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ファソラシ
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起きた場所はあのステンドグラスとは正反対で、灰色の部屋。
真上にある檻の外の夜の星が、砂粒のようで、綺麗なのかもしれないと思った。
時間は、あれよりは掛かっていないと思う。
昼の救護室ではなく、その他何人かの子供は穏やかに寝ていた。いつもの、自分の部屋だった。
昼に、いつも大体狩りをしに行く。それは生きるための糧だと大人から厳しく言いつけられているから。
ウサギが死ぬのも、狐が死ぬのも、それは自分たち“光の子供”を清らかに保つために必要だ。
しかし、あの女の子の血はウサギや狐と変わらない色で、俺とも全く変わらないものだった。そして大人の男は白い体液で彼女を、汚していたのを俺は知っている。
それを悪と捉えるのは、どこが悪いと言うのだろう。
本当は少し潰れていた。
磨り潰して、踏みつけて。俺はここに来たとき、そう、両親の手を離してしまったという感触を今でも本当は覚えている気がする。多分、すり抜けたようなもの。
…月が綺麗だ。
頭が冴え渡るような気がした。
貴方を傷付けることは忘れてしまいなさい。誰かが穏やかにニヤニヤと言っている声が耳元で聞こえて。
清らかに生きるために私たちはここにいるのです。誰か穏やかにそう説いているのが頭のなかで反響していて。
そして生きたいと願うなら。
ベッドの横の引き出し。
ここは皆、水の出る銃とジャックナイフを所持していた。
再度、俺は右腕が動くことを確認する。
…痛い。
それが広がって身体が恐怖するような感覚。だからぼんやり痺れていて。
お前はこのままこの牢屋で死ぬまで怯え続けるがいい。
…夜の悪魔が囁くようで、それは頭の中に注入されていくように広がって、広がって、広がって、響いて。
獣のような叫び声がした。
引き出しは無惨にも倒れ、薬や包帯や水鉄砲やジャックナイフや筆記用具や聖書や鍵や弾や拳銃や、溢れて広がって子供たちの声が耳に付いた。
うるさい。
誰かが慌てた声がする。
阿鼻叫喚はいつだって…遠かったような気がする。
ふわふわする。けれど頭が割れそうに痛い。倒れそう、けれど右手には力が籠っている、怯えた子供のこれは誰だ、泣いている、これを組敷いているのは俺か、歪んで行く、恐怖、いや、だんだん鼓動が早くなってきた、血流が頭に登るような、暑い、熱い、痛い、怖い、うるさいな、俺は、俺は一体どこにいるんだ、
…手にガツっと、強い抵抗の感触がした。
「………?」
俺は、子供一人を組敷いていて。
「いあああああっ!」
あぁああ耳につんざくような断末魔、
右手が湿った。
握られた刃渡り17センチのジャックナイフ。まだ切っ先で、その子供の胸辺りを刺している俺は、
俺は?
はぁはぁ、いあああああと叫ぶ子供の声に耳鳴りがする。うるさい、黙れ、頭が痛い、…怖い。
引き抜いて返り血を浴びた。
刺し傷からだくだく、だくだくと赤黒い血液が、痙攣のように流れていて。
「痛ぃ、痛いっ、」
子供がそう喚いている。
自分の熱が覚めるように、急降下していくのを感じた。
「怖いよ、」「やめなよ、」まわりで怯えた声がした。
……この部屋には5人の子供がいたな。
泣いて痛がる痩せた子供を見て。けれども泣くのはこの子供だけなんだな、自分が悪魔にでもなったんだと、そう頭で理解した。
子供の首を締め息の行き場を止め冷静になろうと、俺はジャックナイフを真っ直ぐに、さっきよりも右に寄せて突き立てた。
が、子供の嗚咽と共に跳ね返るような感触。またちゃんと刺さっていない。いい加減にしなければこの子供も可哀想だろう。
いや、皆可哀想なんじゃないか。
引き抜いて降ろす、なるほど、ぐっと、きっとこれは刃の真横に骨があるんだ。なぞった感触と共に刃渡り17センチは漸く子供に刺さった。
右手にだくだく、ぴくぴくと鼓動が僅かに伝わってくる。
あぁ、俺は子供を一人殺したんだ。
絶命した彼の、痛がり悶えた苦悶で凄惨な表情を目に焼き付る。
ジャックナイフを引き抜き、馬乗りになっていた彼から降りて立ち上がる。
誰かがひぃ、と息を飲み怯えを殺しているのが耳につく。
うるさい。
そのまま俺は部屋を出て、冷たい廊下の空気を吸った。
全て…。
全て、破壊し、終わらせてやろう。世界の終わりのとき、罪深い俺は漸く死ぬことを許されるのかもしれない。
いや。
まだ感触が残っている。
…死ぬことは、許されないのかもしれない。
あの、唇をぎゅっと噛み締め白目になった子供。
それは恐怖や痛みや憎しみが押し寄せたのだろうと思う。俺はどうやらその血に汚れているようだ。
芯から震えてくるような気がした。
廊下は、昼よりも狭い圧迫感と、人気のない冷たさ。
