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小鳥網
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そのまま夏休みが終わり、始業式を迎えた。
俺はその短い間に、出来る限りの情報収集をしようと試みた。
しかし、それもなかなか難航した。相手が相手だ、分が悪い。
登校初日、予想はしていた。
「椎名、お前の妹ってさ」
予想はしていたんだ。
「援交とAVやってるって、マジ?」
クラスの男子数名にそう聞かれた。女子にも、「もうスゴい有名だよ」なんて言われて。
すべてシカトした。本来なら「バカじゃねぇの?」だの、「人違いだよ」で言い逃れ出来たのだが今回は、写真と動画が裏サイトやその他SNSに出回ってしまったのだ。
「黙ってるってことはマジだよな」
「てかお前の妹中等部来てねぇよな?中等部の写真と一緒に上がってたけどマジ本人だよな」
「うっせぇな」
「あ?」
「うっせぇっつってんだろてめぇら。なんか証拠あんなら持ってこいよ喧嘩売ってんのか」
普段こんなにキレないもんだから、こーゆーやつらは案外ビビるらしく、「な、なんだよ」とか、「そんな怒んなよ…」とか言ってやがる。
うざってえ。ホントうざってえ。
その他ひそひそ話が本気でうざったすぎて、頭に来てイヤホンでずっと音楽を聴いていた。
気が狂いそうなほど大音量で聴いていたら、先生に呼ばれていることすら気付かなくて。ふと肩を叩かれ、「生徒指導室に来い」と一言通告。
仕方なく行き、ぼーっとしていた。
「…今朝の件だが」
「…なんですか」
「お前が今、学年中で話題になってる件だよ」
「あぁ、はいはい」
「あのネタは本当か?」
「知りませんね。クラスのやつらが朝からぎゃーぎゃー、聞きもしねぇのにいろいろご親切に言ってきてくれてね。
何?裏サイトやらSNSで俺が干されてんだろ」
「あぁそうだ」
「いいよ。慣れた。俺は気にしない」
「お前はな。だがまわりはどうする」
「それはお宅らがなんとかしてくれよ。こっちは被害者だ。根も葉もない」
「根も葉もないか。
今日付けでお前の妹は退学届けを自ら出した」
「…は?」
「知らなかったのか?」
知るわけがない。
「…あんたら教師は、ホント、使えないな。
遠回しに俺に辞めて欲しいってか。金返してくれるなら考えてやるよって理事長にでも言っとけ。
てめぇら教師の教育不足で苛めが起きて、苛められた生徒を辞めさせるっていうのは笑える話だ。これが有名私立か。上等だよ。裁判でも起こしてやろうか?」
「まぁ落ち着けよ」
「話にならない。てめぇと話すだけ無駄だよ」
散々、不登校の生徒を放置したくせに。
澄の死をなかったことにしたくせに。
挙げ句辞めてくれって。
なんなんだよクソったれ。
勢い余って生徒指導室から出たら、悔しさが込み上げた。
俺だけは、せめて前を向いていようと思ったけど。
腹が立つから取り敢えず生徒指導室のドアを蹴っ飛ばしたら。
「ざけんじゃねぇてめぇら!」
聞き覚えのある声が、隣の職員室から聞こえてきて。
「何が悪いんだよ。おい、誰かしら聞けやコラ!」
「落ち着け浦賀!分かったから!」
「わかってない、てめぇら大人はなんもわかってない、なんで、なんでそうなるんだよ、離せ!」
斎藤先生に羽交い締めにされて職員室から歩が出てくるのが見えて。
これはあれだな。
乗り込んじゃったな、歩。
「歩?」
「あっ」
声を掛けると、歩は斎藤先生の手を離れ、駆け寄ってきた。斎藤先生はどうやら敢えて手を離したようで、首を傾げて俺を見たので、軽く会釈した。
「何してんの」
「お前こそ、なんだあの有り様は」
「お前さぁ…。まさかと思うけど、それで、乗り込んだんじゃねぇだろうな」
「えっ、うん」
「ばっ…」
的中したようだ。思わず笑ってしまった。
「お前なんなの」
「だって、お前、下手すりゃ退学って…」
「え、そうだったの?一言も言われてねぇけど。まぁ辞めてくんねぇかなみたいな態度だったから、ふざけんなよとは言ったけどさ」
「え?マジ?」
「うん」
「え?俺もしかして損したの?」
「バカだねお前は」
「なんだよ!まぁでもいいや、よかったよ!」
「…ありがとう」
「…理穂のことは?」
急に歩が声を潜めたので俺は小さく頷いた。
何かを考えて、歩も頷き返して斎藤先生の方へ戻って行った。
「先生、悪かったよ」
「このバカ!てめぇ何様だよ!」
「うん、今回はちょっと言い返せないわ」
「ったく。戻るぞバカタレ」
そう言って二人は教室の方へ歩き出した。
歩、お前はいいな。
やっぱ、羨ましいよ。
いつでも我を通して突っ走って。それが出来る強さ、俺にはないなぁ。
いつもお前には良いライバル心で歩んできた。マイペースなお前に翻弄されることもよくあったけど、それはそれで楽しかったよ。
