二色短編集 2019~2020

二色燕𠀋

文字の大きさ
上 下
13 / 16

離脱症状

しおりを挟む
「ねえ龍ちゃん。
 勉強や技術を教えてくれている流民は、ここにいる人だけなの?」

「そんな事はないよ。
 大陸中を探したら、百万人くらいいるかな?
 いや、五百万人くらいかな?
 よく知らないけど」

「みんな生活に困っていないの?
 飢えたりしていないの?」

「どうかなぁ。
 流民の事はよく知らないんだよね」

 神龍の嘘だった。
 そもそもこの国の人間の事も知らないのだ。
 人間自体に、まったく興味がないのだ。
 この国の守護龍となっていたのも、魔獣や魔族と戦いのが楽しかったのと、移動するのが面倒だったからだ。

「じゃあ流民を助けるのは無理なのかな?
 龍ちゃんでも居場所が分からないのなら、困っている流民の人達に、この国に来てくれと言うのは無理なのかな?」

「無理じゃないよ。
 僕にできない事はないからね。
 使い魔や神龍鱗兵を使って、流民を集めるなんて簡単な事だよ」

 神龍は強がって嘘をついてしまった。
 多くの流民のなかから、一万人に激減した民の教師を探すことはできた。
 自分の神力の及ぶ範囲にいる流民を連れてくる程度なら簡単だった。
 だが、大陸中にいる流民全てを集めるとなると、神龍でも難しかった。
 しかし、シャロンにできないという事は、神龍にはできなかった。

 だから、また、戦いの女神セクメトに頭を下げることになった。
 屈辱だったが、人間の事はセクメトに聞くしかなかった。
 他の神に知り合いはいないし、明らかに自分よりも弱い神達に頭を下げるなんて、絶対に嫌だった。
 どうしても頭を下げなければいけないのなら、自分が認める好敵手にしたかった。
 それが女神セクメトだった。

「シャロン。
 シャロンが女王として布告を出せばいいんだよ。
 全ての流民を国民として迎え、国民として権利を与えると布告すればいいんだよ。
 そうすれば、厳しい生活をしている流民は集まってくるし、他の地で豊かに生活している流民はその地に残るよ」

「そうなの?
 私が女王として布告したら、流民の人達は助かるの?
 だったらやるわ。
 私のできる事は何でもやるわ」

 神龍は女神セクメトに教えられたことを全て話した。
 その話は、シャロンに大きな決断をさせた。
 自覚がどれほどあるかは分からなかったが、女王として生きていく気にさせた。
 それがこの国のためには大きな福音だった。
 だが同時に、民が女王シャロンに依存する可能性があった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

420
現代文学
私のショートショートたち

二色短編集 2017~2019

二色燕𠀋
現代文学
ただただ散文です。大体情緒が不安定。ジャンルもなんかわかんない。 「メクる」「小説家になろう」掲載。

“K”

七部(ななべ)
現代文学
これはとある黒猫と絵描きの話。 黒猫はその見た目から迫害されていました。 ※これは主がBUMP OF CHICKENさん『K』という曲にハマったのでそれを小説風にアレンジしてやろうという思いで制作しました。

余寒

二色燕𠀋
歴史・時代
時は明治─ 残党は何を思い馳せるのか。 ※改稿したものをKindleする予定ですが、進まないので一時公開中

UlysseS ButTerflY NigHt

二色燕𠀋
現代文学
幸せの蝶は、切ない青さを知る。 ※天獄 とご一緒にどうぞ

金魚すくい

二色燕𠀋
現代文学
母と二人で生きていました。きっとまだ生きていくでしょう。 ※書き終わらないかもだし、終わらなかったものです。少し前に書いたお話です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【新作】読切超短編集 1分で読める!!!

Grisly
現代文学
❤️⭐️お願いします。 1分で読める!読切超短編小説 新作短編小説は全てこちらに投稿。 ⭐️忘れずに!コメントお待ちしております。

処理中です...