、柑橘系の匂い。あのコーヒーとも相性がいい。除菌シートの匂いもする。

「ここのシャンプー、ちょっと匂いがきつくてさ。気付いてくれるかなって、ちょっと思ったんだ」

 次は右足の指、裏、踝…ふくらはぎ、太股…と、ゆっくり、ゆったりと丁寧に拭かれてゆく。
 指の間まで余すことなく。

「気付きましたよ、来てすぐに」

 湿った、冷たい除菌シートが、まるで自分の温度に変わってゆくのを感じる。

「そっか」

 用が済んだ除菌シートをゴミ箱に捨てた笹塚は、左足の親指をぱくりと口に含んだ。
 今度は生温い舌がしっぽり、ねっとりと指の間、裏、踝に這ってゆく。

「くすぐったい」

 彼は「ふふ、」と笑い、つつ…とふくらはぎまで唇を這わせてくる。
 毛は引っ掛かってないようだなと、むにむにと食んでいる笹塚の様子に安心した。

 暫くそうしていると、笹塚の右脚が少しピクピクと震え始めた。
 はぁはぁと息も上がってきているようだ。

 アカリはそれに「どうぞ」と、脚をベッドに乗せ促した。

「ありがと」

 嬉しそうに笹塚はベッドに乗り上げた。
 今度は右足の親指から指の間、裏、踝、ふくらはぎ…とまた舐められる。

 笹塚は右脚に怪我を負ってしまっている。脱げば、それは一本の真っ直ぐな跡として残っているのだ。
 縦の傷なので、日常生活に支障は殆どないと言っていた。ただ、少し長く変わった体勢でいると、痙攣するのが見受けられる。

 自分が怪我したからなのだろうか、毎回右脚のふくらはぎは特にねっとり執拗に時間を掛けて愛撫されるのだ。

 左脚は指が這い、撫で尽くされ、筋の部分や骨の部分なんかが特にそうされる。

 店のHPに乗っている写真に、脚は写していなかった。
 それどころか、アカリは顔もいまいちわからないようになっているはずだ。

 だが、初めて会ったときすぐに「脚を見せてくれ」と言われ、それから今に至る。

「体型を見ればそれなりに想像が出来る。でも、君は想像以上に綺麗だ」

 その日そのまま風呂場で脚の毛を剃られてしまったが、それから、少なくても週に一度はこうして呼ばれるし、脚も除毛するようになったのだ。

 …足というのは人体に於いて一番神経が通り敏感なのだと聞いたことがある。
 それは多分、本当だ。

 10分20分と舌や唇で愛撫されていると、少し焦れったく…じわじわとした情欲が沸いてくる。

 太股から脚の付け根まで這われると、「笹塚さん、」と、ついつい髪を撫でてしまっていた。

 見上げた彼の目は、遥かに煌々としたものに変わっている。

「どうですか…?」

 ふふ、と彼は笑い、するっとネクタイを外した。

 彼はそのまま手を取り舐め、耳元に顔を寄せてきては「興奮してきた」と、股間をすりすりと押し当ててくる。
 アカリが笹塚のシャツを脱がそうと、ボタンに触れようとした瞬間、彼はそれも取り束ね、外したネクタイで緩く拘束してきた。

 なんの意図か、初めてだ。

 股間をすりすりと擦り合わせながら太股を撫でてくるのが焦れったい。
 ボタンを飛ばさないようにゆっくりと、二段目のを食んで開け、意思表示をした。

「…可愛い」

 そうかそうかと言うように、笹塚は太股から脇腹をすっと撫でてきて、「今度は君の番だね」と、カチャカチャ片手で器用にベルトを外し始めた。

「…笹塚さんは、」
「ん?」
「もう…いいですか?」
「うん」
「でも、」

 その拘束された腕を通すように笹塚の後頭部に触れ「いま、貴方が僕の自由を握ってるんですよ、」と続ける。

「俺は君のそんな顔が好きだよ」
「僕も…、貴方が興奮してるのを見ることが、一番の快感です」

 ふふふ、と笑い返した笹塚にゆっくりとシャツも下着も脱がされた。
 少し出した舌まで舐め尽くすように、彼は深いキスをしてくる。

 そのままふわっとペニスを握られ、急速にしごかれ息が、苦しくなった。

 いま自分はこの男に弄ばれている。

 「気持ちい?」「痛くない?」と囁かれるのに愛情を感じる。

 この男は愛を買い、自分は愛を売っている。
 相互関係のバランスは最適だ。今の瞬間は間違いなく恋人なんだと気付かせてくれる。

「…好きに弄んでください、貴方しか、出来ないから」

 小首を傾げる自分はこの男にどう見えるのか。
 これは嘘ではない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

drop【途中完結】

二色燕𠀋
ファンタジー
舐め尽くしたドロップの気持ち ※誘導ではなくどこにも続きはありません。

ハルとアキ

花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』 双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。 しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!? 「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。 だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。 〝俺〟を愛してーー どうか気づいて。お願い、気づかないで」 ---------------------------------------- 【目次】 ・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉 ・各キャラクターの今後について ・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉 ・リクエスト編 ・番外編 ・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉 ・番外編 ---------------------------------------- *表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) * ※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。 ※心理描写を大切に書いてます。 ※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪

this is

二色燕𠀋
BL
それは、もどかしい。 後輩が気になる先輩の話

処理中です...