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伊織が「何か買っておきますか?」と言うので始まる前にバドワイザーとテキーラコークをキープする。
端にあったテーブルでゆったりしていれば暫くして客席側が暗くなり、「ふぅ!」というファン、ゆらっと手を上げた曽根原、それからメンバーが現れ楽器を持つ。
最後に立ったリュージの黒髪に「あれ」と吉田と伊織がハモった。
どうやら伊織も知らない事情かと思えば、間髪を入れずに演奏が始まった。
水色のギターを使っている。
その側に置かれた赤いギター。
爽やかな曲、退廃的な雰囲気の曲、アップテンポな曲と、バランスよく感じる。ハイトーンな声で。
何より、演奏している側がとても楽しそうだ、キラキラしていると吉田も初めてだけど、楽しいかも、と感じた。
4曲くらいの演奏の合間に喋るボーカルの声は、以外にも低く、あの歌声はどうやって出るんだろうとぼんやり吉田は思った。メンバーたちは小さく、音出しをしていたりして。
「今回から…初めての四人体制で、鷹峯くんと始めることにしました。すっげぇ楽しくて…」
そんな幕間の話にふと、
「今日ここに来てちょっとびっくりしたんですが、あの…真っ黒にしたみたいで、髪」
その話題に触れていた。
「俺、第一声が「誰!?」で。アー写も金髪ですよね。ハゲるかららしいです」
「多分そういう問題じゃないよね」
吉田も伊織も「そうだったんだ」と同時に思う。そう、その姉ちゃんが言う通りそういう問題じゃない。
素直になったのかなんなのか、てっきり「真面目やります」的な、心構えだと思っていたけど。客席の和やかな一体感の笑いが心地よく。
いつの間にか、目に見えず、空気は混じり飽和していた。
現実と非現実の絡み、混ざり合うその空間は、会社や、色々を一度どこかに置き去りにする、いや、ここが置き去りにされているのかもしれない。そう感じる。
現実の中の非現実なのか、非現実の中の現実なのか。だがここにいるのは、自分なんだと当たり前に気付いたような気になった。
このくらいの大きさの世界観、ほどよいものは無色透明。誰しもが同じ色を見ている確かな空気は、センシティブでエモーショナル。頭に、赤色で流れてくる。
アンコールまで、結局あっという間だった。
「楽しそうでしょう?」
「うん、そうだね」
「たまにはこういうのも、いいかなと」
「そうだね。身構えることもなく、けれど普段にない刺激だね」
伊織は真っ直ぐ、演者が去った場所をキラキラした目で見て頷くだけだった。程よいアルコール。陶酔感が湿気になる。リスペクトとリチャージが重なった頃、また盛り上がる。
ここで同じものを見ているかと言うのはそれでも、結局わからないのになと、寂しいような、それでも心地いい世界観に、少しだけ二人の浸かる水の色の存在を確かに見た気がした。
ふと入ってきた「どうだっていいから 息していよう」というフレーズに、そうかと共感した。
その最後の、甘くハッキリしたような曲でふと、リュージが俯きその音が一瞬だけ止む。
また顔を上げボーカルを見たリュージの額から血が出ていて、リュージを見たボーカルは向かい合うようにギターを弾いている。
え?なんで?