教室に戻ろう。
俺は負けない。負けちゃいけない。
そう、思ったのに。
俺はその短い間に、出来る限りの情報収集をしようと試みた。
しかし、それもなかなか難航した。相手が相手だ、分が悪い。
登校初日、予想はしていた。
「椎名、お前の妹ってさ」
予想はしていたんだ。
「援交とAVやってるって、マジ?」
クラスの男子数名にそう聞かれた。女子にも、「もうスゴい有名だよ」なんて言われて。
すべてシカトした。本来なら「バカじゃねぇの?」だの、「人違いだよ」で言い逃れ出来たのだが今回は、写真と動画が裏サイトやその他SNSに出回ってしまったのだ。
「黙ってるってことはマジだよな」
「てかお前の妹中等部来てねぇよな?中等部の写真と一緒に上がってたけどマジ本人だよな」
「うっせぇな」
「あ?」
「うっせぇっつってんだろてめぇら。なんか証拠あんなら持ってこいよ喧嘩売ってんのか」
普段こんなにキレないもんだから、こーゆーやつらは案外ビビるらしく、「な、なんだよ」とか、「そんな怒んなよ…」とか言ってやがる。
うざってえ。ホントうざってえ。
その他ひそひそ話が本気でうざったすぎて、頭に来てイヤホンでずっと音楽を聴いていた。
気が狂いそうなほど大音量で聴いていたら、先生に呼ばれていることすら気付かなくて。ふと肩を叩かれ、「生徒指導室に来い」と一言通告。
仕方なく行き、ぼーっとしていた。
「…今朝の件だが」
「…なんですか」
「お前が今、学年中で話題になってる件だよ」
「あぁ、はいはい」
「あのネタは本当か?」
「知りませんね。クラスのやつらが朝からぎゃーぎゃー、聞きもしねぇのにいろいろご親切に言ってきてくれてね。
何?裏サイトやらSNSで俺が干されてんだろ」
「あぁそうだ」
「いいよ。慣れた。俺は気にしない」
「お前はな。だがまわりはどうする」
「それはお宅らがなんとかしてくれよ。こっちは被害者だ。根も葉もない」
「根も葉もないか。
今日付けでお前の妹は退学届けを自ら出した」
「…は?」
「知らなかったのか?」
知るわけがない。
「…あんたら教師は、ホント、使えないな。
遠回しに俺に辞めて欲しいってか。金返してくれるなら考えてやるよって理事長にでも言っとけ。
てめぇら教師の教育不足で苛めが起きて、苛められた生徒を辞めさせるっていうのは笑える話だ。これが有名私立か。上等だよ。裁判でも起こしてやろうか?」
「まぁ落ち着けよ」
「話にならない。てめぇと話すだけ無駄だよ」
散々、不登校の生徒を放置したくせに。
澄の死をなかったことにしたくせに。
挙げ句辞めてくれって。
なんなんだよクソったれ。
勢い余って生徒指導室から出たら、悔しさが込み上げた。
俺だけは、せめて前を向いていようと思ったけど。
腹が立つから取り敢えず生徒指導室のドアを蹴っ飛ばしたら。
「ざけんじゃねぇてめぇら!」
聞き覚えのある声が、隣の職員室から聞こえてきて。
「何が悪いんだよ。おい、誰かしら聞けやコラ!」
「落ち着け浦賀!分かったから!」
「わかってない、てめぇら大人はなんもわかってない、なんで、なんでそうなるんだよ、離せ!」
斎藤先生に羽交い締めにされて職員室から歩が出てくるのが見えて。
これはあれだな。
乗り込んじゃったな、歩。
「歩?」
「あっ」
声を掛けると、歩は斎藤先生の手を離れ、駆け寄ってきた。斎藤先生はどうやら敢えて手を離したようで、首を傾げて俺を見たので、軽く会釈した。
「何してんの」
「お前こそ、なんだあの有り様は」
「お前さぁ…。まさかと思うけど、それで、乗り込んだんじゃねぇだろうな」
「えっ、うん」
「ばっ…」
的中したようだ。思わず笑ってしまった。
「お前なんなの」
「だって、お前、下手すりゃ退学って…」
「え、そうだったの?一言も言われてねぇけど。まぁ辞めてくんねぇかなみたいな態度だったから、ふざけんなよとは言ったけどさ」
「え?マジ?」
「うん」
「え?俺もしかして損したの?」
「バカだねお前は」
「なんだよ!まぁでもいいや、よかったよ!」
「…ありがとう」
「…理穂のことは?」
急に歩が声を潜めたので俺は小さく頷いた。
何かを考えて、歩も頷き返して斎藤先生の方へ戻って行った。
「先生、悪かったよ」
「このバカ!てめぇ何様だよ!」
「うん、今回はちょっと言い返せないわ」
「ったく。戻るぞバカタレ」
そう言って二人は教室の方へ歩き出した。
歩、お前はいいな。
やっぱ、羨ましいよ。
いつでも我を通して突っ走って。それが出来る強さ、俺にはないなぁ。
いつもお前には良いライバル心で歩んできた。マイペースなお前に翻弄されることもよくあったけど、それはそれで楽しかったよ。
教室に戻ろう。
俺は負けない。負けちゃいけない。
そう、思ったのに。
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