その瞬間に俺は、破壊神になろうと思った。
この綺麗な夜は……心底寒くて、戦慄するほどに怖い。
真上にある檻の外の夜の星が、砂粒のようで、綺麗なのかもしれないと思った。
時間は、あれよりは掛かっていないと思う。
昼の救護室ではなく、その他何人かの子供は穏やかに寝ていた。いつもの、自分の部屋だった。
昼に、いつも大体狩りをしに行く。それは生きるための糧だと大人から厳しく言いつけられているから。
ウサギが死ぬのも、狐が死ぬのも、それは自分たち“光の子供”を清らかに保つために必要だ。
しかし、あの女の子の血はウサギや狐と変わらない色で、俺とも全く変わらないものだった。そして大人の男は白い体液で彼女を、汚していたのを俺は知っている。
それを悪と捉えるのは、どこが悪いと言うのだろう。
本当は少し潰れていた。
磨り潰して、踏みつけて。俺はここに来たとき、そう、両親の手を離してしまったという感触を今でも本当は覚えている気がする。多分、すり抜けたようなもの。
…月が綺麗だ。
頭が冴え渡るような気がした。
貴方を傷付けることは忘れてしまいなさい。誰かが穏やかにニヤニヤと言っている声が耳元で聞こえて。
清らかに生きるために私たちはここにいるのです。誰か穏やかにそう説いているのが頭のなかで反響していて。
そして生きたいと願うなら。
ベッドの横の引き出し。
ここは皆、水の出る銃とジャックナイフを所持していた。
再度、俺は右腕が動くことを確認する。
…痛い。
それが広がって身体が恐怖するような感覚。だからぼんやり痺れていて。
お前はこのままこの牢屋で死ぬまで怯え続けるがいい。
…夜の悪魔が囁くようで、それは頭の中に注入されていくように広がって、広がって、広がって、響いて。
獣のような叫び声がした。
引き出しは無惨にも倒れ、薬や包帯や水鉄砲やジャックナイフや筆記用具や聖書や鍵や弾や拳銃や、溢れて広がって子供たちの声が耳に付いた。
うるさい。
誰かが慌てた声がする。
阿鼻叫喚はいつだって…遠かったような気がする。
ふわふわする。けれど頭が割れそうに痛い。倒れそう、けれど右手には力が籠っている、怯えた子供のこれは誰だ、泣いている、これを組敷いているのは俺か、歪んで行く、恐怖、いや、だんだん鼓動が早くなってきた、血流が頭に登るような、暑い、熱い、痛い、怖い、うるさいな、俺は、俺は一体どこにいるんだ、
…手にガツっと、強い抵抗の感触がした。
「………?」
俺は、子供一人を組敷いていて。
「いあああああっ!」
あぁああ耳につんざくような断末魔、
右手が湿った。
握られた刃渡り17センチのジャックナイフ。まだ切っ先で、その子供の胸辺りを刺している俺は、
俺は?
はぁはぁ、いあああああと叫ぶ子供の声に耳鳴りがする。うるさい、黙れ、頭が痛い、…怖い。
引き抜いて返り血を浴びた。
刺し傷からだくだく、だくだくと赤黒い血液が、痙攣のように流れていて。
「痛ぃ、痛いっ、」
子供がそう喚いている。
自分の熱が覚めるように、急降下していくのを感じた。
「怖いよ、」「やめなよ、」まわりで怯えた声がした。
……この部屋には5人の子供がいたな。
泣いて痛がる痩せた子供を見て。けれども泣くのはこの子供だけなんだな、自分が悪魔にでもなったんだと、そう頭で理解した。
子供の首を締め息の行き場を止め冷静になろうと、俺はジャックナイフを真っ直ぐに、さっきよりも右に寄せて突き立てた。
が、子供の嗚咽と共に跳ね返るような感触。またちゃんと刺さっていない。いい加減にしなければこの子供も可哀想だろう。
いや、皆可哀想なんじゃないか。
引き抜いて降ろす、なるほど、ぐっと、きっとこれは刃の真横に骨があるんだ。なぞった感触と共に刃渡り17センチは漸く子供に刺さった。
右手にだくだく、ぴくぴくと鼓動が僅かに伝わってくる。
あぁ、俺は子供を一人殺したんだ。
絶命した彼の、痛がり悶えた苦悶で凄惨な表情を目に焼き付る。
ジャックナイフを引き抜き、馬乗りになっていた彼から降りて立ち上がる。
誰かがひぃ、と息を飲み怯えを殺しているのが耳につく。
うるさい。
そのまま俺は部屋を出て、冷たい廊下の空気を吸った。
全て…。
全て、破壊し、終わらせてやろう。世界の終わりのとき、罪深い俺は漸く死ぬことを許されるのかもしれない。
いや。
まだ感触が残っている。
…死ぬことは、許されないのかもしれない。
あの、唇をぎゅっと噛み締め白目になった子供。
それは恐怖や痛みや憎しみが押し寄せたのだろうと思う。俺はどうやらその血に汚れているようだ。
芯から震えてくるような気がした。
廊下は、昼よりも狭い圧迫感と、人気のない冷たさ。
その瞬間に俺は、破壊神になろうと思った。
この綺麗な夜は……心底寒くて、戦慄するほどに怖い。
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