二色短編集 2019~2020

二色燕𠀋

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Show So Panic

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 明日、風邪引こうから二年も経つことに幽体離脱したような気になった鳥籠の中、隅っこで膝を抱えてカーテンを開けることなんてない。

 鳥籠から見た世界の陽射しはいつだって滑らかで、時に強く時に暗く時に辛いけれども世界は、思ったよりも優しいかもしれない。

 なんでもいい、なんでもいいよと翼は折れ掛けていたのに少し遠退いた外に出ていこうとして落下した。もう登れない、登らなければここで息絶えるんだけど、落下速度に羽根は力がなかったんだ。

「大丈夫ですか、救急車呼びましょうね」

 あぁ救急車ってなんだろうね。
 世界は、世界は思ったよりも優しいかった。

「そうですね、貴方は飛べないですね。お薬あげましょうね」

 延命処置より今日のご飯と水を摂取しなければならないけれどご飯は薬で水は雨だっていい。籠に帰ってきたなら死ななければいいんだよ。
 世界は、思ったよりも優しい。

 外は明るい、けれど動けない。静脈は流れが過剰で自意識ばかりが先を越してしまうけれど、摂取は早いから元気、凄く嬉しい楽しい。
 風邪引かなくても意識は身体でぐるぐるしている。

 鳥籠の鍵が見当たらないから、世界は、思ったよりも優しいかもしれない。

「そろそろ空も飛べそうですね」

 意識は水に見えないプランクトンのようだから、それは魚に食べられるもので海と空の青は白点病の色。

「空を飛んで波に乗りましょう」

 何を言ってるかいまいち耳鳴り。
 浮いた他力本願と押し付けられたビニール袋をあぁ、間違えた。これはクラゲじゃなかったよ。
 世界は、思ったよりも優しい。

『どうしても怖い。羽根は完全に治ってない、もう治らない、今まで通りになんて出来ない、それは明るくて眩暈もして自分が嫌になる、呼吸もわからない、どうしたらいい、それからは誰がどうしてどうなるの、もうあの空は絵画でしかない、浮くことすらぎこちないじゃないか』
「大丈夫です。そんな他の君にも緩やかな場所がある。怖がらないで、外はとても綺麗だから」

 知った気になりやがって、世界は思ったよりも優しいかもしれない。

『外は綺麗だからもう具合が悪いんです』
「お前のようなやつはすぐ風邪を引くよな、都合良く歩けばいいのに」

 君は至極全うなことを言っているよ、そう、外の排気ガスや光化学スモッグは見えないから本当はそんなことに炎症なんて起こらないんだ、世界は思ったよりも優しいかもしれない。

「いつか治るよ。若いウチにたくさん、たくさん楽しいことをするといいんだ」

 世界は、思ったよりも優しいかもしれない。
 
「いまはゆっくり、ゆっくりでいいから早く外に出て泳いで見ようよ」

 世界は、思ったよりも優しいかもしれない。
 明日風邪引こう。日光に火傷して排気ガスに噎せる前に。
 自意識過剰に自己防衛が意味を成すほどに自分を打ち殺すものすら当たらない。

 明日風邪引こう。明日風邪引こう。明日風邪引こう。明日風邪引こう。明日風邪引こう。明日風邪引こう。明日風邪引こう。×104.2857142857142。
 隅っこ、黒いカーテンの隙間から見える世界は、思ったよりも、優しいかもしれない。思ったよりも、優しい。思ったよりも、優しいかもしれない。思ったよりも優しい。思ったよりも優しいかもしれない。思ったよりも優しい。思ったよりも。×104.2857142857142。

「自分のためにもう少しだけ生きてみましょう」

 知った口を聴くんじゃねぇよ優しいかもしれない。
 いや、何がなんだか、わからないまま。

 外は無色透明だから、誰でもない自分だって、空と一緒、水と一緒、幽霊と一緒で目に見えない。
 鳥籠が空の青さに虚脱しそうで。

 やっと。

 世界は、思ったよりも優しい。 
 同じ温度で、摂氏37.4は皆に優しい。
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