白い鴉の啼く夜に

二色燕𠀋

文字の大きさ
上 下
50 / 52
半年後

1

しおりを挟む
 それから少しだけ月日が流れた。

 俺はいま、成田空港に来ている。
 どうして俺がここに立つことが出来たのか。

 笹木孝雄が殺害された。
 佐々木深景の手によって。

 それが最後の、過ちだった。

 誰がどう供述したかはしらない。が、俺はいま執行猶予ということで仮釈放という形になっている。
 恐らく、このままでいけば暴行罪のみで済む。

「なんで?」
「笹木孝雄が殺されたからだよ」

 刑事にそう言われた。

「は?」
「…君がよく知る佐々木美景が、病院に押し掛けて殺したそうだ。
 それがあまりにも残忍でな…急所を外して何ヵ所も差した後に頭を一撃…。
しかも佐々木深景はたちが悪く、色仕掛けで笹木孝雄を油断させて…みたいだよ」
「は?」
「体液がいたるところから発見された」

 信じられなかった。
 想像すらしたくなかったけど。

「会いたいな、深景に」
「それはやめた方がいい」
「…だよね」
「君はそもそも騙されてるよ。
 そもそも、佐々木深景なんていう子はいないんだよ」
「え?」
「うん…」

 それ以上、刑事は答えてくれなかった。

「来ないなぁ、一喜」

 隆平がチラチラと時計を見ていた。
 時計を見ると、出発まであと1時間くらいしかなくて。

 卒業式のあと、着替えだけしてすぐに俺たちは来たのだが。

「まぁ、仕方ないよ」

 一喜も俺も、一般として卒業式を観覧しに行った。今や高校卒業は、隆平一人になってしまった。

「卒業生代表挨拶なんだけどさ、どうかと思ったよ」
「俺は思ったことを言っただけだよ」
「まぁ…」

“この鳥籠のような狭い場所から、漸く巣立つことが出来ます”

「でもまぁ、面白かったけどな」

 先生たちは真っ青な顔してたなぁ。

「…いいだろ、最後だし」
「まぁな」
「歩」
「ん?」

 急に隆平が抱きついてきた。結構ガチなやつ。

「…おかえり」
「ただいま」
「好きだったよ、歩」
「知ってるよ」

 過去形なのも、全部。

「あー!お前ら!」

 一喜の声が響いた。声の方を見ると、一喜がいて。すかさず隆平が離れた。

「遅かったな」
「悪かった!ちょっと約束をこなしてきた。
 もっと遅い方がよかったか?」
「ふざけんな、だいぶ待ったぞ」
「ごめんって!だって…」

 まぁ、わかってるけどさ。

「仕方ないねぇ。今日だけだよ?」
「…さんきゅ」
「まぁあと少しあるし、タバコでも吸いに行くか?付き合うぞ」

 そう言われたので。
 取り敢えず、外に一回出た。

 風が、心地いい。
 タバコに火をつける。いつの間にかもう、二年だ。

「…しばらく会えねぇな、りゅうちゃん」
「まぁ、一月とか盆とかに帰ってくるよ」
「マメだなわりと!」
「日本人だから」
「そう言えばそっか」

 また沈黙が溢れる。風が、止んだ。

「お前ら、これからどうすんの?」
「…俺は予備校に行こうかなって」
「おお、いいじゃん」
「うん。やっぱり大学は行こうかなってな。理穂も頑張って、定時でもいいから、高校に通えたらいいな…」
「そっか。歩は?」
「え?笑わない?」

 二人ともにやにやしている。

「…バイトしながら、まぁ、創作でもしようかなってさ」
「あぁ、」
「マジだったんだ」
「マジだよ。…院は暇だったしさ」
「まぁ、お前は拘束されるの嫌いだもんな…」
「え、今ないの?ないの?」
「…あるけど」

 恥ずかしいな、なんか。

「見せてよ!」

 仕方なく一喜に渡すと、タイトルを見た時点で一喜は、「えっ!?」と言った。隆平も覗きこむ。

「もしかして、ファンタジーだったり?」
「…悪いか?」
「えぇぇ…!?お前が!?」
「悪いかよ」
「なんでまた」
「いや、まぁ…子供にさ、夢でもさ」

 とか言ってるうちに隆平は一喜からノートを然り気無く取ってがっつり読んでいた。

「タイトルのわりに内容は全然ファンタジーじゃないよ、編集長」

 とか言って隆平はまたそのノートを一喜に返した。一喜も「え?」とか言ってノートを開き始めたので、「あーもう、家にしてよ持って帰っていいからさ!」と言って取り上げようと頑張る。

「いや、言ってることとやってること違うじゃん」
「うるさいな、恥ずかしいよわりと!」
「はいはい、わかったよ」

 そう言って一喜は、ノートを閉じて鞄にしまった。

「家に帰って理穂と読みますーだ」
「あー…もー」
「はっは、次帰ってきたら読ませてよ」
「俺が編集しとくわ!」
「またかっこつけやがって」
「うるせえな、こーゆーのは協力して上手くなってくんだろ」
「え?」