と思うのは案外場に呑まれている、むしろ客の感情はなんとなく、熱を増したような雰囲気で。
ボーカルのギターの音が目立った頃に、ギターの弦が切れたのが見て取れた。結構バチン、といってしまったのだろうかと素人目でもわかるほどで。
遠目から見て、ギターに血が飛んでいるのか、いや、最早手から流れているのか。近くの客が流石に少し動揺しているのも見通せる。
曲が終わり「ありがとうございました」と客席に手を振り出口辺りで「えっ!」となったりメンバーがリュージの額を指していたりして、血がだらだらな手で額を確認していたりするのも見えたとき、客席のBGMが音量を増した。
客は合図に帰っていく。
「あれ?」
「血、出てました?よね…」
あの様子だと頭の血は言われて気付いたんだろうか、てゆうか何故流血しているのか。
「ちょっと…」
「あぁ、そうだね」
カップと缶を返し、その側の狭い通路のような、さっき曽根原が出てきた場所を覗けば、やはり控え室のドアがあった。
コンコンとする以前に「やっベー!リュージ!」と慌てるような声がしたので叩いてみれば、「はいっ!」と、ベースの女の子がドアを開けた。
「…はい?」
と怪訝そうな女の子の長髪が垂れ下がる。
奥では「あーこれ、ちょっと立てる?」という混沌とした雰囲気が漂っていた。
「あ、すみません初めま」
「……もしかしてリュージの彼女さん?」
女の子の声に控え室は静かになった。
「はい、あの」と続けるなか、「そんな…すかね…」というリュージの声が聞こえる。
「はい、どうぞ」
と女の子が中に入れてくれた。
地べたに座った、というより崩れたのだろうか、リュージは自分の手を見て「あー爪とか飛んでないけど」と言ってから伊織と吉田を確認し「あれ?」と目を細めた。
「伊織?と吉田さん?」
「あ、彼女さんと…なんだっけフレ…友達さん?」
曽根原はそう言ってから「あ、今日はありがとうございました」と続ける。
「取り敢えずりゅーちゃん立てるの?立てないの?血ぃやべぇけどなんで?」
「やべえ?」
「あー、俺車で来てるからあれだ、近くに病院的な所とかあるよね。ちょっと卯月とノリト、片付け任したわ」
「いや、眩暈で」
「ちょー出てるよ頭とか手とか」
「んー?なわけ」
「彼女さん確か一緒に…」と曽根原が話を振ってる最中に「うわっ、マジだ、頭」と、だから血塗れの方の手で見ても…と誰もが思った瞬間にリュージがへにゃへにゃと曽根原に寄り掛かってしまった。
「おーナニソレちょい!早い!」
混乱を極めている。
場はカオスだ。
「あ、彼女さんも友達さんもきっと電車だよね、俺車だから夜間診療みたいな感じで近くに行こうかと」
「あああ…、はい、えっと」
「友達さん男だね!ちょっと手伝って!」
「あ、はい!」
吉田は掛け寄りリュージに肩を貸す。
「おいで!取り敢えずおいで!」とテンパった曽根原に「は、はい!」と、伊織も同席し裏口から出て近くの病院に向かった。
端にあったテーブルでゆったりしていれば暫くして客席側が暗くなり、「ふぅ!」というファン、ゆらっと手を上げた曽根原、それからメンバーが現れ楽器を持つ。
最後に立ったリュージの黒髪に「あれ」と吉田と伊織がハモった。
どうやら伊織も知らない事情かと思えば、間髪を入れずに演奏が始まった。
水色のギターを使っている。
その側に置かれた赤いギター。
爽やかな曲、退廃的な雰囲気の曲、アップテンポな曲と、バランスよく感じる。ハイトーンな声で。
何より、演奏している側がとても楽しそうだ、キラキラしていると吉田も初めてだけど、楽しいかも、と感じた。
4曲くらいの演奏の合間に喋るボーカルの声は、以外にも低く、あの歌声はどうやって出るんだろうとぼんやり吉田は思った。メンバーたちは小さく、音出しをしていたりして。
「今回から…初めての四人体制で、鷹峯くんと始めることにしました。すっげぇ楽しくて…」
そんな幕間の話にふと、
「今日ここに来てちょっとびっくりしたんですが、あの…真っ黒にしたみたいで、髪」
その話題に触れていた。
「俺、第一声が「誰!?」で。アー写も金髪ですよね。ハゲるかららしいです」
「多分そういう問題じゃないよね」
吉田も伊織も「そうだったんだ」と同時に思う。そう、その姉ちゃんが言う通りそういう問題じゃない。
素直になったのかなんなのか、てっきり「真面目やります」的な、心構えだと思っていたけど。客席の和やかな一体感の笑いが心地よく。
いつの間にか、目に見えず、空気は混じり飽和していた。
現実と非現実の絡み、混ざり合うその空間は、会社や、色々を一度どこかに置き去りにする、いや、ここが置き去りにされているのかもしれない。そう感じる。
現実の中の非現実なのか、非現実の中の現実なのか。だがここにいるのは、自分なんだと当たり前に気付いたような気になった。
このくらいの大きさの世界観、ほどよいものは無色透明。誰しもが同じ色を見ている確かな空気は、センシティブでエモーショナル。頭に、赤色で流れてくる。
アンコールまで、結局あっという間だった。
「楽しそうでしょう?」
「うん、そうだね」
「たまにはこういうのも、いいかなと」
「そうだね。身構えることもなく、けれど普段にない刺激だね」
伊織は真っ直ぐ、演者が去った場所をキラキラした目で見て頷くだけだった。程よいアルコール。陶酔感が湿気になる。リスペクトとリチャージが重なった頃、また盛り上がる。
ここで同じものを見ているかと言うのはそれでも、結局わからないのになと、寂しいような、それでも心地いい世界観に、少しだけ二人の浸かる水の色の存在を確かに見た気がした。
ふと入ってきた「どうだっていいから 息していよう」というフレーズに、そうかと共感した。
その最後の、甘くハッキリしたような曲でふと、リュージが俯きその音が一瞬だけ止む。
また顔を上げボーカルを見たリュージの額から血が出ていて、リュージを見たボーカルは向かい合うようにギターを弾いている。
え?なんで?
