白い鴉の啼く夜に

二色燕𠀋

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春塵

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 春休みに、岸本が深景をつれて線香をあげにきた。

 春休みになった途端にやることはなくなってしまった。だがそれも一週間程度で終わる。

 新学期が始まった初日、事件が起きた。
 放課後、とは言ってもいつもより短い午前の放課後。

 いつものように、小日向さんと別れて俺は、今日が最後の勤務となった渡辺先生に挨拶をし、少し生徒会室に寄って先に帰ると岸本に伝えてから下駄箱に向かった。下駄箱付近の廊下に、雑に鞄がぶん投げてあって。

 なんだろうと思ったら、なんとなく見覚えがあるような、そんな気がして。そしたらすぐ近くの男子トイレから話し声がして。

「…女もこうして犯してやったわ、最初はね、嫌がるんだよ」

 …胸くそ悪い話してんなぁ、てか、これは小日向さんじゃなかったとしても行かなきゃ。

 だが、開けてみたらどんぴしゃ。小日向さんが男3人に囲まれてて、もろ、シャツ開けられてるわスカートに手ぇ突っ込まれてるわ。
 気付くかな。とか思ってタバコに火を点けた。

「最近仲良さそうだよね。お前がこうなったって知ったらあいつ、どんな顔するだろうね」
「楽しそうだね、何してんの?」

 てかこいつら、もしかして同学年かな。
 だとしたら、俺のこと話してる?

 どうやら俺を見た瞬間のそいつらの驚いた顔やら何やらを見てると、読みは当たってるらしい。つまり俺はこいつらになんか喧嘩売られてるわけだ。

 さっき女がどうとか言ってたな。考えられる可能性は様々で。

 まぁ考えるより先に行動。一番近くにいるやつを踏みつける。小物は一撃で仕留める。

 それからどうやらキレちゃったようで。
 何をしたかあんまり覚えてないんだけど。

 なんかもれなく全員ぶっ飛ばしてて、気付いたら、さっき小日向さんに手ぇ出してたクソ野郎に馬乗りで掴みかかってて。
 我に帰ったのは、切迫した小日向さんの、「危ない!」と言う声で。

 ぶっ飛ばしたやつが突進してきて、頭突きを返そうとしたら、組敷いてたやつに腕を引っ張られて当りどころが悪くて鼻血が出た。どこに当たったんだろう。

「せ…先輩!」
「あー…今のは効いたねぇ」

 効いた。めっちゃ痛ぇ。痛いかどうかもわかんねぇ。

 鼻血は大体一回拭って思いっきりかむように出せば止まる。

 突進してたやつは気絶してくれたし下のやつは一発ぶん殴れば気絶すんだろう。結構ぶん殴ったから。

 でもなんか丈夫っぽいからな。

 起き上がる時に念のため思いっきり蹴っ飛ばして気絶したのを見届けた。よし。

「先輩…!大丈夫ですか!?」
「小日向さん、あんた大丈夫?なんもない?」

 女の子だしちょっとさ、人の心配より自分の心配しなさいよ。制服は直してあげるからさ。

「こんなのいいから先輩!大丈夫ですか!?」

 こんなのって…(笑)。
 際どいとこボタン飛んでるからね。

「うーん、まぁ喧嘩は男の勲章」
「バカですか!思いっきり頭音鳴ってましたけど!」
「軽く脳震盪のうしんとうだね。大丈夫。頭痛薬あれば」
溢血いっけつまでいってたらあんた死んでるの!いい加減にしてよ!」

 とか言って安心したのか小日向さんが泣き出しやがって。
 まったくなんなんだよ。

「え、てかえ、ここにきて泣かないでよマジかよ」
「泣いてない!」
「いや泣いてる泣いてる。あーもー面倒臭いなぁ」

 仕方ねぇから涙くらい拭ってやるよ。怖かったんだろ?

「もーなんなの!」
「てかこっちがなんなの。あんたの鞄そこにぶんながってたから声する方に来たら危機一髪ってなにそれ。マジ笑えないから。
てかこいつら誰よ」

 そこは結構重要。
 俺にもあんたにも。

「え?本当に知らないんですか?」
「知らないよなにあのゴミ」

 俺が知っているような人物なのか?

「先輩と同じクラスでしょ!ジャージ返しにいったときに初めて絡まれたの!」
「え?あんなのいたかな。てかだいぶ前だね」

 なに、それ。

「…てかあの人たち大丈夫かな」

 いやいや、君は面白いが、こんな最低野郎共の心配までしてていいのか。
 まぁまたそれが君の良いところだけどさ。

「流石にやり過ぎたかな。救急車呼ぶか」

 それから俺は色々あって入院を余儀なくされた。どうやら職員室に行ってすぐ、俺は気を失ったらしい。病院で医者には「いや、見事に脳挫傷のうざしょう」と言われた。

 運ばれて最初に会ったのが親とかではなく岸本と担任で。親は、「そんな理由で会社なんか抜けられない」ということで、来るのが遅くなるようで。

「先生いーよ。マジ親に言っとくから」
「いや、そーゆーわけにもいかんだろ」
「大丈夫。なんなら岸本幼馴染みだし。どうせ親に会っても『ご苦労さん』で終わっちゃうんだから。まぁ、問題起こした俺が言うのもなんだけどね」
「いや、いいよ。親御さんも仕事を終えてくる。俺の仕事はこの場合説明の義務だから」

 と言いつつ面会時間が過ぎてしまって。結局先生も岸本も廊下で待ちぼうけ。親が来たのは21時過ぎだったようで。
 母親が慌ただしく入ってきたかと思いきや、俺の顔を見るなり顔をぶっ叩かれて。

「いや、お母さん、」
「何してんのあんた!」

 と、こんな調子。この感じだと先生の話も岸本の話も聞いてないな。

「あーうるさいなぁ」
「うるさいじゃないでしょ、何してんの!?隆平くんや先生に迷惑掛けて!」
「お母さん、落ち着いてください。別に歩くん悪いことしてませんからね」
「は?」

 そこで漸く先生は事情を説明。
 だが母親は先生が思うような親ではない。

「恥ずかしい…。
 先生遅くまで申し訳ございませんでした。あとは…二人で話します」
「はぁ…私は別に構いません。ただお母さん。少しは息子さんの話くらいは、聞いてやってくださいね」
「家庭の問題なので。
 隆平くんもありがとうね」

 先生は露骨に溜め息を吐き、岸本は慣れたように、先生を誘導するように病室を出ていった。
 俺は母親に何も語らない。

「…なんなの。何が悪いの?私たちの」
「別に」
「どうして伝わらないの?」
「何を伝えてくれたの?今日だって、会ったの久しぶりじゃん。
 母さん、俺のことは気にしないでいいよ。ただ、あと一年は悪いけど我慢して。そしたらちゃんと出て行くから」
「違う、そんなんじゃないの」
「じゃぁ何?俺は母さんや父さんに何をしてあげればいいの?」

 それには母さんは答えなかった。「もういい!」と癇癪かんしゃくを起こして日用品を置いて出ていってしまった。

 ここしばらく暇になりそうだ。
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