 なんかそれって。

「なに一喜、柄にない」
「うっせぇなわかってるよ!」
「ははっ!じゃぁ俺は売り込みしなきゃな。そのために海外に勉強しに行ってくるよ」

 何言ってんだろ。でも。

「仕方ないから待ってるよ」
「…うん。そのころにはまともになってて」
「はぁい」
「表紙は?やっぱり絵は深景だよね」
「あ、いいね!写真部だよな確か」
「じゃぁ機械系は理穂だな。引きこもりは大体機械が出来る」
「いや偏見過ぎる!」

 あぁ、空が蒼いな。
 晴れてるよ、今日もさ。

 飛行機雲がまっすぐ延びる。
 また春が、始まるよ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【アルファポリスで稼ぐ】新社会人が1年間で会社を辞めるために収益UPを目指してみた。

紫蘭
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスでの収益報告、どうやったら収益を上げられるのかの試行錯誤を日々アップします。 アルファポリスのインセンティブの仕組み。 ど素人がどの程度のポイントを貰えるのか。 どの新人賞に応募すればいいのか、各新人賞の詳細と傾向。 実際に新人賞に応募していくまでの過程。 春から新社会人。それなりに希望を持って入社式に向かったはずなのに、そうそうに向いてないことを自覚しました。学生時代から書くことが好きだったこともあり、いつでも仕事を辞められるように、まずはインセンティブのあるアルファポリスで小説とエッセイの投稿を始めて見ました。(そんなに甘いわけが無い)

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

日常。

夏本ゆのす(香柚)
現代文学
あるひとの日常。 幼い頃からの成長記録。

集団就職の星

ハリマオ65
現代文学
仲良し4人は、上京しそれぞれの人生を歩み、海藤智恵が、大出世し金を作る。「成り上って世界を回れ!」  東北の漁村で生まれ育った仲良し4人は、中学を卒業すると当たり前の様に集団就職列車で東京へ。幸いな事に同じ商店街ので夜間高校に通い、総じて恵まれた環境。特に池上智惠は抜群の成績で雇い主のご厚意で一橋大学への受験し合格。その後、仲間たちは、試練や転職、株投資の試練を乗り越えていく。この作品は小説家になろう、ツギクル、カクヨムに重複掲載。

夢に繋がる架け橋(短編集)

木立 花音
現代文学
 某DMグループ上で提示された三つの題目に沿って、書いた短編を置いておきます。  短時間で適当に仕上げてますので、クオリティは保障しかねますが、胸がほっこりするようなヒューマンドラマ。ちょっと笑えるコミカルなタイトルを並べています。更新は極めて適当です。 ※表紙画像は、あさぎかな様に作っていただいた、本作の中の一話「夢に繋がる架け橋」のファンアートです。ありがとうございました!

妻と浮気と調査と葛藤

pusuga
現代文学
 妻の浮気を疑い探偵事務所に調査を依頼した男。  果たして妻は浮気をしているのか?葛藤を繰り返し何を持って自分を納得させるのか?そんな話です。  隔日連載  全15話予定  ちなみに完全フィクションです。  勘違いしないようにして下さい。

勝手に救われる人々

秋坂ゆえ
現代文学
 静井洸(しずい・あきら)は文学一筋で生きてきた二十四才の文芸系WEBライターで、その年のクリスマス・イブに、とある文学イベントに参加した。  そこで文学の趣味が合い、また『洸』と書いて『あきら』と読む女性名を「とってもきれいな名前ですね」と言う青年・日極灯哉(ひずめ・とうや)と出会う。灯哉は本業は音楽で、「是非聞いて欲しい』と名刺を渡してきた。  洸も『ヒズメさん』こと『Touya』の作る音楽に興味を持ち、音楽など流行歌すら知らない身ながらも、彼の曲を聞いてみることに。それは音楽のイロハなど全く分からない洸にすら衝撃的なものだった——。

【完結】「やさしい狂犬~元女子プロレスラー新人記者「安稀世」のスクープ日誌VOL.1~」

M‐赤井翼
現代文学
稀世ちゃんファン、お待たせしました。「なつ&陽菜4 THE FINAL」終わって、少し時間をいただきましたが、ようやく「稀世ちゃん」の新作連載開始です。 脇役でなく「主役」の「稀世ちゃん」が帰ってきました。 ただ、「諸事情」ありまして、「アラサー」で「お母さん」になってた稀世ちゃんが、「22歳」に戻っての復活です(笑)。 大人の事情は「予告のようなもの」を読んでやってください(笑)。 クライアントさんの意向で今作は「ミステリー」です。 皆様のお口に合うかわかりませんが一生懸命書きましたので、ちょっとページをめくっていただけると嬉しいです。 「最後で笑えば勝ちなのよ」や「私の神様は〇〇〇〇さん」のような、「普通の小説(笑)」です。 ケガで女子レスラーを引退して「記者」になった「稀世ちゃん」を応援してあげてください。 今作も「メール」は受け付けていますので 「よーろーひーこー」(⋈◍>◡<◍)。✧♡

処理中です...