白い鴉の啼く夜に

二色燕𠀋

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小鳥網

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 結局、昼休み中は誰も屋上に来ることなく、スレッドの更新もそれを期に終了した。

「さて、あんたらはもう行きな」
「え?」
「歩は?」

 あんな書き込みをしたからには、次の授業まで延長戦かと思ったが…。

「あぁ、鍵なら閉めとくから」

 あまりにも、何事もなかったかのように歩が言うから。

「…ほら、俺みたいにサボるんじゃないよ。生徒会長にチクるよ。
 まぁ、それも明日までか。明日は終業式だもんね」

 今度はいつものように自然に笑って歩は言った。

「…浦賀先輩」
「なぁに?」
「明日も来てくれますか?」
「…明日くらいは。明日は、みんな揃って昼休みがいいね」
「一喜先輩も、明日は…明日くらいは…」

 なんとなく歩の不穏な空気を小夜なりに感じているんだろうか。あまりにも切実に言うもんだから。

「うん」
「…でも…今日くらいは…」
「小日向さん」

 吹かれたタバコの煙が白い。

「帰りにくい?」
「いや…」
「一喜、クラスまで…送ってやってよ」
「うん…わかった」

 小夜は案外、察したのか、諦めたように微笑み、「また明日」と言って、軽くお辞儀をしてドアの方へ歩き出した。

「そうだ一喜」
「ん?」
「渡したいものがあったんだけど…」

 多分、交換日記だろう。

「わかった。すぐ戻る」

 小夜の後を追って屋上を一度去る。なんとなく俯きがちな小夜の背に、「さて、」と、我ながらわざとらしく言うと、小夜は振り向いた。

「…図書室でも行く?」
「え…?」
「どうせ、戻る気ないんだろ?俺も…あんま戻りたくねえし。ちょっと付き合ってくれる?」
「…はい」

 そう提案すると小夜は、にっこり微笑んだ。その顔を見て、少し安心した。

「まぁちょっと歩に、渡したいものがあるからさ、小夜を送り届けたことにして一回戻ってもいい?」
「あ、はい。今言ってたやつですね」
「うん…。あ、そうだ。はい」

 ふと思い出して、制服のポケットからメモ帳を取り出して小夜に渡した。

 迂闊にも、昨日切ってしまった左手の方で渡してしまって、がっつり小夜に傷を見られてしまった。

 メモを受け取ろうとした小夜が、一瞬手を引っ込めて、俺を凝視した。

「…一喜…先輩?」
「あー…。やっちまったな」
「え…?」
「いや、これなんて言うか…誤解。俺がやったんだけど俺の意思じゃないって言うか…」
「え…?何…」

 階段を上ってくる音がする。誰だろう。こんな時に。教師だったら、面倒だな。

「一喜先輩、どういうこと?」

 こっちはこっちで面倒で。

「…まぁ、妹がね…。うん、妹への教育の一貫?としてと言うか…」

 あぁ、階段誰だろう。

「あれ?まだいたのか?」

 聞き覚えのある声。
 どうやら隆平だったようだ。

「あっ」
「岸本先輩!」
「遅くなったな。何してんの?」
「いや、今から図書室行こうかなって。歩ならそこにいるよ」
「…そう」
「取り敢えず、行くか、小夜。
 あ、隆平。
 俺、小夜のこと教室に送ってったって、言っといてね歩に。なんか渡したいものあるって言われたから、一回戻ってくるからさ」
「よくわかんないけどわかった」

 よし。取り敢えず隆平のことは誤魔化した?

 逃げるように小夜の手を取り階段を下りた。だが、隆平が見えなくなった一階下の踊り場で小夜に手を振り払われた。

 振り向けば、なんだか小夜は怒っているようで。
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