Never Rock

二色燕𠀋

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 いざコンビニに着けばやれ変なスナック菓子だのアイスだの、食事じゃないものをチョイスしやがるバカ真樹に、仕方なくこっそりと、胃に優しそうなうどんを買ってやった。

 昴くんなら多分、こんなには甘やかさないというか、自炊派だ。そんなものからの解放感なのかなんなのか、どうも真樹は家に来ると食がテキトーになる。

 唐揚げかうどんの二択ならそっちを選ぶだろ、という策略に見事ハマったらしい。
 帰って来た真樹は当たり前のようにうどんを自分のものと認識し、温め始めた。

 疲れたを口実に、レンジの前で待っている真樹の背中から抱き締めるように寄り掛かり、「疲れたー」とだらける。

 そうするといつもふと振り向く、キスしそうな距離感で、実は少し身を引くのだが、真樹は構わずしゃしゃしゃっと俺の髪を撫で「お疲れす」と言うのだ。

 …良い匂い。大人になって少し体臭が変わっても、なんか柔らかい匂いがする。

 温め終わった真樹がまた振り向いて手を出すので、唐揚げ弁当を引き換えにした。

 何が楽しいのか、いや、多分ボーッとしているだけだろう、いつもはそのくるくる回る電子レンジを見ているだけなのだが、今日はふと俺の指をすりすりと触り「血豆になりそうじゃん」と言った。

「んー、まぁハードではあった」
「あんだけ暴れコードをベースがやるとか、もうギターとベース逆転やーん、文杜アレンジ?」
「ホントな。そうそう。
 ずーーっとおんなじコード。リードしかやったことねぇにしたって…バッキング出来ねぇしスリーピースはキツいよあいつ」
「ねぇ、あいつらと組むん?」

 またそうやって…。
 真樹は目を合わせない。

「……俺のポジションはずっとここ。その他は飯の種」

 …離れるわけないじゃん。わかっててなんで聞くんだよ。
 いや…多分、半分はわかってないんだ、腹が立つ。

 腹立ち紛れに耳元に鼻先を当てると、そんなタイミングでレンジが鳴った。

 そうなればさっさとちゃぶ台に座り、二人で飯を食う。

 ゆっくり食う真樹に、最近また吐き癖でも戻ったのかなと、先程指をすりすりしていたその指をチラ見する。

 やっぱり中指と人差し指が赤くなっているので、「余ったら食うから」と言っておいた。
 気まずそうに俺を見た真樹はふっと、「ごめん」と言う。

 バカだなぁ。俺には隠せないよ、何年君だけを見てきたと思ってんだよ。

 なんともない顔をしておき、テレビを眺めた。
 いつの間にか、真樹がよく見る「サバンナ系」が流れていた。

「…これ、飯中にいつも見てんの?あれ?日本放送局ってこんな時間に」
「録画したやつ。先月来たときに」

 は?

「……これ、昴くんは文句言わないわけ?」
「スバルくん眼鏡やけん」

 意味わかんねぇし。目が悪いって言いたいんだろうけど流石にテレビ見るときは眼鏡掛けんだろ。

「……昴くん、なんか、真樹に耐えられるなら超強い嫁さんもらっても対応出来そうだよね」
「スバルくんいまそれどころじゃないみたいだけど、男は30から仕事乗るって言ってた。でもそろそろだよね」
「そう思うわ…ゴリラでも良いから捕まえた方があの人多分良いよね、真樹みたいなヒモバンド野郎飼うより」
「それな。ナトリは23で結婚したよってこの前教えたげた」

 …あれは多分デキ婚だけどな。長年のツレでも流石に、ある日突然妊婦を連れて来られれば驚きもする。

「そーいやぁ」
「ん?」
「さっき、曽根原さんと対バン、決まったったばい」

  カップラーメンは食ったばかりだったのかもしれない。
 半分でかなりペースを落とした真樹に変わり、うどんの残りを食った。

 ニコッと笑った真樹は純粋に「次はさいっこーのライブにしたるかんねーってさ!」と楽しそう。

 スマセン、センパイ。あんな不機嫌にやっちゃって。

「わかった」

 弁当を片付け、「いつ?」と聞きながら俺も寝巻きに着替えた。

 ちゃぶ台の前、セミダブルの下にちょこんと座る真樹に、寝転がりポンポンと側を叩けば、真樹はすっぽりと俺の腕に収まった。
 さっきは気付かなかった、というか俺は嗅ぎ慣れているからかもしれない。

 シャンプーの甘い匂いが後頭部から薫った。

 さっき起きたとか言ってたけど実は、昼寝出来なくて目ぇギンギンの方だったりしてなぁ…とぼんやり考えていると、やっと家に帰って来た安心感が沸く。
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