と思うのは案外場に呑まれている、むしろ客の感情はなんとなく、熱を増したような雰囲気で。
ボーカルのギターの音が目立った頃に、ギターの弦が切れたのが見て取れた。結構バチン、といってしまったのだろうかと素人目でもわかるほどで。
遠目から見て、ギターに血が飛んでいるのか、いや、最早手から流れているのか。近くの客が流石に少し動揺しているのも見通せる。
曲が終わり「ありがとうございました」と客席に手を振り出口辺りで「えっ!」となったりメンバーがリュージの額を指していたりして、血がだらだらな手で額を確認していたりするのも見えたとき、客席のBGMが音量を増した。
客は合図に帰っていく。
「あれ?」
「血、出てました?よね…」
あの様子だと頭の血は言われて気付いたんだろうか、てゆうか何故流血しているのか。
「ちょっと…」
「あぁ、そうだね」
カップと缶を返し、その側の狭い通路のような、さっき曽根原が出てきた場所を覗けば、やはり控え室のドアがあった。
コンコンとする以前に「やっベー!リュージ!」と慌てるような声がしたので叩いてみれば、「はいっ!」と、ベースの女の子がドアを開けた。
「…はい?」
と怪訝そうな女の子の長髪が垂れ下がる。
奥では「あーこれ、ちょっと立てる?」という混沌とした雰囲気が漂っていた。
「あ、すみません初めま」
「……もしかしてリュージの彼女さん?」
女の子の声に控え室は静かになった。
「はい、あの」と続けるなか、「そんな…すかね…」というリュージの声が聞こえる。
「はい、どうぞ」
と女の子が中に入れてくれた。
地べたに座った、というより崩れたのだろうか、リュージは自分の手を見て「あー爪とか飛んでないけど」と言ってから伊織と吉田を確認し「あれ?」と目を細めた。
「伊織?と吉田さん?」
「あ、彼女さんと…なんだっけフレ…友達さん?」
曽根原はそう言ってから「あ、今日はありがとうございました」と続ける。
「取り敢えずりゅーちゃん立てるの?立てないの?血ぃやべぇけどなんで?」
「やべえ?」
「あー、俺車で来てるからあれだ、近くに病院的な所とかあるよね。ちょっと卯月とノリト、片付け任したわ」
「いや、眩暈で」
「ちょー出てるよ頭とか手とか」
「んー?なわけ」
「彼女さん確か一緒に…」と曽根原が話を振ってる最中に「うわっ、マジだ、頭」と、だから血塗れの方の手で見ても…と誰もが思った瞬間にリュージがへにゃへにゃと曽根原に寄り掛かってしまった。
「おーナニソレちょい!早い!」
混乱を極めている。
場はカオスだ。
「あ、彼女さんも友達さんもきっと電車だよね、俺車だから夜間診療みたいな感じで近くに行こうかと」
「あああ…、はい、えっと」
「友達さん男だね!ちょっと手伝って!」
「あ、はい!」
吉田は掛け寄りリュージに肩を貸す。
「おいで!取り敢えずおいで!」とテンパった曽根原に「は、はい!」と、伊織も同席し裏口から出て近くの病院に向かった。
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